あさおんTSヤニカス元ヤン俺っ娘合法ロリ天使   作:木蛾

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第四話 異能力調査記録

「おい…おい!」

 

 ダンテは、俺がタバコを捨てたことにも気づかず、腕を叩きながら声を掛けてようやくこちらに注意を向けた。

 俺と目が合った時には、蒼白な顔は元通りになっていた。

 

「……ああ、すまないな。帰ろう」

 

 声の調子も特に変わったところは無いし、表面上はこれまでと同じ調子を取り戻したかのように見える。

 しかし、流石の俺も「じゃあ大丈夫だ」とはならない。

 

「いや、帰るっていうか……なぁ、大丈夫か?」

 

「気にするな。私がやることは結局のところ変わらない」

 

 そのまま喫煙所から出たダンテに追いつくよう、小走りで追いかけながら帰路につく。

 俺が横に来た時、歩くペースを落とした。つまり、平然とした風を装っているが気遣いも咄嗟には思いつかない程度にはショックだったのだろう。

 

 道中、俺が不安げにチラチラ見ていたことに気づいたからか、ダンテが小さく息を吐きながら口を開く。

 

「本当に、リョウが気にすることは無い。タイムマシンについての理解はあるし、元の年代への帰り方も理解している。帰還することさえできれば後はどうとでもなる」

 

 そう目を合わせることもなく言い切った後、この件に関して話すことなど何もないと言わんばかりに口を閉ざした。

 

 

 

 家に着いた時、ダンテは本格的に部屋の掃除を始めた。正直掃除をする際にはどうしても物音がするため、隣も下も空き部屋とはいえちょっとでも目立つ真似をするのは遠慮してほしかったが、何か手を動かしていたい気分というのは俺にも分かる。

 

 床に捨てられていたペットボトルやらは纏められ、散らかっていたゴミも全てまとめられた。

 久しぶりに床の色をちゃんと見た気がする。

 俺からできるせめてもの慰めとして、ダンテに笑いかける。

 

「ありがとな」

 

「……どういたしまして」

 

 ダンテは、返事もそこそこにまた家事に取り掛かった。

 

 開けた空間ができたこともあり、とりあえず何もない状態から変身できるのか試してみたが、家の中でタバコを吸いながら変身したいと強く念じても変身できなかった。

 つまり条件としてはただタバコを吸うだけではダメ、ということだ。

 ……こうやって俺のこの体について色々調べてみなければ、いざという時に失敗したり逆に暴発したりする危険性がある。

 

 変身しているときにできることも含めて、明日からは実験しなければならないことが山積みだ。

 早速高校生二人と作ったグループにメッセージを飛ばして予定を取り付けると、ダンテが用意した飯を食べてすぐに寝ることにした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 今週の金曜日には彼らの高校が始まる。その日は始業式くらいで終わるとメッセージでは言っていたが、つまり来週までに俺の能力についての実験及び実戦を行わなければならない。できることなら解決の糸口も二人の協力を得られるうちに見つけたいが……急いては事を仕損じる。一歩一歩確実に前進することを意識しよう。

 

 

 

 彼らとの出会いから一夜明けた水曜の9時頃、近くの駅前──と言っても俺の家からは20分ほどかかる──で、白石と豪乱河の二人と待ち合わせをすることになった。

 

 あちら側から見て背の高いダンテが目立っていたようで、合流自体に手間はかからなかったが、あちらから声を掛けられた時に一瞬気づかなかった。理由は単純で、どちらも私服だったからである。俺はこの二人のことを高校生という属性で把握していたのだ。

 俺のペラいパーカーと違って、どちらもそれなりにおしゃれな格好をしていた。

 あちらの存在に気づくことが遅れた気まずさを誤魔化すように俺から話題を振る。

 

「かっけぇ服じゃん。なんで昨日は制服だったんだ?」

 

「おとといあの蜘蛛には中々苦戦したので、攻略法を考えるために学校の図書館で色々調べたんです。まぁ結果お二人の協力で倒せたので徒労でしたけど……」

 

 俺の疑問に白石が答えた。冬休みなのに学校が空いているのかとも思ったが、図書館に併設している自習室に自習しに来る生徒がいるため解放されているらしい。やっぱり意識高い進学校なんじゃねえか。

 

 他愛ない話はその辺にして早く本題に進もうとも思ったが、そんないいとこの子ということで、頭をよぎったことがあった。あまり踏み込みすぎるのも良くないが後味が悪くなっても嫌だし、こいつらと行動するにあたり不安要素を潰しておく必要がある。

 

「お前、俺らとこんなことやってていいのか?昼前からずっと出歩いてて親とかは何も言わんの」

 

 言ってから世話を焼きたがる迷惑なおっさん臭いと自分でも思ったが、二人は特に気にする様子も無く返答する。

 

「問題ないですよ。僕たち二人がつるむなんていつものことですし……」

 

「私もだいじょ~ぶ!家族には冬休みの間にいっぱいデートしてるって言ってるんで!」

 

 豪乱河の言葉を聞いて、白石はものすごい勢いでギョッとした顔になり隣を振り返った。

 

「えっなにそれ」

 

 白石の漏らした戸惑いの声を完全に無視して、腕を振り上げながら走り出す。

 

「さあ我ら忍者四傑、いざ出発!」

 

「それも何!?」

 

 ダンテはこのやり取りに心底興味無さそうに、豪乱河の向かった先に着いていく。

 正直俺もこいつ寄りだ。補導されたりするのがめんどくさいだけで、こいつらの理由だの家族に言っている言い訳だのはどうでもいい。

 

 白石が豪乱河に声を張りながら追いすがる。

 

「美海!僕が化け物を探すんだから僕抜きで突撃しても意味ないって!」

 

「まだ探ってもないのに走り出したんかい……」

 

 呆れる俺たちの目の前で追いかけっこをしているがどっちも本気ではなくじゃれ合いの一貫だったようで、大した時間もかけず白石は豪乱河を捕まえて息を切らしながら戻ってきた。

 

「お待たせしました……とりあえず、移動しながら探します」

 

 

 

 白石の力は静かで落ち着いた場所の方が使いやすいらしいため、駅前から離れていく方向に動いていく。しばしば目を閉じておそらく能力を使いながら、白石の先導に付いていた。

 

 しばらく歩いていると白石が楽なポイントを見つけたようで、閑静な住宅街にある小さな公園で歩を止めた。

 

 ベンチに座ると、白石が緊張した面持ちで意を決したように口を開く。

 

「まず色々検証をする前に、僕たちの持つこの力の仮称を付けませんか?ほら、咄嗟の呼び方で迷わない方が効率的だし、統一した方が勘違いや混同も起こりにくいじゃないですか」

 

 わざわざもったいぶって何を言うかと思えば、割とどうでもいい話題だった。

 それに対して、ダンテも同じく思っているのか、不可解そうな顔をしている。

 

「……まず、君たちの力が同一の事象を起源とするものなのかが不明だ。同じ時期に同じ地域で発現しているといった状況的にその可能性は高いとは思われるが、思考を固定してしまうことはあまり得策とは思えない」

 

 ダンテがそう言うと、白石はハッとしたような顔になった。

 それに気づいたのかは定かではないが、ダンテは言葉を続ける。

 

「とはいえ、トオルが主張したような利便性が存在することも事実だ。君たちが呼ぶ分には好きにしてくれて構わないし、そちらに伝えるときには私も統一はするさ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 白石はダンテを照れくさそうに

 一回落としてから相手を認める。見た目や喋り方がしっかりしてる大人に見えるダンテからされるのは自尊心をくすぐるだろうな……。

 

「そんなの『忍術』でいいじゃん」

 

 横から豪乱河があっけらかんとした様子で答える。

 白石が顔をしかめながら、豪乱河の額を小突いた。

 

「良くない。……そうなると嫌だから美海以外もいるこの場で提案したんだ」

 

 そうは言うものの、名前なんて俺は興味ない。

 

「別に俺は適当でいいわ。候補が一つしかないなら忍術でいいんじゃね。端から聞いたら何言ってるか分からない隠語っぽいし」

 

 俺は手を振って露骨に態度で示しつつこう返した。

 白石は絶望するような顔をした後、縋るようにダンテを見る。

 

「私は当事者ではないため、君たちが望むものに反対はしない。呼称しづらいなどの機能面での問題が無ければいい」

 

 ダンテもおおよそ俺と同じような主張をした。

 白石はどうにも納得がいっていないようで、もどかしそうな様子である。

 

「よくないでしょう!一番重要なところですよ!それが忍術……忍術て」

 

 そのやたらこだわる白石の様子を見て、合点が行った。

 この状況に目に見えて興奮しているのは豪乱河の方だけで白石は冷静なのかと思っていたが、思春期にこんな超常的な力を手に入れて怪物と戦うなんて、そりゃ燃えないわけがない。

 

「あぁ、ちょっと分かるよ。カッコつけたいよな」

 

 ニヤつきながら放った俺の言葉に、白石はからかわれたと思ったのか顔を赤くしながら焦ったように返してくる。

 

「なっ、いやっ違いますよ!忍術って意味不明でしょ!皆さん忍者でいいんですか!?」

 

「じゃあ他の候補出せよ」

 

「えっ、あぁー……そ、そうですね……」

 

 たぶんこいつはこんな話題を真っ先に出してくるくらいだ、自分であらかじめ考えてきているだろう。というか多分もうこいつの中では決まってて、既に頭の中ではそれで呼んでるまである。

 

 聞かせて見ろ、リアルで超能力を得た現役高校生のセンス……。

 

 一転してちょっとワクワクしながら待っていると、白石は少し顔を赤くしながら言った。

 

「えっと……"異能力"、なんてどうですか?」

 

 シンプルだな……やたらもったいぶるからもっと厨二臭いのが飛び出してくるかと思った。

 白石は若干の期待を込めつつ俺を見てくる。

 拍子抜けではあるが、まあ梯子を外すほどでもない。豪乱河のそれよりかはマシだろう。

 

「まあ忍術よりはそっちがいいか、白石に一票」

 

 ダンテは票を放棄している。つまりこれで過半数だ。

 

「いよっしゃあ!」

 

「えぇ……」

 

 高校生二人のテンションは、はっきりと明暗が分かれていた。

 

 こんなクソどうでもいいことに熱くなるなんて、能力に対する向き合い方はこいつらの方が真摯なのかもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺たちが得た特殊な力……"異能力"についての検証やら諸々を、二日かけてざっと終わらせた。

 

 まず、高校生二人の異能力について。何となくの概要は既にファミレスで聞いていたが、ある程度詳細な仕様を共有しておくことは大切だ。

 

 白石の異能力の探知は非常に高性能で、二日間で六体の化け物と相対することができた。

 本人曰くこれでも俺たちがノイズになっているから精度が若干下がってる気がするとのことだ。

 

 能力での探知範囲は基本的には100mだが、周囲の状況や集中度合いによって大きく変化する。大抵100m以内であれば、存在だけでなく動きやらも何となく読めるとのことだ。

 

 調子のいい時では約1㎞先にいる俺の存在も知ることができた。といっても、大雑把な方角といるということが分かるだけで具体的な場所などは答えられなかったし、それには集中が必要で非常に体力を使う。このモードを使用することは無いだろう。

 

 戦闘面においては、本人も気づいていないようだったが若干運動神経が良くなってるくらいだった。

 

 ……ここに関してちょっと気になったので試してみると、おおよそ何もない状態の俺と豪乱河と同じくらいで、全員の素の身体能力が若干底上げされているらしい。ここについては能力者(異能力を持つ人間の便宜上の名前。白石命名)の共通項なのかもしれない。

 なお、ダンテは素だとぶっちぎりだった。違うかもしれない。

 

 

 

 次に豪乱河の異能力は、彼女の私物である赤マフラーを巻くことにより発動することができ、『ニンジャ』になる。

 具体的にはマフラーを首に巻くと手に籠手が装着され、身体能力が大きく向上すると同時に『忍者っぽい』と彼女が認識していることができるようになる。この時、何故か無風だろうがマフラーとポニテが風に揺れるようにたなびくが、本人が何かしているわけではないらしい。

 

 何らかのトリガーによって自身の力が強くなるということで、割りかし俺と似た能力であるようだ。俺と明確に違う点としては見た目はさほど変わらないことか。

 

 ニンジャになっていると、アクロバットな機動力を得て近距離ではまず攻撃は当たらないし、一方的に攻撃をたたき込み続けられる。中距離に対しても飛び道具としてクナイや手裏剣を用いることである程度対応ができる。

 煙幕や毒薬などの搦め手や忍者刀や鎖鎌などの多彩な武装も備えており、対応力もある。

 総合能力は高く、タイマンでも大半の化け物は制圧することができるようだった。

 

 デメリットは何か無いかと色々調べてみたが、時間制限などは無く、半日巻きっぱなしでもケロッとしていた。他に何か条件はあるのかとも思ったが、短い検証期間では特にリソースなどは分からず、おそらく無制限にできるのではないかという結論に達した。

 唯一存在するデメリットは、変身中喋り方がエキセントリックなものに変化することくらいか。これも意思疎通が取れないほどではないためほぼ無いと言っていいだろう。白石は嫌そうな顔をしていたが……。

 

 本人の性格に反して癖の無いスペック。業腹ながら俺より非常に利便性が高いと言わざるを得ない。

 

 

 

 そして、そんな豪乱河に劣る俺の異能力について。

 

 化け物を目の前にしてタバコを吸うことによって、髪が白く染まり、翼っぽいものが生える。これはこれまでの数少ない経験においてでもそうだったが、翼は服を突き破っているわけではなく、実体が存在しないようだった。

 服を一々買い替える必要が無いのは、楽でいい。なお髪は変身時に髪留めやヘアゴムを吹き飛ばす。このため俺は長く邪魔くさい髪の毛を放置したまま過ごすことを余儀なくされた。

 また、変身する際体が全能感に包まれるが、慣れてくると変身中でも冷静な思考ができるようになった。

 

 この状態になると身体能力が著しく上がり、他にも手から光線を出したり光の剣みたいなものを出したりできる。おそらくもっと様々なことができるだろうが説明書も無いので詳細は不明。

 

 そして吸い切るか、タバコを灰皿に落とすと気絶する。チェーンスモークすることで対処するという案は真っ先に出されたが、何故か一本目を口から離した時点で意識が落ちた。

 何度かやって分かったが、俺の認識として変身のトリガーとなった一本のタバコを吸い終わったと思った時点で変身が切れるということのようだ。

 そして、気絶の時間は喫煙時間と比例していて、吸い切るまで変身しておくとなると6時間ほど目を覚まさない。

 

 化け物と三度目に対峙した時、対照実験を行うことになった。

 簡単に言うと、タバコを吸わず、めちゃくちゃ殺意を滾らせて変身しようとした。

 

 結果的に言うと、ちょっとだけ変身できないこともなかった。だが髪の色は黒が基調の灰色といった感じで、力もそんなに出ない。気絶時間も伸び、10秒くらいの変身に対して2時間は気絶してしまった。

 これは本当の緊急避難としてくらいしか使えないだろう。

 

 つまり、俺の戦闘できる時間の限界はタバコ一本を吸い切るまで、長く見積もっても10分程度ということだ。

 総括すると変身前にも後にも隙があり戦える時間も短いと、非常に不便だ。

 

 

 

 しかしいいところもあった。

 

 倒れ伏す相手の前で煙を吐く。

 狐に似ており、豪乱河が手こずった化け物だ。俺は1秒とかからなかった。

 

「椋殿!素晴らしい手際でござるな!」

 

「…まぁな」

 

 俺は純粋に、めちゃくちゃ強いのである。

 

 豪乱河の実力も高いと感じたが、変身状態の俺のそれは比べ物にならない。

 数十mを一歩で駆け、腕を振るえば敵は霧散する。

 光線もほぼ無限の射程を持ち、それが命中した相手には風穴が空いた。

 翼も実体はないが飾りではないのか、飛行が可能だった。目立つことを避けるためあまり高度は出さなかったが、正直どこまでだって飛んでいける気がする。

 

 そしてさらに、口に咥えたタバコは運動したとしても風で消えることは無かった。燃焼しているのだから大気や酸素の影響を受けないわけがないのだが、何というか『タバコを吸いながら戦うこと』は何故か容易になっているらしい。水をかけたりしたら流石に消えるようで、ここら辺の塩梅は不明。

 

 

 

 ダンテは自身が能力者であることを強く否定していたが、一応共有のために瞬間移動(ジョウント)についての説明をしてもらった。

 

 自身が一度行ったことある場所に移動できるモードと視界内の近い場所に移動するモードの二種類があり、前者をやるならジョウントは一日一回しかできず、後者も一日三回くらいしかできない。

 触れているならより疲れるとはいえ一人か二人だけ他人も連れていくこともできるが、この際同行者には非常に強い不快感を伴い、基本的に嘔吐するし一時的に戦闘行動どころか能動的な行動を取れない状態に陥る。

 こんなところを二人に説明したが、俺にとって新情報は無かった。

 

 

 

 そして最後、相手取っていた化け物たちの観察結果。

 

 奴らは何かしらの生物をモチーフとしたような外見をどれも取っていたが、そこに共通項を見出すことはできなかった。把握できたことと言えば、こちらから仕掛けない場合でも、人間に積極的に襲いかかってくる性質を持っているようであるということ程度だった。

 

 

 

 そんなこんなで二日間の検証は終わり、二人が始業式という金曜日は一旦休んで、土日で今度は能力の検証ではなく事態の調査を進めるということになった。

 

 全員でこのまとめを確認した後の別れ際、白石はどこか不満げな空気を醸し出していた。

 

「僕はサポート系で戦闘は微妙ですね……ガッツリ分業っていうか、僕だってもっとこう前に出て……」

 

「お前な……楽しんでんじゃねえよ。俺は実害出てんだぜ」

 

「あっ、すいません」

 

 仕方の無いことではあるが、どうにもこの二人は違うベクトルではあるがこの非日常に対して浮足立っている。俺も体がこんなことになっていなければ、もっと危機感は薄れていただろうし分からないでもないが。

 この二人が分別がついている方なのかどうか、まだ短い付き合いで人間性を理解できているわけではない。まともだとは思っているが、一応忠告をしておくことにした。

 

「異能力持ってるとかもう自慢したくて仕方ないだろうけど、学校では目立つようなことすんなよ」

 

「分かってます」

 

「当然!影に忍ぶ者……人知れず魑魅魍魎と戦う、それが我らの掟!でござるな!」

 

 豪乱河の答えに、俺たち三人の呆れた目が刺さる。

 

「……まあ、それでいいよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 金曜日、高校生組は三学期が始まったが、俺たち無職組は家で管を巻くしかない。今日は休憩がてら、いい機会なのでダンテにスマホを貸して調べてもらうことになった。土日にちゃんと進展させるため、ここでなにかしらの手がかりは得ておきたい。

 

 ダンテの要望により、この俺たちが住んでいる町である『薊町(あざみちょう)』の地図を印刷してきて、ついでにペンやルーズリーフも買うことにした。ダンテが家でずっとスマホを独占していてやることが無いのと、自分用の食事の買い出しもついでに済ませるため俺が一人で済ませてきた。それに、俺の方が大家夫婦の行動パターンを知っていて目撃されないよう動きやすいというのもある。

 

 この時、奢ったこともあり財布の中が減っていたため少し金を下ろしたのだが、俺の持つ軍資金が20万であり、補充は望めないという事実を改めてつきつけられた。ダンテに食費がかからないのが不幸中の幸いだが、もうカッコつけてガキどもに奢るの止めようかな……。

 

 俺がそんな憂鬱を抱えていることを知ってか知らずか(当然後者だろうが)、ダンテは非常に張り切って調査に臨み、帰ってきたときにはここ一週間の化け物や俺たちのような異能者と思われる人物の目撃情報をざっと纏めていた。

 

「やはり、この町周辺に目撃情報が偏っている。これは我々の痕跡が含まれていることもあるが、関与していない事象も当然ある。今週月曜から噂されるようになった大男の怪談……これも洗ってみるか」

 

 渡した地図を手に取り書き込みながら、時折ルーズリーフにもメモ書きを残している。

 

 10分ほどで終わったのか、暇を持て余してタバコを吸っている俺をダンテが呼んできた。

 

「リョウ、これを見てくれ」

 

 ほぼ間違いない目撃情報を示す赤い丸と疑わしいが確実ではない青い丸が書きこまれた地図を広げて指し示しながら、その点の密度が高くなっている地域を人口密度との相関も込みで伝えてくる。

 

「出現した化け物の位置関係を精査すると……薊町の中でも北側に若干寄っているな。当然目撃情報は多く人の住んでいるところに集まる。その分の補正も込みで考えると、中心はおおよそこの辺りだ」

 

 ダンテが円を書くように指で住宅地から外れた地点を示す。もちろんそんなところには近づいたことは無い。

 

「その辺ってなんかあったっけ?」

 

「地理的に言うと、ちょっとした丘があるくらいだな。……多角的に調べてみるか。出現している化け物の種類を分類して……」

 

 ダンテの言葉を受けて、自分は印刷してきた内の一つのハザードマップやらも参照して照らし合わせてみたりするが、これといった手がかりは掴めない。これはもうここで理論をこねくり回すより実地調査をするしかないだろう。

 様々な情報を見比べつつ頭を悩ませている様子のダンテを励ますために、肩を叩いて労う。

 

「まあでもよかったぜ、これまでは雲を掴むようなものだったからな。それに比べりゃマシだ。明日頑張ろうぜ」

 

「そうだな……」

 

 ダンテは生返事こそすれ俺に一瞥もくれず、ルーズリーフに知らない言語で色々書き込んでいる。最初の方は俺が見ても分かるようにか日本語で書いていたが、集中してからは言語を変え、より速い速度で書き続けている。

 気遣いを無下にされてちょっと癇に障りはしたが、俺のためでもある頑張りを否定する気にはならない。腹が減ってきたが、流石に働いているダンテを中断させてやらせる訳には行かないので、自分の昼飯の準備をするために立ちあがろうとした。

 

 その時、机の上に置いていたスマホが震える。通話のバイブレーションであった。

 ここ数年はバイト先からしか着信が無かったため、灰皿にタバコを置き反射的に通話ボタンを押して定型文を告げる。

 

「はいお疲れ様です──」

 

『東さん!大変です!』

 

「んあ?うっさ……」

 

 画面をちゃんと見ると、そこには白石の名前があった。

 そういえばバイト先からはあの日に『あの少女が俺です』と文章で連絡してから、本人が直接来て謝罪しろと言われてそれっきりだった。

 スピーカーモードをオンにして机の上に置くと、ダンテが無表情ながらどこか呆れるような雰囲気を醸し出している。気づいてたんなら指摘しろや……。

 気を取り直して、電話の先の白石に向かって声をかける。

 

「ええと、何の用?敵襲?」

 

 俺がちょっとした冗談のつもりで言ったその言葉に対し、白石は慌てた様子で答えた。

 

『あながち間違ってないです!あぁ、どう説明すればいいかな……美海がなんかよく分からない、変な似非外国人みたいな人と戦うことになって……とにかく来てください!僕らと出会った自然公園で待ってます!』

 

 焦った声音の白石の声の背後では、爆音が鳴り響いていた。

 面食らっているこちらの返答も待たず通話が切れる。灰皿から立つ煙が寂しげだった。

 

 

 

 ……俺、目立つなって言ったよな?

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