あさおんTSヤニカス元ヤン俺っ娘合法ロリ天使   作:木蛾

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第八話 チンピラ流プライド(笑)バトル

 オレと上垣は、二人で最強だ。

 高校でも大学でも、ずっとそうだった。大抵の奴は機嫌を取ってくるし、気に入らない奴や歯向かってくる奴にも負けたことは無い。"薊の龍虎"とは俺たちのことだ。

 それはこんな化け物狩りだのなんだのなんて特別な環境に置かれたって変わることは無い。

 

 変わることは無い……はずだったのに……!

 

 

 

 背から翼を生やした灰色の髪の女にナイフを握られている。

 手袋も付けていないため皮膚が切れ血が流れているが、ナイフ自体はピクリとも動かない。

 

 パニックに陥って体が強張った瞬間、腹にすさまじい衝撃が走る。

 

 自分の体が地面を転がる。ナイフも甲高い音を立てながら明後日の方向に飛んでいった。

 えずきながら顔を上げると、女が煙を吐きながらゆっくりと歩いてくるのが見える。

 

 こいつはなんなんだ?

 

 困惑しているうちに髪を掴まれて強制的に目を合わせられた。

 

「降参するなら殺さなくてもいいぜ?俺は優しいからな」

 

 少女然とした顔に似つかわしくない男口調で、ニヤつきながらやたら堂に入った挑発をしてくる。

 ついでとばかりにヤニ臭い煙を吹きかけてきた。

 

「……ッ、バカにすんじゃねぇ!」

 

 反射的に手を出す。

 不安定な体勢から放った一撃は、当たった瞬間まるで壁を叩くような感触がした。

 

 腰が入ってないとはいえ、ノーガードの頬に入ったのに平気な顔をして、一切笑ってない目でこちらを凝視している。

 全然効いていない……!

 

「バカにしてねぇよ、雑魚」

 

 髪を手放されたと思ったらゴッと鈍い音がすると同時に体が浮き、呼吸が止まる。

 

「カハッ……!」

 

「正当評価だと言ってほしいな」

 

 手を離されたオレは這う這うの体で女に背を向ける。

 二人揃ってれば、こんな奴……!

 

「んあ、逃げんだ。さっきの奴に泣きつくのか?かわいいねぇ」

 

「……クッソ、ガキがイキんな!」

 

 挑発に乗せられるまま振り向いて自分の与えられた力を使う。

 クラっとするような感覚の後、手の中に小ぶりなナイフが作られる。時間さえあればこんなガキ一人殺す武器を作るのなんてわけねぇのに……!

 

「へぇ……かっけーじゃん」

 

 少女は半笑いでそう言いながらナイフを捨て、ジッと睨んでくる。

 こちらの握ったナイフの正中を真っすぐ捉え、その上で回避行動をとらず正面から緩慢に歩いてくる。

 

 一歩近づいてくるたびに心臓が早鐘を打つ。

 まだ、まだだ……。

 殺す……殺す。オレならできる……!

 

 くあ、と小さくあくびが聞こえた。

 

 ここだ!

 

 

 

 ナイフで女の頬が切れ、一筋血が流れる。

 

「あらら、当てねぇの?」

 

 瞬き一つせず、顔の真横に刃物があるというのに、こともなげに女は言う。

 こいつ……痛みや恐怖を感じないのか……!?

 

「ひっ、ひぃぃっ」

 

 その少女が発する空気に呑まれて体が固まったその時、腕を掴まれる。

 腕の骨がきしむ感覚と共に体が下に引っ張られ、勢いのまま下がった顔面に拳が叩き込まれる。

 鼻柱が折れ、激痛と共に空を飛ぶと同時に意識が暗転した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……ま、大体10秒だろ」

 

 細身の男は白目を剥いたまま起き上がってこない。

 強く握った拳をゆっくりと解き、肩を鳴らす。その時、ピリッとした痛みが手と頬に走った。

 

「ウッ……!」

 

 敵が目の前から消えたせいで気が緩んで声が漏れる。

 痛ぇ……刃物のそれは打撲とは違う冷たさと熱さの入り混じった不快感がある。不完全とはいえ変身できてるおかげで生身よりまだぬるい感覚だったのはマシだったけど、嫌なものは嫌だ。

 

「くぁ~……マジで死ねよ……」

 

 イラつきを隠さず、改めて倒れた男に目をやる。

 何本か歯が砕けて悲惨な有様だが、息はある。体を調べて宝石を奪おうとした時、近づいてくる影に気が付いた。

 

 俺は髪をかき上げ、手を叩き合わせて気合を入れる。

 次は、こいつか。後から来る奴らにドヤるためにも、とっとと終わらせないとな。

 

 大柄な男は呆然と、地面に倒れ伏す男を見ている。

 

「藤谷……まさか……」

 

「おいおいそんな落ち込むなよ、お前も同じところすぐ行くんだから」

 

 俺はサムズダウンしながら朗らかに笑いかける。当然、"同じところ"は病院か豚箱だ。

 

 思ったより細身の男が弱かったおかげでタバコの火はまだ保っているが、それも悠長にやっていられるものではない。下手に冷静になられるより怒って俺を倒そうとしてくれた方が都合がいい。

 

「テメェがあの世に行って詫びろや!」

 

 男は怒声を上げながら、文字通り爆発的な加速力で俺に飛び込んでくる。

 

 反射的に腕を交差させ、繰り出された膝蹴りを受け止めるが、受け止めきれず後ろに思いきり吹っ飛ばされる。

 脳が揺さぶられるような強烈な感覚。最初にやられたのはこれか……!

 

 元から視界に入っていればタネはあっさり理解できた。

 こいつの異能力は察するに体が触れた場所を爆発させるといったところで、それで自分の足元を爆破させることで勢いよく飛び出す。非常に簡単な仕掛けだ。次は受け止めて見せる。

 

「寝たふりなんかすんじゃねぇ、息の根止まるまでやるのは変わんねぇぞ!」

 

 仰向けになりながら思考を回していると、奴の声がだんだん近づいてくる。

 右手は本気で何回も殴ったのとさっきの防御に使ったせいか感覚が薄い。左手からは血がダラダラ流れてるせいで握ると鋭い痛みが走る。

 ……しのごの言ってられる状況じゃない。

 距離をおいてもさっきので詰められるだけだ。

 

 のそりと起き上がりながら軽口で返す。

 

「そう急かすなって、味わってるところだったんだから」

 

「ハハハッ!そうか、じゃあ許してやるよ。何てったって人生最後だからな!」

 

 気前のいいことを言いながら奴の放ってきた拳は、身長差によって振り下ろす形になる。それに向かって自分から突っ込むことで額で受けた。

 頭に火花が散るような強烈な衝撃が走るが、奥歯を噛みしめて耐え、体格差をカバーするために飛び上がる。

 男は想定外に硬い額に拳をぶつけたせいで痛みに悶え、反応が遅れた。跳ねながら放った飛び蹴りは狙い通り側頭部に吸い込まれるように入った。

 

 爆発する人間相手の戦い方なんて知らない。結局のところ、俺の喧嘩殺法はノーガードの殴り合いだ。俺には当て感なんて無いし、手を伸ばせばどこかしらにあたるこの密着した状況は、俺のフィールドでもある。先に落ちた方の負け、実に単純でいいじゃないか。

 

 バランスを崩した倒れ込んだ男のマウントポジションを取って、追撃のパンチを顔にお見舞いする。

 しかし、男は平然とした顔をして片手で2発目の拳を掴んできた。

 

「軽いなァ!……こんな、雑魚に負けたのか?」

 

「うおっ!」

 

 そのまま上体を起こされ、掴まれた右腕を持ち上げられる。体を浮かされきる際に咄嗟に左手で顎を叩くが、腰が入ってないせいかビクともしない。

 

「情けねぇ、情けねぇよ……藤谷ぁ……」

 

 男は瞳に涙を滲ませながらブツブツと呟き、俺のことなど見ていないようだった。

 この隙に何とかならないかともがくが、抜けられない。

 ミシミシと握られた腕が軋むような痛みが響く。

 

 空いた手でタコ殴りにされる。鼻血が噴き出て、口の中を切った感触もあった。

 

「ぐはっ……!」

 

 タバコを口から取り落とすと、意識が遠のくような感覚があった。

 

 腹を叩かれたことで胃液がこみ上げてきた。

 無理やり飲み込み、喉を酸で焼かれる痛みと不快感を噛みしめる。ちょうどいい気付けだ……!

 

「そこの雑魚はお前に助けを求めてたぜ……!奇遇だな、俺も同じ気持ちだよ!なっさけねぇ!」

 

「テメェが藤谷を侮辱すんな!オレだけがしていいんだよ!」

 

 俺が挑発した瞬間、ほんの僅かに男の手の力にムラができた。その隙に顔に唾液と吐瀉物交じりの血を吹きかけると、流石に怯んだようで、何とか抜け出せた。

 転がりながらタバコを拾って距離を取り、灰を落とす。

 

「人痛めつけながら泣くんじゃねぇ!キメェんだよ!」

 

 モロに顔を蹴ったのにあっちは俺とは違い血の一滴も出していない。基礎スペックで大きく劣っているとしか考えられない。

 

 手の中でいつも通り光の剣を作ろうとするが、途中で掻き消える。

 クソ……有効打が無い。このままじゃ押し負ける……!

 

 捨て身か、逃げるか……。

 再び男が姿勢を低くした。何か行動をとらなければ……。

 

 ……怖い、怖い!死にたくない!

 

 

 俺の対応がおぼつかないうちに足元に光が見え、終わったと思ったその時、閃光が宙を走った。

 見覚えのある、電撃銃の軌道だ。

 

 それに怯んだのに合わせてダンテが飛び出してきて、そのままこちらに突っ込んできていた男の襟を空中で掴んで投げ飛ばす。

 

「……一応、何とか間に合ったかな?」

 

 一回転しながら華麗に地面に着地すると同時に前に俺が言った言葉を真似たのかそう言ってくる。

 こいつがこの緊急事態に()()()()()ということに若干の疑問は感じつつも、俺も無理やり口角を上げて返す。

 

「あぁ……遅えけどな。あと1分ありゃ俺が全部倒しきっちまうところだった」

 

「それはすまないな。見せ場を奪ってしまった。その髪色は……」

 

「……要因はともかく、今の俺は普段より弱い」

 

「ならばここからは私に任せてくれてもいいぞ。無理をさせて悪かったな」

 

「あ?テメェ──」

 

 舐め腐ったダンテの言葉に言い返そうとした時、投げ飛ばされた男の近くが僅かに光ったのが見えた。

 

「来るぞ!」

 

 叫ぶと同時に反射的に俺が庇うようにダンテと男の射線に入る。2度も食らってタネも割れていれば、威力の確認もできている。突進は強い衝撃だったが、何とか受け止めきれた。腕が鈍く痺れる。

 爆発を使った直後のこのインパクトに爆発を使わないということは、インターバルがあるのかもしれない。

 

 俺が壁になりながら後ろからのダンテの援護射撃で、相手に攻め手を与えない。咄嗟のコンビネーションにしては上出来だった。

 このままなら押し切れそうだが……。

 

「ぐっ!」

 

 男の拳が爆発した。腕で守ったが、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。

 

 入れ替えるように前に出たダンテは、手を交差させるようなどこか奇妙な構えを取り、男と相対する。

 ダンテの大きい体でよく見えないが、一撃も食らわず逆に何発か当てているようだ。しかし男が怯む気配は無い。

 

 すると、攻め方を変えたのだろう、ダンテが男に絡みつく。

 男を支点にしながら流れるように体を登り、両腕を抑え込みながら足で首を絞めた。完全に()まった。

 

「ぐっ、おっ」

 

 男が苦悶にあえぐような声を出す。常人ならばこれで勝負は着いたと思えるが……。

 男の体が強く震える。

 

「ダンテ!離れろ!」

 

 俺の声に反応したのかダンテが咄嗟に拘束を解いて男を蹴りながら飛び上がると、直後に派手に爆発した。

 最初にダンテに向かって撃ったものと同じレベルの高威力で、爆風で土煙が上がり視界が遮られる。

 

 ギリギリで直撃を免れたダンテは、計算したのか偶然なのか俺の真横に着地する。

 ダンテのトレードマークのダッフルコートが若干(ほつ)れ、腕を痛そうにブラつかせている。

 

「中々、強力だな……!」

 

「あいつにまともに攻撃は通らねぇ……純粋に肉体が強すぎる」

 

「ほう、リョウからの決定打は無いと……ならばなぜ正面切って戦っていた?」

 

「逃げるにしたって現実的じゃなかったんだよ、お前がいる今の状況とは違う。……けど」

 

 勝てないなら、逃げの選択肢を取るしかないのか?

 ……嫌だ。痛いのも死ぬのも嫌だが、それよりもナメられるのが嫌だ。

 

 見上げると、いつも通りの無表情をしているダンテと目が合った。

 

「俺は一人でも残るぜ。殿(しんがり)は必要だろ?」

 

 啖呵切っちまった以上、もうカッコつけ続けるしかない。

 ダンテと数瞬見つめ合うと、あちらが逸らした。

 

「……そう言うと思った。ここで勝つぞ、リョウ」

 

「いいね」

 

 こいつも、俺のことが少しわかってきたのだろう。

 ダンテが声を潜めて囁く。

 

「使いたくは無かったが、私に当てがある。隙さえできれば内側から崩せる」

 

「……そのためには、俺はどうした方がいい?なるべく簡単な指示で頼むぜ、頭働かねンだわ」

 

「そうだな……」

 

 ダンテは一瞬敵から目線を外して改めて俺を見る。その目は、心配を雄弁に物語っていた。……ふざけんな。

 俺は、舌を出して余裕ぶる。伝わったのかどうかも分からないが、ダンテは静かに言った。

 

「とりあえず、突っ込め」

 

「最高だ」

 

 煙が晴れる前に、俺は飛び込む。

 

「テメッ」

 

 男が言葉を言い切る前に俺の拳が奴の顔面にめり込む。

 休むことなく何かしら攻撃を繰り出し続けるが、やはり俺の打撃はあまり効いていないようで男は平然と睨み返してくる。

 

「しつけぇ!」

 

 モロに爆発を食らった。意識が飛びかけるが、食らう前に痛みの覚悟をしていたおかげで、何とかその場に留まる。

 

 男は俺のことは警戒していないようで、ダンテの姿を探している。

 俺は必死に平気な顔を取り繕いながら男の体にしがみついた。

 そこでようやく、男の瞳に僅かに震えが見えた。

 

「お前、いつになったら──」

 

 腹を殴ると、男の姿勢が下がった。

 

 ふざけんなよ、何でテメェが被害者面してんだよ。

 こんな痛いのに戦わなきゃなんねぇのも──逃げずに俺が体張ってんのも──。

 

 不味いメンソを吸うハメになったのも、職を失ったのも、こんな暴力の世界に戻ることになったのも、ダルい獣道を歩かなきゃならないのもそもそも俺が最低賃金で働いてたのも地元がカスで一人で生きることになったのも幼女になったのも背が低くなったせいで人と話すとき一々首が痛いのも全部、全部全部ッ!

 

「テメェのせいだァッ!」

 

 タバコを強く噛みしめて葉すらも飛び立たせながら首を大きく振りかぶり、ガッ、と頭突きが決まる。

 

 星が飛ぶ。奥歯を死ぬ気で噛みしめて気を保つ。バキッという音が自分の口から鳴った。

 

「くっ、があっ……!」

 

 男は大きくのけぞる。が、意志のある瞳で顔を俺に向けて睨み返してきた。

 決定打にはならなかったが、これでいい。

 

「ハッ、そんなボロボロで……」

 

 男の言葉が途中で切れる。

 

 ダンテが、その体に触れていた。3秒ほどかかってその場から消える。

 支えが無くなった俺は地面に倒れ、大の字に寝転がった。

 ……瞬間移動を行ったことは分かったが、一体どうすると言うのか。

 

 二人が少し離れたところに地面を滑るように再び姿を現した時、明らかに男の様子がおかしくなっていた。

 

「あッ…!?があっ……!」

 

 男は頭を押さえ、鼻や口から体液を漏らしながら痙攣を続けている。ダンテも、膝をつきながら息を切らしていた。

 

 俺は起き上がってタバコを口から離し自分の口の中にある異物を吐く。白く硬いものが地面に転がった。マジか……奥歯欠けてる……。

 溜息を一回ついて心中をリセットした後、ダンテに話しかける。

 

「何したんだ?お前……」

 

 ダンテは何度か深い息をした後、落ち着いた口調で話し始めた。

 

「……最大効率で"瞬間移動(ジョウント)酔い"を叩き込み、見当識失調に陥らせた。これが私にとって最も手軽な非致死性制圧手段だ」

 

 ……なるほど。

 あいつの説明を最初聞いた時に何故思い当たらなかったのだろう。

 瞬間移動はダンテ以外耐えることはできず、連れていくことに相手の許可はいらない。つまり、攻撃に転用できる。

 

 歩いて近づき顔を覗くと俺の姿も捉えられていないようで、分かっていてもキツいアレを不意打ちで叩きこまれた男は再起不能に陥っているようであった。

 ダンテが銃床で男の側頭部を殴ると、それがトドメとなったようで静かになる。

 これを見ると、ダンテがその気になったら──。

 

瞬間移動(ジョウント)には不快感を感じやすいやり方と比較的感じにくいやり方がある。普段行っているものは当然後者だ、怯えなくていい」

 

「怯えとらんわ」

 

 そう言われれば、若干ダンテの顔色は悪い気がする。本人にも負担はあるのか。

 額の脂汗をぬぐったダンテは俺の手元を見ると、小さく言った。

 

「時間だな。間に合ってよかった」

 

 灰が落ちる。タバコは極端に短くなり、強く噛みまくったこともあってもうボロボロだった。

 

「……ああ、本当助かったよ」

 

 俺が負けかけていたことなど、こいつにはお見通しだったろう。

 

 タバコを携帯灰皿に捨てると、体から力が抜ける。

 横にいたダンテにぽすりと抱きすくめられると同時に、俺は眠るように気絶した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ダンテ殿!無事であったか!」

 

 美海が到着したのは、全てが決した後であった。

 小脇に、縛られた少年を抱えている。ダンテが先ほど一人で対処した少年であった。

 

 美海にとって意外なことに、ダンテは大柄な男の体を地面に寝かせ、介抱していた。

 

「それは……何をしているのであろう?」

 

「吐瀉物で窒息しないように処置をしていた。殺すわけにはいかないからな」

 

 さらにその後ろから走ってくる透とチャーリーの姿を見ながら、ダンテは指示を出す。

 

「私は無事だ。リョウは……そうとも言い切れないが。応急処置をする、その間この男たちの身柄の拘束と見張りを頼む」

 

 ダンテはコートの内側から消毒液と布を取り出し、椋の服を捲る。

 それを見て透が素っ頓狂な声を上げた。

 

「うおっ!ダンテさん、何してるんですか!?そんな軽々しく女性の体を……」

 

「何を言っているんだ?私より応急処置に慣れている人間はこの場にいない。……そもそも、それで言うならリョウは男だろう」

 

「それはそうですけど……それもそうですね……」

 

 ダンテはそう言いつつ、自分の腕も小さく震えていることに気が付いた。

 緊急回避に一回、攻撃に二回瞬間移動(ジョウント)を使用したダンテは、もう今日は無理はできない。だが、この状況で弱音を言うメリットは一切ない。

 

 もし縫合する必要があるなら無茶をさせてしまうかもしれないと思いつつも、目立っていた頭部の出血を確認する。

 

「これは……?」

 

 ダンテが自分の服なども使って即興で止血などの応急処置をしようとしていたが、小さく声を漏らす。

 それを聞いた透は青い顔になった。

 

「東さん……血まみれですけど、やっぱりヤバそうですか?」

 

 ダンテは首を横に振り、椋の口を開けてその中の様子を見ながら言う。

 

「いや……逆だ。一度組織が破壊された後にすでに再生されたような痕がある。処置もほぼ必要ない。……こんな短時間で起こるのはありえない。リョウの能力によるものと見るのが妥当だろう」

 

 割れた歯が生えかけていることを目視し、ダンテは確信する。

 化膿の予防のため消毒だけすませていると、美海がどこからともなく鉤縄を作り出しながら、会話に入ってくる。

 

「怪我という怪我ではないでござるが、拙者が昨日受けた遠山……殿の傀儡(くぐつ)からの攻撃が完全に癒えているわけではない。椋殿特有のものにござるな」

 

「これまでリョウは傷一つ負わなかったから分からなかっただけか……」

 

 ダンテが一応体を全体的に確認していると、他の誰も見たことのない珍妙な縛り方で捕縛し終えていた美海がダンテに話しかける。

 

「この狼藉者どもの処遇はいかに?逆恨みされるやも……」

 

 場の人間の視線がダンテに集まる。

 

「マナ及び宝石を回収の上、いったん拘束しておいて今日の本来の目的の探索が終わった後に軽い尋問をする。もし他に提案があるなら受け入れるが……」

 

 そうダンテが話していると、椋が薄く目を開けた。そのまま上体を起こし、周囲を確認する。

 

「……無事終わったか。おいチャーリー、マジで後で殺すからな」

 

「リョウ、無理をするな。一旦寝ていろ」

 

「はいはい……へへ、どんなもんよ。俺ァ強えだろ」

 

 椋が、痛みに耐えているため歪な笑みを浮かべながらピースサインを掲げる。

 強がりであることは丸わかりで、ダンテの胸中から想定外の事態にも関わらず一人で無理をしたことに対するいくつかの小言が浮かんだが、それらを飲み込み小さく微笑む。

 

「ああ。君は、最高で最強だ」




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