男三人組の処遇は、ダンテが提案したらしい案を採用したとのことだった。
木への縛り付けを行い、奴らの所持している宝石を回収する。俺は寝ころびながらそれをボーっと見ていた。
チャーリーの宝石を使ってマナを吸わせることにしたが、ダンテがチャーリーの言うとおりにしても上手くいかない。そのためガチガチに警戒しながらチャーリーに行わせることになった。
チャーリーはやたらまごつきながら恐る恐るといった風に宝石を受け取る。そのまま所在なさげに男たちの前にしゃがみ込んだ。
やたら挙動不審だが、その気になったら即座に制圧できる状況で多数の人間に睨みつけられながらなんだから仕方ないのかも知れない。
「ルックアウェイ!ミーも対人は初めてなのだ、ジロジロと見ないでくれ!」
「……いや見るだろ。今後の参考になるかもしれねえんだから。あとお前緩いけど一応捕虜みたいな立場だろ」
「う……ラジャー……」
チャーリーは口をつぐんで、手間取りながら宝石の両端を大柄な男の血に触れさせる。
俺たちはその際に初めて"マナを回収する"という行為を見ることになった。
すると、宝石が強く輝いた。三秒ほどして光が収まる。
収まったら、それを他にも続ける。俺が戦わなかった奴は出血していなかったため、指先を軽く傷つけて血を出させていた。
「へぇ……それだけ?」
「そのはずだ……あっ」
全員にやった後、ダンテがチャーリーからひょいっと宝石を回収する。異能力を使わせないためだ。チャーリーは少し残念そうな顔をしている。
「元の所有者しか使用することはできないようだが、無力化のためこの三人の宝石も預かっておく。体を探るぞ」
ダンテの指示によって、それぞれが男たちの所持品を探る。
まるでこっちが強盗か何かのようだが致し方なし。それ以外の手荷物には触れないでいてやったんだから感謝してほしいくらいだ。
◆
やるべきことも終わり、ずっとサボって寝ていた俺が歩けるくらいには回復したため、移動を始めることになった。
目的の丘陵に近づくにつれて、
まず、丘を登ると、不思議な感覚に襲われたのだ。体に力が満ちるような、どこか浮つくような……快と不快を振り子のように揺らされる奇妙な感覚だった。
「う……」
白石が口を押さえて、明らかに気持ち悪そうにする。豪乱河が背中をさすって介抱していた。
俺も若干酔うような思いはあったが、弱音は吐かない。まあ気遣うような余裕も無いけど……。
木に囲まれた丘の頂上に着いた時、俺は目にしたものを信じられないような思いで息を呑む。
「これは……何だ?」
直径3mほどの、黒々とした全てを飲み込むような不自然な穴が、まるで火口のようにぽっかりと空いていた。奥の方に微かに光のようなものが瞬いている。
「……あんま見続けると、頭がおかしくなりそうだ」
吸い込まれそうな感覚から逃れるように、俺は頭を振って精神を落ち着かせる。
それに何とも……空気が重い気がする。白石はずっと調子が悪そうなままだし……。
穴を観察しているダンテが、顔をこちらに向けることなく話しかけてきた。
「私は以前、この状況に直接ではないが心当たりがあると言ったな」
「ん?あぁー……そうだな。お前が俺に協力してくれることへの理由だ。利害が一致しているって言ってたっけ」
俺の言葉に頷き、ダンテは躊躇なくその穴に近づいていく。
「おい、危険だぞ。足を滑らせることは無くても何が起こるか……」
俺の忠告を無視してダンテは穴の淵に立った。そのまましゃがんでのぞき込む。
「経験則……厳密には、私が体験したのは一回しか無いため、どちらかというと知識と言った方がいいかも知れないが……こういった超常現象に対して若干のノウハウがある」
「まぁ……それは何となく分かってる。それで、これはいけそうか?」
ダンテは顎に手を当て、歩きながら講釈を始める。
「私がタイムスリップできない原因が君と共通と推測したのは、タイムマシンは異常な波長の影響を受けることがあるからだ。そして今回はFGX型異常に該当する」
再びしゃがみ込んで穴の周囲の土を掬い、指先ですり潰す。
「定石で言えば、αプックをケルトラーゼすることでラリホイズ・タゼッションを引き起こし、クルオフィム・ポジスデット・クエインケを……」
……長ぇ!その上聞いても何するのか分からん!
ブツブツと呪文を唱え続けているダンテの言葉を俺は遮る。
「具体的な説明はいいよ……つまり解決できるってことか?なんか、色々特殊な道具の名前みたいなんいってたけど……」
「今言ったことは要するにF型超常物質……マナを発生させないようにこの穴を塞ぐ手段で、できる。装置に関しても、現地で調達できるもので組み立てることはエージェントの必須技能だ。白亜紀だろうとやってみせるさ」
「ダンテお前、大天才。ほんと、お前におんぶに抱っこで悪いぜ。……一応聞いときたいけど、そうすれば俺の体は戻んだよな?」
「確実なことは言えないが……マナが切れた影響で即座に元に戻るか、徐々に変化するものだと思われる。そもそもが現状に一夜で変化したということだから前者の可能性が高いか?先ほど少し応急処置をさせてもらったが、その体は通常の人体とは少し異なっていておそらくマナによって構成されているものだ。供給源を断たれた状態でそれを維持し続けることは難しいだろう」
「ああダンテ様頭が高くて申し訳ない、拝ませていただいても?」
俺はふざけながらも本気で謝意を込めてしゃがんでいるダンテの肩に手を当てて労う。
明確な希望が見えて喜んだ俺だったが、ダンテは首を横に振った。
「ただこれには時間がかかる。具体的には年単位……どれだけ想定より早く進んだとしても半年は確実に必要だ」
「……マジかよ」
「ああ、つまるところこれは次善策ということになる。準備はするが、ひとまずジェラルドなる人物を捕らえ──」
「捕らえって、失礼だなぁ。そんな犯罪者みたいな言い方して」
「いや、実際かなり怪し……ん?」
見知らぬ人間が、いつの間にか俺の真横に立っていた。
「おぅあっ!?」
素っ頓狂な声を上げながら飛び上がった俺を、そいつは不思議そうに見ている。
その見た目は……捉えどころがない。顔は中性的だが、特徴が少なく印象に残りづらい。身長が170㎝ほどでそこそこ肩幅のある体格からして男っぽいが、確信できるほどではない。
「ジェラルド!」
俺の派手な反応でこの不審者の存在に気づいたらしいチャーリーが叫ぶ。
誰もこの至近距離まで気づかなかったのか?いや、単に今現れた?だとすればどこから?
「大きい良い挨拶だ。久しぶりだね、チャーリーくん。いや中々意外だったよ、君が負けるなんて。優勝候補まであると思ってたのに」
そいつ──ジェラルドの出す声はハスキーで、やはりこれも男とも女とも不明瞭なものだった。
「ああごめん、君を責めてるわけじゃない。いやはや下駄を履かせても、こんな薄いマナで自然覚醒するような異常者の相手はキツいか。学びになったよ」
こちらが呑まれるように黙っていると、薄笑いを浮かべながら一方的にペラペラとしゃべり続ける。
俺は自分の額を指で叩いて気付けをすると、口を挟んだ。
「ずいぶんとよく喋る……俺たちのことをナチュラルに異常者扱いしたな、仲良くする気はないってか?」
とりあえずペースに呑まれないよう文句をつけてやると、俺の言ったことがよく分からないといった風にジェラルドはわざとらしく首を傾げた。
「……?よく分からないけど気分を害したかな。単に尋常じゃないってだけなんだけど、日本語は難しいね」
不快だ。俺はこいつの話し方が純粋に好きじゃない。多分、性格も。
主導権を握るためにも、今の話で引っかかったところを突く。
「おい、チャーリーには俺たちみたいなのはいないって話してたんだよな?今の言い分だと、俺らと潰し合わせるのは既定路線みたいじゃねぇか」
「そっ、そうだ!ジェラルド!ユーはミーに嘘を吐いたのか!?」
「う~ん、君たちの存在は本当に想定外だよ。ここまで人間が感情が強い生物だとは思わなかったし、素体となる概念を作って他者の感情も吸うことで出力を上げるなんてもっと予想外だ。思ってもみなかった」
ジェラルドはそこまで一気に話し、口を挟む間もなく手を打って一人で勝手に満足げに頷く。
「でもよかったよ、その方が都合がいい。早く終わるからね。もしチャーリーくんが倒してくれれば、より多くのマナを得られるし、Win-Winってやつじゃないか?」
「……巻き込まれて危害を加えられる俺たちはLoseなんだけど?」
「え?まあいいじゃないか、幸運で力を手に入れられてるんだし。それにしても自然覚醒者の才能は凄いね……特に君は素晴らしい!天使という普遍的で人口に膾炙し、戦闘の描写も数多ある概念を素体としている上、本人のマナへの感応性も高いなんて!いや、逆かな?まっ、どちらにせよ君はぼくの求める逸材だよ。この町に君がいて良かった」
俺のこの女体化した惨状を褒め称えるかのような言い方に苛立ちを感じながらも、平静を装って返答する。
「そうか、それはどうもありがとよ。……で、終わるって……お前の目的は何なんだ?というか、そもそも今の時点で何をした?」
ジェラルドはきょとんとした顔をした後、顎に手を当て考えこむような素振りをした。
一々仕草がおおげさで芝居がかっている。何とも胡散臭い。
「んー、全部は言えないけど……そうだね、チャーリーくんに言ったのと同じようなことは改めて話そっか。君たちがぼくの目的に共感して行動してくれたら何より嬉しいからね」
頭をかくと、ジェラルドは軽い調子で説明を始めた。
「ぼくのいる世界はこっちに無いマナっていう物質で満ちてて、それは感情に反応して現実に願望を投影できるんだ。空気中のマナが多くの感情に触れることで勝手に実体を持ったのが君たちが普段戦ってる"マモノ"だね。当然ぼくたちはそれを使った文明を築いてたんだけど……とあることをきっかけに停滞しちゃったんだ。腐敗といってもいい。その解決のためには超高濃度のマナがいる。けどそれはぼくらの世界で手に入れられるのは困難だったんだ」
そこまで言うと、ジェラルドは手を広げて大穴を愛おしそうに見た。
それまでの嘘くさい張り付けたような笑みと違い、心からの笑顔を浮かべているように見える。
「だから、この"扉"を開けてこの世界……便宜上地球と呼ぼうか。別に宇宙からの侵略者ってわけじゃないけど、区別できないと紛らわしいからね。地球の知的生命体の人間に接触することで解決しようとしたんだ。この扉からマナが直接こっちに吹き込んでるから、強く影響があるのはこの町とその外くらいの範囲に収まってるけどね。ちなみに人間や地球の存在を知ることができたのもマナの力によるものだよ」
ジェラルドは悠々と俺たちから離れるように穴の近くを歩いていく。
「それで、こっちに来てからしてることだけど……チャーリーくんみたいな才能がある人に君たちが言うところの"宝石"を分け与えてるんだ。あれは大気のマナを取り込みやすい素材でできてて、所有者の覚醒を補助する。そして余剰なマナを溜め込む能力もあるから、それで人間によって超高濃度になったマナを溜め込んだ宝石を回収して、ぼくは帰還するって感じの予定かな。ちなみに素材の入手も加工も大変で貴重なものだから、ちょっと倒した人から没収するのは遠慮してほしいな」
そこまで言うと、言い切ったような清々しい顔をする。
俺は長ったらしい話を出来の悪い頭で咀嚼しながら、意外だったところを口に出す。
「……つまり、お前は自分の生まれた世界を救う崇高な目的で行動してるってことか?」
ジェラルドは即答せず、少し間を置いて小さく目を細めると首肯した。
「言うなれば、そうだね。ぼくは無責任だからそんなに使命感に駆られてるってわけじゃないけど」
煽った自分もなんだがその答えに馬鹿馬鹿しくなって鼻で笑う。
「マモノとかいう害獣をこっちに招いておいてよく言うよ」
「そういう意味では一方的に巻き込んじゃって申し訳ないよ。その対価としてマナの使い方は教えるし、それで利益を生み出してもらっても構わない」
「……別に、俺らは人類代表じゃないんでね。その是非やらプラマイがどっちに働くかは知らねぇけど……そのために人間を争わせ合ってるのか?お前が動いて人間に続けるとかはしねぇのか」
「うん。ぼくのいた世界の知的生命体はみんな感情が希薄なんだ。だからぼくは弱いし、自分で動いてどうにかできる力は無いんだよ。そして人間が最も強く感情を動かすのは、他者との競争だ。ぼくも悠長にはしていられるわけじゃないから、こういう形を取らせてもらってるよ」
「……性格悪いな、お前」
俺はこちらの人間を不条理に巻き込む行動に嫌悪を感じつつも、相手に大義名分があるとなるとどうにも非難しきれない。
ダンテが腰元に手をやりながら質問を飛ばす。
「一つ聞きたいのだが……あの宝石にマナを集めることが目的というのが真実だとして……その非常に強力になった能力者に対してどうやって取り立てるつもりだ?正直言って、そこのチャーリー含め宝石を与えた人間はどれも人格者とは思えん」
「……ちょっと気になってたんだけど、"君"は何なのかな?なんでそっち側にいるんだい?」
ジェラルドがそこでダンテに気づいたのか視線をやったが、どこか不快げにそう言い放つ。俺に対する者とは異なり非常に冷徹なもので少し違和感を感じるが、ジェラルドはすぐに調子を取り戻した。
「まあ、いいや……質問に答えると、ぼくと協力者のみんなには信頼関係があるからね。能力も完全に没収するわけじゃないんだから快く協力してもらえると信じているよ」
ジェラルドはずっと飄々と薄っぺらい感情を表に出していて、真意が掴めない。
どう話して情報を引き出すか考えていたその時、ずっと頭を痛そうに抱えていた白石が声を出す。
「あの……全部じゃないけど嘘ついてますよね?世界のためっていうより野心というべきなんじゃ……っていうか……え?これ僕の幻聴?みなさん思い思いに小声で喋ってますけど……」
……こいつ、急に何を言っている?
その場の全員の視線が白石に集まる。自分で衝撃発言しておいて少しビビっているようだが、今はそれどころじゃない。
今日、こいつはやたら察しが良かった。まさか……。
……聞こえているなら、右手を挙げろ。今すぐ。
「……東さん、どうしたんですか?」
白石は、戸惑いながらも右手を挙げる。お前はしばらく黙ってろ。
なるほど……読心?それにしたってなぜ今……?
「へぇー!君、名前は?」
驚いたように興味を持って話しかけるジェラルドに、白石は大きく跳ねて怯える。
俺は白石を横目で見て、今度はちゃんと口に出して先んじて釘を打つ。
「言うなよ」
「あぁ、それはぼくも同じ意見だ。言わなくて大丈夫だよ、分かったから。白石透ね」
ジェラルドがそういった時、豪乱河のマフラーがたなびいた。忍者刀を両手に一振りずつ持っている。
俺は豪乱河を手で制した。
「待て」
「されど……ダンテ殿は完全にではないものの知識は持ち合わせている模様。なれば、言の虚実の判別もつかないこの道化のような曲者はひとまず無力化するが吉では」
「いや、それを決め打つにはまだ早い。豪乱河も白石も、どっちも自分や身の回りの人間に害を受けたわけじゃないだろ?単にマモノが危険そうだから自主的に狩ってただけだ。共存できるかもしれないじゃないか」
豪乱河は不満そうにしているが、飛び出さない理性は残っているようだ。俺が話すのを待ってくれている。
ジェラルドは明らかに怪しいが、俺は本当に本音を話すことにした。やはり大事なのは相互理解だ。折衷案も見つかるかもしれない。
「悪い、今の聞こえてたよな。若いやつってのは全く血の気が多くてよくない」
「大丈夫だよ。僕の目的には反発があってしかるべきだと思うしね。そう思われても仕方ないよ」
「いや、俺はその目的達成のために地球に来たのはいいとおもうぜ?白石の奴が何を感じ取ったのかは置いておいて……正直、自分のためを考えて行動するのは嫌いじゃない。俺だって同じ立場なら同じことをしたかもしれない。うん、許す!」
俺が明るく声を高くして話した内容に、ジェラルドの顔がわざとらしいほどパッと明るくなる。
「えっ?じゃあ君たちも協力……」
「まあまあ、お前も結論を急ぐな。ただ、そのためにちょっとだけ聞きたいことがある」
身を乗り出してきたジェラルドを大仰に制する。
「何だい?君が味方になってくれるんだったらぜひとも答えるよ」
何ともありがたいことを言ってくれる。全力で甘えることとしよう。
「まず……何でこの町にこの穴を開けた?場所の話だ」
ジェラルドは露骨に表情を崩し質問の内容に拍子抜けしたようだが、淀みなく答えてくる。
「たまたまだよ、ぼくはこっちのことを知らないし、そもそも指定なんてできないからね。繋げたらここになった。それだけ」
「ふぅん……まあそれもいい。住民代表として、それも許してやるよ。災害が起きたかっていうと……まあ大事にはなってないからな」
まあ、想定内だ。
俺は淡々と質問を続ける。
「次に、俺の体が変質してるってことは分かるよな?これはなんでだ?」
「う~ん、多分君はめちゃくちゃマナと反応しやすい体質なんじゃないかな?だから他の人間が感情を高ぶらせないと到達できない状態に最初から変化してる。多分意志が強いんだよ」
褒めるように付け足された言葉は俺が自制心の無い人間だと言っているようだが、マナを用いる文化圏のこいつからすれば褒め言葉なのかもしれない。
「……なるほど、うん、そうか」
俺は大げさに頷く。ダンテと目が合った。
これで最後だ。
「俺の体はどうやったら戻してくれる?元に戻る方法を教えてくれるだけでもいい。範囲が狭いってんなら遠くでも行きゃいいのか?」
「え?戻さないけど。その力を手に入れてそれだけで済んだなら良かったんじゃない?ちなみにここの町から離れてももう意味ないよ。ぼくの目的のために広げるからね」
とぼけた顔のその返答を聞いた瞬間、俺は心を決めた。
「ブチ殺す」
俺とダンテが、即座に動いた。
ダンテが俺の言葉と同時に銃を抜いて撃つ。
殺害予告から1秒すらかからず飛んできた攻撃は直撃し、ジェラルドの体が硬直する。
ダンテはお優しいことに即死しない威力に留めたらしかった。だが、俺は手を抜く気は無い。
顎を狙ったアッパーはジェラルドに突き刺さり、膝が沈んだのに合わせて顔面を蹴り抜く。ジェラルドは勢いのまま地面を転がった。
俺は激しい怒りに突き動かされ、アドレナリンが出ているのか殴った拳の痛みもあまり感じない。
ジェラルドは上半身を起こし、震えながら声を漏らした。
「何でだい?君はぼくに共感するって……」
「確かにさっき自分のことだけ考えて行動するのは嫌いじゃないって言った。言ったが……その結果他人に害を撒きちらしたなら、そいつに恨まれるのも当然だよなァ!」
極論、俺に迷惑かけないなら何人死んでもいい。だが、俺に不便を強い続けると言うなら許すことはできない。
「私もリョウと同じさ。好きに生きるなら、悪因悪果を受け入れろ」
ダンテがそう言いながら囲むようにジェラルドの背後に回る。
それと同時に空から影が落ちた。赤いマフラーの軌道が空にはためく。
俺たちの戦闘開始から数瞬遅れて、さっき戦闘態勢になっていた美海も参戦したようだ。
俺とダンテの隙間を縫って弾丸のようなクナイがジェラルド目掛けて投擲される。
人間なら当たれば無事では済まないだろう。
回避行動も取っておらず、直撃すると思った瞬間ジェラルドが消える。俺の拳もクナイも虚空を貫いた。
どうやって……どこに消えた……!?
「あそこです!」
「あぁ……残念、残念だよ……敵対することは本意じゃないのに……」
白石が叫んで指さしたのは、大穴の上の空中だった。ジェラルドは悲しむように顔を覆いながらふよふよと浮いている。
浮いていることも瞬間移動したこともネタは分からないが、兎にも角にもこちらからは攻撃を届けづらい。
仕方ない……連続は負担はデカいが、やるしかない。
ポケットからタバコを取り出して強く吸う。不味い……が、目が冴える。
「他人の人生奪って都合いいこと抜かしてんじゃねえぞ三下ァ!俺もテメェの人生を今から奪ってやるよ!」
変身した瞬間、目覚めてから違和感のあった奥歯が噛みあう感触がした。
地味に響いていた鈍痛も完全に消える。
──さっきの戦闘よりなぜか調子がいい。行ける。
「共存とか調子いいこと言う前にテメェが消えろ外来種持ち込み野郎……!」
俺は踏み込むと同時に翼を広げて飛び上がり、一直線に突っ込む。
意外なことに、繰り出した拳はあっさりジェラルドの頬に入った。
しかし、ジェラルドは顔をのけぞらせこそしたが血も唾も吐かずに、まるで堪えていないように緩慢に俺の顔を見てくる。
「また会おう。その時は、冷静な判断を頼むよ」
ジェラルドはそう言い残すと露と消えた。
周囲を見渡すが、姿は見当たらない。白石にも目をやるが首を横に振っていた。
俺はダンテ達のもとに降り、燻る激情をそのままに宣言する。
「俺の行動方針は決まった。あいつに、生まれてきたことを後悔させてやる」
白石は何か言おうとしたようだったが、俺と目が合うと口を噤んだ。
「元々成り行きだ。一緒に行動できないって言うなら、こっからは別れてもらっていい。あれに頭下げるくらいなら数年泥水啜る生活した方がいくらかマシだ。悪ぃな、ダンテ。お前に長いこと働いてもらうことになっちまう」
「……いいさ、乗り掛かった舟だ。それに……幸運なことに、私は節約料理の心得はあるからな」
ダンテの軽口にひとしきり笑うと、俺の意識は遠くなっていく。
──絶対に許さない。俺を巻き込んだことが、ジェラルドの計画の一番のミスだ。俺をナメた代償を、確実に払わせてやる。