一話
おれの父親の一人は弓の達人で、コツは『よく見る事』だと酔うとよく言っていた。
「標的だけを視るのです、そうしたら自然と中て方が見える、あとは自然と弓を飛ばせばするりと中る。何も難しいことはない」
――要は殺すのに大事なのは殺す相手を視界におさめること、そういうことを言いたのだと思う。
なんで今、そんなことを思い出しているかというと――
「――この矮小な蟻が!!!我々の神を殺せるか!?」
手には愛用のナイフ、汚れてもいいようにもう本来の用途では着ない学生服、そんな一般人の装いをしているおれは
全長10メートルを超す巨人、いや産まれかけの邪神と対峙しているからだ。
足元には本来のターゲットたる結構悪いことばっかしていた地下カルトの信者達の死体を前に喚き散らすジジィ
そこから流れ出る血を吸い込むように集めている赫黒い何か――まだ生き残ってるジジィ曰く邪神――、おれ、そして床に倒れ伏す少女。それだけがこの部屋で息をしている存在だ。
「つまりラスト戦闘シーンってことっすよねぇ、おれ単純に正義の人殺しっすよ? オカルトはねー追加料金?」
へらへらと、どうしても生まれてからこの方変わらない緊張感と真剣味のなさを表に出したままおれは言う。
そんな態度にただでさえ赤い顔をなおのこと赤黒く染めたジジィが尚のことがなり立てているが、そんなことはどうでもいい。
「要は殺せば終わる、トロッコ問題も何も関係ないシンプル・イズ・ベスト、いやー楽な仕事っすよ」
「さっきから何をへらへらとしている!? 恐怖で頭が狂ったか!? 低頭平身に赦しを乞え!そうしたら――」
「楽な仕事って言ったっすよね?」
風を切る音、それと同時に破裂音。
「オカルトは追加料金、しかして器物破損で今回は終わる、じゃあ通常料金でいいっすよ」
――床に倒れ伏していた信者が後生大事に抱えていた水晶玉、
それ目掛けナイフを投げて、割る。それだけで放置していたら世界中の命を吸い尽くし20億の犠牲を出すはずだった邪神は跡形もなく消え去った。
「な、何故それを……」
「おれの眼は露光の眼、まあ簡単に言えばタネも仕掛けもあるオカルトの一つっすよ。人殺しが上手いうえに厨二な特殊体質でもあるんすねぇ」
「露光の……聞いたことがある、お前、もしや、くそっ本当に管轄外が!!!!!」
「そっすそっす。おれはおれの同類、異能者専門の殺し屋でオカルトはヴォイドカルト共の管轄なんすよーもう嫌になっちゃう〜」
この世界は案外なんでもある、そう、なんでもだ。
生まれ変わりもいる、神様のアヴァターラもいる、妖精も存在してる上に英国にまだ国があるらしい。幽霊や妖怪は日本の闇の君臨種だし、現代異能もいる、最近スキル持ちとやらも生まれたと聞いた。
つまりそれらを悪用する奴らも死ぬほどいるし、それらをぶっ殺して平和で丸い世界を維持する苦労人も結構な数がいる。
おれ、宮田善はそんな苦労人の仲間で、人殺しの大天才だ。
本来、神殺しなんて……できるけど、本職ではない。
――――――――――――――――――――――――――――――
「――さて、どうしたもんすかねぇ」
また色々喚き散らしたジジィの心臓をサクリと開きにしたあと、唯一の生き残りの少女を見下ろす。
見たところ異常な部分はない、日本人らしい髪色、少し痩せているが健康体だと分かる体、顔を見ると整っている。
端的に言えば美少女だ、年頃は10歳前後?
「おれ1番怖いのこの子なんすよねぇ……だってこの子、明らかに死者蘇生ゾンビアタック仕掛けてきたっすよね?」
念の為に近くにあった死体を一つ転がして自分でつけた傷を探る。
――心臓に二つ、脳天に三つ、つまり致命傷が五つ、これは殺し損ねたのではなく、五回殺した結果なのだ。
他の死体も似たようなものだ、中途半端に塞がった致命傷を複数個持っている。
その理由はこの少女であるとおれの眼は見ていた。死者蘇生、そのような奇跡を何度も起こしていると視えていた。
「えーっと、洗脳の痕跡……あり、でも今は無し、じゃあ起こしても問題ない……いやでも教育がゴミだと洗脳関係なくまた死者蘇生無限アタックすよね?持ち帰って拘束が安牌??えー……姉ちゃんたちにキレられそーぅ……」
おれは人殺しの天才だから問題なかったが、そうじゃなかったら蘇生者の背後からのタコ殴りで5回は死んでいる。
ぶっちゃけさっきの邪神(笑)よりも怖い、まぁでも、おれの眼が視るところ――
「――ま、
ぽつり、と呟く。
おれの眼は特別性で、その対象の命を写真を現像するように視界に露光する力を持つ。
そうやって少女の魂を視界に露光させていると
「……う、うん……」
「あっやべっ」
少女が、目覚めた。
ぞくり、と背筋が凍る。
この少女は魂はただの人間だ、しかし視界が違う。
全ての生死を指先で自由に操れるが故に、全ての生死を平等に見えてしまう眼。
おれの命を大事に思っている/おれの命を塵芥とも思っていない、
それを否応なく理解させてしまう眼を、していた。
「……ここ、どこ?おかあさんは?」
そんな異常の只中、少女はたどたどしく言葉を発する。
まるで本当に母親を求めているように――実際に求めているから――困惑を隠そうともせず、視界を彷徨わせる。
「なんでみんな死んでるの?お兄さんはなんで血塗れなの?なんで、なんで……」
ずくり、と視界の端で死体が動く、生き返ろうとしている。
少女が死体を怖いと思ったから、それだけのことで生死が逆転しようとしている!
――やっべ!!!!!!!!!!!
「お、おねーさん!!ちょっといいっすか!?」
「おねーさん…えっわたし!?」
よっしゃ掴みは成功!!困惑の上書き開始!!
「そうそうわたし、きみ、おねーさん!!」
「おねーさん何!?お兄さんのが歳上だよね!?」
「いやぁおねーさんはかなりの使い手と見える! 最近死体で遊んだ記憶とかあるぅ!?」
「は!?」
一気に嫌悪が顔面に浮かぶ、それと同時にどさり、と背後の死体が死体に戻った。
――死体遊びに自覚がない?いや、違う、洗脳の影響!
今の反応でわかること、それはこの少女が能力に自覚がないこと、そしてかなり真っ当なメンタリティの持ち主!
ならいくらでもやりようがある!!
「えっおねーさん自覚がないんすか?? 参ったなぁかなり遊んでるように見えたんすけど」
「えっえっ死体で!?死体で遊ぶ異常者に見えたの???返り血浴びてるやべーやつに?」
おっ口が悪いなこの子。
「そっすよー返り血浴びてる人殺しの大天才、宮田善、つまりこのおれ!がおねーさんと呼びたくなるくらいガチでやべー異常者の匂いがしたんすよ、ご同類!ご同類だけど格上!つまりおねーさん、アンダスタン?」
「なにもわからない!!!!」
よっしゃ、完全に意識がこっちを向いた、そしてよかった
「……幼女虐めて何してるのクソボケカスアホ」
回収部隊が間に合った。