十二話
「第二ラウンド、ファイー」
妙高の気の抜けた声で宇宙の彼方に行っていた思考が戻ってくる。
よし、とりあえずは……現状の確認!
「幸ちゃん、まず、その、おれの仕事を奪いたいの?」
「……おねーさんって呼んで」
ムッとした顔の幸ちゃんが言う。
「あっはい、おねーさんは俺の代わりに殺したいの?」
「そうです!! だって私はおにーさんに愛してますので!」
少しおかしい日本語が出てきた、が意味とニュアンスはわかる、分かるけど……
「ねぇ、おれいつおねーさんにそんなに好かれるマネしたの??????」
「自覚ねぇのかこいつ、ウケない、ギルティ」
「おにーさんいいの? いくらでも出てくるよ」
あっ話が進まなくなるやつだこれ。後にしよう。
「うっす、おれは恋愛クソボケです……仕切り直すっすけど、それはやめてほしいっすね、いや効率を考えると良い申し出なんすけど、おれ、おねーさんが人殺しとして完成するのは嫌っすよぉ」
「わたしもおにーさんが人殺すのは嫌だもん、だから毎日祈ってるよ、死ぬ人が少ないといいなって」
「んんんんんんん営業妨害!!!!」
あーーやっぱこれおれの仕事を詳しく知らせるって前の話に戻ってくるっすね、ただ音の魔女に頼る方法じゃなく――
――おれの口から聞かせないと
「あのねおねーさん、おれが殺してる奴らって、みんな悪い奴らなの。人とか普通に虫ケラみたいに扱うの、なんか凄く今の、この平和とか壊したいって思ってて、そのためには子供だろうと妊婦だろうと酷いことするの、わかる?」
「じゃあその悪いのを一緒に殺すよ、わたしはおにーさんだけが殺すの嫌だ!!」
「完全に直せないって泣いてた君はどこ行ったんすかぁ!!」
頭を抱える。ダメだ本当にわからないけど幸ちゃんの決意が固すぎる、目が真剣そのものだ。
「わ、わたしだって出来るなら殺したくないけど、わたしね、願っただけで人が死ぬんだって、ならせめて、どうしようもないこの能力を大好きな人のために使いたい、それだけ!!!」
「待って待って、は、そこまで??」
妙高の方に視線を向ける、マジっすか?と視線で訴えたら目を伏せることで肯定された。
……ぜ、前提が変わるぞそれは!?
「おねーさん、ちょっとタンマ。あ、でも話はこの際聞いていいっす。――率直に訊くっすよ、幸ちゃんの殺害依頼は入っているっすか?」
ぐ、と幸ちゃんが奥歯を噛み締める、やっぱり危機感は持ってたのか……もしかしてだから生き急いだ?
「いいや、入ってない。そして上の方も異能者・幸が殺害に能力を使うのは反対してる。それなら蘇生をしてほしい、が、しかし――」
妙高がさっきからポップコーンを食べて観戦モードになってる音の魔女の方を見る
「――音の魔女のように、制御できない能力なら指向性を与えて管理する、という案もある。その点、今回の幸ちゃんの申し出は渡りに船」
ごくん、と口の中のものを飲み込んだ音の魔女が片手をあげる
「まぁー妥当だと思う/一つ質問、そこの幸って子は私のような存在がなんて扱われてるか知ってる?」
幸がふるふると首を振る。
それを見た音の魔女は少し目を伏せて語り出す。
「――自然現象、ただし殺せるもの。そんな扱いだよ、幸が自分の異能をコントロール出来るならまだいい、人間扱い出来る。でも殺せる自然現象なら? 有益じゃないと普通に消されるよね?」
……そういえば音の魔女と最初に出会ったのは殺害命令が出てたからっすねぇ、その時はこいつの保護者、もくまと散々やり合って……余談っすね、これ。
まぁようはこの音の魔女が今生きてるのは、有益な自然現象だと判定されたからだ。
……つまり、幸ちゃんも……
「本部の裁定者として妙高が言う。異能者・善、お前はとても立派な大人だが、異能者・幸は既に子供ではいられない。有益な災厄か、ただの災厄か、選ぶ必要がある」
「…………………俺が幸ちゃんの二倍働くからその選択無しにしてくれない?」
「だからわたしはおにーさんのために殺せるって言ってんだよぉ!!!!!!」
「それが嫌なのぉ!!!!!!!!」
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閑話休題。
おれと幸ちゃんの駄々こねバトルが引き分けに終わった後、妙高からの提案があり、ひとまずはそれに同意することにした。
まず一つ、幸ちゃんをおれの仕事に同行させる。
そして、幸ちゃんがターゲット以外を殺したらおれが責任持って処刑される。
そのような簡単な取り決めだ。
本当に、心底、ガチで嫌だが頷くしかない。
思ったよりも幸ちゃんの能力がヤバかった、コントロールの方法を学ぶのに二つ目の縛りはかなり効くだろう。
あぁ、でもやっぱり子供にあんな世界の肥溜めを見せたくねぇなぁ……なんとかならないかなぁ……
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明日からお仕事が増えることになった、おにーさんのお仕事について行くのだ。
おにーさんはわたしに汚れて欲しくないみたい、それは汚いものが嫌いなんじゃなく、ただただわたしのことが大事だから。
――嬉しいなぁ、それはとても嬉しい、明日からの仕事のやる気ももりもり湧いてくる。
――それと同じくらい腹立つなぁ、わたしだっておにーさんが汚れるのを止めたいのに。
私だっておにーさんが大事なのだ、それこそ世界で一番。
だから、嫌なこともやる気になるのだ、人なんて生きていた方がいい、死んだ方がいいことなんてない。
おにーさんが途中で言ってたような人たちも、人生とか、家族とか、夢とか、そのようなものがあるのだ、
じゃなければ私が産まれてこなかった、私はだって、人の戻りたいと言う欲望そのものだから。
……何だろう、いまの思考は、前の私? いや、今の私だから出た言葉だと思う、きっとそう、間違いなくそう。
じゃあ、そんなふうに考えてるのに、それでも殺す私は罪深いのかな?
「……おにーさん」
祈りの言葉が出る。
罪深くてごめんなさい、本当にやるべきことを脇に積んでてごめんなさい、蘇生の方が何倍も役立つし、わたしもうれしい、けど
それでも、やっぱり、おにーさんが人殺しであるのなら、一緒に血に塗れたいんだ。