十三話
小高い丘にそびえる大きな洋館、月の綺麗な夜におれと幸ちゃんは門の前に立っている。
「おねーさん、マジで殺すのは主におれがするっすから、何もしなくていいっすよマジで」
「わたしの方が先に殺せるよ、競争したら勝ちだよ」
「それが出来ないってのを叩き込むために、今日の仕事を選んだんすよね」
そう、今日は二人タッグの初仕事だ。
ターゲットは――
「――じゃあ行くっすよ、魅了系ハーレムクソ野郎の討伐っす」
ナイフを軽く振り回し、鍵を切断した。
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まず、おれら本部所属の人間が魅了能力者に抱く印象は三つ。
害悪、使い道がない、秒で殺せ。
これに尽きる。ただ人に好意を寄せられるだけの能力に対してその嫌い方はやりすぎ?
それには少し理由がある。まず第一に魅了能力の仕組みがクソなのだ、これは魂専門の奴じゃないと理解しづらいグロさなのだが――
――魅了は、魂を腐らせるところから始めるのだ。
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支えを失った扉が崩れ落ちる音、無造作に歩を進めると、本邸の玄関から女性が顔を出す。
「……うぇっ」
背後で幸ちゃんが吐瀉物を見たような反応をした、それはそうだろう、おれだって同じ気持ちだ。
「善、あの人、魂が三割も腐ってる……!!」
「そっすね、キモいっすね、でも殺しちゃダメっすよ、ターゲットじゃないからね?」
互いに顔が分かるほど近づいたら、相手はおれの顔に心当たりがあったのか、バタバタと家の中へ走り去っていく。
させるか。
速攻で近づいて首根っこを掴んでそのまま床に引き倒す。殺しちゃいけないけど暴力は許されるんすよねぇ!
顔を上げる、そしたら廊下の曲がり角から包丁が飛んできた。
それを捕まえて肩に向かって投げ返す、ヒット。
後ろを見て幸ちゃんが付いてきてるのを確認、手を繋いでそのまま疾走する。
魅了系ハーレム野郎の部屋は少し奥まったところにあったが、エンカウントする女達を辿っていけば辿り着くことが出来るだろう。
……今回のハーレム野郎、女を先に向かわせてるってのはクズ度高いっすね。
「良心痛まなくてよかったぁー」
「……あ、あの善、不思議なんだけど、なんでみんなこんなに命知らずなの?」
「ん、あぁー、説明いるっすね、じゃ、すこしだけお勉強っすよ。幸ちゃん、魅了能力者はね、対象の魂を腐らせるの」
薙刀で斬りかかってきた和服姿の少女を軽く殴り倒しながら幸ちゃんにレクチャーする。
薙刀を取り上げて、身動きが取れないよう胸の中心を踏みつけた。
「幸ちゃん、よく見て、腐れたところを埋めてるもの、これが魅了の正体、恋とか愛とかそのようなもの。こうやって心の総量を減らした上で埋めるクソマッチポンプが魅了の本質、わかった?」
「最悪じゃないか……」
そう、最悪だ。人の魂、ひいては心を物理的に変質させる能力、しかも有効な使い道なんて何処にもない。
「ちが、う、トコマ様は、私たちに居場所を――」
「前の居場所に居られなくなったの、オタクらがそいつに依存し始めたからでしょ?」
本部の文書に魅了系異能者の独自コミュニティの設立ステップというのがある。端的に言えばハーレムが作られる過程だ。
まず第一に魂を侵食し社会的、肉体的に不調、不運を与える。それを埋めることで状況から救う、そして数多くのシンパを作り、コミューンを形成する。
最初の一人や二人はまだ無自覚な能力の発露かもしれない、しかし五人、六人となるとただの異常だし、異能者本人もその快楽に大概溺れてしまうのだ。
それでもその人達は幸福に生きているんならいいんじゃないか? と言えなくもない、が社会的なリスクは当然高くなるし、なにより、異能側の人間には魂が見える存在が多い。
魂が見える存在は、総じて魂を粗雑に壊すし蘇生もさせるが、同時にある種の倫理観を持つのだ。
それは『他人の魂を改変するのだけは禁忌』というものだ。
何故かは知らない、ただそうなのだ、だから、魅了能力者は存在を許されない。
魂が見える存在は、異能者の中でも支配階層に多いから、その倫理観に逆らえられないから。
そしてそれは、おれも、――様子を見るに幸も――同じだ。
「だから、ダメっす、この楽園は今日でおしまい、ざんねん!」
笑顔で煽る、と同時に気絶させた。
死に物狂いだったこの女が守っている先に本命の魅了能力者がいるはず。
幸ちゃんもそのことを察しているのだろう、先ほどから能力を使おうとしてる素振りをしてるが、多分殺せない。
だって相手は
「おねーさん、能力使えないでしょ?」
「う、うるさいなぁ! 使う、使うよ! で、でも善、変なんだ、わたし、この扉の先にいる人を、殺したくないって思ってる……っ!」
じわり、と目に涙が浮かんだ
「あんな最悪を振り撒いてる相手なのに、なのにぃ……っ!」
「しょーがねーっすよ、おねーさん、それが魅了能力者の本質なの、誰にでも好感を抱かせる。たったそれだけ。……おれだって長年の親友が居るように感じるんすよ、でもね、お仕事だから」
ちゃり、と手の中でナイフを回す。
「ちょっくら殺してくる。ここに居てね?」
――――――――――――――――――――――――――
「――月が綺麗ですね?」
扉の向こう、大きな執務机に座った優男が笑顔を向けてくる。
「そっすねぇ、オタクの墓場には丁度っすね、震えとかないっすかトコマさん?」
「……ふふ、魅了は効いてるはずなのに平然としてる。それは貴方が殺してきた数の裏付けですか? 宮田の善さん、わたしたちの死神、人殺しの天才、そして、あぁ、そうだ――」
すっ、とおれの目を射抜くように見る
「――
にい、とおれの口が弧を描く。
そう、おれが人殺しの大天才な理由の一端、それは、おれが、大事な相手を殺せるからで。
「本当に不思議な人ですね、僕が魅了した相手ってすぐに骨抜きになって、すこしそれっぽいこと言ったら心酔するんですよ? なのに貴方はずっとドキドキ、いえ、
ねぇ、あなた。と少しだけ笑みを崩して相手が言う
「
「――ノーコメント!」
おれがナイフを投げると同時、机の下から少女が躍り出てトコマ様とやらを庇う。
「――よくやりました!!」
トコマはそのまま少女を盾にし、銃を取り出して構える。
しかしおれはそれを見越している、だから幸ちゃんを持ってきた!
「隙をどうも♡」
おれはそのまま一瞬で走り寄り、刃渡りの長いナイフで二人纏めて貫いた。
「……は?」
血を吐く音が二つ、致命傷だ。
「人質なんてねぇ、通じないんすよ、ねぇおねーさん?」
「……ん、『生きて、生きて、生き続けて』」
そう言って幸ちゃんは盾になった少女に力を送り続ける。
これで死ぬことはない、医療班が着くまで余裕で保つだろう、問題は――
「――ははっ、ははははははははははははは!!!! 滑稽! 滑稽だ! 善、宮田の善!!
死に損ないの遺言に付き合わなきゃということだ。
「確かに僕はやりすぎた! 人の魂を腐らせた! でも善、お前は魂を壊すのだろう! それの罪がないとでも!? 何よりも何よりも悍ましい家の男、友愛を抱く僕を殺せる男、だから――」
「うるせっんすよ」
ガッと頭をサッカーボールのように蹴り飛ばす
「理解してるし今更言われたところで意味がないことをありがとう? ――お前も友達名乗るならせめて3回は戦えるくらい強くなって? 女を盾にするチキンにはムリだねぇ♡」
散々煽っている途中で息が細くなり、そして止まる。
……こいつおれの煽りを聞いて死んだのか、可哀想だな、ま、いいか。
「――幸ちゃん、この仕事がどんなだか分かったでしょ? 帰ったら反省会、しよ?」
次回、反省会