十六話
「幸ちゃん、とりあえず殺しだけはやめるってできないっすか?」
「何も、何も分かってないぞこの
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休みのはずなのにふらっと家から出て行ったおにーさんが帰ってきたのは夕方になってからだった。
妙にスッキリした顔をしたおにーさんに「トークしようぜ!!」と誘われて今、開口一番にクソボケだとカミングアウトされた私は幸と言います。
……現実逃避しないでこのクソボケにどうやったら私の愛が伝わるかを考えるべきだな?
「おにーさん、わたしはおにーさんを愛してるからやるって決めたって言わなかった??」
「あ、そうそれ、そもそも、なんでおねーさんそんなにおれのこと好きなんすか……?」
「クソボケェ!!!!!!!」
腹から声が出た。いけないいけない、はしたないぞ、これでも私は一応美少女なのだし汚い声はダメだと思う……!
「あんなに! あんなにわたしの為に言葉をくれた人を好きにならないわけなくない!? 自覚ないの!?」
「えぇ……人の心持ってたら普通に言うべき事しか言ってないっすよぉ……」
「無いのかー、そうかー。……背中を刺されないよう気をつけてね……その言うべき事が言われなかったら私はもっと酷かったんだよ」
「……? とりあえずなんか刺さること言ったんすね、おれはね? だから好きになった?」
「口に出すと陳腐極まるから黙って?」
どうしてくれようこのクソボケポンコツ。
……どうしようもないんだよなぁ、わたしが勝手に好きになっちゃっただけでもあるもんなぁ、でもでも、やっぱりクソボケでは? 自信無くなってきた……私が普通なのだろうか……おにーさんが普通だったらこの世は地獄だな……?
「まぁ、おねーさんがおれのこと好きなのは分かった、っすよ。……その好きに免じて、ちょっとおれの夢を叶えてくれない?」
「どんな夢なのおにーさん、内容によるよ?」
「おれの仕事で殺せる人を最大限おれだけが殺すこと。だから端的に言えば幸ちゃんが殺さないでくれた方が夢が近いっていうかー」
何を言ってるんだこの人は。
ちょっと待って欲しい、わからない事が多い、一から聞こうと思う。まずは――
「――おにーさんは悪い人が少なくなってほしいの? それとも殺したいの?」
「んん? ……その二択なら両方っすかね? 少なくなって欲しいし殺したい?」
「一択にして? ……少なくしたいならわたしの力を借りればいいじゃん、わたしならたくさん早く死なせられるよ」
最近わたしはわたしの力に自覚が出てきている。その上で言おう。
わたしは、おにーさんより、早く虐殺できると。
だって祈っただけで人を死なせられるのだ、最大効率ってやつだと思う。
……人が死ぬのは嫌だけど、おにーさんのためなら案外平気なのも分かっているんだ。
「あぁ、いや……なんつうかおれって思ったよりもワガママみたいで、他の人間が、とくにおれが大事な人が人を殺すのがスッゲー嫌なんすよ、できればおれだけが人殺ししたいの、独占したいの」
なんか凄い独占欲が出てきたぞ、大事な人の中に入ってると言ってくれて嬉しさで口がむずむずするけど、それは今は我慢しよう。
聞くべき事がかなり出てきた、困る。
「……おにーさんだけが殺したい理由って何?」
「罪を被る人を減らしたい、おれが殺す事で一人でも血とか骸とかを見たりする人を減らしたい、そんなとこっすかねぇ、端的に言えば――それがおれの幸福なんすよ」
へらり、とおにーさんは笑って言った。
私は最近知っている、おにーさんがへらへらする時は嘘を言ってないときだ。つまり、意味があまり分からないけど、おにーさんがグロの防波堤になることがおにーさんの幸福であるのは本当なんだ。
……すごく許せないな????
「あのね、おにーさん、わたしはおにーさんが大好きです、大好きな人が一人だけこの世の肥溜めになるのを見過ごせるほど人間できてないです!!」
「でもおれ、肥溜めになるのが人生の目標っていうかぁ、人殺しであることを誇れる唯一の理由なんすよ」
「つまり普段は誇れないんじゃないか! じゃあダメです! 尚更殺せさせられないです!!」
「なんでぇ……?」
「あいしてますので!!!!」
おにーさんが本当に途方に暮れた顔をし始めた、それは私だって同じだちくしょうめ。
おにーさんは人間のために死の肥溜めになりたい、わたしはおにーさんの為にこの生死を司る能力を使いたい。
……平行線だね?
「平行線っすねぇ……どうしたもんかなぁ……」
「譲歩する気はわたしにもない、おにーさんもない。……おにーさん、罪を一人で背負うのはとてもかなしいよ、わたしは嫌だよ、一緒に殺そうよ……」
なんか急に泣きたくなった。わたしはただおにーさんが一人で誰かのために殺すのが嫌なだけなのだ。
おにーさんはただやれることをやってるだけかもしれない、でもわたしは分かる、わたしだから分かる。
生を奪うというのはとても悲しく罪深いことだと。
わたしは存在自体が罪深く、最初からおにーさんが守りたいものから外れていると。
でもわたしはわたしのことをまだ言葉にできない、知っていることも少ない、だから、それを上手く伝えられない。もどかしい、もどかしいのだ。
だから多分泣きたくなっているのだ。
「一緒に殺そうって言われて頷くような人間なら、多分おねーさんが好きになるようなことを言わないんすよね?」
「自画自賛やめろよぉ……」
「ごめんごめん。でもねおねーさん、やっぱおねーさんが殺しをね、罪だと思ってるなら尚更背負わせられねぇっす。だっておれがしたいのは罪を背負う人を一人でも少なくすることだからね?」
おにーさんは優しく頭を撫でてくれる。
それで涙は引っ込むけど、同時にすごく、なんか
腹が立ってきた。
だってわたしはこんなに人の生死を好き勝手操ってケロッとしてる大災厄なのにそれでもおにーさんはわたしのことをただの子供扱いしてきてそのくせおにーさんは自分のことを異常だと定義してわたしの方が何倍も何千倍も異常なのにそのことを無視して自分が手を汚せば世界がハッピーだと勝手に決めつけてその中でわたしというおにーさんが幸せであって欲しいけど同時に罪を重ねてほしくないって祈りを無視して無視して無視して!!!!!
わからせてやらねばならぬ!!!!!!!!!!!
「っうわどうしたんすか急に叫んで?!」
口に出てたらしい、ふっと我に帰るといつのまにか椅子の上に立っている。あ、おにーさんのつむじが見える。
「――わからせてやらねばならぬ!!!!!!!」
「なんで二度言った!?」
「わからせて!!やりたいけど!!!やりかたが分からない!!!!!!」
「何を!? 何を分からせたいんすか!?」
「ぜんぶ!!!!!!」
「全部ぅ?!」
叫んだ勢いのままお兄さんの胸元にダイブする!
ぎょっとなって受け止めたおにーさんは座ってた椅子ごと後ろに倒れるが知ったことかー!!!
「っ痛ぁ!! ちょっ幸ちゃん危ないっすよ!!」
「おにーさんがわからないのがいけない!!!」
「だから何を!?」
全部、全部だ、私がこんなにおにーさんの事が好きで死とか殺しとか大概どうしようもなくておにーさんが最後罪まみれになるのを許せないこととか!!
そう言いたいのにわたしの幼い口からは唸り声しか出せなくて、一緒に涙もボロボロ溢れて、おにーさんは困った顔をするばかりで。
おにーさんの分からずや、わたしのクソバカ、ダメだ、ダメだと思うばかりで何も言えなくて。
このままじゃダメだと心が言っている、せめてこの全てを口にするために、わたしはわたしを知らなければならないと心が言っている。
だから、今ここで散々泣き喚いておにーさんを困らせて、疲れ切って寝て起きたら頑張ろうと思う。
わたしはわたしを知るために、動き出そうと思う。
じゃなければ、いつかこの
こいつら同じこと祈ってね?