街談巷語のがらくた達よ!!   作:ふつ

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二話

二話

 唐突に現れた山伏装束の女は手に持っていた団扇をぶんと振った。

 それだけで空気が掻き回され、入れ替えられ、血の匂いが一掃される。

 

「ただでさえ下水に血を混ぜたような匂いがしたんだ、そこに子供を置いたままにするなクソボケアホ人殺し」

 

 人殺し、という言葉に少女は怯えた顔をして、じり、と逃げようと腰を浮かす。

 

 させるか。

 

「ちょっと天狗ぅーおねーさんが怯えてるでしょー?」

「て、天狗???え????あだ名?」

「本物の天狗だよ、子供とか大好き、良い子にしてたらお山に攫ってあげる」

「あっガチの天狗の一族なんでマジでやるっすよ、相対的におれのが安全、離れないでねおねーさん?」

「人攫いと人殺し、クソのような二択…………」

 

 呆然とした顔で、それでも少女は立ち上がりおれの腕を掴む。

 完全にこっちのペースに巻き込めた、やったぜ、ほっと胸を撫で下ろす。

 ――この天狗のファインプレーなんすけど、多分お山に攫うとか全部の言葉が大マジなんすよねぇ

 

「何?」

「いやなーにも? じゃ、行くっすよ、こんな場所、長居すると病気になっちゃう」

 

 ――――――――――――――――――――

 

 車の振動を感じながら横にいる少女のつむじを見る。

 どうも疲れているようで寝てしまった。丁度いい。

 

「――で、妙高さん、今回の案件はどういうことっすか? おれの案件は基本ただの人災の始末でしょ? オカルトはぁー言った通り別料金っていうかぁー」

「通常料金でいいって言ってたでしょ、千里眼で見てた、ぶい。」

「はぁー……ま、言ってみただけっすよ、で、おれが投入された理由はこの子?」

 

 バックミラーごしに妙高――天狗のお姉さんだ、監視員でもある――が少女に視線をやる。

「……生死があやふやになる教会、ただそれだけの噂、だったんだけど善の前任者が戻ってこなかった、念の為に向かわせたら五倍子で染めた黒よりも真っ黒、何事もなくてよかった」

 

 ――大虐殺を発生させといて何もない、っすかぁ。

 

 内心苦笑しながら窓の外を見る。

 トロッコ問題も何もない、とさっき言ったが、実際はいつでもトロッコ問題と同じ取捨選択をしているのだろう

 何も知らず街を行き交う人たち、それを壊そうとするクズども、ずっとその二つがレールの上に立っている。

 こんな問題、考えるまでもなく答えは一つだろう。

 しかし、それでも、命は命なのだろうと感じる。

 

「――ま、人殺しが言ったところで、っすよね」

「独り言か? ……その少女、どうする?」

「んー……話を聞くとか全部こっちでやっていいっすか? 流石に本部に持ち込むのは万が一がヤバすぎるっしょ?」

「そうだね、気分で全滅がその少女の力ならありうる。善の家は……多分、大丈夫だからね、この国有数の魔境だから」

 

 ――――――――――――――――――

走り去る車を見送り、少女の手を握る

 びくり、と少女がこっちの顔を見上げてきた、んん?

 

 ……触れられ慣れてない?

 

 一瞬だけ脳裏をよぎった直感を無視しつつ、笑顔を作る

「じゃ、今日は疲れたでしょ、おねーさん、お兄さんのお家でお休みしましょー」

「え、わたし、家……あ、あぁ…………あの、お兄さん、もしかして、わたし、のおうちって……知りませんか……」

「しらなーい!」

「ああああ……わたし、思い出せない……え、家なき子……」

 

 現実を直視してしまった少女が膝から崩れ落ちそうになるのを支えるついでに抱き上げる、姫抱っこだ。

 

「大丈夫大丈夫、おにーさんのお家にしばらく居ていいっすから、おねーさんはまだ子供なんだし、みんな優しくしてくれるっすよ」

「子供なのにおねーさん? 矛盾吐くのやめて? ……人殺しの、お兄さん、本当に人殺しなの?」

「ん、そうすよ、人殺しの大天才、まぁでもね、おねーさんは殺さないっす」

 最後の殺さない、を聞いた少女の指に力が入り、血で汚れた学生服を強く掴んだ。

「……じゃあ、わたしも殺さない。あと、名前……わたし、名前、……さち、幸。」

「さちちゃん? いい名前っすね、ほら、着いたっすよ。……覚悟を決めろ」

「うん?????」

 

 不穏な言葉に少女が反応すると同時、森の中から大きな屋敷が現れる。

 

 その大門の前には、一人の魔性の美女が立っていた。

 

「よく帰ってきたな愚弟!!!!!ついに誘拐か殺しと比べてマイルドな犯罪だな!!!」

 

 魔性の声はよく響く。ビリビリと大声を受けた少女が目をまんまるく見開くと同時、地面に降ろされ、顔を上げた時にはもう既に善が土下座をしていた。

 その頭を容赦なく魔性が踏みつける、あまりにも流れるような動きにもしや定番の流れなのでは?と少女が真実に気づいてしまった。

 

華名(はな)ねぇちゃぁん……お頼み申すお頼み申す……家に入れて欲しいっす……この子もぉ……その、色々と訳ありでぇ……」

「あら、家にはもちろん入れるわよ? 貴方の家だもの、ただこれはレクリエーション、――そこの私の100番後くらいの美少女、上下関係は分かったかしら?」

 

 ぶんぶん、と首を縦に振る。

 

「よろしい。私はコレより上。それが分かるのならばなんの問題もない、じゃあ歓迎するわ、宮田家へようこそ」

 

 ――――――――――――――

「じゃあ私は部屋に戻るわ、愚弟。そこの美少女、遠慮せずにくつろぎなさいな」

 

 パタン、と華名ねえちゃんが部屋を出ていく。

 ここは今は家を出た一番上の姉の部屋だ、おれと二人きりになった幸ちゃんがおずおずと話を切り出す。

「あ、あのお兄さん……善、さん? さっきの美人を超えた美人さんは……」

 

「あー、華名ねぇちゃんはね、一番まともな人なんすよ、まともだからおれの仕事に良い顔してねぇの、だからあれは儀式?っていうか?」

 

「まとも」

 

 何一つ信じられないという顔をして幸ちゃんが言う。

 ……大真面目に一番まともなんすけどねぇ

 

「まともなひとは頭を踏まないと思うの」

「そういうもんすか? ま、いいや座って座って、今日は疲れたでしょ? ちょっと聞きたいこと聞いたらもう寝ましょ?」

「あ、はい…うん、助かります」

「あと敬語もいいっすよー、おねーさんはおねーさんなんすから」

「日本語が雑…じゃ、じゃあこれからはいつも通り喋るね?」

 笑顔一つ向けて了承の意を伝える、さて、何から話したものか……

 

「うーん、話し難いと思うんすけど、なんであそこに居たか思い出せます?」

「……おかあさんは覚えてるの、でも他のことが分からない、名前……は覚えてた、年齢も、多分9歳なの、でもわからない、わからないの……」

「無理に思い出そうとしなくていいんすよ、……人の命、について何か思うことはあるっすか?」

「? わたしのものだよ、それが何か?」

 

 スッと背筋に悪寒が走る、そのくらい当たり前のことをいう口調で幸ちゃんは言った。

 ――透き通った目、これは迂闊に踏み込めないっすね

 

「うーん、まぁあれだ、また今度話しましょーね。じゃあ今日はこんな感じで、おやすみなさい」

「おやすみなさい……」

「歯を磨くんすよ? さっきお風呂入れたからちゃんと体洗って温まって、あとは…………」

 真剣に何を言うべきか考えていると、くすり、と幸ちゃんが笑った

「お兄さん、いいひとだね、だから最後に言いたいことがあるの。……わたしね、あそこにいた倒れていた人たち、怖かったからあの時は起こそうとしたけど、今考えると、みんな死んだままでいいと感じたの、不思議だね」

 

 わたしは誰にも死んでほしくないのに。

 

 そう、幸ちゃんはぽつりと言った。 

 

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