街談巷語のがらくた達よ!!   作:ふつ

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三話

三話

穏やかな寝息を立てる幸を起こさないように静かに部屋を出たおれは広い屋敷の中を全力疾走している。

「今日家にジョン父さんがいるんすかぁ!?おしまいだよおしまい!!!!」

 まず前提としておれの家、宮田家は少し特殊で、母は一人なんだが父親が三人いる。

 そう、重婚夫婦の挙句の子供がおれなのだ、現代日本なんだけどなぁ!?

 色々と――それこそ世界を救うだなんだ――あり、その結果として不可抗力だったんだよと母さんは定期的に頭を抱えている程度のノーマルさを持っているが、父親達は違う。

 

 一人は自分を否定して否定して否定し続けた世界をいつでもぼんやり呪っている妖精の王様、一人は常識人でございという顔をしつつも嫁に世界一愛されているという自負をゴリゴリに持っている度が外れた愛妻家、そして最後の一人が……

 

「おや、善、遂にあなたも嫁を持ち帰ってきましたか? 拉致婚は現代ではダメですが私の世界ではアリです、許しましょう」

 

 ……価値観が神話の世界のデミゴッド(かみのむすこ)だ。

 

 ――――――――――――――――――――

 

「おれをロリコンにするなァーー!!!!!!!!!」

 どん、と壁を叩いて全力の叫びを放ったがジョン父さん――褐色の肌を持ったインド系の美丈夫だ――は『分かっていますよ』という何も分かっていない微笑を浮かべている。

「ジョン父さんが思ってるような甘酸っぱい、……甘酸っぱくねぇっすね拉致婚は!!! 話を戻すと別に結婚はしないっすー!! ちょっと厄ネタの塊だから何があっても大丈夫なおれん家に持ち帰っただけ!!」

「しかし……若い二人、何も起きないはずはなく?」

惚けた顔で小首を傾げる。こ、こいつ……

 

「若いっつうか幼いんすよ!! 神のスケールで考えたら十年は誤差とかそんな顔するなァ!」

「ふふっ……まぁおちょくるのはやめましょう。遠目に見ましたが確かに特殊な少女ですね。ただの人間にとっては神と同等の力を持っています」

 ――まぁ私には通じませんが

 そうジョン父さんはことも無げに言う。

 ただの事実だ、だからこそ、人の生死をスイッチのように操る少女を招いたのだ。

 

「少し善には荷が重い、しかし私は出来た父親なので息子の苦難は大歓迎です、明日の朝少し脅すくらいの手助けはしますが、その後は責任を持って扱いなさい。――善、貴方は生きていない方がいい存在を殺すのを得意としていますが、生きていない方がよく、しかし死ぬべきでは無い存在があの少女です、良い落とし所を見つけなさい」

 子を想い、しかし同時に世界を俯瞰する神の血を色濃く持った男はそう言った。

 

 ――――――――――――――――

 翌朝。

「……? …………!!!!!!????!」

「おねーさんおねーさんちょっとビビりすぎビビりすぎ、え、何? 殺せない? 確かにそれは怖いっすけどぉ……世間一般的に危険人物はおれらの方っていうかぁ……」

 無事起床し身支度を整えた幸ちゃんをダイニングに案内した。

 席にはもう既にジョン父さんが座っていて、笑顔で手を振った……だけなのに、幸ちゃんは既に異常性に気づいたらしい。

 

「わ、わたしのアイデンティティがほうかいする……!」

「生殺与奪を握るのがアイデンティティって普通にクソみたいなもんっすからやめよう?」

 そんなやりとりをいつも通りの微笑を浮かべながら眺めていた父さんが、静かに手で『座りなさい』と促した。

 初めて完全なる己の上位者を見たのであろう幸ちゃんはまたビクリと一瞬体を跳ねて、おずおずと席に着く。

 

「昨夜そこそこ考えましたけど面倒臭くなりました、貴女は生きてていい存在ですか?」

 卓の端で存在感を消しつつ朝食を食べていた華名ねぇちゃんが吹き出した。残念でもなく当然だと思うがジョン父さんの言うことだからなぁ……!

 

「えっなにわたしデッドオアアライヴ!?」

「理解が早くて助かるゥ。そうっすよ、生きてて良くないとここで死ぬっすよ」

 幸ちゃんの喉の奥から海鼠を雑巾搾りしたような声が出る、女の子が出していい音じゃない。

 

「少し唐突過ぎましたね? 少しお話をしましょう。……まず、なぜ私たち家族が善の仕事を容認しているかですか、端的に言えば貴女のような異常を抱えたまま世界を維持するのが限界だと知っているからでして」

 困惑が一層深まった幸ちゃんを無視して父さんは続ける。

 

「まぁ……それを言ったら私たち家族は純粋に限界までの距離を縮めている存在です。貴女は私が何かを薄々察知していますね?」

「……わたし、で殺せない。人の形をした人じゃない何か、でも死んでるわけでもない、だから多分人より凄いもの」

「頭がよろしい、素晴らしいことです。その通り、そのような存在が当たり前に世界に混ざっている、いえ、混ざらなければ生きていけないのが現代の歪みです、分かりますか?」

 

「……………………………………」

 助けを求めるようにおれを見る、しょうがないっすねぇ。

 父さんとアイコンタクトを取り、それから口を開く。

 この程度の手助けは許してくれるらしい。殺意は低いな?

「昔はまだ父さんみたいなやべー奴が隠れて生きていける世界が残ってたんすよ、世界には見えない場所が残ってて、それが当たり前だった。――それがここ数十年で変わり果てた。衛星カメラとか分かりやすいっすね、世界を詳らかに映してしまうものたち、それはなくても人が増えすぎている。幸ちゃんだって人が少なかったら気付かれなかったと思わないっすか?」

「……わたしの力を使うなってこと?」

「一足飛びに結論を出そうとする、頭の使い方としては上出来ですけど少し外れていますね。――貴女は、人のために生きていけるか? それが知りたいのです」

 試すような視線を父さんは幸ちゃんに向ける。

 二分ほど誰も音を出さなかった、この問いは幸ちゃんの今後を決める大事なものだと空気が言っている。

 

「……そんなの分からないよ」

 ルームシューズを見ながら、幸ちゃんは答える

「わたしはわたしの力のことしか知らない、わたしはわたしの好きなことと嫌なことしか知らない、そんな存在が人のために生きようとしたって、多分ちがうよ」

 にこり、とジョン父さんが今日初めて表情を変えた。

 

「――百点、その通り、貴女はまだこの世界に生まれたばかり、それが賢しらに人のため世のためなんて言っても空虚でしかない。それが理解できる頭なら、暴走もしないでしょう。善との行動を許可します」

 ……………………しばらくの空白の後、おれと姉ちゃんはパチパチと手を叩いた。

 答えを捻り出し汗をかいている幸ちゃんはこちらを振り向いた。目が丸くなっている、理解していないな?

「――おめでとうっすよおねーさん、おねーさんは賢くもなく、愚かでも無い答えを捻り出せたので寿命が少し伸びました。そんなところっすね、今の結論は」

 

 

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