四話
「愚弟!!!! 愚かさが極まったか!!!! 初手ジョン父さんはアホだろ!!!!」
「帰ったら居たんだから仕方ないっしょおー!??? どうせ他の父さんでも大概っすよぉー!!!!」
「待って、他の父さん、……複数形???」
おれと華名姉ちゃんの醜い争いの中、幸ちゃんがおずおずと手をあげる。
……普通の家って父親一人だけっすね。
そっと俯き気味に姉ちゃんを見ると同じように常識を忘れていたことに気づいた顔をしていた。
目を合わせてこくりと頷く。
言わなかったことにしよう。
「――――愚弟、その子のこれからについては決まっているの?」
咳払いすらなく話を変える。さすが美少女、面の皮が厚い。
「んー、とりあえず本部に連れて行って異能者管理登録っすかねぇ、大雑把に蘇生能力者っすから悪いようにはならないはず……」
「はぐらかされたと思ったらしらない単語ばかりなんですけど」
おっといけない、そういえばこっち側のことを知らない存在だった、説明しよう。
「あ、ごめんごめん、そうっすねぇ、簡単にいうとおねーさんみたいな異常存在って政府がひっそりと管理してるんすね」
「管理? ……されてないとどうなるの?」
「おれみたいなのが殺しても罪にならないっす。だからおれは娑婆にいられるんすよー」
「アッハイ」
無表情で幸ちゃんが頷く。一瞬で飲み込む辺り将来有望すぎる、守護らないと……
「管理されるには登録がいるじゃないっすか、だから今からちょっと警察署まで行って地下の方でおねーさんの能力をちょろっと披露して貰うっすけど大丈夫? 隠しておきたい事とかあっても隠せないっすよ?」
「……善さんが全部見てるから今更だと思う、それしたら命は助かる感じ?」
「んー、召集に応じて力を使えと言われたら拒否権が無くなるっすけど、基本的には……おそらく……いやおねーさんって蘇生だけじゃなく死を与えるのも出来るんすよね……無理じゃね?」
「無理かぁ…………」
二人揃って途方に暮れる。
幸ちゃんとの付き合いは浅いけど良い子だと分かってるし……子供だし……健やかに育ってほしいし……でもなぁ、能力がチート過ぎるんすよねぇ……未来が明るくない……。
「愚弟、ここで呆然としていても世界はどうにもならないわよ? さっさと目的地に向かいなさい、『私の幸運を分けてあげるから』」
一瞬だけおれが驚いたのを敏感に察知した幸ちゃんが訝しげな顔をして口を開く――のを、華名姉ちゃんが人差し指で止める。
「一つだけいいことを教えてあげる、こっち側では『とくべつ』の開示や詮索は基本タブーなの、よろしい?――頷いたわね、良い子。では行ってきなさい」
華名姉ちゃんが身を翻し、門の向こうに歩んでいく。
「一つだけ、どうしようもなくなったらこの家に逃げ込みなさい、私は歓迎するわよ、どうせ殺せない存在ばかりなのよ、この家は。貴方がノーマルでいられる世界なんて、一つくらいはあったほうが良いでしょう?」
――――――――――――――――――――――――
最寄りの警察署の地下にぽつんとある転移門――転移持ちの異常者の力で全国で維持されているらしい――で本部に移転する。
本部、正式名称は『異能もしくは異種存在管理登録兼国家異常事態対処局』
名前からして混乱が伝わってくるが実際発足当初は地獄のような有様だったらしい。
確かに昔からこの世界には異常存在が山のように存在していたが、異常存在達は基本的に自己隔離をしていた。
それが不可能になって――と、色々あったらしいがそれはさておき、今は幸ちゃんの処遇が大事だ。
顔見知りの受付の人に幸ちゃんの能力をこそこそと伝えたら、早歩きで後ろに引っ込んでいった。
まぁなぁ、蘇生能力持ちなんていくら居ても無駄じゃないからなぁ……
待合所のソファに座って幸ちゃんと指スマをして待っていたらお偉さんがやってきた。女性なのは幸ちゃんの性別と年齢に配慮してくれたからなんすかね?
それから個室に通されて、幸ちゃんが記憶がないからほぼ何も書けない書類と格闘している間、おれはお偉さんに昨日の出来事の説明をする。
混乱した幸ちゃんが死体を蘇生し、そしてそれを途中で止めた――見方によっては命を奪った――のを伝えた途端、一気に顔面が渋くなる。
そりゃそうだ、なんの制約もなく人の命を奪える子供なんて爆弾でしかないだろう。
「……まいりましたね、蘇生能力は喉から手が出るほどの希少であり有用な異能ですが、殺傷能力も無制限となると……」
「でも良い子なんすよぉー価値観も真っ当ですしーおれと父さん達の監督って条件でなんとかならないっすか?」
「難しいところですね……」
「……あの、わたしが殺しても蘇生させたら大丈夫なんじゃないですか?」
いつの間にか聞き耳を立てていた幸ちゃんが倫理観がゴミだが当然の疑問を投げかけてくる。
こほん、とお偉さんが咳払いを一つして、子供に向ける笑顔を作った。
「確かにお嬢さんの能力は蘇生もできるね? でも実は蘇生には回数制限があるんだ」
幸ちゃんが?を浮かべる、あっそこは実感していなかったのか。
「人の肉体はいくらでも治せるのだけど、なんというかな、魂、が一度死んだ後に引き戻される行為を許しはしないんだ。生き返りはするけど、何かが確実に欠けてしまう」
これは経験則からくる事実だ、蘇生能力に目覚めた存在は確実に一回は聞かされる。
「だから蘇生能力をかけることは最終手段だし、大体3回を超えると人格というものが消え去ってしまう。そういう仕組みなんだよ」
ただの蘇生能力者ならまだショックが少ない事実だろうが、幸ちゃんは違うだろう。
だって、この子は死と生、両方を操れるのだから。
少しの沈黙が部屋を支配する。
幸ちゃんの顔が少しだけ読めない、普段はあんなに考えてることが顔に出る少女なのに。
「……わかりました」
それだけ言って、幸ちゃんは頭を下げた。
――――――――――――――――
記憶喪失というのも相まって、偽造なれど公的にちゃんと使える身分証を異能登録と引き換えに受け取った幸ちゃんと家に帰る途中、誰に語るでもなく、幸ちゃんは語り出した。
「怖いね」と。
「わたし、壊れれば直せばいいと思ってた、直せて、たと思う、よく覚えてないけど、でもそうじゃないなら、私は壊すことしかできないよ?」
だって、と
「だって、直しても壊れた場所が残るなら、壊れ切るまでのタイムリミットを伸ばすだけだよ、わたしは、直せないんだ」
くしゃり、と顔が歪む、おれは困った。
「……あのね、おねーさん、それを言うならおれなんて壊すことしかできないんすよ?」
そう、おれの目は命を露光するだけ、そして露光した命を壊すことができるだけ。
端的に言えば幸ちゃんの劣化品だ、だっておれは不完全だろうと壊した命を直すことなんて出来ないんだから
だから、そうだな……
「おねーさん、これは慰めになるかもわからないんすけど、おれはね、壊すことしか出来ないから、いつか死んだ後、まだまだお前は生きろって誰かに鞭打たれても、『あぁ、それでも直してくれてありがとう』って言うつもりなんすよ。
壊すことしかできないおれを、壊すことを続けられるようにしてくれてありがとうって」
ぴたり、と幸ちゃんが足を止める。
周囲は既に山道になっていて、夕暮れが周囲の木々を照らしているだけ。
「……おにーさんは、壊したいの?」
「んにゃ、殺さなくてもなんとかなるなら、それが一番。でもね、おねーさん、どうしても殺すしかないものが多過ぎるんすよ。おれはね、もし家族が、幸せな人たちが、善なる人々がそういうものを殺すのを肩代わりしたいだけなんすよ。だから、幸ちゃん。」
膝を降り、視線を合わせる。
幸ちゃんの目は潤んでいた。
「おれをね、