八話
「おねーさんヒマ? 街に遊びにいかない?」
そういうことになった。
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「……いやいやいや唐突すぎないかな? わたしそこそこ厳重な箱入り存在では?」
「気にしない気にしない。で、おねーさんどの服がいい?」
朝、突然善おにーさんに遊びに誘われたわたしは、そのまま普段入らない別室に連れて行かれた。
そこはどうやらウォークインクローゼットのようで、壁にぎっしりとふわふわの服が詰め込まれている。
「んーおねーさんの年齢となるとこの辺りっすかねぇ、全部フリフリでレースとかモリモリっすけど大丈夫? 趣味に合うっすか?」
どうやら年代ごとに服が整理されているらしい。大体列の真ん中あたりにある服を数着取り出しながらおにーさんが言う。
「フリフリ大好きですけど何でこんなにたくさん服があるの??」
「華名ねーちゃんのお下がりっすよ。昔っからねーちゃんはお洒落が好きでねぇ、オーベロン父さんがモリモリに服作って今やこの量なんすよ」
「……手作り? オートクチュール???」
わたしは服に詳しくないがどうも布の量もレースの量もなんなら刺繍の量も尋常じゃない服ばかりだ。
手間暇が異常にかかってるのが分かるし、言われるまで既製品だと思っていたくらいに整っている。
もしや とんでもない 価値があるのでは?
「父親の手慰みっすよー。まーちょっとねーちゃんがSNSで晒したらバズったりもしたらしいからセンスは悪くないはずっす。で、どれがいい?」
「そもそも着ていいものなの? 華名さんに許可は?」
「とってあるとってある。つうか街に連れ出すのにおねーさんがおめかししてない方が後で殴られるっすよー」
「そっかぁ……」
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殴られるのは良くないよね、といっそ開き直って一番好みの服を選び、全力でおめかしをした。
もう今のわたしはふりっふりのふわっふわだ。髪も念入りに梳かしたし完全である。
あまりの完全さにおにーさんが気合い入れて服を選んでくる、と部屋を出て行った。
それと入れ替わりに壁際に影が三つ、一つは見たことがある、わたしを圧迫面接したお父さんだ。
他二つの魂も……一つはよくわかんないけど人間じゃない、一つは人間、成人男性だ。
多分だけど善おにーさんのお父さん達だ。よくわかんない人間じゃない魂が3分の2は多すぎる。
「……あの、ご用件はなんでしょうか?」
声をかけると無言で部屋に入ってきた。
そして頭を下げて全員が5000円札を差し出してくる。何何何何何?????
「なんですか!!なんですかこのお金!!せめて話して!!!!」
「……お友達代ですかね?」
圧迫面接したお父さんが口に出す。さ、さいあくの言葉選び!!
「おいお前その言い方は……妥当だけどさぁ」
「友達以上を僕らは望んでるから……今日のデート頑張ってね?」
「でっ!!!」
突然の親公認発言に顔が赤くなる。
まだわたしはそんなの思ってもないとか、そもそもとしてなんでこんな不審者行為をしたんですか言おうとして口をぱくぱくする。
その間にお父さん達三人は出て行った。
なんなんだ一体!!!!!!
「おねーさんお待たせー、……顔赤いっすよ? 風邪? 遊ぶの先に伸ばす?」
「今日!!!行く!!!!」
「えぇ……なんで叫ぶんすか……?」
あなたのお父さん達のせいです!!!!
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おにーさんが運転する車で都市部に出る。
よく考えたらお仕事は基本的に屋内だし、街に出るのは初めてだ。
「おお……人がいっぱい……テレビみたい……」
「箱入り娘らしい発言っすねぇ。じゃあどこ行く? 行きたい場所とか買いたいものあるっすか?」
「……そうか、街に出るにも目的がいる?」
盲点だった、わたしは単純におにーさんとお出かけするのに浮かれてて何も考えてはいなかった! なんてこと!
「あ、何も考えてなかった感じ? しょうがないっすねぇ、そうだな、華名ねーちゃんの服は脱ぎ着するのが面倒だからそれ系の買い物は無しで……そうっすね、文房具屋とかどうっすか?」
自然な動きでおにーさんはわたしの手を握り、歩き出す。
「ほら、ノートとかペンとかっていくらあっても腐らないっしょ? あとインクとか綺麗っすよー、最近ガラスペンとかよく売ってるし、お高い万年筆とかも見る分にはアリっすよ」
――友達以上を僕は望んでるから。
急に白いお父さんに言われた言葉が脳をよぎる。
……真面目に考えなければいけない気がする。
「……おねーさん? 文房具に興味ない感じ?」
「あっいやっいいと思う!!!キラキラしたもの好きだし!」
「文房具ってキラキラしてるっすかねぇ? いやシールとかも売ってるかぁ」
へらへらとおにーさんは前を向いて、最近買ったインクの話などをする。
それに生返事しながら、わたしの頭はデートの三文字でいっぱいだ。
デート、好きな人や恋人になる人たちがする行為。
――わたしは善さんが好き?
静かに胸に問いかける、よくわかんない、まだそんな恋とか知らない、けど
わたしの前を歩きながら気を使って周囲を見ている横顔を見る。
――少なくとも、この笑顔がなくなるくらいなら幾らでも蘇生も殺戮もできる。
そう自然に思った途端、どこか遠くで人が倒れる音がした。
「……おかしいっすねぇ」
ポツリ、とおにーさんが呟く。
少しだけ不思議に思ったけど、すぐに好きとはなんだ?と自分に訊くのに忙しくなり、頭の中から疑問は消えて行った。
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――おかしいなぁ、もうそろそろ狙撃とかあるはず?
何も本当のトップシークレット、箱入り娘の中の箱入り娘(であるべき)幸ちゃんを無計画に街に連れ出して無駄に危険に晒してるわけではないのだ。
今日、幸ちゃんが外に出れた理由は一つ、囮捜査だ。
どうも幸ちゃんがいた教団の残党がいるようで、そいつらを誘き寄せるために――というのが主目的らしい。
いや、本当は色々とあるらしいがおれは聞かされてない。末端だからね! 仕方ないね!
ただなんか妙なのだ、身内からの連絡もなく、かと言って襲撃もない、静かすぎる。
まぁそれならそれで遊ぶだけっすね……と幸ちゃんと文房具屋で最近のおしゃれなステーショナリーを見て、折角だからと甘味処で舌鼓を打ち、それでもなんの連絡もない。
帰り際に念のため全力で連絡を取ったが反応が無いので、そのまま家に帰った。
……なんだったんすかね、今日は?
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「ふふ、幸ちゃん、思ったよりもヤバ存在な気がしてきた……」
死体安置所、という名の倉庫の一角で私、天狗の妙高は呟く。
今日は晴れ、風もなく、絶好の囮捜査日和、一人残らず捕まえて情報を吐かせる。その意気込みは無意味に終わった。
なぜならば、一人残らず死体として発見されたからだ。
それも死亡時刻が全部同一、ほぼ同時に死んだらしい――霊媒師が言うのだからかなり時間は正確だ。
しかも死体――最終的に14体見つかった――が見つかった場所はバラバラ、共通点は囮、幸ちゃん達が視認できる場所というだけ。
もう大変だった、中には人ごみの中で死んだやつもいるから、警察に行った通報を止めて、隠蔽して死体を運んで死体を探して隠蔽して、を繰り返していただけで日が暮れた。
善からも数回連絡が入ったが、返す暇もなかったし、返す危険性も高いので無視した。
だって私が知る限り、こんな芸当が出来るのは幸ちゃんくらいだ、もし幸ちゃん以外の仕業だった場合、あのレベルの反則的な存在がいることになる。それは最悪だし手遅れに近いので考えないことにする。
ならば一番可能性が高い幸ちゃんの仕業だとすると、善に聞かせるのは危険だと判断した。
善は底なしのお人よしで危機感がないクソボケだが、それでも、ただ何かを考えただけでその通りに人が死ぬ存在、それも幼い子供がそばに居て正気で居られる可能性なんて、高くない方がいい。
恐怖を覚え、遠ざかろうとする。それが正常だからだ。