九話
「さて、昨日のデートは楽しかったですか? 五千円分の惚気を期待しています」
「五千円は友達代ではなかったのです???」
デートの翌日、おにーさんが案内した先に待っていたのは圧迫面接その2だった。
おにーさんは案内した先から帰っちゃうし! 嫌がらせかな!?
……落ち着こう、単純に考えよう、この部屋にいるのは二人、一人はジョン父さんと呼ばれてた圧迫面接のひと、もう一人は昨日五千円を渡してきた中の人間の魂であるひと。
ジョンさんはニコニコ笑顔で愉快犯の顔をしている。
……そりゃ逃げるな! 私だって逃げる! このひと面倒臭くて怖いもん!!
せめてもう一人はマシであってくれと人間のほうに視線を向けると目が合った、名前も知らないんだよな……
「……あー、そういや名前とかまだだったな、オレはカーター、善の血縁上のガチの父親、よろしくな?」
「よ、よろしくお願いします……」
おにーさんによく似た軽い笑い方で片手をあげる、こ、この人がおにーさんの血縁上の父親かぁ……なんかあるのかなぁ……
「まぁオタクは魂とか見れるタイプって聞いてるし、言う必要ないけどオレは普通の人間ですよ? コイツみたいに人間が本名を言えないからジョンドゥを名乗ってるとか、ここにはいねーけど妖精の王様なアイツとかとは違うガチの普通、マジで」
「……普通なら、普通なら、善おにーさんを止めてると思うんですけど……」
「そういうタイプの普通とは別、存在の質的な?」
あっつまり思考はおかしいんだな……
私の察した顔に気付いたのか、ジョンさんがくすりと笑って口を開く。
「まぁ確かにカーターは普通の人間ですね、ただ少しばかり愛情深い、……それも少し妙なのですが」
「この家に普通の人はいないんですか??????」
「希求、――あぁ、私たちの妻の名前です。希求は普通の人でしょう、普通なので壊れて今に至りますが」
「こわっ……それ聞いても大丈夫な話ですか?」
わたしは知っている、人間が壊れるのはかなり大事でかなしいこと……っ!
「ええ、大丈夫です。隠すことでもありません、深く話すことでもありませんが。――さて、幸さん、あなたは今ワンアウトです、分かりますか?」
ピン、と人差し指を立ててジョンさんが告げた。
お、思い当たる節がない……!
「おや、自覚がないですか、判断に迷いますね? 昨日あなたは十数人殺していますよ? お気付きではなかったのですか?」
「えっ……?」
知らない、だって昨日は善おにーさんとデートしただけで殺したい人になんて会ってない!
――あ、でも、殺してもいいとは思った。……それだけで?
「ジョン、飛ばし過ぎ。あのなぁ幸ちゃん、別に咎める気はないんだよ、
「……オレは?」
冷や汗を背中に流しながらわたしは問う。
「そ、オレは。だってさぁ、そいつら全員嫁の家族を襲おうとしてたんだぜ? じゃあ死んでも問題なくない?」
極端! わたしでも分かる極端な理論だ!!
「カーター、貴方も貴方で本性を取り繕いなさい。 ――とまぁ、カーターはこの通り貴女の敵ではありません、それは現時点ではわたしも同じです、ただ、少し警告を。」
ぎしり。とジョンさんが手を組んで肘を机につく、目は真剣そのものだ。
「わたしは貴女が悪にならない限りは味方です、なぜならば、貴女のような異端を否定する権利が私たちにはないからです。でも、この男は違う。――カーター、貴女のスタンスの説明を」
「へいへい」
ジョンさんの傍に立っていたカーターさんにバトンが渡された。
……少し肌がピリピリする、これはなんだろう、視線が痛い、お、怒らせるようなことした!?
「幸、オレはね、極端な愛妻家なの。」
にこっと笑顔を作ってカーターさんは宣言する。
糸のように細められた目の奥が笑ってない気がした。
「オレはね、もう別に善悪とかどうでもいいんだよ、オレも結構人殺しで、今更善悪について語ると噴飯物なの。ただ、それでも、嫁のことは別でさぁ」
チャリ、とカーターさんの首から下げられたロケットが煌めくのが妙に脳裏に焼き付く
「オレが望むのはアイツの幸福だけ、アイツがこれ以上奪われないように、辛くないように、悲しくないように。ただそれだけ。だからな、幸、お前がもしも嫁の、希求の大事な大事な善が死ぬ理由になったなら、オレはお前の敵になるから」
……言われたことについて、ただの惚気を削ぎ落とすとこのカーターさんは父親として大概なことを言っている気がする。
「……ごめんなさい、一つだけ聞きたいんですけど、カーターさんはおにーさん、善が大事なのは、自分の息子じゃなくて、お嫁さんの息子だからなんですか?」
だって、ようはお嫁さんが大事だから殺すなよ、と言っているんだ。
主語が自分ではない、おにーさんが自分の息子だから、という言い方ではない。
「……へぇ、確かにジョンの言ってた通り頭の回転がいいな、気に入った。いや、まぁ結局はそうなる。――勿論愛してないわけじゃないんだぜ?」
ただ、優先順位がな……と呟いてカーターさんは続ける。
「うん、そうだな、オレは善が大事だし愛してる、でもどうしようもなく嫁より下になっちまう。世界で二番目以降に愛してるからって、愛の否定にはならないよな?」
急に会話のボールを投げつけられた、こ、困るなぁ!!
……困るけど、
「――確かに愛の否定にはならないと思います、けど、カーターさんはわたしよりも下です!!」
勢いよく指を突き付ける! だってそうだ、わたしは――
「だってわたしの世界の一番はおにーさんですから!!」
あぁ、今わたしは勢いで話してる! でも多分大丈夫だ、いまここでの正解はこれだ、だって
「だからおにーさんは殺させません! わたしはカーターさんよりおにーさんをあいしてますので!!」
――この会話の軸は、ただ子供を心配してる父親が安心したいだけのものだから。
……父親にマウント取る必要は無い? いいやあるね! だっておにーさんが世界で一番愛されてないのはわたしが許せないから!!
――少しの沈黙、そして吹き出す声。
「……っくく、そうか、世界一愛してんのか、そりゃー災難だな善もさ……強い愛なんて呪いですよ?」
「その呪いをお嫁さんに抱いてるって吐いた直後によく言うなぁこのひと!!!」
この家のひとたちはロクなのがいないな!
カーターさんが声に出して笑い出した、今度はさっきみたいに殺気も出してない、多分普通に笑ってるんだろう。
「――はー面白っ、いいぜ、オレはオタクを認める、味方です味方! だってなぁ、希求が愛してるもんを愛してる女だぜ、いいんじゃない? せいぜい普通に抗い特別なまま幸せになれば?
お、親公認になった!! やったぜ!!
これであとはおにーさん次第だぜ!! と浮かれた直後、部屋の扉が開く。
振り返ると息を荒げた華名さんがいた、走ってきたのが膝に手をついている。
「――クソ親父ども!!!!! 子供に寄ってたかって何言ってんだボケナス!!!」
ほら行くよ、と私の手を取って華名さんは部屋を出る。最後にちらりと大人達を見ると、二人とも苦笑していた。
「親公認ですけど善の合意があってこその愛ですよー、頑張ってくださいね?」
……今日のまとめがこれかぁ! わたし脅され損では!?