悪役令嬢、耐久力999で破滅フラグを物理的に叩き折る! ~頼れるのは鉄バットとクソゲー知識でした~   作:星灯ゆらり

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【第26話】死闘、そして小さな牙の覚醒

「……へえ。経験値が多そうだね」

 

その言葉が引き金になったかのように、リーファが激しく動揺し始めた。

 

「ま、まずい! 若い女と子供たちを逃がさないと……!」

 

その口走った言葉に、フィリアスが鋭い視線でリーファを咎める。

 

しまった、という顔をするリーファ。

 

フィリアスは、あたしにエルフの里の弱み――特に狙われやすい存在がいるという情報――を知られてしまったことに内心で激しく焦り、この人間をどうすべきか、口封じか、あるいはこの場から追い払うべきか、思考を巡らせているのが見て取れた。

 

(エルフの子供や少女は攫えば高く売れそうだが、原作主人公やエルフ族全体による報復リスクを考えれば割に合わないな)

 

あたしは内心で冷静に損得勘定を弾く。

 

リーファは「里へ戻って避難させるべきか、危険を冒してここで奴を引き離すべきか」と完全にパニックに陥っている。

 

フィリアスがそんなリーファを制し、あたしに向き直った。

 

「我々は里へ戻る。貴殿も危険だ、ここは速やかに森から立ち去られよ」

 

その言葉には、あたしを案ずる色はなく、むしろ厄介払いをしたいという意思が透けて見えた。

 

「ふん。あんたたちがこの森に入れたくないと言うなら、あたしは大人しく立ち去るさ。だが、もしあたしに敵意を向けるなら、この森ごと更地にする覚悟くらいはあると思っておきな」

 

あたしは平然と言い放つ。

 

その言葉に、リーファがカッと顔を赤らめて何か言い返そうとするが、あたしはうんざりした表情で相手にしない。

 

フィリアスが必死にリーファを宥め、シロとクロもフィリアスを応援するようにうんうん頷いている。

 

「部下に挑発させておいて、上司が宥めて恩を売るっていう、古典的な交渉術もあるからね。あんたの言葉も、そう簡単に鵜呑みにはしないよ」

 

あたしの指摘に、フィリアスは渋い表情を見せ、シロとクロは「えっ、そうなの?」とでも言いたげに目を丸くする。

 

リーファはますます混乱しているようだった。

 

実際にフィリアスには交渉を有利に進めようという下心も、エルフ以外の種族に対する差別意識も少なからずあったのだろう。

 

「それで、身内を助けに行かなくていいのかい? あたしたちは勝手にやるから、気にしなさんな」

 

あたしがそう促すと、エルフたちは一瞬顔を見合わせた後、葛藤を振り切るように頷き、急いで森の奥深く、おそらくは里のある方向へと走り去っていった。

 

(さてと。ユニコーンといえば角だ)

 

(あのクソゲーでの設定は、あたしのこのポンコツな記憶力じゃ思い出せないが、マジックアイテムか強力な装備の素材か、最悪でもそれなりに高値で売れる換金アイテムにはなるはずだ)

 

(荷車に死体全部は載せられないだろうから、角だけは絶対に確保しないとね)

 

あたしは思考を切り替え、即座に罠の設置に取り掛かった。

 

まずは、あたしの『足』による加速を利用し、鉄槌を地面に何度も叩きつけて大きな窪みを作る。

 

その衝撃で土が柔らかくなり、シロとクロが小さなスコップで必死に土を掻き出す。

 

この作業を数回繰り返し、直径およそ2メートル、深さ1メートルほどの浅い穴が完成した。

 

さらに3人がかりで掘り進め、最終的には深さ3メートルほどの落とし穴が出来上がった。

 

その間、シロとクロは交代で周囲、特に森の方向とエルフたちが去った方向を警戒している。

 

あたしは荷車から運び出した杭を穴の底に次々と打ち込み、解体用ナイフでその先端を鋭く尖らせていく。

 

「土で汚れるわ、変な虫は出てくるわで、本当にろくでもないね、この作業は!」

 

思わず悪態が漏れる。元貴族令嬢が、こんな泥まみれの作業をする羽目になるとは。

 

杭の設置が8割方終わった、まさにその時だった。

 

「あうううっ!!」

 

クロが今までで一番大きな、切羽詰まった警戒音を上げた。

 

「来たか!」

 

あたしは土まみれになるのも構わず、急いで穴から這い出る。

 

跳躍して穴から出るほどの身体能力は、残念ながら今のあたしにはない。

 

森の木々の間から、白い巨体の一部が見え隠れしている。

 

(全高3メートルはありそうだな。あたしが知る馬の倍近い)

 

(しかも森の中でもあの速度……平地なら、あたしの加速攻撃はまず通じないし、逃げても確実に追いつかれる!)

 

あたしは、ユニコーンもどきが森から完全に姿を現すタイミングを見計らい、地を蹴って加速を開始した。

 

ユニコーンもどきはあたしに気づくと、その美しい顔に不釣り合いな殺意を漲らせ、同時に強い興味を示すような視線を向けてきた。

 

激突寸前、ユニコーンもどきはその頭部にそびえる鋭利な一本角で、あたしを串刺しにせんと突き出してきた。

 

あたしは回避も防御も選ばない。

 

持ち前の異常なまでの耐久力を信じ、その攻撃を真正面から受け止める。

 

特注の革鎧が角の先端で悲鳴を上げて引き裂かれ破損し、あたしの顔も苦痛に歪むほどの強烈なダメージを受けるが、まだ戦える。

 

同時に、あたしが全力で振り抜いた鉄槌が、ユニコーンもどきの前脚の一本にクリーンヒット。

 

ゴシャッ!という鈍い音が森に響いた。

 

凄まじい衝撃であたしの手から鉄槌が吹き飛ぶ。

 

だが、確かな手応えがあった。

 

(折った!)

 

ユニコーンもどきは激痛と怒りに狂い、その殺意を完全にセレスティアへと定めた。

 

足が一本折れ、速度も加速力も明らかに低下している。

 

それでもなお、猛然とあたしに突進してきた。

 

体当たりで押し倒し、その角でとどめを刺すつもりだ。

 

あたしは即座に罠の方向へ全力で逃走を開始する。

 

ユニコーンもどきは執拗に追いかけてくるが、その速度は既にあたしのトップスピードにはわずかに及ばず、攻撃は届かない。

 

(戦闘の興奮で痛みはあまり感じないはずなのに、めちゃくちゃ痛い……!)

 

全身から脂汗が噴き出し、服は泥と汗で酷い有様になっている。

 

その頃、シロとクロはあたしの指示通り、罠である落とし穴の上に、土の色に近い丈夫な毛布を張り、周囲を土や落ち葉で巧妙に偽装し終えていた。

 

二人の犬耳はヘルメットのように被った帽子から完全に露わになり、その真剣な表情からは緊張感が伝わってくる。

 

勇気を振り絞った表情の二人。

 

だが、血と泥に塗れて鬼の形相で駆けてくるあたしと、その後ろから殺意を剥き出しにして迫る巨大なユニコーンもどきの姿に、犬耳が恐怖で情けなくへたれた。

 

それでも、セレスティアの指示通り、シロとクロは毛布の上を通って移動することでユニコーンもどきを誘導する。

 

2人の体格は小さく体重も軽いので、固定された毛布は破れたり外れたりしない。

 

ユニコーンもどきはシロとクロを「簡単に殺せる獲物」と判断し、二人を踏み潰そうと大きく跳躍した。

 

あたしは加速して追撃しようとするが、先ほど受けた脇腹の傷がズキリと痛み、十分に加速できない。

 

シロとクロは毛布の上で先で左右に分かれて回避。

 

ユニコーンもどきは勢いよく毛布を踏み抜き、その巨体は無数の鋭い杭が待ち受ける落とし穴の底へと、轟音と共に落下した。

 

残っていた前脚もあらぬ方向に折れ曲がり、腹部にも何本もの杭が深々と突き刺さり、夥しい量の血が噴水のように流れ出す。

 

「きゃんきゃん!」

 

シロとクロが喜びの声を上げる。

 

だが、あたしは油断しない。

 

「呼吸が完全に止まるまで油断するな! 根性がある奴は心臓が止まっても、しばらくは動くぞ!!」

 

その警告に、二人は慌ててあたしの背後に隠れた。

 

あたしは回収された鉄槌を受け取ると、落とし穴の中でもがき苦しむユニコーンもどきに対し、加速しては蹴りを入れ、後退して再度加速し蹴りを入れる、というヒットアンドアウェイを執拗に繰り返す。

 

確実に仕留めるためだ。

 

万が一こいつが生き延びて人里を襲えば、あたしが賞金首になりかねないからな。

 

ユニコーンもどきも瀕死の状態ながら、鋭い角や残った足で反撃を試み、あたしにさらなるダメージを与え続ける。

 

カウンターの頭突きを喰らい、あたしがのけぞった瞬間、ユニコーンもどき――既に大量出血で意識も朦朧としているだろう――が最後の力を振り絞り、その鋭い角をあたしの喉元めがけて突き出してきた。

 

その刹那、クロが投げた小さな石がユニコーンもどきの目元に当たり、一瞬だけその動きを怯ませる。

 

同じタイミングでシロはあたしの鉄バットを回収してあたしに投げ渡す。

 

それはシロから見て大きくて重いが、シロは頑張った。

 

あたしはその一瞬を逃さず、投げ渡された鉄バット鉄槌を空中で掴み、野球のバットのように構え、迫りくる角の軌道上に割り込ませた。

 

キィン!という甲高い音と共に、角が鉄槌に激突。

 

ユニコーンもどきの武器であり急所でもある角に、予期せぬ角度からの強烈な衝撃が加わった。

 

ユニコーンもどきは全身を激しく痙攣させ、口から血の泡を吹きながらめちゃくちゃに暴れだす。

 

あたしもその衝撃で全身を強打し、声にならない悲鳴を上げ、その場にうずくまる。

 

「角を……狙え…!」

 

あたしはかろうじて声を絞り出す。

 

「あう!!」

 

「はい!!」

 

こっそりとユニコーンもどきに忍び寄っていたシロとクロが、元気よく返事をして襲いかかった。

 

クロはあたしが与えた小型の黒鉄バット、シロは解体用ナイフを手に、懸命にユニコーンもどきの角を攻撃する。

 

しかし、小柄な二人では頑丈な角に大したダメージは与えられない。

 

二人は(あまり効かないなあ)と考え、武器を交換しようとするが、あたしがそれを制止する。

 

「そのままその武器で殺せ!! そうすればお前たちはその武器の達人になれる!」

 

「一人前になりたいなら、シロはナイフ、クロはバットでやり遂げろ!!」

 

シロとクロはあたしの言葉の半分も理解できていないだろうが、期待されていることと、武器を交換すると怒られることだけは察し、再び必死に角を叩き、切りつけ始めた。

 

やがて、ユニコーンもどきの角が、根元からぽろりと取れた。

 

その瞬間、ユニコーンから呼吸も生命の気配も消える。

 

シロとクロの犬耳がぴんと逆立ち、全身をぶるぶると震わせた。

 

まるで内側から新たな力がみなぎっきているような、不思議な光景だ。

 

あたしはそれを見届け、内心で呟く。

 

(武器特化型戦士か。能力値が平均以下の縛りプレイ専用ビルド。使える武器種が激減する代わりに、攻撃力と防御力に固定値ボーナスが付く)

 

(これでうちのパーティの戦力も大幅アップ……いや、過信は禁物か。それでも、1.5倍にはなっただろう)

 

口の端に、満足げな笑みが浮かんだ。

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