悪役令嬢、耐久力999で破滅フラグを物理的に叩き折る! ~頼れるのは鉄バットとクソゲー知識でした~   作:星灯ゆらり

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【第40話】悪女の慧眼、天使の秘術、そして迫る凶刃

ふわりと甘い花の香りと、何やら薬品の混じったような独特の匂いが鼻孔をくすぐった。

 

先客の姿はなく、清浄な空気に満たされた空間が広がっている。

 

壁一面に整然と並べられた施術道具の数々に、純白の翼を持つ少女――ハネッコは、子供のように目を輝かせている。

 

「素晴らしいですわ! ここはまるで、聖なる儀式を行うための神殿のよう……」

 

その的外れな感想に、あたし、セレスティア・フォン・ヴァイスは内心で肩をすくめる。

 

予約はあたしの方が先だったが、この好奇心旺盛な天使様を長時間待たせて、万が一にも騒ぎを起こされてはたまらない。

 

背後から突き刺さる、期待と好奇に満ちた視線に、あたしは早々に根負けした。

 

「ミレット、すまないが、こっちの天使様を先に頼むよ」

 

あたしがミレットに目配せすると、彼女は心得たとばかりにこくりと頷き、ハネッコを施術台へと促した。

 

ミレットはハネッコの纏う尋常ならざる聖なる気配――人間ではない、それも極めて高位の存在であること――に内心怯えきっていたが、それ以上に、あたしの無言の圧力には逆らえない。

 

プロとしての好奇心も刺激されたのか、どこか緊張した面持ちで施術を開始した。

 

しかし、いざ施術を始めようとすると、ハネッコの背中に折り畳まれた大きな純白の翼が物理的に邪魔になる。

 

ミレットは冷や汗をだらだらと流しながら、必死に翼に触れないよう、不自然な体勢でハサミを動かそうと四苦八苦していた。

 

一方のハネッコは、ミレットの思考が読めないことにわずかな違和感を覚えつつも、施術そのものは非常に快適で、鏡に映る自分がみるみる美しくなっていく様にすっかり上機嫌だった。

 

「あなたは高度な魔法を使えるのですね。戦えばセレスティアより強そうですわ」などとミレットに屈託なく声をかけている。

 

ミレットが魔族であることにも、その戦闘能力が皆無に近いことにも全く気づいていない。

 

(魔法はあたしの予想以上に凄いようだがね。あたしの思考を読んでもハネッコが魔族に思い至らないのは、ミレットが何かしているからだろうし)

 

ミレットは恐怖とプレッシャーから、もはや半ば無心で施術に没頭していた。

 

やがてハネッコが、髪や肌だけでなく、その純白の翼も手入れしてほしいと、わずかに不満そうな視線を送っていることに気づくと、ミレットは恐る恐るではあるが、プロの技術で翼の手入れも開始した。

 

軽く汚れを落とし、丁寧にブラッシングするだけで、翼は本来の輝くような純白を取り戻し、神々しいまでの光を放ち始める。

 

そのあまりの美しさと、そこから放たれる尋常ならざる聖なる気に圧倒されていた。

 

「ふむ、手入れに金がかかりそうな翼だね。……まあ、今回はあたしもちでいいよ。出世払いってことで、きっちり利子もつけて返してもらうからね」

 

あたしはちゃっかり恩を売る形で費用を負担することを告げる。

 

施術が終わるのを待つ間、あたしは思考を巡らせる。

 

(翼を消したり出したりできれば、天使であることを完全に隠せるし、いざという時の切り札としての利用価値も格段に上がるんだが)

 

そんな算段を立てていると、不意にハネッコが素っ頓狂な声を上げた。

 

「翼を消すですって!? あなたは時折、悪魔以上に恐ろしいことを考えますのね!」

 

どうやら無意識にあたしの思考を読み取ったらしい。

 

「だから許可なく思考を読むなと何度言えば学習するんだ、この駄目天使は……」

 

あたしは深くため息をつき、こめかみをぐりぐりと揉みほぐした。

 

「『翼を消す』という御言葉には、物理的な『切除』と魔術的な『隠蔽』、それから何やら『こうがく』で『めいさい』な処置、といった不穏な単語が含まれているようですが……?」

 

ハネッコは気にした様子もなく、あたしの思考から読み取った断片的な情報を元に、不思議そうに首を傾げる。

 

この短期間で、彼女はあたしの思考を読むことにすっかり慣れてしまい、もはや無意識の領域で行っているようだった。

 

その不穏な会話と、そこから垣間見えるあたしの底知れぬ腹黒さに、ミレットの顔面が蒼白になる。

 

「セ、セレスティア様! もう私、この御方と関わるのは限界ですっ! 聞いてはいけない領域の秘密の匂いが、この店内にも濃厚に漂い始めておりますのよっ!」

 

ミレットはほとんど悲鳴に近い小声で泣きついてきた。

 

よほど混乱しているようで、口調もおかしい。

 

「あんたの種族は、生まれつき他人の心の声が駄々洩れで聞こえるサトリ妖怪か何かでいいんじゃないか?」

 

あたしはハネッコに毒づき、一度大きなため息をつくことで、内心の苛立ちを強制的に鎮め、思考を「日常モード」から「交渉モード」へと切り替えた。

 

「ミレット、腹を括りな。残念ながら、純粋な戦闘能力や、もっと言えば種族的な格で言えば、あたしやあんたより、そこの能天気な天使様の方がどう見ても上だ」

 

あたしはミレットに冷徹な現実を突きつける。

 

(ハネッコは精神的な脆さから実戦ではあたしに劣る可能性が高いが、ミレットを説得し、ハネッコを利用するためのブラフとしては有効だろう)

 

この思考はハネッコに読まれなかったようだ。

 

「あら、あなたが素直にそれを認めるとは珍しいですわね。ようやくわたくしの偉大さを理解なさいましたか」

 

あたしの言葉の裏にある計算高さなど微塵も感じ取らず、少し得意げに胸を反らした。

 

あたしはミレットの「善良さ」と「腕の良さ」をあえて強調してから本題に入る。

 

「ここからは真面目な相談だ。どうにも近頃、教会がきな臭い動きをしている。面倒を避けるなら、少なくともあの目立つ翼は隠した方が賢明だろう」

 

ハネッコは、あたしの思考――特に教会とその構成員の最近の不審な動きに関する具体的な情報――を読んで、渋々ながら同意した。

 

「…確かに、あなたの懸念には一理も二理もございますわね」

 

「ミレットの魔法技術は確かだ。そしてハネッコ、あんたのその規格外の頭脳と、おそらくは魔法的な素養も、あたしとは別次元だろう。あたしが前世の記憶で概略だけ知っている『光学迷彩』のようなものを、あんたたちの知識と技術で魔法として再現できないか?」

 

これは双方にとって悪い話ではないはずだ。

 

ハネッコが真剣な表情で考え込むと、彼女の純白の翼が無意識のうちにふわりと広がり、周囲に淡い、しかし間違いなく聖なる光を発し、部屋全体が神々しい雰囲気に包まれた。

 

ミレットは、自分がとんでもないレベルの事態に、それも逃れようもなく巻き込まれようとしていることを改めて察し、顔面蒼白になって微かに震え始めた。

 

「なあに、成功報酬はミレットへの『貸し一つ』ってことにしておけばいい」

 

あたしは悪魔の笑みを浮かべる。

 

「あたしたちのような脛に傷を持つ者にとって、天使様の『口添え』一つが、将来どんな理不尽な冤罪や絶体絶命の危機から救ってくれるか計り知れない。そう考えれば、これは破格の報酬だろう?」

 

あたしはミレットとハネッコ双方に抗いがたいメリットを提示する形で、協力体制を既成事実へと固めていく。

 

ハネッコは訝しげに眉をひそめる。

 

「何故でしょう。あなたの言葉は、どこまでも論理的で、そしてわたくしにも利があるように聞こえるはずなのに、魂の根源から騙されているような強烈な違和感を覚えますわ」

 

しかし、数瞬の逡巡の後、最終的には承諾の意を示す。

 

「分かりました。その申し出、謹んでお受けいたします。あなたのその悪魔的なまでの知恵と行動力にも、今は感謝を捧げましょう」

 

それを聞いたミレットは必死に抵抗しようとする。

 

「わ、私、協力するなんて一言も申し上げておりませんのに!?」

 

「この街で、いや、あるいはこの国で一番大きな『貸し』を天使様に作れる、二度とないかもしれない絶好の機会を、みすみす棒に振るというなら、あたしはこれ以上何も言わないがね」

 

あたしがに畳み掛けられ、ついに抵抗を諦めてがっくりと大きく肩を落とした。

 

こいつも職人だ。

 

一度引き受けた以上、魔法の開発に手は抜かないだろう。

 

施術が終わった後、あたしたちの話を聞いていたシロとクロが露骨にそわそわし始めた。

 

「退屈なら、夕飯まで近所の子供たちとでも遊んでくればいい」

 

あたしが声をかけると、シロとクロはぱっと目を輝かせた。

 

二人は知り合いの職人の子供や若い弟子たちと、ボールと鉄バットを使った、この世界独自のルールが加わった野球のような遊びに興じるために、意気揚々と美容院を飛び出していく。

 

「暗くなる前には必ず戻ってくるんだよ。今日の夕飯はあたしの手作りだからな」というあたしの言葉に、シロは「いってきま、す!」と元気に、クロは「あうっ!!」と力強い雄叫びを上げて駆け出していった。

 

一方、美容院の奥の個室では、ハネッコの「天使としての聖なる力」の片鱗と、ミレットの「魔族としての深遠な魔法技術」が奇跡的な融合を果たし、既存の魔法体系を応用・改良する形で、翼を光学的に透明化する魔法の開発が、常識では考えられないほどの驚異的な速度で進捗していた。

 

二人はもはやあたしのことなど完全に忘れ、施術の途中であったことすら放り出し、完全に技術的な議論と魔法の精密な構築作業に没頭し、時折、あたしには理解できない専門用語を交わしながら、甲高い笑い声すら上げていた。

 

(今日のあたしの施術は、どうやらお流れだな。まあ、あの目障りな翼が隠せるようになるなら、安いものか)

 

あたしはそう判断した。

 

「開発が一段落したら、ミレットには改めて予約を取りに来る。ハネッコも、あまり夜遅くまで作業せず、暗くなる前には自分の家に帰るんだぞ」

 

だが、完全に自分たちの世界に入り込んでいる二人の耳には、あたしの言葉などまるで届いていないようだった。

 

やれやれと肩をすくめ、あたしは一人、美容院を後にした。

 

拠点としている家に戻ったあたしは、一人で夕食の準備を始める。

 

(OL時代と比べれば、日々の収入は比較にならないほど増えているはずなんだが、どういうわけか、口にする食材の質はむしろ低下している気がするね。この世界の野菜は、どうしてこうも大味で、青臭いものばかりなんだ)

 

と内心で毒づきながらも、手際よく調理を進めていく。

 

シロとクロが帰ってきたらすぐに食べられるように、玉ねぎと溶き卵のスープ、そしてベーコンと近所で買ってきた都市にしては新鮮な野菜の炒め物を多めに作る。

 

血抜きに失敗してすっかり不味くなってしまった鹿肉を、渋々フライパンで温め直した。

 

あたしが「あいつら、遊びに夢中になって遅いな。スープが冷めても知らないぞ」と独りごち、不味い鹿肉にうんざりしながらも無理やりかじりついた、まさにその時だった。

 

玄関の方が何やら騒がしくなり、やがてシロとクロが、なぜかハネッコまで連れて帰ってきた。

 

どうやらハネッコは、翼を透明化する魔法が完成した後、ミレットの美容院から自分の代書屋へ向かう途中で、遊びを終えたシロとクロに偶然出会い、そのままなし崩し的に夕食に誘われる形でここまでやって来たらしい。

 

もちろん、気の利かない天使様が手土産など持参しているはずもない。

 

その代わりと言っては何だが、シロとクロは、「食べる人数が一人増えるので、おかずを一品増やす必要がある」という、子供ながらに実に巧妙な名目で、自分たちが大好きな脂と塩がたっぷり効いた肉料理(今回は香ばしい串焼きだ)を、馴染みの屋台でちゃっかりと大量に購入してきていた。

 

ハネッコの翼は、先ほど開発された魔法の効果で完全に透明になっており、あたしもその完璧な仕上がりに内心舌を巻く。

 

しかし、その弊害も早速現れた。

 

家に入ろうとしたシロとクロが、死角となっていた見えないハネッコの翼に、顔面から時間差で盛大に衝突し、「「きゃうん!?」」と揃って可愛らしい悲鳴を上げて床に手をついた。

 

「こ、これはその、わたくしの翼が透明なのが悪いのではなく、あなたたちの注意力が足りないからですわ!」

 

その通りではあるが、顔を真っ赤にしながら慌てふためいていると説得力がない。

 

「料理はもうできているから、シロとクロは手を洗って配膳を手伝え。ハネッコは……その透明で見えない翼が、そこらの食器棚にでもぶつかって大惨事を起こす前に、大人しくその椅子に慎重に座っていろ」

 

あたしが指示を出し、背もたれのないスツールを差し出す。

 

こうして、全く血の繋がりのない(シロとクロ自身も血縁ではない)奇妙な四人組による、賑やかで騒がしい夕食が始まった。

 

ハネッコは、あたしが顔をしかめながらも黙々と、お世辞にも美味そうには見えない鹿肉を咀嚼する姿を、不思議そうに(そして、どこか警戒するように)見つめている。

 

シロとクロは、今日の「野球」での自分たちの目覚ましい活躍――クロが放った特大の場外ホームランや、シロの人間離れした華麗な守備など――や、一点差で惜しくも負けてしまった試合の悔しさ、そして次の試合での雪辱と完全勝利への揺るぎない決意などを、熱っぽく、身振り手振りを大きく交えながら元気いっぱいに語り合っている。

 

あたしは、そのほとんど拷問に近い不味い鹿肉の食事に全神経を集中させ、ハネッコは、自分とはあまりにも異なる価値観と、ある意味で原始的な生命力に満ち溢れた日常を送る三人の姿を、興味深そうに、そしてどこか羨望するような眼差しで観察していた。

 

その、ある意味で穏やかで、しかしどこか歪な食卓の空気が一変した。

 

シロとクロが、同時にぴたりと会話を止め、ピンと立てた犬耳を微かに震わせながら、鋭い視線を玄関の方角へと向け、警戒の唸り声を低く漏らし始めたのだ。

 

数秒の静寂。

 

そして、次の瞬間、ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!と、玄関の頑丈な木製のドアが、内側からではなく、明らかに外側からの強烈な衝撃で大きく軋み、分厚い扉に体当たりするような鈍い打撃音が、静まり返った室内に連続して響き渡った。

 

あたしは即座に食事を中断し、手にしていたナイフとフォークを音もなくテーブルに置くと、椅子から滑るように飛び退き、部屋の隅の壁に立てかけてあった愛用の鉄バット――もはや相棒と呼んでも差し支えない歪な金属塊――を手に取った。

 

その一連の動きに、一切の無駄も躊躇もなかった。

 

ハネッコは突然の事態に、美しい顔を恐怖に引きつらせ、小さな悲鳴を上げて椅子から転げ落ちそうになっている。

 

シロとクロは、既にそれぞれの得物である解体用ナイフと子供用の短い鉄バットを手に取り、いつでも飛びかかれるように身構え、あたしの指示を待っていた。

 

次の瞬間、バリバリという激しい破壊音と共に、玄関のドアが内側へ向かって蝶番から無残に吹き飛び、砕け散った木片が勢いよく室内にまで飛び散る。

 

もうもうと立ち込める土埃が晴れる間もなく、その破壊されたドアの残骸の向こうに、ゆらりと一つの人影が姿を現した。

 

以前とは比べ物にならないほど高価で、そして全身から威圧的なオーラを放つ漆黒の全身鎧を纏った、ゲオルグその人であった。

 

彼の顔には、かつての騎士としての誇りや矜持といったものは微塵も残っておらず、代わりに深い疲労と、獲物を見つけた飢えた獣のような、狂気に近い禍々しい憎悪の色が色濃く浮かんでいる。

 

ゲオルグは、室内にいるハネッコの姿――透明化している翼には気づいていないものの、その全身から隠しきれずに溢れ出る、尋常ならざる聖なる気配は正確に感じ取っている――を認めると、その口元に醜悪な、獣のような笑みを浮かべた。

 

「見つけたぞ……『汚れた翼を持つ偽天使』め。神の代行者たるこの私が、貴様のような不浄なる存在に、神罰を執行しに来てやったわ。大人しくその首を差し出せば、あるいは慈悲の一つでもかけてやらんこともないぞ!」

 

その言葉は、道具(ゲオルグ)が一方的に命じられた任務内容を、あたかもそれが自身の武勲であるかのように得意満面で誇らしげに語る、哀れな虚勢だった。

 

「汚れた翼……」

 

その言葉を聞いた瞬間、ハネッコの顔からサッと血の気が引き、その大きな瞳が絶望と恐怖に見開かれ、わなわなと震えだした。

 

(即座には否定できない何かがあるってことか)

 

シロとクロは、ゲオルグから放たれる剥き出しの殺意と敵意を敏感に感じ取り、いつでも戦闘に移行できるよう、低い姿勢で攻撃開始の合図を固唾を飲んで待っている。

 

そんな緊迫した空気の中、あたしは、ゲオルグの哀れなまでの変貌ぶりと、その独りよがりで的外れな正義感に、もはや怒りすら通り越し、本心からこみ上げてくる純粋な嘲笑を隠そうともせず、ふん、と鼻で盛大に笑ってやった。

 

「所属も名乗れんようになったのか、元騎士殿? もし教会が貴様のような薄汚れたチンピラを正式な使いとして寄越したというなら、それはそれで随分と面白いが、残念ながら今の貴様はただの不法侵入者であり、往来で武器を振り回す暴漢だ」

 

「そして、暴漢が善良な(?)一般市民の家に押し入り、あまつさえ銀札冒険者であるこのあたしに喧嘩を売った場合、どうなるか……。返り討ちに遭って無様に死体を路上に晒すことになるのは、この街ではごくありふれた日常風景だ。正当防衛は、あたしの故郷(元の世界)でも認められていた、万国共通の立派な権利だからなぁ!」

 

あたしはあえて大声で、芝居がかった口調で挑発する。

 

この悪辣な物言いは、ゲオルグへの最大限の侮辱であると同時に、絶望に打ちひしがれていたハネッコを、結果的にではあるが、わずかに勇気づけることになったようだ。

 

あたしの内心は――(面倒な説得や言い訳の手間が、見事に省けた! こいつを心置きなく、そして正々堂々と叩き殺すための、これ以上ないほど完璧な大義名分が、向こうからわざわざ転がり込んできたぞ!)――という、悪役令嬢らしい歓喜に近い獰猛な感情で満ち満ちていた。

 

怒りで顔を真っ赤に染めたゲオルグが、腰の長剣を抜き放ち、獣のような雄叫びを上げる。

 

あたしもまた、愛用の鉄バットをゆらりと構え直し、その切っ先をゲオルグの眉間に定める。

 

血と硝煙の匂いが立ち込める、悪夢のような夜会の幕が、今、静かに上がろうとしていた。

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