悪役令嬢、耐久力999で破滅フラグを物理的に叩き折る! ~頼れるのは鉄バットとクソゲー知識でした~   作:星灯ゆらり

43 / 80
血まみれレベリング
【第43話】荒野の狩人と、地下の囁き


乾いた風が、赤茶けた大地を吹き抜けていく。

 

見渡す限り広がる荒野には、まばらな岩と枯れた草が点在するばかりだ。

 

遮るもののない空からぎらぎらと照りつける太陽が、地面に立つあたしの影を濃く焼き付けていた。

 

その静寂を破るように、カキン、と小気味の良い音が響いた。

 

「クロ、右!」

 

シロの鋭い声に応じ、あたしの手下であるクロが、手頃な石ころを愛用の鉄バットで的確に打ち返す。

 

放たれた石つぶては、逃げ惑う野ウサギの足元に正確に着弾し、その動きを一瞬止めた。

 

その刹那を、もう一人の手下であるシロは見逃さない。

 

音もなく駆け寄ると、その小さな手の中で解体用ナイフがきらりと光る。

 

次の瞬間には、野ウサギは絶命していた。

 

「きゃん!」

 

小さな勝ちどきを上げ、シロはすぐに血抜きと解体作業に取り掛かる。

 

その手際は、そこらの半端な狩人よりよっぽど良い。

 

出会った頃、まだ幼子と子供の中間ほどの体格だった二人は、今や人間の子供と見紛うほどに成長し、その連携は一つの完成された狩りの型を思わせる。

 

「……ふん」

 

荷車の脇に立ち、その光景を腕を組んで眺めながら、あたし――セレスティア・フォン・ヴァイスは小さく鼻を鳴らした。

 

この荷車には、先日の襲撃で半焼した家から運び出した、なけなしの家財道具が積まれている。

 

(まあ、あの火付け強盗(ゲオルグ)から剥ぎ取った鎧があんな額になったんだ。修理は鍛冶親方を通じて依頼済だし、良い宿で生活することもできはするが、今は豊かな生活より強さに繋がる経験値が欲しい)

 

(それにしても……生き物を殺して経験値を得て強くなる。ゲームなら当たり前だが、現実でやるとただの殺生だな。まあ、この野蛮な世界で生き抜くには、感傷に浸っている暇はないがね)

 

そんな物思いに耽っていると、遠くの地平線から砂塵が上がるのが見えた。

 

一直線に、こちらへ向かってくる。

 

やがて人影とはっきり認識できる距離まで近づくと、その人物は満面の笑みで大きく手を振ってきた。

 

「おばさーん! こんな所にいたんですね!」

 

その忌々しい呼び方をするのは、この世界でただ一人。

 

原作ゲームの主人公、ケイルだ。

 

(忌々しい……! なぜ、このガキがここに。偶然か? 原作主人公のイベント引き寄せ体質でも発動したってのかい?)

 

内心の毒づきはおくびにも出さず、あたしは無表情でその姿を迎え入れる。

 

狩りを終えたシロとクロが、獲物を抱えてあたしの元へ戻ってきた。

 

二人はあたしの前にケイルがいるのを見つけると、とたんに先輩風を吹かせ始める。

 

「ケイル、みはり、する!」

 

クロがビシッとケイルを指差す。

 

「危ない場所では、お話より周囲の警戒がゆうせんだお」

 

シロが、小さな先生のように冷静に付け加えた。

 

「ご、ごめん……」

 

ケイルは年下の二人に注意され、素直に頭をかいた。

 

「そんなことより聞いて下さいよ、おばさん! 僕、最近銀札の試験に受かったんですけど、おばさんみたいには稼げないんです。どうすればいいでしょうか?」

 

(銀札だと!? あたしが(記憶を取り戻す前に)どれだけ苦労したと思ってるんだ…! ええい、殺意が表情に出るな。今は殺せない。殺意を出すのは、こいつを殺すと決めた後だ)

 

湧き上がる黒い感情を理性で押さえつけ、あたしは冷ややかに言い放った。

 

「飯の種を他人に教える馬鹿はいないよ」

 

「はい……」

 

ケイルはあからさまに落胆の表情を見せる。

 

気を取り直したように、ケイルは背負っていた大きな袋をあたしに差し出した。

 

「これ、輸送依頼の品です!」

 

中身は新鮮な野菜と、瓶詰めの水。

 

あたしは瓶にヒビが入っていないか、野菜が腐敗していないかを素早く検分すると、ケイルから受け取った依頼票の裏に、淀みない動きで完了の署名を書き入れた。

 

やがて、シロが解体したウサギ肉が、クロの手によって焚き火で香ばしく焼かれていく。

 

脂の焼けるいい匂いが、荒野の風に乗って鼻をくすぐった。

 

クロが、焼きたての串焼き肉を一本、あたしに差し出した後、もじもじとあたしの顔を見上げる。

 

そして、ちらりとケイルの方に視線を送った。

 

「後輩(ケイルのこと)、誘う、いい?」

 

(手下の願いを無下にするのは悪手か。まあ、親しくなりすぎる前に釘を刺すなり、始末するなりすればいい)

 

あたしは黙って頷き、許可を出した。

 

こうして始まった奇妙な四人での食事の後、ケイルが不思議そうに口を開いた。

 

「おばさん、こんな何もない場所で何をしてるんですか?」

 

あたしは「さてな」と答えをはぐらかす。

 

(原作開始時点には、この荒野にレベル上げに向いた何かがあったはずだ。雑魚敵が大量に湧くダンジョンか、あるいは隠れ里か……。記憶が曖昧だが、確かめる価値はある)

 

心当たりは他にもあるが、他の心当たりは遠い。

 

「ケイル、用が済んだら帰りな。ここへの輸送依頼は、またギルドに出されるだろう」

 

「はい! また来ます!」

 

ケイルは元気よく手を振ると、驚くほどの速さで荒野を走り去っていく。

 

「……別に来なくていいんだがな」

 

あたしがぼそりと呟いた、その時だった。

 

二百メートルほど先を走っていたケイルが、急にその場で飛び退き、地面の一点を凝視してぴたりと動きを止めた。

 

(やはり何かあったか。ケイルの五感が、あたしの不確かな記憶より先にイベントを見つけ出したか!)

 

緊張が走る。

 

ケイルはしばらくその場を動かなかったが、やがて警戒しながらも、ゆっくりとあたしたちの元へ後退してきた。

 

「おばさん。地面の下に、人の気配を感じたんだけど……」

 

その表情はいつになく真剣で、口調も普段より雑になっている。

 

ほぼ同時に、シロがあたしの服の裾を引いた。

 

「リーダー、ケイルが気付いた場所とは別の所に、小さな穴があるお。風が通ってる」

 

「このあたりは誰の土地でもない。……言い直す。人間の土地ではない」

 

あたしの言葉に、ケイルがごくりと喉を鳴らす。

 

「あんたが見つけたんだ。どうするかはあんたが決めろ。……ただし、成果は山分けでいいね?」

 

小声で念を押すと、ケイルはこくりと頷いた。交渉成立だ。あたしは大きく息を吸い、腹の底から、地下にまで響き渡るような大声を張り上げた。

 

「あたしは冒険者ギルド所属、銀札冒険者のセレスティアだ! 地下にいる者、所属を名乗れ! 返答がないなら、言葉の通じぬ獣とみなし、対処させてもらう!」

 

最後の言葉には、明確な殺気を込めた。

 

大声に驚いたシロとクロが、涙目で自分の犬耳を押さえている。

 

「……怯えてる? 3人、いや、4人かも…」

 

ケイルが囁くように言った。

 

数秒の重い沈黙が流れる。

 

やがて、ケイルが睨んでいた地面の一部が、ギギ、と音を立ててずれた。

 

巧妙に偽装された蓋だったようだ。

 

その隙間から、おずおずと一つの顔が覗いた。

 

ウサギのものによく似た長い耳を持つ、小柄な少女だった。

 

栄養失調で、身なりもひどく薄汚れている。

 

少女は、完全武装で人相の悪いあたしの姿を認めると、「ひっ」とか細い悲鳴を漏らした。

 

「こ、ころさ、ないで……」

 

「こういうときは名乗ってから様子を見るもんだよ、嬢ちゃん」

 

あたしは努めて冷徹に言い放つ。

 

(こいつが囮という可能性もあるが、地下にいるのがこいつのようなのばかりなら、皆殺しにしても経験値稼ぎは無理だな。……原作開始までに、この場所で何があった? 顔を見る限りでは原作登場キャラではない。まず、情報を聞き出さなくてはな)

 

あたしは相手を追い詰めない程度に威圧しながら、この未知との遭遇をどう利用してやろうかと、悪女の頭脳をフル回転させるのだった。




誤字の指摘に感謝します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。