3年後に世界が滅ぶと知ったメジロアルダンとトレーナー 作:ポンタ4
「…紅茶です」
「頂くわ」
トレーナー室。
薄緑のソファーに座っては脚を組み、そしてカップを手に掴んで口に運んでいく。その姿はまさに優雅たるものだった。果たして彼女は俺より年下なのだろうか、そう言わしめる圧倒さがある。
「………」
「…お、お味の方はいかがでしょうか…」
敬語になってしまう。彼女はひと口飲んだ後に、ただカップの中身に視線を落としては机の上に置いて、彼女は腕を組んでそのまま何も語らない。
あの紅茶はアルダンが持ってきてくれたものであり、たまに自分で淹れて1人で飲んだり、彼女が淹れてくれたものを一緒に飲むことがある。彼女は普段からメジロ家のウマ娘に振る舞っているのか、中々美味い。
対する俺はアルダンの見様見真似でお湯を沸かしては、茶葉を入れていき、時間が経った後に同じように濾してはいるのだが、彼女がしたような風味や味わいは出ない。何が違うのかが俺には分からなかった。
そして俺はこれを人に振る舞うのはラモーヌが初めてなのだ。俺は彼女の反対側に座り感想を待つも、瞳を閉じてはただ腕を組んでじっとしている。
ラモーヌとレースをしてはその後彼女と会うことはなかった。久しぶりに顔を見たのだが、やはり彼女の纏う雰囲気はどこか苦手な所を感じてしまう。
というより、彼女のこの見定めるようなところが苦手、と言った方が良いだろう。ゆっくりと彼女は瞼を開いては菫色の瞳を此方に向けて
「葉が泣いているわね、精進しなさい」
「…はい…精進します」
少し呆れたような彼女の表情。今度アルダンに教えて貰おう…。
そうしてラモーヌはまたカップを手にとり、また口に付けていく。
さて、こんな状況なのだが俺は何故彼女が来たのかは全くもって分からないのである。
ラモーヌが突然トレーナー室の扉をノックしては入ってきて、ソファーに座ったのだ。一応来客という事で俺は準備をしたのだが、彼女は何故訪れたのか、何をしに来たのかが不明なまま今を迎えている。
俺はソファーに座ったままラモーヌを見ていく。このまま放置しても申し訳ないのもあり、そして何をしに来たのか気になってしまう。
「ラモーヌ、その…何か用だったのか?」
俺は彼女に尋ねていく。
「…そうね、アルダンの脚の調子はいかがかしら?」
彼女から尋ねられる妹の脚について。既に春の息吹を感じるほど暖かな季節。彼女のリハビリは1か月経っており4月初旬。ゆっくりなら歩けるほどに回復しており、まだ走る事は不可能だが、リハビリ期間中は理学療法士が組んだ脚の筋力トレーニングと俺が組んだ上半身のトレーニングを組み合わせている。
まだ保養所で彼女は過ごしているが、あと1か月もすれば寮にも戻れるとのことだ。とはいえ、リハビリはまだ続くため、通院をしながら通う形だ。
「そうだな…まだ時間はかかるけど順調だよ」
俺はラモーヌにそう伝えると彼女は少しだけ微笑んでいく。その表情は普段見せているどこか人を突き放してしまいそうなものではなく、慈悲深い物に俺は感じた。
「それなら良かったわ。貴方のおかげね」
「俺は…何もしていないよ。アルダン自身が頑張っているのを俺がただ見守っているだけさ」
ラモーヌはまたカップを持ち上げてはまた口を付けて飲んでいく。かちゃん、と音を立ててカップを置くとその中身は既に空となっていた。
ラモーヌはこのカップの中身を飲み干したことにタイミングが良いと思ったのか、脚を組みなおし、そして先ほどの表情からいつもの大人びたモノへ変わっていった。
「本題を話すわね、私はまたレースへ戻るわ」
「ついに、か」
彼女から告げられた競争の世界へ戻るという宣言。俺は彼女からその宣言を聞けて嬉しかった。彼女のレースに対する愛は本物以上であり、そして今年で全てのレースが最後となる。
ラモーヌと正式な場所で走れる、アルダンにとって最初で最後の本当に偉大なる姉を超える戦いとなるだろう。
「…わざわざそれを俺に言いに来たってことはアルダンと…という意味で受け取ってもいいんだな?」
「それで構わないわ」
「分かった、俺も全力でアルダンを支えるよ」
ラモーヌとレースで戦うというのはアルダンにとっても本望だろう。彼女自身も姉であるラモーヌの輝きに埋もれず、自分の輝きを大事にしたいのだ。だからこそ、俺もアルダンをトレーナーとして、1人の人間として支える必要がある。
「それで…ラモーヌの次はどこを考えているんだ?」
「エリザベス女王杯。そこで私は待っているわ」
エリザベス女王杯、11月中旬に行われるレースだ。
それもこれはラモーヌが勝ったレース。彼女がトリプルティアラを取った最後のレースだ。
芝2200m、アルダンは日本ダービーを勝利しているため距離としては問題ないだろう。あとは、それまでにどれだけ彼女に実力を付けさせれるのか、そして感を取り戻すことが出来るのかが課題だった。
過去にラモーヌのレースを見たことがある。はっきり言ってトリプルティアラを取った彼女の走りはまさに圧巻という一言だった。
一部の間ではトリプルティアラを取ったエリザベス女王杯では、まだ実力を残しているのでは?と噂されているほどだ。
それもそのはず、彼女はメイクデビューで20バ身という大差も大差で勝っている。俺自身も残っていた映像でしか見たことは無いが、その強さに震えてしまった。
そして一度レースから距離を置き、戻ってくるラモーヌの実力は未知数と言ってもよいだろう。あの頃より更に強くなっているのか、はたまたその逆なのかは俺には分からない。
だけど、元より負けるつもりはないのだ。
そしてこれはラモーヌによる宣戦布告。それだけアルダンの実力を買ってくれているのだろう。だからこそ、ラモーヌを失望させたくなかった。
彼女はアルダンの奮起に協力をしてくれたのだ。それが本心であるかは分からないが、俺にとっては彼女に返せない借りを作ってもいる。
その借りを勝負という場所で、そして利用という形にはなるがアルダンを通して返せるのなら俺は有難いと思った。しかし、早とちりは良くない。あくまでも走るのはアルダンなのだ。彼女の意志をまずは聞く必要がある。
「エリザベス女王杯だな、分かった。とはいえ、これはまだアルダンには話してないんだろう?」
「話したわよ。即決だったわ」
「あ、そうなんだ」
となると話は早い。アルダンが望んでいるのであれば俺自身も心残りは無かった。まずはアイルランドトロフィー、エリザベス女王杯の前哨戦ともいえるこのレースをまずは目指すべきだろう。
俺はそんなことを考えては口元に手を寄せて、思考していく。その思考し始めたものは目の前にいるラモーヌの一言で崩れ去ってしまった。
「本当に貴方達は愛し合っているのね」
「……へっ!?」
素っ頓狂な声を挙げてしまう。ラモーヌから聞こえた言葉が脳裏を過ぎ去り、そして数秒後にやっと意味を理解した。
その言葉を放った当の本人はくすくす、とまた前に見た揶揄いを残した幼い少女の笑み。この悪戯っ子のような所はアルダンにそっくりだった。
「また……面白い物が見れたわね?」
そう告げる彼女の言葉に俺は言い返す余地も無かった。
「……も、もう用が無いなら…帰って欲しいかなぁ…」
「ふふ、そうね。伝えたいことは伝えたもの」
彼女は最後にカップを手に取り、飲もうと近づけるも直ぐに止めてしまう。彼女の視線の先は既に空となった中身。どうやら飲み切ったことに気づいていないようだった。
すぐにラモーヌはカップを置いて、俺の方に視線を向けては
「おかわりを頂ける?」
「え、飲むの?」
少し意外だった。葉が泣いている、と言われたため美味しくないかと思ったがそういうわけでは無さそうだった。
「一杯飲んだら私は行くわ。それとも、客人の頼みを無視してこのまま置いておく気かしら?」
「…淹れさせて頂きます」
俺は立ち上がり、彼女のカップに紅茶を注いでいく。既に濾してから時間が経ってしまい、出来立て特有の風味は既に薄れてしまっている。彼女の前に置くとラモーヌは手に取り、口につけて飲んでいく。
「…アルダンに飲ませたことは?」
「ない…けど、それがどうかしたか?」
ラモーヌのカップの中身を見ていくと既に液体は残っておらず、飲み干してたようだ。初めて客人に出し、そしてラモーヌに叱責をされてしまったが、飲める程度の上手さがあるなら良かったと胸を撫で下ろしていく。
「飲ませたことが無いなら良いわ。忘れて頂戴」
とラモーヌから気になる言葉。
もしかして飲ませていたら俺はとんでもない目に合っていたかもしれない。というかそんなに不味いのだろうか…?
「そ、その言葉の意味を伺っても…?」
「秘密よ。それではね」
「えっ?ら、ラモーヌさん?」
そしてそのまま彼女は立ち去ってしまった。俺の制止する言葉を聞かずに。
ぽつんっ、とトレーナー室に残される1人。
なるほど、これは思っていたより俺の紅茶を淹れる技術は相当酷いものなのだろう。
ちょっとだけ、ちょっとだけ悲しくなる日だった。
**
「まぁ、姉様がそんなことを?」
「そうなんだ…だから今度教えて貰っても…良いかな?」
ラモーヌと話し合った3日後、俺はアルダンと一緒に近くの公園を散歩していた。そこの公園では既に桜が満開となっており、淡いピンクの桜色が風に乗り、踊るように舞っていた。
折角満開なのだから2人でそれを見に行こうと俺が誘い、そして今に至る。
時刻は14時、俺とアルダンは公園の中でも散歩道を歩いており、広場の方では花見客が各々で楽しんでいるのが見える。この散歩道も中々の咲き誇っており、俺たち以外にも散歩をして花見を楽しむ人たちもいた。
彼女のリハビリは順調ではあるが、無茶をさせてはいけない。ゆっくりと、それでも一歩ずつ彼女に寄り添うように俺は歩いていく。
彼女よりも先に、そして後に行かないように、必ず彼女の横を歩いていく。
「脚、大丈夫か?」
「問題ありませんよ。こうやって歩くのもリハビリに繋がりますので」
時折、彼女の右足に視線を動かしていく。こうやって歩くこともリハビリになるとはいえ、あまり歩かせすぎるのも良くないだろう。
1本の木の前で脚を止めるアルダン。俺は彼女が脚を止めたことに気づけば、其方に振り向き、彼女の正面に立っていく。
アルダンはその桜の木を見上げながら掌を胸元まで上げては、ただただ見つめている。
そしてその機会を待っていたかのように、ぴゅう、と少しだけ冷たい風が吹いた。その風に乗った桜の花弁は彼女に舞うように落ちていき、そして薄青の長髪に彩が加えられた。
彼女の薄青の長髪に桜色、結構似合うものだな、なんて思ってしまう。俺は1歩脚を踏み出しては、自分の髪に指をさして彼女に言葉を紡いでいく。
「髪、桜が付いてるよ」
「本当ですか?どちらに?」
「ここ、君から見て右の所」
彼女は手でその花びらを探そうとするも、見つけることが出来ず、俺は彼女の髪に手を伸ばしてそれを掴んで掌に載せていく。その花弁は片割れとなっており、風が吹いた時に千切れてしまったのだろう。
その花びらを眺めていると、アルダンも俺の髪に手を伸ばし、そして何かを掴んで取っていく感覚。彼女も同じように掌にその花びらを乗せてみせてくれた。
「トレーナーさんにも乗っていましたよ」
「はは、お揃いだな」
彼女は微笑み、俺もその表情につられて笑顔を浮かべてしまう。偶然にも彼女が取ってくれた花びらは片割れとなっていた。
「その花びら、貸していただけませんか?」
「いいけど…?」
アルダンは俺の掌に乗っていたその花びらを摘まんでは彼女の掌へ。俺は彼女が何をするのかが分からず、その様子をただ眺めていた。
アルダンは俺に付いていた片割れとアルダンに付いていた片割れをくっ付けていく。付けられた片割れ同士は一枚の花弁となり、ハート型となっている。
「これで…この花びらは1つになれましたね」
「…粋なことをするんだね?」
「ふふ、まるで私達みたいではありませんか?」
「俺たち?」
この片割れの花びら、それが俺とアルダンを示している。それが少し分からなかった。
「私とトレーナーさん、2人は歪で出会うことがなければきっとこの歪なまま生きていたことでしょう。でも、私はトレーナーさんに会えて、そして今ここまで一緒に歩めて後悔はしていません」
彼女に言われてやっと理解することが出来た。俺は彼女に出会い、そして感化されて彼女を支えたいと思った。
彼女は輝きを求め、だけどその輝きは余りにも小さなものだった。だけど俺と出会い、一度はその輝きも消えかけてしまったが、今は己を大事にしている。
まだこの輝きはラモーヌという存在に消え去ってしまう淡い光。だけど、俺はそんな淡い光をいつかは誰もが憧れるような輝きに変えたい。
アルダンもきっとそうなのだろう。
お互いがあの病院で出会い、そして出会っていなければきっと今を迎えられていない。その出会っていない、
だけど今確実に言えるのは俺は彼女と出会え、そして今ここまで一緒に歩めたことを後悔はしていない。アルダンの言葉通り、俺自身も彼女と出会えてよかった。いや、良かった、という言葉で済ませていいほど生半可なものではないだろう。
「俺も…君と出会えて、君と歩めて後悔はしていないよ」
「──────っ、それを聞けて…私は幸せ者です」
彼女は少しだけ瞳を見開き、驚いた表情を浮かべる。そうしてすぐに瞳を細めて、彼女は頬を緩ませていった。
また、ぴゅう、と春風。今日は少しだけ冷える日だな、と思う。
「あっ…」
その春風は花びらを乗せて、そして何処かへと舞っていってしまった。
「あの花びら同士は…また出会えるでしょうか…」
「出会えるよ、きっと。俺が君とまた出会えたようにね」
「…ふふっ、そうですね。トレーナーさんが言うと本当にそう思えてしまいます」
俺は彼女と並んでまた歩き出していく。桜は春風に乗って、このアスファルトの無機質な黒を暖かなピンクで染めてくれている。
そうやって歩いていると彼女は突然、俺の右手に彼女の左手が重なっていく感触。視線を落とすと彼女は俺の掌を握りしめていた。
「ごめんなさい、寒いものですから」
「…俺の手で暖まる?」
「暖まりますよ、トレーナーさんですもの」
なんだそれ、なんて心の中で思うもそれは口に出さない。野暮なことだと思ったから。手を繋がれたことにより、2人の距離はより近くなってしまう。
確かに彼女の手は冷たかった。あの病室で感じた冷たさほどではないが、それを想起しそうになるほどの冷たさ。俺は少しだけ、彼女の手を強く握っていく。
あの冷たさを思い出さないように、そして自分の温もりで彼女を暖めたいと思った。
「春は……いえ、桜は分かれと出会いを象徴するものだと言います」
「分かれと出会い、か」
分かれと出会い、俺と彼女が初めて出会ったあの日は桜が舞う道ではなく、無機質にも感じる病院の通路だった。
もし、俺が彼女と違う形で出会っていたらどうなっていたのだろう。出会わないもしも、は考えたくはないが、出会ったもしもは考えてしまう。
アルダンと寄り添って今も歩いているのだろうか、それともアルダンの隣はもう歩いておらず、既に他のウマ娘と歩んでいるのだろうか。そもそも出会ったとしてもスカウトが出来ていたのだろうか。
色々思考を巡らせてみるも俺は彼女が今、隣でこうやって歩いていないことが考えられなかった。意外と俺は傲慢なのだろう。
だから今、その傲慢さに任せて彼女に誓おう。アルダンの脚はまだ走る事は難しいが、彼女を支え、そして彼女と共に歩いていこう。
「きっとあの桜の花びらは俺たちに出会わせたかったんだろうな」
「…?もう出会っていますよ?」
「その…なんて言うのかな…」
言葉にしたことにアルダンは首を傾げては見つめてくる。既に散歩道は端まで来てしまい、その桜通りは終わってしまった。彼女と共に脚を止めては、彼女の方に体を向けて手を繋いだまま見つめていく。
「普通の出会いと別れは…新しい人生の始まりを告げる転換点だと思うんだ。卒業式に入学式、みたいなね」
「…そうすると…私とトレーナーさんはどういう…?」
「俺とアルダンは今、新しい人生を迎えようとしているって俺は思うんだよ」
1度、俺と彼女は契約解除寸前という所まで来てしまった。だけど、今はそうではない。彼女は脚のリハビリに励み、新たな一歩を踏み出そうとしている。
それは俺自身もそうだった。彼女に寄り添うために出来ることはなんでもするつもりだった。今までもそうだった、しかしこれは今までの比ではない。
俺は彼女を通じて、彼女は俺を通じて、新しい想いが生まれている。
アルダンは走る事が楽しいという想いが。
そして俺は走る事が羨ましいという想いが。
俺の想いはずっと抱えていくだろう。仮に地球が滅ぶことが無くてもこの想いが変わることは無い。
それで良いのだ。羨ましい、という感情は走る事が好きだから生まれている。俺は文字通り一生をかけて彼女に妬み続けていく。
彼女の走りが好きなのだから────────
「俺は過去を見れるようになった。アルダンは走ることが好きになれた。2人で一緒に何かを新しく踏み出せたんだ。…これはある意味、新しい出会いって言えない…かな?」
「──────素敵です。そのお考えは…とても」
「だからアルダン、今改めて伝えさせて欲しい。君の隣で俺は君に憧れさせて、そして嫉妬させて欲しい」
アルダンの両手を胸元まで持ち上げていき、そして彼女の両手を包み込むようにしていく。彼女の温もりを逃がさないように、そして誓い合うように。
アルダンはそっと頬を緩ませて微笑んでくる。彼女の薄青のウマ耳は左右にぺたり、と倒れており、一歩だけ前へ進んでいく。お互いの距離は近く、その距離は一歩でも進んでしまえば体が重なってしまうほど。
「私も…トレーナーさんの隣に居させてください。貴方の輝きとなり、私は私の輝きを目指したい」
彼女と視線が絡み合っていく。その視線はまるでお互いの人生を結びつける紐となり、強く結ばれていくように感じた。
決してそれは重い枷ではない、俺と彼女が更なる一歩を踏み出すための道標だ。
ぴゅう、と風が吹いていく。その風に合わせて桜の木々が揺れ、地面に散った花びらが宙に舞い上がり、まるで新しい門出を祝福しているようだ。
「それと…紅茶の淹れ方も併せて教えて欲しいな」
彼女はその言葉を聞くと少し驚いた表情を浮かべては、すぐに破顔していく。アルダンは俺の言葉に楽しそうに笑いながら
「ふふ、こんな時にそれを言いますか?」
「こんな時だからだよ。新しい出会い、なんだから。まぁ、これじゃ出会いというより新しい挑戦かな…?」
出会いと別れ。それは人やウマ娘に対してだけではない。新しい学びとの出会い、既に過ぎた過去への別れ。様々な出会いと別れを含んでいるのだろう。
だからこそ、今だから彼女に伝えたかった。こんな普遍的なことでさえ、彼女に告げれば特別な出会いへと変わっていくように思えたからだ。
アルダンは俺の手をゆっくりと離していき、桜並木に歩を進めていく。そうして彼女は此方へ振り向いては、少しだけ首を傾けている。
「私は厳しいですよ?」
「お、お手柔らかにお願いします」
「ふふっ、はい。しっかりとレクチャーしますね、トレーナーさん」
俺は彼女に近づいていく。彼女の右隣へ立ち、自然と手を伸ばしてはそのまま握りしめていった。
また、この桜並木を2人で戻るようにして歩いていく。
先ほどまで冷たく感じていた彼女の手は、とても暖かく感じた。