3年後に世界が滅ぶと知ったメジロアルダンとトレーナー 作:ポンタ4
地球が滅亡するというニュースが流れて、1か月が経とうとしていた。
そのニュースを見てもあまり現実感が湧かずに、そしてただ毎日トレセン学園へ足を運び、仕事をする毎日。
担当を持つことはなく、ただ過ぎ去る日々を過ごしていくだけの毎日。
何故俺はトレーナーになってしまったのだろうか。
元々陸上部として、人間の中でもかなり早い方だった。
それもオリンピック選手になるのかも、ともてはやされたレベル。
所謂順風満帆のアスリートとしての生活。
走ることが小さいころから好きだった。
自分の頬に当たる風が、それがただ気持ちよく、俺にとっては走ることは一つの趣味にもなっていた。
ある時に学生時代の友人に連れられて見てしまったウマ娘のレース。
ウマ娘は種族として知っており、勿論、彼女達の生態についてもなんとなくだが知っている。
人間より速く、そして力が強い種族。
ただ俺は一度も彼女達が本気で走ったところを実は見たことが無かった。
皐月賞、1番早いウマ娘が勝つというレース。
それが俺が初めて見たレースだった。
普段路上で走っている彼女達とは違う。
彼女達の本気の走り見た時、胸に込み上げてきた感情があった。
なんて凄いんだ、と。
その走りを言うのであればまさに圧巻というものだろう。
力強く、人間ではまともに走ることが不可能な前傾姿勢。
そして、人間では出すことができない速さ。
俺はそれにすっかりと魅了されてしまった。
一度見たそのレースが忘れられずに、他のレースを直に見に行くことが増え、練習で見に行けないときは動画サイトでアップされているものを見て、それはもう夢中だった。
その中で俺は1つ、とある願望が出てきたのである。
彼女達にトレーナーとして、俺の持っている理論や技術を合わせたらどうなるのだろうか。
それを想ってしまえばより止まらなくなってしまった。
勉強も大変だったが、ただ、その好きに向かって全力で走っていた。
しかし、その好きは突如俺から失われることになる。
なんてことない、学生時代の最後の大会。
いつもより暑い夏だった。
地面を照り付ける太陽の熱が体を焦がしていく。
200m走。
いつもの様に走り、そして流れ出る汗は全て風によって払われると思っていた。
待っていたのは、その熱いトラックの上で足首を抑えて悶える自分の姿だった。
その後は殆ど覚えていなかった。
唯一覚えているのはもう走ることができない、という残酷な事実だけ。
アキレス腱断裂。
走るのが好きな俺から奪った神様の最悪な悪戯。
その後はただ無気力な毎日だった。
何かを目指したいわけもなく、当時の夢であったトレーナーになる、というのに必死にしがみついて、生を貪っていた。
気づけばその生に貪っている最中に友人とは疎遠になり、そして同情する家族から逃れるように俺は1人暮らしを始めた。
そしてトレーナーになり、今はこうやって運が良く中央に所属しているも、それもいつまでなのか分からない。
リハビリは問題なく進み、今では歩いたり、軽く走る程度なら問題はなくなったが、昔みたいに走ることができなくなってしまった。
走る
それは俺にとって生きがいで―――――同時に好きなものだった。
****
当時、メジロアルダンと初めて出会ったのは病院だった。
アキレス腱を断裂し、そしてリハビリをした後の経過観察。
かかりつけの病院でいつものように主治医から診察を受けていた。
「うん、いつも通り大丈夫そうだね。走るのはダメだからね」
「はい、ありがとうございました」
「お大事に」
俺は診察室の扉を開けて、立ち去る際に頭を下げていく。
あのニュースから1ヶ月、特に何か大きな出来事もなく、ただ過ぎ去る毎日。
トレーナーを辞めることをせず、ただ今の状況にしがみつくだけの自分がいた。
今日も病院は多くの人で混みあっている。
その多くの人に当たらないように壁に寄り添いながら歩いていく。
この後はまたトレセン学園へ向かい、自分の業務を果たしていく。
業務と言っても普段のレポートをまとめ、後はデビュー戦を見ては担当を探したり、それこそチームを運営している人のお手伝いである。
もし担当を持っていたなら――――
それを考えるも既に昔ほど、走りへの熱意は消え去ってしまった。
ポケットから取り出す手帳。
その手帳は自分がトレーナーを目指す前に色々とウマ娘に教えるなら、をまとめたもの。
今見てしまうと粗が多く、とても使えたものではないが。
この手帳は俺が今、トレーナーであることを辞めさせないための最後の生命線。
既に地球が滅んでしまう運命は決まっているのだ。
ただこうやって今、生を貪るのであればいっそのこと心機一転で新しい人生を歩んでみるのもよいのではないか。
そんなことを考えていると肩同士がぶつかってしまう。
「あ、すみません」
「いえ、気にしないでください」
そのぶつかった人物に頭を下げる。
流石に不注意過ぎたか。
取り敢えずはまだ三年あるのだ、まだ考える時間はある。
そう思い、俺はそのポケットに手帳を―――――――
ない
先ほどまで手に持っていたものが無くなっている。
持っていた手帳を周りを見渡しても見つからない。
むしろ良いきっかけだったのかもしれない。
これを機にトレーナーを辞めてしまうのも――――
「あの…すみません」
背後から聞こえてくる女性の声。
俺はその声に振り向いていく。
そこにはトレセン学園の指定された制服を着ており、薄い水色の長髪をした女生徒が立っていた。
これが、俺とメジロアルダンの初めての出会いだった。
**
「すみません、ありがとうございます」
「気にしないでください。その…トレーナー、なんですよね?」
「…どうして分かったんです?」
「ごめんなさい、落とし主が誰か調べようと思いまして…その際に中を拝見したので」
彼女から手帳を渡され、俺はそれをポケットへしまっていく。
自分の過去が見られたようで少し恥ずかしく、その頬の赤みを隠すように俺は手で隠した。
彼女はそんな俺の様子を見て、上品にふふっ、と笑った後
「トレーナー…ということは担当を持ってらっしゃるんですよね?」
「…いや、俺はまだなんだ…」
「そうなんですか?では、貴方にスカウトされた方はきっと幸せでしょうね」
「………えっ、何故?」
彼女のその言葉が意味が分からなかった。
俺にスカウトされたウマ娘は幸せ、彼女のその表情は柔らかく、まるで慈愛のある聖母のようだった。
その目の前の彼女が口を開こうとした瞬間
「アルダンお嬢様、そろそろお時間が」
「あぁ…いけませんね。すみません、私はこれで」
背後からその彼女のお付きの人と思われる年を取った女性。
その人に声を掛けられると、目の前のウマ娘は会釈をしてその場から立ち去ってしまった。
病院で1人立ち尽くす。
彼女から返された手帳、それを開いてぱらぱらと中を見ていく。
人間の速い走りをどうウマ娘に応用できるのか、ケガをした時にどうしたら良いのか、それらがまとめられたトレーナーを目指したばかりの頃のメモ。
ぱたん、と音を立てて手帳を閉じていく。
「幸せ、か」
誰に告げるでもなく、ただその言葉を俺は呟いた。
彼女…アルダン、だっただろうか。
彼女のお付きである老年の女性がそのウマ娘の名前を呼んでいた。
どこかで聞いたことのある名前、一度学園で調べてみよう。
俺は彼女が言った言葉を、その意味を知りたかった。
走りが好きではなくなった男にスカウトされたウマ娘は幸せだろう、という意味を。
**
「メジロアルダン」
トレセン学園へ戻ってきた俺はまず今日の仕事を片付けていく。
担当を持っていないトレーナーの仕事なぞたかが知れており、すぐに終わってしまった。
トレーナー室で自分に支給されたパソコンを用いて生徒の名前を入力していく。
そこに出てきた検索結果。
その名前を読み上げ、彼女のプロフィールを見ていく。
名門メジロ家の産まれであり、そしてかのメジロラモーヌの妹。
”メジロの至宝”とも呼ばれる強さであり、メジロあるところにラモーヌあり、そう呼ばれてしまうほどの実力…だったか。
しかし、今自分が見ている彼女、メジロアルダンはその話とは真反対である。
選抜レースを登録してはそのレース前に体調を崩して辞退を繰り返しており、とてもではないがレースに耐えられるような体ではないことが、そのプロフィールから想像できてしまう。
入退院を繰り返し、その度にレースを登録。
しかし、また辞退をしている。
ずくんっ
自分の右足首、既に治まった痛みが自然と疼くように感じた。
彼女の本格化は既に始まっていることが示唆されており、このままいけば全盛期が終わってしまうのも目に見えてしまっている。
酷い話ではあるが、はっきり言ってしまえばメジロアルダンは競争に向いていない。
既に地球が滅ぶと運命が定まっているのに、レースに固執する理由が分からなかった。
「…それは俺もか」
彼女の理由が分からないと同時に自分もトレーナーという身分を捨てられず、結局今もこうやってただ生を貪っている。
そんな自分が彼女に分からない理由を抱くのが馬鹿らしく、自嘲気味に笑ってしまった。
次の出走レースを見るとそこには”ダート短距離 1200m”と書かれている。
既に出走するレースについては決めているようだ。
彼女の走りは見ていないが、今まで登録していたレースを見ると芝ばかりであり、それも中距離。
もしかして彼女はかなり無理な事をするつもりではないのだろうか。
なんとなく、居ても立っても居られず、トレーナー室から出ていった。
向かう先はダートのコース場。
きっとそこに彼女は居るだろう。
少し早歩きで学園内の廊下を歩いていく。
既に殆どの生徒はトレーニングに向かっており、学園内は無人状態。
階段を下りて、一階に降りて左右を見渡すと、そこには赤いジャージを着た生徒の姿。
薄青の長髪であり、そしてどこか儚げな雰囲気を纏った彼女。
病院で会った人物と特徴は一致しており、俺は彼女に背後から近づいていく。
どうやら練習を終えたようであるが、その歩き方はどこかふらふらとしていた。
「君、だいじょ――――って、うわっ!」
背後から声を掛けると彼女の体は前のめりに倒れそうになる。
俺は両腕を伸ばして、なんとか抱き抱えて倒れないように支えていく。
ゆっくりとその彼女を地面に座らせていき、正面に回っては
「なぁ、大丈夫か?」
「あ…申し訳ございません、ありが――――貴方は…病院で…」
彼女が顔を上げて、驚いた表情を見せていく。
その表情は直ぐに驚きから少し困ったように眉を下げていく。
「お恥ずかしい所を見せてしまいましたね」
「恥ずかしくなんかないだろ、大丈夫か?保健室に連れて行こうか?」
「いえ…いつものことなので…お気になさらないでください。少しすれば収まりますので…」
そう告げては彼女は立ち上がろうとする。
俺はそんな彼女を支えながら一緒に立たせていく。
先ほどのふらつきは本当に無くなっていた。
彼女が抱えていたタブレットを手に取り、それを彼女に渡そうとするとその画面に視線が入ってしまう。
トレーニングメニューが画面いっぱいに書かれており、そしてどのトレーニングを何回実施するのか、何セット行うのか、負荷はどれくらいなのかがまとめられていた。
「見られてしまいましたね、これでお相子、ですね」
彼女はそう告げてそのタブレットを受け取っていく。
ウマ娘のトレーニングにしては負荷が軽く、それこそウォームアップに近いものである。
そうまでして何故、彼女はレースに走りたがるのだろうか。
「…君は何故走りたいんだ?」
「…変、でしょうか?」
「変というか…すまない、俺には理解できなくて」
「私の体が弱いから、ですか?」
どくんっ
自分の心臓の鼓動が強くなる。
彼女の瞳、その瞳はまっすぐに俺を見据えており、俺はそれから目線を逸らしてしまった。
俺には彼女のその瞳はとても眩しすぎたのである。
「ケガをしてまで、そんなにボロボロになって…走りたい理由を聞きたい」
「………それはトレーナーとして、ですか?」
「違う、これは俺個人としてだ」
彼女の覚悟、それが知りたかった。
ボロボロになり、レースに向いていないと言われた体。
そこまでして走りたいと思う理由を知りたかった。
自分もケガをし、そして二度と走れなくなった競技者として。
何故、彼女はそうまでして走るのか、その答えを知りたかった。
「簡単なお話ですよ、私は―――”今”この瞬間のために命を賭し、輝きたいと思うからです。」
「…輝く前に地球が壊れるかもしれないのに?」
「それは前提ですよ。どんな前提であれ、私は今を大事にしたいのです。引くことを覚えてしまえば、一度でも前進を諦めてしまえば、勝負における一瞬において前へ踏み出せなくなります。この世に生を受けたのであれば、私は…ウマ娘として、一人の個人として全うしたいのです」
どくんっ
彼女の覚悟を聞いてしまえば、俺は心臓の鼓動がまた強くなるのを感じた。
そうまでして走りたい理由。
俺は俺自身を恥じた。
目の前の少女は走りに命を賭けている。
その賭けはとても分が悪く、そして勝てる見込みはすくないだろう。
でも、彼女が語ったその言葉は嘘に聞こえず、そして彼女の瞳には覚悟が宿っていた。
俺は、ただ生を貪る自分の姿が気持ち悪く見えてしまった。
脚をケガをし、そして走ることを諦め、だが走りに関わることを諦めきれず、ただただ生きていた。
俺は人生というテーブルから賭けをせず、常に降りるだけの人生。
その彼女の覚悟は俺にはとても眩しかった。
**
俺は彼女の覚悟を聞いてから忘れることはできなかった。
己の人生を恥じ、そしてその彼女の覚悟に当てられ、残り少ない人生を輝かせたいと思った。
選抜レースを数々見ては誰をスカウトするか、それを考えるも自分に心打たれるウマ娘はいなかった。
自分の手帳に積み上げられていくIFのトレーニングプラン。
それがもしかしたら無駄になってしまうかもしれない。
だけど俺は本来トレーナーになった目的を果たしたかった。
メジロアルダンの選抜レース当日。
俺の生き方を変えてしまった彼女。
その彼女のレースを見ようと思い、ダートのコース場へ足を運ぶ。
観覧席から少し離れた場所。
彼女にとって適正ではないダート、そして短距離のレースは彼女にとって厳しいレース展開になるだろう。
ゲートが開く音が聞こえ、そして一斉に走り出す。
短距離であるが故に全てのウマ娘は全力疾走で前へ前へ踏み出していく。
「メジロアルダンねぇ…大丈夫か?」
「どうでしょうね、いくらメジロ家の子でもさすがに…」
「やっぱりお姉さんと比べるとなぁ…」
観覧席の一番下から聞こえてくる他のトレーナーの声。
その声はやはり彼女の姉であるメジロラモーヌと比較されてしまうのが殆どであった。
彼女の走りを見ているが、前目に付けているとはいえやはり苦しそうな表情。
本来の適正ではないレース、それはウマ娘にとっても力を出せずに苦しい展開になるのは誰の目にも分かることだった。
だが、彼女は違った。
ひたすらに足を前へ前へ、その輝きを見せるように、アルダンは前進を止めることはしなかった。
彼女の走りを見ると手に力が籠ってしまう。
ただ彼女の走りを見ては俺は小さな声で”頑張れ”と呟いていた。
彼女は報われないといけない。
彼女の覚悟を無下になるのはおかしい。
命を賭しているのであれば、人生を捧げているのであれば、救いがあって当然だ。
俺は彼女の走りをただただ夢中になって見つめていた。
そしてその願いが届いたのか否か定かではないが、前進を止めなかった彼女は無事に1着を駆け抜けた。
周囲から聞こえてくる歓声。
次のレースが始まるため、レースをしたウマ娘達は横へ捌けていく。
そして勝利したウマ娘であるアルダンの周囲に集まるトレーナー達。
俺もそこへ向かっていく。
「さすがラモーヌの妹さんね、貴方をスカウトしたいの」
「ちょっと待て!俺だって目を付けてたんだ。なぁ、君!メジロの子だろ?どうだい?うちのチームに入らないか?」
「おいおい、抜け駆けするなよ」
ずきん
胸の奥が痛む。
口々に出す、単語が聞こえる。
メジロの子、ラモーヌの妹
彼女自身ではなく、彼女に付随している言葉。
その言葉を聞くと彼女の元へ歩いていく。
「アルダン」
彼女を囲み、そのトレーナー達とは反対側から声をかける。
「…貴方は」
「君をスカウトしたい」
彼女の驚いた表情。
その言葉を聞くと周囲のトレーナー達は俺を睨みつけてくる。
「1つ、お聞かせください」
俺はその視線を無視をし、ただアルダンを見つめる。
彼女は自分の心臓を両手で抑えるようにしており、顔は伏せられていた。
そして数秒後、彼女の表情が見えるとあの時と同じ、覚悟が宿った瞳。
「世界が終わる前に私を――――――――輝かせてくださいますか」
「あぁ、俺の命を賭けてでも」
既に俺の覚悟は決まっている。
彼女の覚悟に、彼女の走りに、彼女の人生に、俺は変えられてしまった。
俺の人生はメジロアルダンという一人のウマ娘の人生に命を賭けることにした。
**************
「トレーナーさん、描けましたか?」
「あぁ、描けたよ。いっせーの、で見せるか?」
2人でベンチに座りながら並んで声をかける。
俺の描きたいもの、それは彼女との出会いを描きたかった。
観覧席から見ていた彼女の走り、それを俺は描いていた。
「じゃあ、行くぞ。アルダン」
「はい」
「「いっせーの」」
2人で声を合わせてスケッチブックを見せる。
アルダンが描いていたものはそれはとある展覧会を見に行った時のものだった。
「それって…確か刹那展の?」
「はい、私が覚悟を決めようと思った絵をトレーナーさんと見て頂いたあの日、あの日が忘れられなくて。トレーナーさんは…私のレースですか?」
「あぁ、そうだよ」
彼女の描いた絵は2人の人物が描かれ、そして森の中に絵が置かれていた。
彼女が覚悟を決めたその絵を見た時、俺は胸を打たれてしまった。
きっとあの絵は、”今”を輝かせたかったのだろう。
今はもう色褪せてしまい、見る影もない。
だけどあの絵はきっと当時は見る人を魅了する絵なのだと、俺はそう思った。
「お恥ずかしいですね、私のレースだなんて…」
「俺はあのレースで君をスカウトしようと思ったんだ。だってアルダンに人生を変えられたからね」
「私の覚悟に当てられて…ですね」
「そう、君の覚悟に当てられて、だよ」
2人でその少しだけ照れ笑いをしていく。
俺の人生はあの脚を壊した日から空虚なものだった。
しかし、彼女の覚悟を当てられ、俺の人生は彩り始める。
彼女の輝きは、俺の真っ暗な人生から救うには十分すぎるほどの輝きだった。
アルダンをスカウトした後に彼女の主治医やそして家族からの許可を貰うことが大変だった。
なにせアルダンの両親は走ることを望んでおらず、主治医に関しても走ることは許可できない状態だった。
トレーナーが付く、ということはレースに人生を捧げるといっても過言ではない。
そんな中での説得、といっても殆どアルダンが話し、俺がそれを支えることを誓った程度。
主治医からはアルダンから話せばすぐに理解をしてもらったが、両親が一番大変だった。
そもそもアルダンは双子であり、そしてその片割れは死産だったという。
ただでさえアルダンは体が弱く、もしレース中に何かがあったら耐えられないと、それが彼女の両親の主張だった。
最終的にはアルダンの覚悟と俺がその覚悟を支えることを伝え、なんとかお許しを貰った形。
今思えば大分無理なことをしていたものだ。
そんなことも既に今となっては彼女と仲を深めた良い思い出である。
「さて…次の絵は…クラシックを描こうかな」
「あ、いいですね。私もそうしようかな」
2人でスケッチブックの次のページへを捲っていく。
そしてまた鉛筆で絵を描き始める。
俺とアルダンの二人三脚であるレース人生はここから始まった。
そして始まるクラシック路線。
高く、そしてアルダンの憧れでもあり、そして超えたい対象でもあるメジロラモーヌ。
2人だけの”今”を輝かせる人生の軌跡はまだはじまったばかり