マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ   作:マネモブァ

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Battle.10帰還

 終わった。

 もう身体が限界だ。息をするだけでもしんどい。胸の奥が焼けつくように痛い。手足も痺れて、鉛のように動かない。

 勝ち負けではない。ただ、全てを出し切った。そう言える感触が、拳の奥に、確かに残っていた。

 

 石の床に背を預けて、ゆっくりと天井を見上げる。

 崩れかけた天蓋。その隙間から、淡い光が差し込んでいる。ダンジョンの底に、光があるなんて。

 

「この感情に一番戸惑っているのは俺なんだよね」

 

 その呟きに、足音が近づく。軽く、控えめな気配だった。

 横に影が落ちる。ズヴェーリか……。

 

「ごめんなさい。私は見てるしか出来なかった……見届けなきゃいけないと思った──ダメだよね。私の願いに、協力して貰ったのに」

「あざーっス。ズヴェーリさんのおかげでナーガとの熱き死合いになったっス」

 

 視界もボヤける中、それでも俺は、はっきりと答える。 これは紛れもない本心だ。

 

「"命懸けで闘ったものだけがわかり合える"愛情もある」

 

 言葉にした瞬間、自分でも驚くほど素直な想いだった。勝ち負けでも、目的でもなく、拳と拳が交差した先に生まれたもの。

 それが、今も胸に残っている。

 

 ズヴェーリはしばらく黙っていた。だが、やがてふっと笑う。

 

「……優しいんだね、あなたは」

「そんな訳無いっス」

 

 彼女はそっと腰を下ろし、こちらに寄り添うように座った。視線は、崩れた天井の先、そこから差し込む光へと向けられている。

 

「ねえ、見える?私さ、初めて見るんだよね。太陽……こんなに綺麗だったんだ」

「ククククク……太陽は光・温もり・希望……そして未来を示してくれる心の栄養食だァ」

 

 言葉が自然と口をついて出た。

 俺たちが潜ってきたのは、終わりのない闇だった。冷たく、重たく、出口も希望も見えない、底の底。

 それでもこうして、陽は昇る。誰かが、それを見上げる限り。

 

「太陽って、もっと熱くて、焼けるようなものだと思ってた。なのに……今はただ、あったかいんだ」

 

 ズヴェーリの声が震えていた。震えているのは、寒さのせいじゃない。

 きっとそれは、命の温度に触れたからだ。

 

「ところでズヴェーリさん、ここから太陽が見えるのってヤバイんじゃない? だってダンジョンが崩壊し始めてる証拠でしょう」

 

 ズヴェーリがぴくりと肩を震わせた。

 

「……え?」

 

 ぽかんと口を開けたまま、彼女はもう一度天井を仰いだ。

 そして、ようやく気づいた。差し込む陽光の周囲、石の隙間から、小さな瓦礫がぱらぱらと落ちている。

 光が見えるのは、美しい奇跡なんかじゃない。崩壊の前触れだ。

 

「え、えぇっ?ま、待って、それじゃ──!」

「のんびり余韻に浸っている時間は無いと考えるのが賢明だな」

 

 叫ぶ間もなく、どん、と地鳴りが響く。

 天井のひびが一気に広がり、細かい破片が降ってきた。

 

「わわっ! 立てる!? 大丈夫!?」

「無理です。だって無理ですから」

 

 ズヴェーリの顔が引きつる。笑いたいのか、泣きたいのか、自分でもわからないといった表情だった。

 

「もう……せっかく、いい感じだったのに……!」

 

 その言葉がやけにおかしくて、俺は思わず吹き出しそうになる──けど、痛みで笑えない。マジで無理。肋骨がTシャツを突き破ってる。

 

「わかった。私が背負って行く」

「無理だよ。僕は痩せてるけど150キロあるんだよね」

 

ズヴェーリの目が一瞬、フリーズした。

 

「……は?」

 

 彼女は俺を見て、もう一度天井を見て、それから自分の肩を見て──全力で首を横に振った。

 人間ってほんとに二度見するんだ。なんて、この場にそぐわない思考が脳裏をよぎる。

 

「ちょっと待って!?それって骨が重いの!?筋肉!? そ…それとも、もう別の生命体!?」

「何でも良いですよ。」

 

「アノウ、俺ガ運ビマショウカ?」

 

 その声と同時に、影から現れたのは、常人の倍はあろうかという巨体。全身が赤黒く、まるで燃えさしのように熱を帯びている。目は光を宿しながら、なぜか悲しげに伏せられていた。

 

 ズヴェーリが俺を見た。

 

「……知り合い?」

「知らん!」

 

「ワ……私ハ、悪臭ヲ放ツ糞ニタカリ、コノ世デ最モ汚ク蔑マレル、ウ……蛆虫デゴザイマス」

 

 「蛆虫」と自称する鬼は、ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。床板が焼けるような音が、足元からじゅう……じゅう……と響いていた。

 

「いやいやいや! 来ないでよ!? ていうか、何でいるの!?」

 

 ズヴェーリが叫ではいたが、俺の体を庇うように立ちふさがったままだ。

 

「……敵意ハ、アリマセン……運ブダケデゴザイマス……コレモ、贖罪ト言イマショウカ……」

 

 蛆虫の声は震えていた。熱のせいではなく、感情のような何かがこもっていた。まるで、喉の奥で誰か別人が泣いているような、そんな声音だった。

 

「もういいよ」

 

 俺がかすれ声で言うと、彼女は目を細めた。

 

「……本気で言ってる?」

「ガチです。はっきり言って今の現状は絶対絶命の部類に入る。つまり、利用できるなら何でも使うべきと言うことです」

「雑すぎない!?」

 

 ズヴェーリが怒鳴ったが、その背中越しに蛆虫の巨体がぬうっとしゃがみ込んだ。そして、極めて丁寧な動作で俺を抱え上げる。まるで、壊れ物を扱うように。

 

「……アナタハ、……アノ時、俺ヲ殺サズ……見逃シテクレタ。ナゼナノデショウカ……」

「終わったことだ。もう忘れたよ」

 

 蛆虫の目が、かすかに見開かれた気がした。

 

「……優シイ……ナ」

「何言ってやがる……」

 

 焼けるような体温の中に、意外にも柔らかな腕。俺はそれに身を預けながら、ふと思う。

 この鬼は、たしかに戦った相手だった。殺すべき存在だった。でも、今ここで、命を繋いでくれている。

 

 それって、もう「ただの敵」じゃないよな。

 

「ズヴェーリ。……行こうぜ。崩れる前に」

 

 彼女はしばし黙って、そしてため息をついた。

 

「はぁ~~~……後で文句言うからね」

「知らない……知ってても聞かない」

 

 天井が、ついに崩れかけた。粉塵が舞う中、赤黒い巨体と、俺たちは暗い通路の奥へと進み始めた。

 粉塵が視界を白く染める中、俺たちは進む。いや、進んでもらっている。俺は完全にお荷物で、赤黒い巨体──蛆虫に抱えられたままだ。

 

「右の通路よ!あそこからなら……!」

「……承知シマシタ」

 

 ズヴェーリの指示に、蛆虫が静かにうなずき、壁の瓦礫を素手で押しのける。火のように熱い掌が、崩れた石を融かすように砕いていく。

 

 こんな奴が敵だったって、信じられないよな……。

 

「見えてきた、あれ……ワープゾーンよ!」

 

 ズヴェーリが叫ぶ。目の前に現れた、半透明の光の渦。見慣れた転送魔法陣。そこが出口だ。

 だが、喜びも束の間──ワープゾーンの中心に走る黒い亀裂が、嫌な予感を運んできた。

 

「ダンジョンの魔力が乱れてる……動作が不安定になってる!」

 

 ズヴェーリが陣の上に手をかざし、眉をひそめる。

 

「三人分の転送は……無理。たぶん二人が限界。しかも、一人は意識がないと、陣が反応しない」

 

 この状況で昏倒したら終わり。そう言いたいけど、気力の火はすでに風前の灯だ。

 

「俺ハ、残リマス」

 

 蛆虫がぽつりと言った。

 

「この身体デハ、転送時ニ負荷ガ……大キスギマス。元々、出口ナド望ンデイマセン」

「ダメよ! ここまで来たんだから、一緒に──」

「"万法帰一(バンポウイチニキス)"ダンジョンデ生マレタ以上ダンジョンニ還リタイノデス……アナタ達ガ、地上ヲ目指スヨウニ──」

 

 蛆虫の目が、淡く揺れた。赤黒い身体に似合わぬ、優しい光だった。

 

「最後ニ、名ヲ教エテクレマスカ? アナタノ名ヲ」

「"ミヤザワ"これ以上は明かせない」

「……ミヤザワ。忘レマセン」

 

 蛆虫がそっと俺の身体を地に下ろす。ズヴェーリが手早く魔法陣を調整し、俺を支える。

 

「いい? このまま、私の手を握ってて。絶対、離さないで」

 

 足元に光が満ちる。世界が白く塗り潰されていく。

 最後に見たのは、蛆虫が背中を向け、崩れていく天井に向かって歩き出す姿だった。

 

 ───ありがとう、名も知らぬ鬼よ。

 

 地上に出た時、陽は完全に昇っていた。

 

 まぶしさに目を細める。呼吸が苦しいのは、まだ肋骨がどうにかなってるせいだろう。だが、それでも、空気がうまいと感じた。

 

「……生きてる、のね」

 

 ズヴェーリが呟いた。涙ではなく、汗に濡れた顔で、遠くの空を見つめている。彼女の肩越しに見えるのは、瓦礫に埋もれたダンジョンの入り口。崩落で完全に閉じられていた。

 

「御来光だあッ」

 

 ミヤザワの言葉に、ズヴェーリが吹き出した。膝に手をついて、肩を震わせながら笑っている。

 

「……なんであんたは、そういう時にそういうこと言うのよ……!」

「うーん、この場面はこれを言わなきゃいけないから仕方ない。本当に仕方ない」

 

 笑いながらも、痛みに顔をしかめる俺を見て、ズヴェーリはため息をついた。そして、そっと俺の頭を撫でた。

 

「……ありがとうミヤザワ。それと蛆虫」

 

 彼女の視線が再び、崩れたダンジョンへと向く。そこには、もはや誰もいない。ただ、風に舞う砂埃と、日差しの照り返しがあるだけだ。

 

「帰ったのね、自分の居場所に……しかし不思議ね。ずっと憧れてたダンジョンの外に出れたのに、今はダンジョンの中ばかり気にしてる」

「それはお前が強くなったからや」

「だったら良いな」

 

 二人でぼそぼそと語り合いながら、ゆっくりと腰を下ろした。陽光がじんわりと背中を温める。心なしか、あの鬼の体温に似ていた気がした。

 

「で、どうするの?あなたは動けない、私は街の場所すら分からない……」

「ギルドカードにはあるんだよ……緊急時の職員呼び出し機能が!! まっ、ダンジョン内には来てくれないからバランスは取れてるんだけどね」

 

 そう言いながら、俺は指でカードの赤い宝石を押し込んだ。金属音のような電子音が鳴り、カードが淡く光る。

 

「……あれ? 普通に反応してるわね?」

「ギルド職員ってすごいぜぇ。到着まで五分もかからないんだからな」

 

 ほどなくして、空から小さな影が降りてくる。青い外套をはためかせたギルド職員が、空中に展開された魔法陣から舞い降りた。

 

「……緊急信号を受信。確認します、依頼主コード:ミヤザワ……ってまたお前たちのパーティか」

 

「また?初めてと言うてくれや。あいつらとは既に手を切ったんだからなァ。私もね、色々あったんですよ。……そういえば連れもいるから、搬送二人分をガルシアは望んでいる」

 

 職員が額を押さえながらも、即座に支援魔法を展開。転移用の陣がその場に開かれ、ふたりの身体を優しく包み込んだ。

 

「よかった……帰れるのね」

 

 ズヴェーリが、ほっと息をつく。その頬には土と汗がこびりついているが、目には確かな光が宿っていた。

 一瞬にして、眩い光が視界を埋め尽くす。

 

 転移陣の光が消えたとき、そこは見覚えのあるギルドの医務室だった。薬草の匂いと、消毒液のきつい刺激が鼻をつく。

 

「…ぶ厚いステーキが食べたい」

 

 ベッドに横たわったまま、ぽつりと呟く。その隣で、ズヴェーリが窓の外を見ていた。人々の喧噪、行き交う荷馬車、遠くに見える城壁の塔……どれも彼女には見慣れないものなのだろう。夜になり眠るまで、ずっと眺めていた。

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