マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ   作:マネモブァ

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Battle.12作者には"話を変える権利"があるんだよおっ

「おはよう、ズヴェーリ」

 

 カーテンの隙間から差し込む朝の光が、室内をうっすらと照らしていた。まだ寝ぼけ眼のズヴェーリが、こちらを見上げる。寝癖のついた髪があどけなく揺れて、彼女はしばし目をしぱしぱとさせた。

 

「……ん、おはよ。あれ?もう起きてたの?」

「クククク、信じられないかもしれないが、俺は早起きなのだよ」

 

 軽く胸を張って言うと、ズヴェーリは枕に顔を埋めて「へーえ」と気の抜けた声を漏らした。嘘だと分かっているのか、それとも本気で信じているのか、その反応からは読めない。

 

「早起きって……三日も寝坊したくせに?」

「悪いな…俺はほら、未来しか見てないから。 過去にはこだわらないから」

「ふぅん……」

 

 ズヴェーリはぼそりと呟き、ぐるりと毛布にくるまって横を向く。

 

「じゃあ、あたしはもう少し寝る……おやすみなさい」

「せっかくの清々しい朝にもう一度寝るなんて、神聖な朝の時間をなんだと思ってるんだ。ほら、散歩でも行こうぜ。外出届けも出てるらしいしな」 ヌッ

「……フェル?」

「うん。昨日のうちに勝手に取ってたんだよね。酷くない?」

 

 その言葉に、ズヴェーリは再びこちらを見た。まだ眠たげではあったが、その目の奥には、かすかな不安と戸惑いが滲んでいた。昨日の空気を、彼女も感じ取っていたのだろう。

 

「……どこ行くの?」

「"大市民天心館"に行きます。ついでに街も案内すルと申します」

「"大市民天心館"?何をするとこなの?」

「あらゆる絵の集う「美術館」の一種とだけ言っておこう」

 

 ズヴェーリはしばらくのあいだ考え込むように沈黙していたが、やがて毛布をばさりとめくって立ち上がった。まだ寝起きの身体を引きずるような足取りで、洗面台へと向かう。乱れた髪が左右に揺れ、その後ろ姿はどこか気だるげで、それでも抗いがたい好奇心に背中を押されているのが分かった。

 彼女が支度をしているあいだ、俺は外套を羽織って部屋の外に出た。廊下を吹き抜けていく朝の風が、ほんの少し肌寒い。 やがて、ズヴェーリが戻ってきた。服を整え、顔を洗ってきたのか、先ほどまでの眠気はすっかり消えていた。その瞳には、わずかだが張り詰めた光が宿っている。

 

「……行こうか」

「おいおい、まだ準備の途中でしょうが」

 

─────

────

───

──

 

 ギルドの門を抜けると、朝の空気がぐっと澄んでいた。石畳の道はしっとりと夜露に濡れており、通り沿いの屋台や店は開き始めたばかり。パン屋の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、どこからか鶏の鳴き声が聞こえてくる。

 ズヴェーリは隣を歩きながら、落ち着かないように視線をあちこちに向けていた。時折、道を歩く人の表情や、店先に並ぶ雑貨のひとつひとつに目を止めている。けれど──その歩き方は、どこか慎重だった。

 

「この街では、東と西に別れているんだよね。すごくない?ちなみに大市民天心館は西側にあるらしいよ」

「ふうん。じゃあ先ずはその西側を目指すの?」

「そうですけど何か?」

 

 冗談めかして言いながら、俺はズヴェーリの前に出て、歩幅を合わせて進み出す。西側区画へと続く道は、街の中心を通って伸びている。道幅は広く、馬車も頻繁に通るが、今の時間帯はまだそれほど混み合ってはいなかった。

 ズヴェーリは隣で、街の喧騒をじっと耳で追っていた。どこかで楽器の音が鳴っている。朝の市の始まりを告げる鐘の音も混ざっていた。

 

「この東区では4つのグループが勢力争いをしているんだ。ひとつは俺が所属していた"マッスルズ"、"スキンヘッズ"、"タトゥー連合"。あとは死人のように生きてるクズども」

「最後のだけやけに物騒なんだけど……正式名称それで合ってるの?」

 

 ズヴェーリが眉をひそめて尋ねる。無理もない。“死人のように生きてるクズども”なんて呼び名、街の勢力にしてはあまりにも粗雑だ。

 

「いや、あれは俺が勝手にそう呼んでるだけ。まあ気にしないで、どっちみち似たようなものですから。行き場のない奴らが群れて、流されて、腐ってるんだァ。たまに暴れるけど、誰も本気で取り締まらない…ハッキリ言って人間的にはクズの部類に入る」

「……クズって、そんな言い方しなくても」

 

 ズヴェーリがわずかに眉をひそめて言った。俺は肩をすくめて、少しだけ語気を落とす。

 

「……でもな、あいつらの中にも、本当は抜け出したいやつもいるんだ。ただ不幸にも、どうやって生きたらいいか忘れてしまっただけだ」

 

 ズヴェーリはそれ以上何も言わず、しばらくのあいだ黙って歩いていた。通りにはパン屋の客が列を作り始め、どこかの小商人が香辛料の匂いを風に乗せていた。ギルドの門を出てから、まだ十分も歩いていないはずなのに、空気の温度が少しずつ変わっている気がした。

 

 やがて、大通りの先に西側区画の門が見えてきた。黒鉄製の格子がはめられた重厚な門で、門番が二人立っている。彼らは俺たちを見ると軽く頷いたが、特に咎める様子はなかった。

 

「ここから先は都市のオーラが完全に別物でやんす。様々な思想が混ざった虹色都市でやんす」

 

 門をくぐった瞬間、ズヴェーリが小さく息をのんだ。東側とは空気が違った。道は広く、建物は背が高い。石造りのアーチや噴水、店先に飾られた観葉植物までもがどこか整然としている。歩く人々の服装も上品で、子供たちの笑い声が高く響く。

 

「……全然違うね。さっきまでいた街とは別の場所みたい」

「悔しいが…これが貧富の差だ」

 

 俺はそう呟いて、両手をポケットに突っ込んだまま歩き出す。ズヴェーリは少し遅れてから足を動かし、俺の隣に追いついた。

 

「ここ、西側の人たちは……あっちのこと、知ってるのかな?」

「さあね…ただ、知っていたところで見て見ぬふりしているのは事実だ」

「……そっか」

 

 ズヴェーリの声は沈んでいた。彼女の目には、飾り窓から見える華やかな衣装、舗道で歌う吟遊詩人、水晶細工のアクセサリを手に取る貴婦人の姿が順に映っている。けれど、どこか──その表情には言葉にできない何かが滲んでいた。

 

「まあ、俺たちはそんなもの眺めに来た訳じゃ無いからバランスは取れてるんだけどね」

 

 足を止めて、俺は前を指さす。先にあるのは白亜の外壁に囲まれた大きな建物。円柱と半球屋根の調和が美しく、正面には「大市民天心館」と刻まれた銘板が掲げられていた。

 

「そう言えば何でここに来たの?」

「お前に教えるわけにはいかない」

 

 入口の扉は重く、それでいて滑らかに開いた。内側から吹き込む冷たい空気に、ズヴェーリはわずかに身をすくめた。

 

「……広いね」

 

 彼女の呟きは、天井の高い吹き抜けに吸い込まれていった。大理石の床に革靴の音が反響し、受付に立つ係員の動きすら静謐なリズムで刻まれている。

 ホールの中央には、巨大な人形のような構造物があった。手を広げて空を仰ぐその姿は、まるで天啓を待つ者のようだ。彫刻でも絵画でもない、けれど確かに芸術の一種である何か。ズヴェーリはそれを見上げ、しばらく黙っていた。

 

「……あれ、何?」

「紹介しよう『市民の祈り』と呼ばれてるモニュメントだ。もちろんめちゃくちゃ誰が作ったかは、不明。都市の記録にも載ってないんだから話になんねーよ」

「ふうん……」

 

 ズヴェーリは歩を進めながら、周囲を見回している。絵画、彫刻、変形金属、音の出る展示、壁いっぱいに広がる映像……ここはただの「美術館」ではなかった。感覚のすべてに訴えかけてくる、混沌と秩序の狭間。

 

「あの絵……すごい。なんかよくわからないけど、すごく引き寄せられるっていうか───」

「ほう『羨望』か…まあお前が惹かれるのも無理はない。名画と呼ばれるものは作家が正気と狂気の狭間を行き来しながら心血注いで描き上げたもの。つまり魂が宿ってるんだ」

 

 俺は一歩近づいて、その絵を改めて見上げた。灰青と墨黒が重ねられ、中央には微かに歪んだ輪郭の瞳のような模様。観る者によって、見る角度によって、その“目”の表情が変わる気がする。

 

「俺は絵の上手い奴は無条件で尊敬する。何もない所から"美"を作り出すことは人間に与えられた能力の中でも最上のものだからな」

「へぇ〜。じゃ、あっちの人が集まってるのは?」

 

 ズヴェーリの指差した先では、人だかりができていた。何かの展示作品の前で、数人の観覧者が言葉少なに佇んでいる。彼らの表情は一様に真剣で、ある者は腕を組み、ある者は目を細め、またある者はわずかに顔を背けていた。

 

「おそらくオークションだと思われるが……ここでは絵の販売もやっているからね」

「うまっ だけど…つまんないよ」

 

 ズヴェーリがぽつりと零すと、俺は頷いた。

 

「俺と同じ意見だな……この作品からは何も感じない」

 

 二人して肩を並べて、無言でその絵を見つめる。技術は確かに一流だ。構図も配色も、教科書的な"正しさ"に満ちている。だがだからこそ、何かが欠けているように思えた。

 

「見事な贋作だ」

 

ざわ…ざわ……

 「えっ贋作?」 「贋作かよ ひくわ」 「おいおい 贋作を出展するなんてまずくね?」

       ざわざわ…

   ざわ…ざわ……

 

「貴様らーッ さっきから黙って聞いていれば、この作品を愚弄する気かあっ」

 

 声の主は、絵の前に立っていた中年の男だった。灰色のスーツに濃紺のスカーフを巻き、手には細身のステッキを携えている。その顔には怒りが抑えきれないのか、気持ち悪い笑みが張り付いていた。

 

「この作品は、名匠ヴァルヌ・イェールの“最後の手業”とまで言われているものだ。お前らのような素人が値踏みしていい代物ではない!」

「俺の目に間違いはねえ。 俺の虹彩異色症(オッドアイ)はダテじゃない。右目で「(けん)」を、左目で「(かん)」を……「見」とは目に見えてる姿・形を見ること、「観」とは背後に隠れてる本質を見抜くこと」

 

「──お前の目の色など、戯言にすぎん! 芸術を語るには知識と教養、そして歴史的背景が不可欠だ! 感情だけで全てを断じるなど───」

「過剰に反応するのは劣等感のあらわれと言うが……」

 

 俺の言葉に、男のこめかみにピクリと静かな怒気が走る。

 

「貴様……名匠の名を侮辱した報い、受けてもらうぞ」

 

 男がステッキを強く床に叩きつけると、鈍い金属音とともに何かが起きた。展示壁の裏から、黒いスーツの男たちが二人、三人と現れる。彼らは無言のままこちらへ歩み寄ってくる。

 

「でたでた。切迫した状況での誤魔化し方がハンパない」

 

 俺は肩をすくめつつ、足元の構えを微かに変える。無駄のないスーツ姿の男たち。歩き方、手の動き、無言の気配──こいつらはただの警備員じゃない。訓練された、実働要員だ。

 

「ズヴェーリ、お前は引っ込んでろ」

「……いいの? やっちゃって」

「命懸けで美を追求する者からしたら、名画などの芸術品を悪用し冒涜する輩は許せないです!」

 

 俺が一歩前に出ると、男たちのひとりがポケットから拳銃のようなものを取り出す。すると、その銃口をスッと男に向け構える。

 

「はひーっ! 何故私に向けるのです!? 撃つならあちらの硬派な人にしてくださいよぅ!」

 

 ブタのように醜く肥えた男が悲鳴のような鳴き声をあげる。頬には脂汗、後退ろあしには震えが走る。だが、黒服の男は構わず照準を固定したまま、無表情に言葉を吐き捨てた。

 

贋作(それ)は使ってはいけないルールだろ。社会のルールは無視する。だが……」

 

 その声音は冷ややかで、氷のように硬かった。

 彼の指が、トリガーに触れる。

 

「この美術館のルールを守らない者は確実に殺される」

 

 パァンッ

 

 乾いた銃声がホールに響き渡った。

 

 一瞬の静寂。

 誰も動かない。誰も声を上げない。悲鳴も、驚きも、どこにもない。 まるで、それが予定されていた音響演出であるかのように。

 倒れた男の体からは、赤黒い液体がじわりと大理石の床に広がっていく。その液体はどこか粘ついており、床の光沢と混ざり合って、まるで一幅の抽象画のようだった。

 

「お目汚し失礼しました。引き続き、当美術館をお楽しみください」

 

 黒服の男は礼儀正しく一礼すると、引き金を引いた銃を懐へ戻し、静かにその場を去った。観客たちも何事もなかったかのように鑑賞を再開していく。無言で、整然と。

 

「……さぁ行こう」

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