マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ 作:マネモブァ
「あんなことがあった直後によく食べれるね」
ズヴェーリは目の前の皿を見つめながら、少し引き気味に言った。
皿の上には、艶やかなソースをまとった肉料理。付け合わせの野菜は丁寧にカットされ、彩りまで計算され尽くしている。まるで銃声すらも料理の演出の一部だったかのように、静かで洗練されたレストランの空間が広がっていた。
「うまいから食うんや。うまい、うまい」
俺はナイフを手に取り、分厚い肉の繊維に沿ってゆっくりと切れ目を入れる。焼き加減は完璧。中心はわずかに赤く、柔らかな肉汁がナイフにまとわりつく。
ズヴェーリは眉をひそめたまま、隣でフォークを握りしめていた。
「……さっき、人が撃たれたんだよ? あの男、死んでたよね?」
「慣れって怖いぜェ、人死にさえ気にならなくなるんだからな…」
俺はそう言いながら、肉を口に運ぶ。脂の旨味が舌の上でとろけ、赤ワインの余韻と絡み合う。極上だ。
「ねぇ、そろそろここに来た目的くらい教えてよ」
俺は一度ナイフとフォークを置き、ワイングラスを軽く傾けた。淡い照明の中、グラスの中の赤が深く揺れる。
「単刀直入に言おう、この美術館である青年と待ち合わせをしている。 名はフェルナンデス。ギルドの職員で"特別な仕事"をしている青年だ。 もちろんめちゃくちゃ偉い」
「本当にそんな約束してた?私一応ドアの前で聞いてたんだけど……」
ズヴェーリの声には、探るような色が混じっていた。疑いというよりは、確かめたいという気持ちだろう。俺はニヤリと笑って、グラスを置いた。
「まあ気にしないで、気づかれたら暗号の意味が無いですから」
「暗号って……」
ズヴェーリは声を潜め、少しだけ身を乗り出した。
「それ、昨日の会話が?」
「はい!そうですよ。"元パーティとのいざこざは個人で解決した方がいいぞ!! 出来ないならしょうがないが"これはおそらく大市民語録だ……そして、"名前がないということは存在感がないということ。いてもいなくてもいいということ"あれはGOKUSAIの天心画塾編のテミスの台詞だ。合わせて大市民天心館のことを表していると思われるが……間違ってたら知らない…知ってても言わない…」
ズヴェーリはしばらく唖然として、それからフォークをそっと皿に置いた。
「……ねぇ、それ、どこまで本気で言ってるの?」
その問いに、俺は少し肩をすくめる。
「もちろんめちゃくちゃ全部本気」
ズヴェーリは口を開きかけ、しかし言葉を失ったように沈黙する。そして、やがてポツリと呟いた。
「……ちょっと待って、それ、ギャグじゃなくて……本当に暗号だったってこと?」
「ウム…既読蛆虫じゃないとわからないんだなァ これでも猿先生の漫画は大体読んどるんやで、もうちっとリスペクトしてくれや。まあ大市民は猿先生の作品じゃないんやけどなブヘヘヘヘ」
ズヴェーリは額に手を当てて黙り込んだまま、まるでこの現実から一時退避するかのように目を閉じていた。俺は赤ワインを口に含みながら、空いた皿のソースをパンで拭う。
そのときだった。テーブルの脇に、ふと気配が立つ。
「……あの、隣、いいですか?」
柔らかい口調だが、隠しきれない理知的な響き。振り向けば、白シャツにネイビーブルーのジャケットを羽織った青年が立っていた。整った顔立ちに、銀縁の眼鏡。片手には小さな封筒が握られている。
俺はパンを咀嚼しながら、ニヤリと笑った。
「フェル、待ってたよ。というか犬は普段からその格好をしろよ」
「嫌です。堅苦しいのは嫌いなんだ……」
フェルは苦笑しながら椅子を引き、こちら側に腰を下ろす。封筒をテーブルにそっと置いた。
「しかし、まさか本当に“あの引用”で気づいてくれるとは思わなかったよ。情報通り、かなりの異常猿愛者みたいだね」
「あのぅフェルさん、早く要件を言ってくれませんか? 私はこれから始まるオークションに参加したいんですよ」
俺は手元のワインを飲み干し、空になったグラスを軽く振った。正直、こんな洒落た前菜よりも、そろそろ本命の競り合いに身を投じたい気分だ。
「わかった、まず結論から言おう。お前にはギルドを一つにして欲しい。知っての通り、今のギルドは"マッスルズ"、"スキンヘッズ"、"タトゥー連合"、後は何処にも属せないクズども……この4つの勢力に分かれている」
フェルの声は穏やかだったが、その内容は爆弾のようだった。俺もズヴェーリも、わずかに息を止めた。
「……ギルドを、ひとつに?」
ズヴェーリが繰り返す。そこには明確な疑念と驚きがあった。
俺も流石に驚愕が勝り、軽く目を細めた。
「驚いてるようだね。まあ無理もない……そもそもこれを理解するには今のこの街の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ」
「ちなみに目当てのオークションまでは三時間らしいよ……犬はそれまでに終わらせろよ」
俺は空のグラスをテーブルに戻しながら応じた。ズヴェーリも何も言わず、フェルの方に視線を向ける。料理の余熱と、ワインの残り香だけが、テーブルを温めていた。
「まず事前知識として知っておいて欲しいんだが、この街が東と西に分かれる前は一つの国だったんだ」
「えっそうなんですか?」
俺とズヴェーリの声が、まるで打ち合わせたかのように重なった。フェルは少しだけ目を細め、苦笑とも皮肉ともつかない表情を浮かべる。
「ミヤザワ、君は知ってるべきだろ。義務教育の範疇だぞ……」
フェルの言葉に、俺は肩をすくめて返す。
「悪いな…俺はほら、学校通えなかったから 義務教育も受けてないから」
フェルは一瞬だけ言葉を失い、グラスを指先で回す。
「……そうか。いや、悪かった。無神経だったな」
フェルは低く詫びながらも、すぐに視線を戻した。目は真剣だった。俺は首を横に振る。
「終わったことだ、もう忘れたよ」
その横で、ズヴェーリはこっそりとフォークで残りのパンをつついていた。場の空気を和ませるような、彼女なりの配慮かもしれない。
フェルは一呼吸置いて、語り始めた。
「この街は、かつて"涅槃創生会"というひとつの宗教からなる都市国家だった。技術と芸術と交易の都として、各地から人材と物資が集まり、ギルドという仕組みも当時の行政機構の一部だったんだ」
「だが、それも今は昔……十七年前、"神裂きの日"……狼の日とも呼ばれている日に、その当時国のトップだった男が殺された。その三年後にわかったことだが、ギルドの境遇に不満を募らせての反抗だったらしい」
「神裂きの日、か……まるで神様に牙を剥いたみたいな名前ですね……しかし何故不満が?」
ズヴェーリがぽつりと呟いた。フェルはその言葉にわずかに目を細める。
「その認識は正しい。あの日から教義は意味を失い、都市としての体裁を保てなくなった。では何故そんなことをしたのか?答えは簡単だ。当時のギルドの扱いは遥かに悪かった……知ってるか?ローンを組むことは疎か、口座の開設すら出来なったんだぜ」
「口座も作れないって、それじゃまるで……」
ズヴェーリの呟きに、フェルは軽く頷いた。
「そう。存在していても社会からは『存在しないもの』として扱われていた。どんなに腕があっても、どんなに信頼されていても、行政も銀行も一切ギルドに関わろうとしなかった。それが十七年前の話さ」
俺は残っていたパンを口に運びながら、軽く目を細める。そんな状況で生きていた者たちが、牙を剥くのも無理はない。
「……それでトップの暗殺により反抗の意思を示したってことね」
「うん。でもそれが街の崩壊の始まりでもあった。指導者を失い、宗教も瓦解し、そして……ギルド同士が互いに縄張りを主張し始めた。結果、今の四分裂だ」
フェルは静かにグラスを持ち上げ、残ったワインを一口飲む。その目は、かつての理想都市の亡霊を見つめているかのようだった。
「"マッスルズ"は肉体至上主義の連中、"スキンヘッズ"は暴力による統制、"タトゥー連合"は古い伝統と誓約に縛られた義理人情の世界……そして、何処にも属せず日銭で生きるクズども。笑えるよな、昔は皆、同じ屋根の下にいたってのにな。今のこの国でまともに暮らすには
「なんか酷い話だね」
ズヴェーリがぽつりと呟いた。その口調には怒りでも嘆きでもなく、ただ、初めて知った現実に対するまっすぐな戸惑いがあった。
「酷いよ。でも、もっと酷いのは──誰もそれを『おかしい』って言わなくなったことだ」
フェルの声には、静かな怒りが滲んでいた。どこか遠くを見るようなその目に、ほんの一瞬、若さの残滓がよぎった気がする。
「だから、ミヤザワお前がギルドを継げ」
「嫌だ。みんなが嫌がってなりたがらないものにはなりたくない。 こんな話もうやめませんか、私はこれから大事なオークションに参加したいんですよ」
フェルはしばらく沈黙したまま、グラスの中の最後の一滴をじっと見つめていた。
「まあ良い、最後にもう一つ言うことがある。君の死亡届が出された時に君の家は売り払われてるから、宿を取っておいた方がいいよ」
しばしの沈黙。俺はワイングラスの縁を指でなぞりながら、フェルの言葉を飲み込んだ。
「……ふざけんなよボケが」
呟きながら椅子を引く。立ち上がった俺にズヴェーリが慌てて声をかけた。
「ちょ、ミヤザワ?どこ行くの?」
「オークション会場……」
それだけ言って背を向ける。扉に向かって数歩。だが、フェルの声が背中に届いた。
「気をつけろよ。ブラック・オークションでは盗品、贋作etc……とにかく客を欺く事を企んでる出品者は多い。大体はオーナーの手により弾かれるが、稀にそれを潜り抜ける
フェルの忠告を背に、俺たちは大市民天心館のフードコートを後にした。外はもう薄暗く、都市のネオンがじわじわと目を刺すように灯り始めている。
ズヴェーリは黙って俺の隣を歩いていたが、やがてぽつりと呟いた。
「ねぇブラック・オークションって本当に大丈夫なの?」
「さあね…ただ、ブラック・オークションの
ズヴェーリは小さく息を吐くと、視線を上に向けた。古びたネオンサインの先に、遠くぼんやりと明るい建物が見える。
「あれが……オークション会場?」
「ああ。『ブラック・オークション』だ。名前の通り実態はただの闇市の進化系だよ」
建物は、巨大な倉庫を改装したような構造だった。天井が高く、外観には装飾こそ少ないが、入り口付近には高級車やドローンのようなセキュリティ機器が並んでいる。
ゲートには、長いコートを羽織った男女が数人。どいつもこいつも愛や平和とは無縁そうな顔をしていた。
俺たちが近づくと、一人の男が前に出る。鋭い目つきに、無表情な口元。どこかで見覚えがある……気がする。
「……なんだ、まだ生きてたのか、ミヤザワ」
「お前悪党のくせに知らなかったのか?悪魔は死なないんだぜ」
軽口を叩き合いながら、俺は懐から小さな黒いチップを取り出す。それがオークション参加者の通行証代わりだ。 男がそれを読み取り機に通すと、緑の光が灯った。その光を確認した職員により、俺たちは無言のまま会場内へと招き入れられるのだった。