マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ   作:マネモブァ

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Battle.5爆丹拳

 ズヴェーリに促され、俺は崩れたミノタウロスの亡骸を背に、奥の扉をくぐる。

 ───途端、空気が変わった。

 先ほどまでの熱気は消え失せ、代わりに冷たい、鋭利な気配が肌を刺してくる。吐く息が白くなったような錯覚すら覚える。

 

「ここは、私が一人で辿り着けた最後の階層」

 

 ズヴェーリの声は、どこか慎重で……そして僅かに、悔しげだった。

 

「この先にいるのが、このダンジョンの中核の一角──『魔導鬼(ゴーレム)』そこまでは安全な道を案内できる。けれど、闘うのはあなた」

 

 ズヴェーリに案内されながら、俺は静かな通路を進む。壁は滑らかに磨かれた黒曜石で、床には歪んだ魔方陣の痕跡が無数に刻まれていた。

 

魔導鬼(ゴーレム)はただの魔法兵器じゃない。古代の呪術師が、鬼の死体と術式を融合させて作った呪骸……死体を利用しているから死なない。死なないからダメージを恐れない」

 

 ズヴェーリの説明が終わると同時に、通路の奥から"重み"が這い寄ってくる感覚がした。空間そのものが軋み、魔力が収束しているのがわかる。

 

「つまり、物理では殺せないということか?」

「正確には、"通常の手段では"。それより、来るわよ。前座に鬼が四匹。魔導鬼(ゴーレム)の練習台だと思って闘いなさい」

 

 ズヴェーリの言葉と同時に、地響きが起きた。黒曜石の床を踏み砕くように、四つの影が通路の奥から姿を現す。

 赤黒い皮膚。しかし、一見すると人間にも見間違える程に、人間を象っている。

 だが、殺意は十分キレている。

 

 昔…父から聞いたことがある…鬼の肉体は、最も人間に近く、最も人間から遠いと…実物を前にして、その意味がようやくわかった。

 こいつらの赤い皮膚に包まれている筋肉の密度は人間の比にならない。それでいて柔軟で、一切動きを阻害しない、格闘家として理想的な筋肉の配置をしている。

 

 一歩、鬼が踏み出す。

 その音だけで、空気が震えた。

 

「……羨ましいクソ野郎だぜ」

 

 思わず口元が緩む。恐怖じゃない。

 これは──興奮だ。

 

「えっ? ちょっと、なに笑って……」

 

 ズヴェーリの戸惑いが耳に入ったが、もう俺の目は、目の前の敵しか捉えていなかった。

 初手は右の個体か……これは、肘を引き、地を蹴る構え飛びかかってくる。

 

「かかってこいや」

 

 ───瞬間、鬼が跳んだ。

 

 速い。重量を感じさせない跳躍。狙いは、上段からの振り下ろし。

 だが、見切れる。

 俺の足が強く地を叩く。左へ半歩ステップし、肘で軌道を逸らす。そして空いた胴に、拳を──

 

「なにっ」

 

 拳が沈まない。"硬いッ"というより"反発するッ"という感覚。筋繊維の密度が打撃を受け止めて跳ね返す"常識外れ"の肉体。

 拳が弾かれる感覚と共に、鬼が一瞬でも動きを止めたのを見逃さなかった。だが、こちらの攻撃が通じたわけではない。筋肉が反発し、打撃を打ち消している。まるで上質なゴムの塊を叩いているかのようだ。

 

「おいおいマジか」

 

 俺の脳内で、再び父の言葉が蘇る。『鬼の肉体は、最も人間に近く、最も人間から遠い』──まさにその通りだ。動きは人間そのものでありながら、耐久力や反発力はまるで人間を超越している。

 

「まあええわ。お前らがザコキャラでないのはわかった」

 

 俺は未だに笑みを浮かべ、再度拳を構える。この戦いが面白いものになる予感がし、不思議と身が震える。とは言え、俺も馬鹿じゃない。鬼の筋肉が攻撃を弾くのなら、無駄に力任せにするのではなく、少しばかり工夫をするだけだ。

 寝技を使えば鬼の関節ぐらい破壊できるだろう。だが、寝技は一匹にしか掛けられない……となれば、残りの三匹に襲われるのは目に見えている。

 

「まっなんだってええけどな」

 

 震脚。地を揺らすほどの踏み込みにより、一瞬で鬼の懐に入り込む。

 

「灘神影流"爆丹拳"」

 

 相手の下丹田に気を込めた拳を叩きつけることで、 気を体内で爆発させ、それによって発する衝撃波が全身の毛細血管、更には脳にもダメージを与える……

 その瞬間、鬼の体がびくりと震えた。赤黒い巨体が、見えない衝撃に貫かれたかのように、その場で硬直する。一拍遅れて、咳き込むような音と共に、鬼の鼻孔から血が滴った。

 

 ───効いてる。

 

 確信に近い手応えに、俺は迷いなく次の動きに移った。今の一撃で目の前の鬼の神経系に致命的なダメージを与えた。

 一匹沈んだ。だが、間はくれない。

 咆哮とともに、二体目が突っ込んでくる。腕を振りかぶった大振りのフック。だが、見切れる。

 ステップイン。フックの内側に潜り込むように踏み込んで、懐に滑り込む。鬼の脇腹への貫手──

 

「"肉切包丁(ブッチャーナイフ)"」

 

 刃物のように鋭い指先が、まるで骨を断ち切る刃のごとく鬼の脇腹に突き刺さる。貫手に気を込め、皮膚の奥へ、筋繊維の奥へ、さらには内臓にまで届かせる。

 鈍い感触と共に、鬼の動きが一瞬止まる。

 そのまま手を引き抜くと、血と共に、内側の何かが裂けた感触が指に残った。

 鬼の口がカッと開き、悲鳴ともつかない息が漏れる。内臓が損傷している。すぐには死ななくても、確実に機能は低下している。

 

「次だ」

 

 身体を捻って背後に回り込み、背中へ追撃の膝蹴りを叩き込む。脊椎の一部がズレたような感覚。腰から崩れ落ちる鬼を、もう一発の追撃で床に沈める。

  前に顔を向けると、三匹目がすでに動き出していた。低く構えた姿勢、足を鳴らすような勢い──突進だ。

 狙いは胴体。全体重を乗せた体当たり。まともに食らえば、骨の一本や二本では済まない。

 けれど、俺は逃げない。否、逃げる暇もない。

 ならば、あえて鬼のタックルに逆らわず、倒れる勢いを利用する。

 

「灘神影流"釘車"」

 

 踏み込みと同時、倒れ込むような体勢から放たれた鋭い廻し蹴りが、鬼の側頭部に正確に叩き込まれる。凄まじい衝撃音。まるで鐘を打つような重く響く音が、骨伝導のように俺の足を通して返ってくる。

 巨大な鬼の身体が、勢いそのままに横へ吹き飛んだ。

 

 ドシャッ

 

 床に叩きつけられた鬼は、その場で痙攣しながらも立ち上がれない。脳震盪は確実に起こっているだろう。微かに開かれた眼球がわずかに泳いでいるのが見える。

 

 三匹目、沈黙。

 

 拳を軽く振って血飛沫を払う。とはいえ、まだ油断はできない。鬼は死んでいない限り動けるし、特にこの手の半知性型は、痛みや恐怖を上回る本能で動く。

 だが、次の動きはなかった。

 残る一体。最後の鬼は、俺と目が合った瞬間、わずかに後ずさった。動きの端々に迷いが見える。本能が告げているのだ──これは、勝てないと。

 俺は構えを解かずに、にやりと笑いかける。

 

「どういう負け方をしたい?失神KOか?それとも確実な死か?」

 

 煽るように声を掛けても、鬼は反応しない。ただ、呼吸だけが荒く、肩で風を吸っている。脚が震えている。──戦意は、もうない。

 

 そして次の瞬間。

 ガタン、と音を立てて鬼が膝をついた。片手を床に突き、頭を垂れる。──降伏の意思表示だった。

 俺はゆっくりと歩み寄る。降伏した鬼の頭上で立ち止まり、その震える背中を見下ろした。

 

「……その程度か。仲間がやられても、吠えることもできんのか」

 

 鬼は小さく震えるだけで、何も言わない。

 俺は溜息混じりに吐き捨てる。

 

「今日からお前は蛆虫だ。悪臭を放つ糞にたかりこの世で最も汚く蔑まれる蛆虫だ」

 

 言葉を聞いた鬼の背が、ビクリと震えた。だが、反論ひとつできない。恐怖に完全に呑まれたのだ。もはや武器ではなく、ただの肉塊──負けた奴ほど無様なものは無い。

 その様子を確認し、俺は静かに拳を下ろした。

 静寂が戻るダンジョンの一室。だが、まだ終わりではない。背後から──気配。

 

「……マジ?」

 

 振り返ると、ズヴェーリが呆然と立ち尽くしていた。目を見開き、口は半開き。まるで、信じられないものでも見たかのように。

 

「マジで……四体、全部一人で……?」

「ワシにやれ言うたのは、お前やないか」

「できると思わなかったから……鬼に物理は効きづらいから、ある程度追い詰められたところで助けに入って恩を売る気だったの」

「そんな考えで無茶振りするのは醜い!」

 

 ズヴェーリはバツの悪そうな顔で目を逸らした。

 

「……まあ、でも助かったわ。アンタ、マジで人間か疑うレベルだけど」

「でも嬉しいなぁ。この場所ダンジョンでは思う存分技を使える…で、このフロアのボスは何処なんです?」

 

 俺が尋ねると、ズヴェーリはようやく思い出したように首を縦に振った。

 

「この部屋を出て右手の通路を進んだ先、祭壇みたいな広間がある。そこが"魔導鬼"の居る部屋」

「約束通り案内してもらおうかァ」

 

 そう言って先を促すと、ズヴェーリは苦笑しつつも歩き出す。俺はその後をついて進んだ。

 通路は先程までとは空気が違った。空気が濃く、ぬめるような魔力が肌にまとわりつく。壁に描かれた奇怪な紋様、焼け焦げたような痕跡、足元を流れる血のような液体、不思議と俺の心は昂ぶっていた。

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