マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ   作:マネモブァ

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評価に色が着いた。俺も嬉しいぜ!


Battle.6あーっ幽玄の技が少ねぇよ

 ズヴェーリの案内で進んだ先の部屋は、これまでとは空気が違って、その場にいるだけで重い。まるで湿った鉛が空気に混じっているような、息苦しい圧力を感じる。 石造りの大広間。その中心に、それはいた。

 全高三メートルを超える巨躯。全身は漆黒の魔力で覆われ、ところどころ魔術による刻印のような文様が脈打つように輝いている。顔はなく、代わりに仮面のような角張ったプレートが前面を覆っていた。

 

「久しぶりに見たけどデカイわね……これが元はさっき貴方が闘った鬼と同種族なんて信じられないよね」

 

 ズヴェーリが呟く声には、皮肉よりも畏怖の方が濃く混じっていた。魔導鬼──この階層のボス。先ほどまでの鬼たちとは比較にならない程の覇気に満ちている。

 

「い…今更だけど本当にこいつを倒さなきゃ進めないんだよね? 抜け道とか」

「少なくとも私は知らない。大丈夫、今度はちゃんと手伝うから」

「当たり前のことを抜かすな!!」

 

 怒鳴り返すと同時に、俺は一歩、前へと踏み出した。

 

   ヌッ

 

 粘つくような音と共に、魔導鬼の全身に走る魔力刻印が淡く明滅した。動きは遅いが、その一歩一歩が、まるで地面ごと沈み込ませるような重さを持っている。黒い魔力が地を這い、広間全体がその領域に染まっていくような錯覚を覚える。

 

「ア゛ッア゛ッ」

 

 声帯が発達しているとは思えないその身体から、異様な音が響いた。声というより、濁った魔力が直接空間を震わせているような、不快な振動。

 

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

 

 突然の奇声に、空間そのものを震えているかのような錯覚を覚える。魔導鬼の仮面の奥、何もないはずの空洞から、濁流のようにあふれ出す咆哮。圧が、音が、空気を引き裂き、俺の身体を硬直させる。

 

 絶対不快音。二五00~五五00ヘルツの周波数で高い音圧を放つと、大脳の聴覚・副腎皮質系に反応し、自律神経失調を引き起こす。

……それを知識として知っていたはずなのに、今の俺には何の役にも立たない。

 

 瞬間、眼前に魔導鬼の巨大な拳が迫る。

 来る───とわかっていても避けられない。 視覚が捉え、理解が追いついても、身体が動かない。

 まるで時が粘つくような感覚。周囲の空気すらも魔導鬼の魔力に圧し潰され、動きの自由を奪われている。逃げろ、避けろ、伏せろ、と脳が喚いても、肉体が従わない。

 そのとき、俺の視界を青白い閃光が横切る。

 その正体は、ズヴェーリの魔術だった。収束された雷撃が魔導鬼の拳に直撃し、炸裂音と共に魔力の軌跡が広間を照らす。拳がわずかに軌道を外れ、俺の肩先を掠めて床を穿つ。

 

 衝撃で吹き飛ばされ、石畳に背中を打ちつけた。肺から空気が抜け、視界がぐらつく。

 

「立って、まだ終わってないわよ!」

 

 ズヴェーリの怒声が飛ぶ。彼女の周囲には複数の魔術陣が展開されており、空間に螺旋状の魔力の流れが生まれている。音の干渉、抑制、そして展開──彼女の魔術は、魔導鬼の咆哮への対抗手段となっていた。

 

「音は空気の振動……全く逆の波長の音をぶつければ掻き消える。あんたが動かないなら、私が──」

「こんなもの脅威のうちには入らない…ただのよくあるアクシデントでしかない」

 

 言葉を返した自分の声が、耳の奥で反響する。全身を貫く痺れと痛み、それでも立ち上がる脚を止める理由にはならない。ただの虚勢か、それとも自分を奮い立たせるための呪文か。

 ズヴェーリが一瞬、驚いたように目を見開くも、すぐにニヤリと口元を吊り上げる。

 

「……言ったわね、なら死なないでよ」

 

 展開された魔術陣が再び輝きを増し、雷撃が螺旋を描いて収束していく。彼女の魔術は的確に咆哮の波長を打ち消し、周囲の空気を徐々に沈黙させていく。

 だが、魔導鬼は止まらない。仮面の奥から放たれる咆哮は、なおも空間を震わせ続け、抑制された振動の向こうで、再び拳を構える。

 俺は駆け出し、 その巨躯の懐へと潜り込むと、飛び上がって首に脚をかける。

 ズヴェーリが作り出した、わずか数秒の静寂──その奇跡にすがるように。

 耳鳴りの奥で、自分の心音が爆ぜる。息が詰まり、視界が狭まる。だが、それでも拳は迷わない。

 

「灘神影流"一寸棒死"」

 

 魔導鬼の耳の穴に両の手の人差し指を突っ込む。……たとえ改造されていようが、死体であろうが、元は鬼の肉体。人型を模している以上は、人間とさほど急所は変わらない。このまま、耳の中にある急所を突かせてもらう。

 ずぶり、と指が沈む。

 肉の奥にある、かつては聴覚器官だったであろう柔構造へ、正確に突き立てる。

 硬質な骨膜の裏──そこに集う神経束へ、精確に指を差し込む。普通であれば、これで意識を失うはずだ。

 

 しかし、魔導鬼は倒れなかった。

 

 仮面の奥で、何かが軋む。悲鳴にも似た、しかし決して人間のものではない音。

 それは怒りでも苦痛でもなく、異常な執念の産声。もはや肉体が命令に従っているのではなく、呪いそのものが身体を動かしているかのようだった。

 

「チィィィィィ……ギィィィィィ……」

 

 硬直した体が震える。だが、崩れない。

 確かに急所は撃ち抜いた。神経への干渉も完了している。なのに、まだ立っている───

 

「おいおい、灘の秘拳が効いてないのか?それともお前がタフなのかどっちや」

 

 言いながらも、内心では焦りの色が滲んでいた。

 技は確かに決まっていた。人ならば昏倒している。だが目の前の化け物は、倒れるどころか、仮面の奥で軋むように笑っている──そんな錯覚すら抱かせる。

 

「ミヤザワ!そいつにはどこを攻撃しても意味無いのっ!胸の奥にある核以外はダメージにならない!!」

「我ながらチャンスを生かし上手く攻撃を当てたと思っていたが…チャンスを無駄にしてしまって、もう先に言ってくれって思ったね」

 

 だが、今さら引けない。  脚に絡めたままの魔導鬼の首が軋む。次の瞬間、咆哮ともつかぬ、ただの風圧の塊が口元から漏れ、俺の体を吹き飛ばさんとする。

 

 振り落とされる寸前、俺は魔導鬼の胸元を見据えた。

 

 そこに、確かにある。仮面の下、黒鉄の装甲の奥──青白く脈動する“核”が、胸の内側にあるのを気で捉える。

 

「"幽玄真影流"の真髄は、見えないものを見えるようにする……」

 

 俺は脚で首を締める勢いを利用し、反転して魔導鬼の胸板に飛び込む。

 

「八巻流体術"徹貫掌"」

 

 掌底が装甲にめり込む。重い手応え。だが、砕けるべきものはまだ先にある。  俺は拳に力を込めたまま、気を集中する──

 

「灘神影流に二つの目付けあり"気眼・空眼"」

 

 見えた。感じた。魔導鬼の胸の奥、黒鉄の装甲と歪んだ肉体の狭間に、青白く脈動する魔力の塊がある。 命令でも感情でもない、呪いそのものを動力源とする狂気の心臓。

 

「はーっ魔導鬼よ死ね!」

 

 掌底がさらに深く突き入り、内部だけを破砕する衝撃が魔導鬼の胸腔を走る。 拳に伝わる振動が確かな感触を告げた。硬質な何かが割れる音。視界が、一瞬、白く染まる。

 

 魔導鬼の仮面がわずかに傾く。その仮面の奥、空洞だったはずの中から、黒い煙のようなものが吹き出した。

 

 「……ッ……ア゛……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 咆哮が崩れる。音ではなく、もはや断末魔。魔力の奔流が制御を失い、周囲の空間を引き裂くように暴れ狂う。

 

「下がって、ミヤザワッ!!」

 

 ズヴェーリの怒声が響いた瞬間、彼女の展開した魔術陣が眩く輝いた。  魔力の爆発に対抗するように、雷撃が天井を貫き、音の壁を形成する。

 

 俺の身体は弾かれ、床を転がる。だが、今度は受け身を取れた。肩が痛み、息が荒い。それでも、もう立ち上がる力は残っていない。

 視界の隅で、魔導鬼が仰向けに崩れ落ちるのが見えた。胸の装甲が裂け、そこから噴き出す黒煙が天井へと吸い込まれていく。

 

 静寂が戻る。

 

 張り詰めた空気が一気に緩み、俺はその場に仰向けに倒れ込んだ。背中に感じる冷たい床の感触さえ、今は心地いい。

 隣に膝をついたズヴェーリが、魔術陣の余波を静めながら俺を覗き込む。

 

「無事……みたいね」

 

 その声は、棘が抜けていた。冷たい氷のような態度の奥に、確かな安堵があった。

 俺は笑った。喉の奥が焼けつくように痛いが、それでも声にした。

 

「ありがとう、ズヴェーリ……仲間として……お前に助けてもらった……」

 

 それは、心からの言葉だった。照れ隠しも、強がりもない、ただ素直な感謝。

 ズヴェーリは少し目を見開き、そして小さく鼻を鳴らした。

 

「……当然でしょ。仲間なんだから。あなたが倒れたら、私は地上に帰れなくなっちゃうじゃない」

 

 魔導鬼を倒したことで奥の扉も開いたようで、地下の空気に微かな変化が生まれていた。淀んでいた魔力の流れが緩み、冷たい風がゆるやかに吹き抜ける。

 

 「ふぅ、ようやく先に進めるわけね……ここから先は私も初めて立入る階層。…鬼が出るか蛇が出るか…ってやつね」

 

 ズヴェーリが立ち上がり、ローブを翻しながら進路を確認する。俺も壁に手をつきながら身体を起こす。体が鉛のように重く感じるが、今は休んでる暇は無い。

 

「御出発だぁっ」

 

 俺たちは並び立ち、開いた扉の向こうへと足を踏み出す。そこに待ち受けるものが何であれ、迷いはない。

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