マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ 作:マネモブァ
「なんじゃあ、お前喋れるのか」
口は動いていなかった。声帯すら存在しないその異形が、それでも"意思"を持ってこちらを見ていることがわかる。理解する前に、脳が情報を捻じ曲げて受け入れてしまう──それほどに強い。
確かにこの強さはフロアボスなんかに収まらない強さ…まるで──
『そう。我こそがこのダンジョンの主なり』
「なにっ心が読めるのかぁ!!」
『心など読んでいない。貴様の存在が、言葉よりも雄弁なのだ』
ナーガの声が、ずしりと脳を圧迫する。言葉というより、意味そのものが押し込まれてくる。
「この怪物の目的は…!?」
『怪物ですか…確かに間違ってはいませんが……あなたに合わせて言うのなら「ククク、ひどい言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど」と言ったとこですね』
その言葉に、一瞬だけ場の空気が歪む。ズヴェーリが呆れたように眉をひそめ、俺も思わず目を細めた。
「お…おいナーガ。お前なんかキャラが変わってるぞ」
『人の形を真似て久しくてね。少しばかり、こういう対話にも興味が出てきたのだ。ふふ、人間らしいだろう?』
その異形は、玉座から立ち上がることもなく、まるで演技を楽しむ舞台役者のように言葉を弄んでいる。だが、内面の禍々しさは何一つ薄れていない。むしろ、"理性"という殻を持ったことでより恐ろしく映る。
『目的の話であれば、そこの少女……ズヴェーリと言いましたか。その子を外に出さないで頂きたい』
ズヴェーリが一瞬、足を止めた。冷たい視線が、異形へと向けられる。
「犬は理由を言えよ」
短く問うと、ナーガは愉悦を滲ませるように応えた。
『彼女はこのダンジョンで生まれた。つまりは、私の子ということだ。"
「どうやら話をするのが苦手なタイプみたいやな」
俺が吐き捨てると、ナーガの"顔"らしきものが、わずかに歪んだように見えた。まるで、その指摘が図星だったかのように。
『……ふむ。理屈で通じぬか。ならば、本能で刻み込め』
「おっ反応があった。やっぱホンマのこと言われたらハラ立つんやな」
俺の言葉に、ナーガの気配が一層濃く、重たくなる。空間そのものが沈み込むような圧に、ズヴェーリの髪がふわりと揺れた。
『……貴様、愚かだな。だが、それでこそよい。言葉の応酬など、所詮は前座。真の対話は──血と力でこそなされる』
「ええやん。ワシは南京町のブタマンと同じくらいケンカが好きやねんで。
俺が口角を上げてそう言った瞬間、ナーガの気配が弾けた。重圧が一気に爆発する。闇が蠢き、玉座の周囲の空間が波打った。
『ならば、喰らうがいい。我が“存在”そのものを──』
言葉と同時、ナーガの身体が巨大な蛇のように解けて伸びる。まるで影が命を持ったかのように、黒き触手がこちらへと殺到してくる。
「これが幽玄のかわし」
『無駄だ。それは既に
黒き触手が空間を裂きながら迫る。圧倒的な質量を伴ったそれが、地を砕き、腹に刺さる。
ボゴッ
腹に熱が走ったかと思えば、俺の身体が吹き飛ぶ。後ろのズヴェーリが小さくなる。壁に叩きつけられる寸前、視界が一瞬、赤に染まった。
いや、違う。赤じゃない。"警告色"だ。命の警鐘が、頭の奥で鳴っている。
『"幽玄のかわし"それは視覚に存在する周辺視野を利用した技。君が自分で説明していただろう。私のように視覚を利用しないものには無意味だ。まさか、上半身が人間だから視覚に頼っているとでも思ったのかい?』
──その瞬間、二撃目が来た。
言葉の余韻など一切与えず、音もなく、横から。気配も殺して、まるでこの空間そのものが牙を剥いたかのように。
「ぐうっ」
意識がグラつく。肋骨の一本、たぶん折れた。踏みとどまろうと足に力を込めた瞬間、今度は背後から三撃目。
『私はね、このダンジョンで起きたことは全てわかるんだよ。人は正体不明の物と対峙したとき不安になり恐怖を増大させるもの……暗闇の中で風に揺れる柳葉を見て幽霊と間違えるようにね。推理小説の謎解きやマジックの種明かしも答えがわかってしまえば意外と単純だったりする。──だが、君は最初に"種"をばらしてしまった。そこが失策だったね。』
四撃目が来る。今度は足元から。まるで地面ごと抉るような一閃。靴底が裂け、足の甲に激痛が走った。
「調子のんな……」
呻きながらバランスを取り直すが、もう立っているのがやっとだ。ズヴェーリの叫びが、遠くで響いているように聞こえる。
『視えないものを、どう避ける?答えは簡単。避けられない、だ』
ナーガの言葉と同時、五撃目。呼吸の隙間を突いて、斜め上から振り下ろされる。
「灘神影流・弾丸すべり」
黒き刃が、俺の肩をかすめて抜ける。だが、“弾丸すべり”で力は逸らした。斬撃の衝撃は背後の石壁を粉砕するに至ったが、俺自身はまだ立っている。
『そう言えば、それもあったね。でも辞めておいた方がいいと思うよ。そんな傷ついた身体じゃ立ってるのがやっとでしょ』
「確かに傷ついている⋯⋯ 俺の自尊心がなぁっ」
傷だらけの拳をぶら下げながら、一歩、また一歩と前へ出る。
「かーっ、ワシはなんてやさしい人間なんや。
血でぬかるむ床を踏みしめて、拳を握ろうとする。が、指がうまく動かない。
目は霞んで景色は歪んで見える…… 体中があちこち悲鳴をあげとる…… も…もう呼吸をするのもしんどい… はっきり言ってさっきの弾丸すべりすら奇跡だ。
「ふ…不思議やなあ」
体が前に出る。こんなに痛いのに、諦めようと思えない。
何がそんなに引っかかっているんだ……?ズヴェーリを助けたい?違う。俺はそんな良い奴じゃない。
傷つけられた恨みからか?それとも怪物を倒そうと言う虚栄心から?
───どれも違う気がする。
もっと……もっと根っこのところで、「お前はダンジョンの子だから、外には出られない」だの、「摂理」だの、「当然」だの、勝手に線を引いて、勝手に決めつけてくるその物言いが……
「……泣きたいくらい腹立つんやっ」
「ミ───危な─────!!!」
ズヴェーリが叫んでいる。何を言っているんだ?聞き取れない。
『哀れだね。せめて、痛みも感じずに終わらせてあげよう』
ナーガの身体が再び形を変える。伸びた触手が刃のように鋭利に尖り、音もなく地を滑るように迫ってくる。
な……なんだこれは……俺は空の上にいるのか? お…俺が見える。ナーガも見える。触手が俺の胸を貫こうとしている…… しかもこれは目で見てるわけじゃない!脳に直接映像が浮かんでくる。
まるで全てがスローモーションのようだった。触手の軌道、ナーガの僅かな重心のズレ、ズヴェーリの表情。そのすべてが、身体に刻まれる。
"思考"ではない。"理解"ではない。
──本能が勝手に動いた。
無意識のうちに迫る触手を回避していた。
反応は一瞬。いや、時間の感覚すら狂うほど、鋭く、完璧な動きだった。
刃のような触手が俺の鼻先を掠めて通り過ぎ、背後の地面を深く抉る。石が割れ、砂煙が舞い上がる中、俺は足を地に叩きつけるようにして踏みとどまっていた。
「マ…マジか」
息が漏れる。だがそれは恐怖ではなく、ただの驚嘆だった。
『ほう、今のを避けるか。なるほど……その身は滅びかけていても、“魂”はまだ折れていないようだね』
ナーガの声音が変わった。冷静さの中に、ほんのわずかに、苛立ちが混じっている。
「あったり前やん、ワシはタフが売りもんなんやで!」
『
ナーガの言葉は氷のように冷たく、皮肉に満ちていた。だが、それに対する返答は──
「めっちゃ嬉しいわ」
そう言って、俺はにやりと笑った。
血の味が口の中に広がる。目の前はぐにゃりと歪んで、何がどこにあるのかもあやふやだ。けど、なぜだか、心だけは妙に澄んでいた。
手のひらを合わせ、祈る。
『なんだかんだ言って、最後は神頼みですか……もういいでしょう。ここで終わりにして差し上げましょうッ!!』
ナーガの声が鋭く跳ねた瞬間、ナーガの巨体が唸りを上げて迫る。
だが──
「菩薩は慈悲の心… 相手を恐れることなく慈しむように祈り… 全身全霊で受け止めよ! たとえ死地に陥ろうとも心 乱してはならない… これ菩薩の境地…!!」
声が、響いた。
それは呪文でもなければ、魔法でもない。ただの独り言のように静かだった。
「灘神影流奥義…菩薩拳!!」
両の手を合わせ、握り込む。象るは菩薩。
その姿に、ナーガの動きがわずかに鈍った。まるで、迫る暴力の奔流に、微かな"畏れ"が生じたかのように。
『……何の真似です? 祈って死ぬのが貴方の流儀ですか?』
ナーガが迫る。触手が振り下ろされる。大気を切り裂く轟音が響く。
だが、その瞬間───
「しゃあっ!」
俺の拳が、触手を迎え撃つように突き上げられた。
ボッ
音がした。肉が裂ける音でも、骨が砕ける音でもない。空間そのものが「揺れた」音。
拳と触手がぶつかる。一瞬で均衡が破れ、ナーガの腕が逆に弾き飛ばされ、その胸に、拳が刺さる。
『な…なんですかあこれはァ む…胸に変なものが浮かんできたですゥ 菩薩だ…菩薩が出てるですゥ』
ナーガの悲鳴とも呻きともつかぬ声が響く。拳が突き刺さった胸元に、確かな跡が浮かんでいた。
そこには、苦痛も憎悪も無く、己も相手も"無の極地"になる。これぞ、灘神影流秘中の秘"菩薩拳"なりっ。