マネモブだからと追放されました~俺は500億稼いで灘・真・神影流使えるけど元チーム大丈夫?今更戻ってこいと言われても遅すぎを超えた遅すぎ。いくらなんでも戻るわけねぇだろゴッゴッ   作:マネモブァ

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Battle.9決着

 信じられなかった。

 まさか、目の前に怪物が仰臥し、それをしたのが人間だなんて。

 

 あの怪物は"理"だ。摂理の化身。抗えないもの。抗ってはいけないもの。本能が、そう訴えてきた。私は疑わなかった。疑えるはずもなかった。だって、逆らえば、消える。触れられれば、終わる。そう確信するだけの、圧倒的な存在感があった。

 

 なのに、なのに、()()は、人間の拳をくらい倒れている。──ありえない。でも、事実だ。

 拳を握りしめて立っているその背中は、傷だらけで、呼吸もままならないはずなのに。

 

 それでも彼は、「立っていた」。

 

 ナーガが怪物だと言うのなら、彼もまた、怪物だった。 そして、やはりナーガもまた、"怪物"だったのだ。

 

 立ち上がってくる。

 地を這うように、その体が、また、形を変える。倒れたまま終わるつもりなど、初めからない。

 立ち上がったナーガの姿は、正しく人を象っていた。 

 だが、それはただの模倣だ。皮膚の代わりに全身を覆う蛇の鱗は、硬質な光沢を帯び、動くたびに不気味な音を立てた。 胸元には、あの拳が刻み込んだ“菩薩”の痕跡が、燃え残る烙印のように浮かんでいる。

 

 ───異形と神聖が、ひとつの身体に同居している。

 私は息を呑んだ。畏怖と混乱と、そして、なぜかほんの僅かに、感動すらあった。

 これが"戦い"というものなのか。

 理を穿ち、恐怖を凌駕し、それでもまだ、終わらない。

 

「待てよ、物語はこれから面白くなるんだぜ」

 

 彼がそう言った瞬間、私の胸の奥で、何かが震えた。

 足が動いた。息が詰まりそうな恐怖を、ほんの少しだけ、押しのけて。

 視界の隅で彼が振り返る。その目が、一瞬だけ私を捉えた気がした。

 まるで、言ってくれているようだった。

 

 「お前も来いよ」って。

 

 ……そんな気がしただけだ。

 でも、私はこの時、はっきりと分かっていた。

 ───この闘いの"続きを"、私は見届けなければならない。

 

─────

────

───

──

 

 先に動いたのは、ナーガだった。

 脚を切断するかのような鋭いローキックが、彼の脚を狙って振るわれる。

 鱗に覆われた足が、刃のように唸る。

 

『ぐうッ』

 

 しかし、崩れない。

 彼は──膝を引き上げていた。

 ローを受ける脚の膝を、わずかに上げ、外側で受け止めた。

 

 破壊に抗うための、たった一つの防衛。

 痛みはある。だが、壊れてはいない。

 

 ナーガの目がわずかに細まる。

 それは怒りか、驚きか。それとも──喜びか?

 

「灘神影流"霞打ち"」

 

 彼の腕が消えた。いや、違う。速すぎて見えないだけだ。

 肉が裂けたのでも、骨が砕けたのでもない。

 ただ──「空を叩く」音がした。

 

 ナーガの顔が、仮面のように引き攣る。

 彼の拳が突き出された先、鱗の隙間が、確かに沈んでいた。

 彼の操る霞打ちは、確実に芯を穿っていた。

 

『……なるほど、これが……"闘い"ですか』

 

 ナーガが笑った。その笑みは、もはや神でも怪物でもない、武闘家の顔だった。

 しかし、ナーガもまた一筋縄ではいかない。神速の打撃の隙間を縫い、彼の痛めた肋にジャブを直撃させる。

 

 音が、遅れて届く。

 肋骨がきしんだ。肺が一瞬だけ膨らむのを忘れたように、空気が逃げた。

 

「……ッ!」

 

 踏みとどまる。膝が沈む。だが、崩れない。

 拳が──彼の拳が、再び振るわれた。

 

 ナーガは笑っていた。喜悦すら感じさせる表情で、次の打撃に備える。

 そして次の瞬間、両者の体が、軌跡を描くように交錯した。

 

 

  

 

  

 

 ──連打。

 速さは霞を超え、重さは理を断つ。

 腕と腕、拳と鱗、意志と意志が、何度も何度も、火花のようにぶつかり合う。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

 息が荒い。それでも笑みを浮かべるのは彼の方だ。

 肋の痛みすら、彼の魂に火を灯す燃料でしかなかった。

 

『……この身体も、そろそろ限界か』

 

 ナーガが小さく呟いた。だが、それは諦めではない。

 むしろ、これから"真価"を見せるという、獣の低い咆哮に近い。

 

 ──ナーガの体が、また変わる。

 より人を模した姿へ、いや、より“闘う者”として洗練された姿へと。

 蛇の鱗が幾層にも折り重なり、まるで鎧のような硬度と柔軟さを併せ持つ構造に変化していく。

 

「灘神影流は人間相手につくられたもの……そっちの方が御しやすい」

 

 そう呟いて、彼は構え直す。

 灘神影流・構えの一つ、"鶴王の構え"──攻防一体の型だ。

 

「来いや・・・地獄へ行くのは貴様じゃ・・・ッ」

 

 挑発ではない。宣言でもない。

 それは、ただの事実だと、彼の佇まいが物語っていた。 ナーガが応じるように地を蹴る。

 その一歩は雷鳴のようで、質量そのものが押し寄せてくる。

 

 空気が震えた。

 殴りかかる拳ではない。圧そのものを叩きつけてくるような突進。

 

 だが、彼は動じない。

 一瞬…寸毫でも躊躇すれば潰される。自ら動き支点を変化させ力の方向を変え……"崩す"。

 

「灘神影流"巨岩返し"」

 

 地を這うような重圧が、わずかに逸れる。

 支点をズラされ、軸が崩れ、ナーガの身体が宙を舞う。 人智を超えた質量が、重力のままに翻る様は、まるで山が転がるかの如く。ナーガが地面に叩きつけられる。だが──それで終わりではなかった。

 

 即座に彼が乗る。

 組み伏せ、両脚を使って胴を挟み込み、片腕をとる。

 

 関節技、腕絡み。

 だが、簡単には極まらない。ナーガの腕は異常な可動域を持ち、さらに鱗の鎧が干渉を邪魔してくる。

 

『ッ……無駄です。関節はテコの原理。1ミリでもズレれば決まらない』

 

 地を這うように、ナーガが体をねじった。

 まるで蛇が自らの体で締め付けを解くかのような、異様な柔軟さ。

 だが、彼は離さない。むしろ、それに合わせて動く。相手の体を読んで、次の一手へと移る。

 即座に腕から首筋へ、片足を差し込み、下から組む───

 

 三角絞め。

 

 が、ナーガが立ち上がろうとする。重力を利用して潰しにかかる。

 瞬間、彼が体をひねって体重移動、反転しながら下から掴み、さらに仕掛ける。

 

「灘神影流・大蛇固め」

 

 腕・肩・頸・膝・踵を同時に極める。

 締まる。

 喉から異音が漏れた。

 この体制に入れば、骨を脱臼させることも折ることも、頸動脈で絞め落とすことも可能。我慢すればするほど体力が削られていく──これが灘神影流・大蛇固め。攻防の概念を殺す、灘神影流特有の完全固定(ロック)。だが──

 

『……なるほど。確かに理不尽だ』

 

 ナーガが笑った。地を這うその喉元から、くぐもった嗤い声。

 

『だが……それでも、私は──まだ"完成"していない』

 

 その瞬間、ナーガの鱗が"壊れた"。

 否、それは破壊ではなかった。脱皮だ。

 圧倒的な力を以て、締め上げる拘束を内側から突き破る。 まるで「灘神影流」が、その技そのものが、ナーガの進化を促したかのように。

 

「……抜けたッ!?」

 

 彼が気づいた時には、すでに"中身"が別の場所へとずれていた。

 締めていたはずの関節の感触が消える。

 そして───

 

『次は、こちらの番です』

 

 突如として、重心が逆転する。

 ナーガがそのまま体を反転し、足を絡め取るように彼の腰を抑え込む。

 極められていたはずの足関節が、今度は彼自身の急所へとねじり込まれる。

 

「くッ──!」

 

 力で振りほどこうにも、ナーガの"新たな身体"はさらに柔軟で、さらに強靭。

 まるで人間と蛇の構造の「いいとこ取り」……否、それを戦いのためだけに特化した生命体。

 

 関節が鳴る。

 だが彼は、歯を食いしばったまま目をそらさない。

 

『ありえないとは思いますけど…"まいった"と言ってもらえませんか?』

「ぐッ……!」

 

 関節が、きしむ音を立てる。

 だが──彼はなおも、微動だにしない。いや、正確には"見極めていた"。

 ナーガの進化した肉体。それがどれほど強靭でも、関節という構造がある以上、無限ではない。

 彼はその目で、確かに"わずかな遅れ"を見た。

 

「関節では俺は負け無しなんだよーっ蛆虫野郎ッ!」

 

 その瞬間、彼が動いた。 逆に自分の関節を犠牲にして、強引に体をねじる! 痛みに顔をしかめることすらせず、強烈な回転でナーガの重心を狂わせる。

 

「灘神影流・岩鉄捩じり」

 

 地面を蹴る反動を利用し、体ごとひねる。その動きは、まるで巨大な竜巻を思わせるものだった。

 ナーガの体が大きく揺らぐ。

 

『──あ……っ!?』

 

 一瞬、進化したはずの肉体が悲鳴をあげた。それは"未完成"ゆえのほころび。どれほど強靭でも、構造に矛盾があれば崩れる。

 その刹那、彼はもう一手、畳みかけるように動いていた。

 

「"破心掌"」

 

 反転しながら叩き込まれる掌底。突き刺すような一撃が、ナーガの胸を撃ち抜いた。

 衝撃が心臓まで伝わり──一瞬、ナーガの身体が硬直した。

 

 全身の筋肉が異常に収縮し、まるで内側から衝撃波に耐えているかのような奇怪な動き。だが、それすらも彼には読み通りだった。

 心臓は、最も強靭で、最も脆い──。

 

『がっ……!』

 

 呼吸が詰まり、ナーガの目が大きく見開かれる。あの異形の肉体が、まるで壊れた機械のように痙攣を始めた。

 

 その様を見据え、彼は最後の構えをとった。

 

「死と直面しても心乱してはならない 慈しみ祈り全身全霊で受け止める これ菩薩の境地なり 捨て身の拳は"死地に陥れて然る後生く" 灘神影流"菩薩拳」

 

 低く呟かれたその名は、静かに、だが確実に“終わり”を告げる。

 

 沈んだ体勢から、地を蹴る。極限まで溜められた力が、まるで噴火のように爆ぜる。わずかに遅れて空気が破裂し、そして──

 

 音が消えた。

 

 空間そのものが、圧力で凍りついたような静寂の中、彼の拳が、全霊を込めて突き出された。

 ナーガの身体が、まるで杭で打ち抜かれたかのようにその場で震える。

 

 無音の一撃。

 

 ───そして、世界が追いついた。

 

 地鳴りのような衝撃音が遅れて空を割り、周囲の空気が爆ぜる。崩れ落ちた石片が浮き上がり、風の奔流に巻き込まれて舞う。

 

 ナーガの肉体が、沈黙の中で崩れた。

 

 破壊ではない。祈りにも似た慈悲の拳───その名の通り、“菩薩”の一撃だった。

 彼の拳は、相手の命を刈るためのものではない。ただ、避け得ぬ運命と相対し、それを抱きしめるために振るわれた。

 そうして、菩薩が蓮の花に変化する。

 

 灘神影流活殺術

  至高の技…

 "蓮華・菩薩"

 

 カウンターで放たれた"菩薩拳"。無防備な胸元への"破心掌"、さらに先程の"菩薩拳"。

 灘神影流三連弾の打撃によりナーガの心臓は疲弊しきっている。

 "蓮華・菩薩"は命の灯火が消えかかってる証。

 

 ──ナーガの目が、静かに開かれる。

 


 美しいと思った。ダンジョンの主として生まれ出て、私自身、多くの人間を葬ってきた。

 ──だが、こんな風に終われるのなら。

 こんな風に、誰かの拳に魂を委ねられるのなら。

 

 「闘い」とは、殺し合いではなかったのだと。

 「敗北」とは、ただ朽ちることではなかったのだと。

 

 気づいたのは、すべてが終わったあとだった。

 体はもう動かない。意識も、ほどけるように薄れていく。 それでも、最後に残った「私」は、ただ静かに見ていた。

 

 あの拳が貫いたのは、私の「肉体」ではない。

 ずっと、どこかにこびりついていた怨念。

 宿命に取り憑かれ、進化を追い求め続けた、歪んだ執念。 それが、あの闘いで、祈りのような技で、祓われたのだ。

 故に、私は言わねばならん。この言葉を───


 

『参りました』

 

 声は震えていた。だが、それは敗北の痛みによるものではない。魂に触れた者だけが知る、本当の「闘い」への畏敬。

 

 ナーガは、静かに地に膝をついた。

 

『私の肉体は完成しなかった。だが……魂は、少しだけ……』

 

 言葉の続きを語る前に、ナーガの体から力が抜けていく。 だがその顔には、微笑があった。

 

 彼──灘神影流の継承者は、構えを解き、静かに一歩、後ずさる。拳をおさめ、合掌する。

 

「ありがとうございました」

 

 その一礼は、勝者としてではない。

 ただ、一人の武を求める者として、等しく魂を交わしたことへの礼。

 




ちなみにこの作品は灘と幽玄の技出し切ることが目的らしいよ
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