人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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俺は有給使って……とにかくひたすらダラダラしたいです……!




12:契機

 

 

 

 閑散としたカフェの店内、その奥のテーブル席にて女王による尋問会が開かれていた。

 

「つまり、あの方と話していたのは、あくまで近況報告と中間テストについてであり、この中間テストでは急な範囲変更があり、それは例年通りの出来事だと……そういうことですね?」

 

「そう。あの人は此処の卒業生だからね、先輩方から聞いた話の裏を取りたかっただけだよ」

 

 テストの範囲が急に変わるというのは嘘ではない。2年のD、Cクラスの先輩を買収して、尚且つ裏まで取ってある情報だ。

 

 そして、仮に彼女がこの答えにいくら疑いを持っていようが、これ以上は掘り下げようがない。

 

 彼女が尋問出来るのはあくまで、俺がミーナさんと話していた目的について。

 

 当然、俺が彼女に過去問の確保を依頼した事など知り得ない。

 

「しかし、世の中って案外狭いのね。アンタの知り合いがここの卒業生で、しかも此処で働いてるなんて」

 

「ああ、俺も知った時は驚いたよ。だから一度、会って話したかったのさ」

 

 我ながら何とも白々しい嘘を吐いたと思う。

 

 とはいえ……ここまで話を持っていくのは大分骨が折れた。

 

 彼女らに話した内容はこうだ──

 

 ──ミーナさん及び、彼女の家族は俺の両親との昔からの付き合いであり、彼女の家族は両親が亡くなった際に、俺の面倒を見てくれた。

 

 そして、ミーナさんは高育の卒業生であり、現在はこの映画館の従業員として働いているとのこと。

 

 当のミーナさんも俺が入学したことをつい最近知ったようで、仕事の合間に顔を合わせて、俺の近況報告ついでに、後に控えている中間テストついて話していた。

 

 ──という設定にしてある。

 

 なんというか……ミーナさんには悪いが、色々と嘘の過去を捏造してしまった。

 

 いや、俺としてもここまで複雑な内容にするつもりはなかったのだが……

 

 坂柳さんの追及が止まらなかったのもあり、矛盾しないよう設定を追加していったら、こんな形になってしまった。

 

 とはいえ、これでも一番無難な形には持っていけたと自負している。

 

 捏造とはいえ、坂柳さんも俺に親族がいないというのは知っているからな。

 

「事情は分かりました。しかし、男女であの距離感というのはあまり感心しませんよ?」

 

 いや、俺からしたら坂柳さんもあまり大差無い気がするんだけど……

 

「慎君?」

 

「……はい。しかと心に刻んでおきます」

 

 依然、不服なことに変わりはないが、これ以上彼女の機嫌を損ねるというのは愚策の極み。

 

 なれば今回は甘んじて己の非を受け入れよう……というか毎回そうしてる気がするな。

 

「というか、こんな所で油を売っていて良いのかい? 葛城さんも今回の勝負に色々と細工してるらしいけど?」

 

「ええ。予想外ではありましたが、許容の範囲内ではあります。とはいえ……どうやら彼に策を授けた人物がいるようですね」

 

 策を授けた……つまり、図書室での彼の行動は誰かの入れ知恵だった訳だ。

 

 彼女の作戦としては、葛城さんのグループに自分のスパイを入り込ませて、本人への妨害は勿論、勝負を自分にとって有利な方へと運ばせるつもりだった筈だ。

 

 だが、グループが二分されることによってその効果は半減してしまう。

 

 更にはスパイ行為が気付かれていたのなら、スパイ組を追加されたグループに追いやることだって可能だ。

 

 そうなれば、葛城さんは最悪、彼女に勝利できずとも敗北した際に己が負うダメージを分散、若しくは肩代わりさせる事が出来る。

 

 つまり、彼女の当初の目的──葛城さん達の足並みを乱すといった目的を達成することが出来なくなってしまう。

 

 では、誰が葛城さんに入れ知恵をしたのか?

 

 Aクラスでそれほど頭が回る生徒がいれば、彼女がマークしない筈がない。

 

 となれば、必然的に他クラスの誰かが糸を引いているということになる。

 

「成る程ね。このタイミングでクラスポイントについて発表される前に憂慮してた事が現実になったわけだ」

 

「そうですね。尤も今回はどちらかと言えば様子見……威力偵察といった側面の方が大きいようです」

 

 本格的ではないとはいえ、明らかな敵意を持ったAクラスへの攻撃。

 

 発端は葛城さんの独断とはいえ、彼との取引で相手の目論見は成功しているのだ。

 

「となると……茶々入れしてきたのはC()()()()かな?」

 

「消去法でそうなるかと。Bクラスは未だ守りの姿勢を崩していません。今回もその姿勢を貫くと見て間違い無いでしょう。そしてDクラスは……言うまでも無いでしょう」

 

 そういえば、Cクラスは一人の生徒の統率になりつつあるとは聞いているが……それでも随分と攻撃的なものだ。

 

 怖いもの知らず……言い方を選ばないのであれば、井の中の蛙の権化と言うべきか。

 

「そうなると……近いうちにまた何か仕掛けてくるか。それも加味して策を練る必要が出てくるね」

 

 今回、標的に選ばれたのはAクラスだったが、葛城さんの例を考えると、Dクラスにも息が掛かった生徒が居ると見て間違い無い。

 

 となると、無策で件の綾小路さんと接触を試みるには少しリスクが大きいな。

 

「ふふっ……そうですね。相手は見事、葛城君を利用してみせたのです。これについては一定の評価はしなくてはなりません」

 

「してやられた割には少し楽しそうだね?」

 

「ええ。面白いゲームとは良い好敵手がいてこそでしょう?」

 

「……違いないね」

 

 予定調和ばかりではつまらない……盤上を狂わす変数、若しくは姿知れぬゲームチェンジャーの存在こそ、ゲームの醍醐味というわけだ。

 

 確かに人という生き物は元来、退()()というものを嫌うものだ。

 

 いつもと違う非日常を望みながらも、自身を取り巻く環境はそれを許さない。

 

 況してや彼女の身体の事を考えれば、なおのことだろう。

 

「坂柳さんとしては今後、どうするつもりなんだい?」

 

「予想外の事があったとはいえ、今回は此方の勝ちは拾えるでしょう。今後は他クラスの攻略の準備も並行して進めていきます。その際には慎君にも動いてもらうつもりですので、期待していますね」

 

「──ああ。期待に応えられるよう頑張るよ」

 

 そうか……彼女にとっては高育での3年間は今、始まったようなものか。

 

 まだ見ぬ未来への展望、高揚……今はそんな期待に満ち溢れている。

 

 だが、俺が其処にたどり着く事は決してない。

 

 最初から分かりきっていた事実──今更、そんなことを嘆いたり、憤怒する気もない。

 

 ただ、少し残念と思う──それだけだ。

 

「慎君? どうかなされましたか?」

 

「いや、なんでもないよ。せっかくだし、今後について話してくれないかな? 是非とも参考にするよ」

 

「急に何よ? エラく乗り気じゃない」

 

「神室さん、世の中には()()()()()()()()っていう言葉があるくらいだぞ? ならせっかくの機会を無駄にするのは良くないと思わないかい?」

 

「それを言うなら『()()()()()』の方が正しいと思いますが……フフッ、そうですね。機会を無駄にしないというのは私も同意する所です。では、まずは中間テスト後について私の予測として──」

 

 こうして、とても楽しげに話す彼女を見ると、彼女も退屈を嫌う一人の人間なのだと改めて思う。

 

 もし、その時が来たら、彼女はどんな反応をするだろう? やはり怒るのだろうか? それとも──

 

「──慎君、ちゃんと聞いていますか?」

 

「ああ、聞いてるよ。しっかりね」

 

 俺の人生は()()()()()()()けど、彼女の人生はまだこれからも続く。

 

 だからこそ、此処で過ごす時間がどうか彼女にとって有意義なものであって欲しい。

 

 そして、俺の存在がその一助となったのなら──この日々に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外は強めの雨が降っていた、朝に見た予報では夕方から深夜まで雨が続くらしい。

 

 そのせいか、17時を回った今も、出歩いている生徒はいないようだ。

 

 坂柳さん達もこの天気の都合上、自室へと帰っているし、ある意味、真の自由時間と言っても過言ではない。

 

 ……まあ、だからといって特に何かするつもりでもなく、コンビニで値引きの弁当を買ったら直帰するつもりなのだが。

 

 ──そう、そのつもりだったのだが。

 

「……あのさ、そこを通してくれると嬉しいんだけども」

 

「……Stay」

 

 待てって……それよりも何故、英語? 何時から高育はグローバル展開するようになったんだ? 

 

 現在、俺の目の前には筋肉隆々──所謂、()()()()()()()()()()を含めた以下数名の生徒に俺は足止めを食っている。

 

 そして、その中のリーダー格であろう長髪の男子が嗜虐的な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「おっと、今日はお嬢様の側に居てやらなくて良いのか? 親衛隊さんよ」

 

「親衛隊ね……それ、言い出しっぺは葛城さんかい? それとも彼のお付きの誰かかな?」

 

 成る程、理解した。俺は現在、この面々に絡まれているようだ。

 

 所謂、カツアゲ……いや、金銭を要求されている訳ではないから違うか。

 

 それは置いておくとして……明らかに他クラスの生徒なのに、俺のAクラスでの不名誉な称号を知っている。

 

 ……世間は広いようで狭いとは言うけど、まさかここまでとは。

 

「ほう……今ので気付いたのか」

 

「生憎、その称号について、断じて俺は認めてないしね。それにしても……君も随分と回りくどい事をするね。わざわざCクラスがAクラスの人間に助け船を出してあげるなんて」

 

「大の男がショボくれてるザマなんて見るに耐えないからな。少し知恵を貸してやっただけだ」

 

「へぇ、見た目によらず、君はボランティアが好きなんだね。存外、暇なようで羨ましい限りだ」

 

「はっ……取れるものはしっかり取ったさ。暇なのはオマエもだろうが」

 

 ふむ……漫画や小説とかである不良に絡まれる場面というのはこういう感じなのか。

 

 というか、此処で足止めされてる間に俺の値引き弁当が無くなるんだが……勘弁してくれないかな。

 

「ハイハイ。で? Cクラスの君がなんか用? 俺も予定があるんだけど。それもけっこう至急で」

 

「ツれないな。俺達と会話するより、重要な用があるってのか?」

 

「あるね。コンビニの値引き弁当が売り切れる」

 

「──ッ! テメェ! 俺らをナメるのも──」

 

 傍らにいた男子生徒が腕を振り上げながら飛び出してくる。

 

「石崎──っ!?」

 

「──はい。ストップ」

 

 石崎と呼ばれた男子生徒の動きの一切が止まる。彼の視線は自身の眼球のすぐ手前にあるものへと注がれていた。

 

「良かったね。石崎さん。後、1歩でも進んでたら……君の()()、潰れてたよ?」

 

 彼の見開いた眼球の瞳孔へ正確に捉えられた2本の指。

 

「あ……ひっ……」

 

 腰を抜かしたのか、水飛沫を上げながら尻餅を着いた。

 

 うわっ……こっちに水跳ねたし……最悪だなこいつ。

 

「はぁ……そんなに怖がらなくたっていいじゃないか。ちゃんと君の目は健在なんだし……まあ、君にとっても良い話じゃないか。殴り掛かろうとして目が潰れたなんて、笑いもとれやしない」

 

「──ッ! Bad boy!」

 

「ハイハイ。君もご苦労様」

 

 振り下ろされた拳が俺に到達する前に静止する。

 

 中堅手が打ち上げられたセンターフライを捕るように、彼の拳は、彼の物より小さな手に捕らえられていた。

 

「What The Fuck……!?」

 

「どうしたのかな。 振り下ろさないのかい?」

 

 彼の拳がゆっくりと押し戻され──本来、曲がらない方向へと押し曲げられていく。

 

「J……Jesus──っ!」

 

 流石にこの大男でも痛みを堪えられないのか、手を振りほどこうと力を込める。

 

 しかし、その手は一切動くことはない──まるで万力で固定されてるが如く不動のまま、拳を捕ったその手はとてもゆっくりと押し曲げていく。

 

「ほら、喋ってる暇があるなら、早くその手を振りほどかないと……君の手、折れるよ?」

 

「──!? GAAAAAAA !!」

 

 大男が悲鳴に近い声を挙げ、苦痛に顔を歪めながら地に膝を着く。

 

 ……まあ、用心棒といっても、存外こんなものか。あくまで、この年代の人間の力の平均より少し強い程度。

 

 この程度じゃ、潜在的な驚異にもなりやしない。

 

 彼の拳を離すと、荒い息を吐きながら俺を見上げてくる。

 

 その目には敵意……いや、それよりも恐怖だろうか。

 

 まあ、どちらでも構わないが……物分かりは大男の方が良いらしい。

 

「テメェ……」

 

「あっ、そうそう思い出した……確か、君、()()さんだよね? 飼い犬の躾はしっかりとしておいた方が良いんじゃない? なにも俺は別にそこの2人を病院送りにしたい訳じゃないんだから」

 

「……っ!」

 

「そうだ。あと1つ……噛みつく相手はちゃんと選ぶんだね。自信満々に挑んで、逆に自分の首を獲られるなんて──そんな無様な思いはしたくないだろ?」

 

「……」

 

 横を通り過ぎても、龍園さんは何も答えない。尤も、別に彼から何かの答えを求めている訳では無いのだが。

 

 とはいえ、事前に監視カメラが無いエリアを把握した上で、待ち伏せるというのは評価できる点だ。

 

 ああ見えて案外、頭はキレるらしい……これは坂柳さんも評価するわけだ。

 

 そんなどうでも良いことは置いておくとしてだ……結局、また買い損ねてしまった。

 

 今ごろはポイントが困窮した生徒が群がっているに違いない。

 

 どうやら、今日の主食はコンビニのおにぎりで決定らしい。

 

 ……こうなるんだったら、口止め料として幾らか請求するべきだったか。

 

 まあ、あの面々が素直に払うかと言われたら、甚だ疑問ではあるのだが。

 

「はあ……」

 

 未だ大粒の雫が降り注ぐなか、もはや何度目か分からない深い溜め息を吐くのだった。

 

 




いつもの雑談コーナー


このセーブファイルにはやり直し出来る回数が残っておりません。残念ですが、続きは出来ません。

「すみませんが、あらためて最初からプレイしていただくようお願いいたします」

どうも、有給交渉に失敗しました。作者です。

「有給? あたしがCCRのエージェントやってた頃なんて、あって無いようなものだったけど?」

もうCCRは解体されたのでお寿司。今回は夜の雨が似合う女性──フッキーこと白瀬芙喜子さんです。

「何気に初じゃない? 本編出てないヤツが此方に来るなんて」

まあ、そのうち登場する予定ですしね。ちなみに11の裏サクセスで1章、2章も共にパーティの主力でした。

「あっちのあたしは人間だけどね」

まあ、表の白瀬さんもかなり強いですしね……8主も人間かと言われると疑問点がありますし。

「まあ、アンドロイドといっても自覚しているヤツもいれば、していないヤツもいるからね」

では恒例の質問コーナーに行きましょう。

『アンドロイドの世代ごとの違い』

ちなみに篠坂君は製造時は第二世代、白瀬さんは第三世代と、実は白瀬さんより先行の個体なんです。

「あたしを造ったのはオオガミ、あっちはジャジメントって違いはあるけどね」

簡単に説明すると、第二世代は目的に対して、全体のデザインをするという特徴があります。

篠坂君は戦闘用──つまりは戦闘に特化したデザインがされています。

そして、第三世代は先行個体達の検証結果、人間に近付けるのが最適と判断され、製造されました。

要は潜入工作型のコンセプトを引き継いで発展させたのが第三世代となります。

「X線や簡易な検査じゃ判別はほぼ不可能。でも臓器なんかは強化されてるから、人間離れした動きを出来るの」

つまり、汎用性の面で、一芸特化の第二世代より優れていた訳です。

「まあ、それでも戦ってみたら案外、分からないものよ。性能だけで決まるなら、古い個体が生き残るなんて不可能なんだし」

個体の性能だけが勝敗を決める要素にはなり得ないということですね。

では、また次回!

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