戦闘描写がムスガシイッ……
「……行ったわね」
大柄な警備員の背中を見ながら、真澄さんが溜め息を吐く。
やはり、監視の目を潜るという観点で彼女は特に秀でている。我ながら完璧な人選をしたと思う。
「ふふっ……昔取った杵柄とはよく言ったものですね。この状況ではとても心強いです」
「不思議ね、褒められてるのかもしれないけど、これっぽっちも嬉しくないわ。というか、意外ね。アンタが1人の為にここまでするなんて」
「おや、大切なお友達が何か良からぬ事に巻き込まれてる可能性があるのなら、手を差し伸べようとするのは当然と思いますが?」
「アタシはそうは見えなかったけど……」
「今日を含めて4回です」
「何がよ」
「今週、慎君があの人に会うために映画館へ行った回数です」
「なんでわざわざ数えてんのよ……というか、確か昔からの知り合いなんでしょ? それならアイツだって頻繁に足を運ぶものじゃない?」
真澄さんの言う通り、ただ会いに行くだけなら特段におかしいところはない……ただ会うだけならば。
「無論、慎君がただあの方だけに会っているだけなら、私もここまでの行動はいたしませんでしたよ? しかし、私が調べた所、どうもただ会っているだけではないみたいなんです」
「調べたって……アンタ、どうやったのよ?」
「ふふっ、気になりますか?」
「……やっぱりいいわ。絶対ロクな手段じゃなさそうだし」
「あら、心外ですね。別に特殊な策を講じた訳ではありませんよ?」
挙がった報告では、慎君がミナさんと話していたのは何かの情報について。
その情報までは定かではないものの、慎君自身も私達には内緒で、その情報についての調査を行っているとのこと。
今、思えば、彼が言い出したDクラスの取引の件も、クラスの為という理由の裏にそのような個人的事情があったのだろう。
極端な話、私達はまんまと慎君の口車に乗せられてしまったという訳だ。
とはいえ、これだけでは彼の裏切りを疑う理由にはならない。
現に彼がDクラス以外と取引をしたという情報は無いし、別の見方をすれば、彼が私に比肩しえる人間という証明になる。
彼に一杯喰わされたのは事実だが、同時にこれは彼を再評価する良い機会かもしれない。
「ひょっとしてだけど……アンタ、そのミナさんに嫉妬してんの?」
「……おや? なぜ、私がその方に対して嫉妬を抱くのでしょうか?」
「いや、アンタが調べた話を聞いてると、やけにミナさんって人がアイツに対してした内容がにピックアップされてるしさ。それにアンタ、さっきからずっと面白くないって顔してるわよ?」
確かに彼らを見て、年頃の男女があの距離感というのは世間体としては勿論、風紀としても頂けないと思う。
そして慎君も、彼は彼で彼女に対して何処か素というか、私と話すときと違って、自然な反応というのか──
「──成る程。これが嫉妬というものなんですね」
「何よ。アンタ、今まで嫉妬なんてしなかったわけ?」
「お恥ずかしながら、それを自覚することはありませんでしたね。そうですか……これが嫉妬するという事なんですね」
これが親愛……とまではいかないにしても、彼が高育で一番長く共に過ごしたのは誰かと言えば、おそらくそれは私の筈だ。
そんな私が知らない彼の一面をあの人は知っていて、此処で私に向ける以上の信頼をあの人に向けている。
私をそれを快くは思っていない──同時にそれを羨ましいと思っているのか。
「そうなれば尚の事です。慎君とあの人が何をしているのか、明らかにしませんと」
かつて、あの人が彼の傍らにいたのかもしれない。
けれど、今一番近くにいるのは私だ。此処での日々を過ごしているのは私の筈だ。
それをみすみす譲ってやる道理もなければ、義理もない。
「はぁ……まあ、良いけど。それにしても……なんで倉庫の周りにこんなに警備員がいるのよ。此処ってショッピングモールとかで売ってる物が保管されてるんでしょ?」
「それについては定かではありませんが、先の搬入で今後の試験に関わるものが搬入されたと聞きます。それの露呈を防ぐ為……と考えるのが自然ではないでしょうか?」
「にしても、流石に多すぎでしょ……これじゃ尾行どころじゃないじゃないわよ」
確かに真澄さんの言う通り、試験の情報の漏洩を防ぐ為にこれ程の人員が必要かと問われれば、首を傾げるところだ。
まるで何かを見られないよう……或いは何かの関与を警戒してるかのような。
「全く……このままじゃ、こっちもジリ貧に──マズイわ。完全に見失ったわ」
「……近くに隠れているなんて事は?」
「この一本道でどう身を隠すって言うのよ。それに曲がり角を曲がった瞬間に消えたって事は私達、完全に気づかれてたみたいね」
「……どうやら、あの人は相当誰かに追われ慣れているようですね。些か不本意ですが、私達も此処から離れましょう。今回の件については慎君から直接、聞くとして、此処もじきに警備員の方々が巡回される事でしょう」
念のために慎君の端末へと連絡を試みるが、呼び出し音がなり続けるだけで、一向に出る様子はない。
「まあ、当の本人達はとっくに合流してるんだろうけど──っ! マズイわ。前後の道から2人、此方に歩いてくる」
真澄さんの言う通り、私達の前方と背後の道奥から懐中電灯の灯りが揺れている。
やはり、警備員の数を少なく見積もりすぎていた。こんなにも早く巡回してくるとは……
これが相手の計算通りだったとすれば、どうやら今回は相手が一枚上手であったと認めざるを得ない。
「……詰みね。此処は完全に一本道。隠れる場所なんて……」
「仕方がありません。念のために妥当な理由は考えてあります。それを盾に退散するとしましょう……なんでしょう、この音」
西の方角から何かが破裂……いや、これは爆発音に近いだろうか。
それが連鎖し、まるで電動工具の駆動音のような特徴的な音を構成している。
「確かに……まるで戦争映画の効果音みたいな感じだけど……」
「おい! そこにいるのは誰だ!!」
懐中電灯の灯りが私達に照らされ、暗順応した眼に痛い程の光が射す。
「って……なんだ此処の生徒か。君達、なんで此処に居るんだ?」
「申し訳ありません。本日の放課後から友達の行方が分からなくなっていまして、最後に此方の方へ行ったとの事で、捜索していたのです」
「なっ……生徒が行方不明だって? 君達の友達は此方の方へ来たというのは誰に聞いたんだ?」
「清掃員の方からです。生徒が1人、倉庫の方へ行ったと」
「……とりあえず事情は分かった。だが此処は学生が立ち入って良い場所じゃない。とりあえず友達の事は学校の方にも至急伝えておく。出口まで案内するから君達は一旦、帰りなさい」
おや、これは予想外な反応でしたね……でも、かえって都合が良いです。
その時、またあの音が響いた。今度はさっきよりも大きい。
「……まただ。この音」
「さっきからなんだ? この音は……まったく向こうの奴らは何をやってるんだ」
この音について警備員の方々は知らない? では、この音は──
「だ、誰だ!!」
カシャッと金属質な軽い音が背後から響き、警備員の2人が暗闇に佇むソレに懐中電灯を向ける。
「な、何だ……コレは……?」
ソレは理科室にある人体模型に近い形だった。しかし、懐中電灯によって乱反射する金属のフレームと内側の部品群がその異質さを際立たせる。
そして、双眸に灯る紅い光彩は、じっと此方を見つめている。
「……な、なにアレ。金属の人体模型……?」
「少なくとも……金属だけで人体模型を作るということは無いと思いますが」
警備員の1人がおそるおそる、ソレへと近付いていく。
そして──ソレは突如として行動を開始した。
「……えっ?」
突如として鳴り響いた火薬の爆発音、同時に警備員の身体が力なく地に伏せる。
鳴り響いた爆発音が銃声だと、脳が理解するには数秒を要した。
「──っ!! 君達! 早く逃げなさい!!」
凄まじい剣幕で私達の前に出る警備員、同時に爆発音と頬にへばり着いた粘性の何か。
「きゃっ……っ!!」
倒れた警備員は顔の半分が無くなっていた……無くなった断面から朱い肉が飛び出し、鉄臭い粘性の液体が溢れ出ている。
異常に跳ねる心臓のまま、おそるおそる自身の頬に手を触れる。
「えっ……こ……れ……は……?」
まるで人肌のように生暖かく、鼻腔に入り込む鉄の臭い。
それが
「ひっ……」
思わず杖を手放し、その場に倒れ込んでしまう。
そんな私をソレは冷徹に見据え、手に持ったものを此方へと向ける。
脳を支配する絶対的な恐怖と混乱──目尻には大粒の涙が溜まっていく。
怖い……怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
未だ硝煙が上っている無機質な銃口と目が合う。
なんで……助けて……誰か……嫌だ……ヤダ……やだ……怖い……死にたくない──
「──助……けて……慎君……っ!」
「とりゃー! なんて事してるですか!!」
少し特徴的な訛りがある日本語の怒号と共に、甲高い打撃音が木霊する。
「……えっ?」
ソレが体勢を崩したと同時に、褐色の女性が折れたバットを投げ捨て、私達のもとへ駆け寄る。
「ア、アンタ……」
「はい、とりあえず話は後です。早く立って! 逃げますよ!!」
「わ、私……足が……」
「ソコの貴女!! 早く彼女を背負う!!」
「……っ! わ、分かったわよ! ほら、行くわよ!!」
言われるがまま真澄さんが私を背負い、先行する褐色の女性の後を追う。
その時、背後から再び銃声が鳴り響いた。
「止まっちゃダメです!! 動いてれば当たりません!!」
そう言ってすぐ横の外壁から土煙と破片が舞う。
「あ、あの……貴女は……」
「貴女達! 何故、すぐに帰らなかったのですか! 此処は命の危険があるんですよ!?」
「それは……その……」
「まったく……おかげで予定がメチャクチャです! 私が偶然、居合わせなかったら、貴女達死んでましたよ!」
死──という言葉を聞いた瞬間、先程の倒れた警備員の姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。
込み上げる吐き気をなんとか堪え、短く息を吐く。
「……私、武内ミーナといいます。といっても……はじめましてではありませんね?」
「ミナさん……いえ、ミーナさん……私は坂柳有栖と申します。貴女のおかげで命拾いしました……本当にありがとうございます」
「えっと……神室真澄です……さっきはありがとう……ございます」
「はい、どういたしまして……貴女方についてはキーラ──いえ、篠坂君から聞いてますよ。詳しい話は此処から抜け出した後にしましょう。今は一刻も早く──っ! そこを曲がってください!!」
ミーナさんの言う通りに曲がると、同時に鳴り響く先程と同じ銃声。
少し落ち着いた心拍が跳ね上がり、再び絶望が思考を歪める。
「これはマズイですね。私達を取り逃がしたと分かった瞬間、直ぐに別働隊を動かして追撃してきましたか……これでは仕方ありませんね」
そう言ってミーナさんはポケットから携帯端末を取り出した。
そして、なにやら操作したと同時に何処かへと電話を掛ける。
「もしもし、ミーナです。こちら大ピンチです、友達とお客さんを大勢連れてそっちに向かってます! ……はい、分かりました!」
「……今のは?」
「このままじゃ私達は助かりません。なので、助っ人に連絡しました。彼も急行してくれるとの事なので、このまま助っ人と合流出来る場所まで向かいます。頑張って付いてきて下さい!」
真澄さんの後頭部の横から前を伺うと、奥の通路からあの朱い光彩の集団が走ってきている。
「こっちです!!」
迫る銃声から逃れるように、奥へと潜り込んでいく。
時折、耳元に聞こえる風切り音に震えながら、何度も同じ願いを反芻する。
これが悪い夢なら、早く覚めてと。
迫る追手から逃れている内にだいぶ奥の方に来たように思う。
前を走るミーナさんも、私を背負う真澄さんも荒い息を吐いている。
生き延びる為とはいえ、身体の限界が両者ともに近付いているのだ。
なのに……なのにあの朱い光彩が背後から追い縋ってくる。
まるで獲物を追い詰めた肉食獣のような、無機質な殺意が私へと迫って来ている。
そして、これは新手だろうか? 断続的な爆発音が徐々に此方へと近付いてきている
「はぁはぁ……もうすぐ。合流地点に着きます……もう少しの辛抱です」
「さっきから……その助っ人の姿が見えないんだけど……」
「大丈夫です……確実にこっちへと向かっています……」
そして、ミーナさんの足が止まる。目線の先には銀色の殺人機械の一団──完全に挟まれている
「ちょっと……もう回り込まれてるじゃない! ここからどうするってのよ!!」
真澄さんが声を荒げ、ミーナさんを睨む。
しかし、そんな真澄さんを彼女は冷静に見据えていた。
「大丈夫、私達は助かります。でもその前に……貴女達に約束して欲しい事があります」
「はぁ? そんな事を言ってる場合じゃ──」
「まず、今回の事は決して他の誰かに口外しないこと。生徒は勿論、先生達にもです」
そして、ミーナさんが私へと向き直る。
「もし、これが守られない場合──坂柳さん、
「彼……?」
その時、すぐ隣の倉庫で断続的な異音が鳴る。
「──来ます、伏せて!」
その言葉と同時に倉庫の壁が爆ぜた。
直後、電動ノコギリが作動するかの如く、何処か恐怖を煽るようなな銃声が轟く。
舞い上る土煙の中から吐き出された銃弾は吸い込まれるように、私達の前にいた一団を貫いていく。
「あっ……」
足元に軽い音を鳴らしながら、空薬莢が転がってくる。
見間違える筈がない、いつもの見慣れた姿。
でも、だからだろうか……それが憔悴した心に安心をもたらしてくれる。
そして、彼は振り向いて言った。
「──皆、無事ですか?」
「慎君……」
「──ええ。おかげで命拾いしましたよ」
瓦礫と土煙と共に旧ジャジメントの
いつもの雑談コーナー
新キャラと人権キャラをピックアップするなんて……これが人間のやることかよぉぉぁ!!
「……多々買わなければ生き残れない」
ブラックさん……それは分かってる。
ピックアップキャラ同士の相性が良いのは分かってるんよ……でも、石には限りがあるんや。
しかも、そういうときに限ってすりぬけるんじゃ……
「……憐れ。まるで炎に向かう蛾のよう」
とっくの前に作者の人間性は限界でございます。
それではいつもの流れで行きましょう。
『篠坂さん、どうやって来たか?』
超能力を使って倉庫の壁をぶち抜きながら急行してきました。
当初から、任務遂行のために物的破壊の許可を取り付けてあるので無問題──それが本人の談です。
「……芸術は爆発?」
違うと思います……後、何故7.62mmの弾丸で壁を爆砕出来るかは今後に明らかになりますので、ここでは控えさせていただきましょう。
「……ネタバレ防止」
それではまた次回!