人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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めちゃめちゃ難産でした……投稿遅くなり申し訳ありません。


18:自白

 

 

 

「──皆、無事ですか?」

 

 俺が投げ掛けた問いに答えるかのように、彼女が俺を見上げる。

 

「慎君……」

 

 見上げる彼女の瞳には涙が滲み、目尻が赤く腫れていた。

 

「色々、言いたいことはあるけど……まずはごめん、俺のせいで2人を危険な目に遭わせてしまった」

 

「アンタ……一体、なんなの……?」

 

 俺を見る神室さんの目は、まるで化け物を見るかのように険しいものだった。

 

 当然だ、今日の昼下がりまで普通に過ごしていた彼女達にとって、こんな現実は何処か遠い世界の話。

 

 強いて言えば小説や漫画、映画といったフィクションの中で起きる惨事でしかなかった筈だった──こうして巻き込まれるまでは。

 

 切っ掛けは何であれ、彼女達は越えるべきでない一線の先へと踏み込んでしまった。

 

 ──だから、もう戻れない。

 

「──っ! 慎君!!」

 

 背後から鳴り響く銃声の協奏曲──同時に眼下の彼女達の表情が恐怖で歪む。

 

 ──二次弾道入力終了。12から36まで誘導開始。

 

 その瞬間、亜音速で迫る大口径弾が軌道を変え、速度を維持したまま引き返していく。

 

 直後、空中で弾丸が甲高い音と火花を散らして砕け散っていく。

 

 散った弾丸の破片が宙を舞い、未だ衝突を繰り返す弾丸の火花の光が乱反射して、まるで細氷ように煌めいて見える。

 

 そして、手にした機関銃を正面へと向ける。

 

「坂柳さん」

 

「……はい」

 

 俺を見上げる彼女の瞳は不安と恐怖が感じ取れる。

 

 そもそも、彼女に命を狙われる所以なんて無い。あくまで彼女は此処の理事長の娘──それだけの筈だった。

 

 そもそも、自分達が住む世界の裏側なんて知る由も無かった筈なのだ。

 

 なのに、彼女は巻き込まれ、その命を脅かされている。

 

「後で必ず……今度は正直に話すから。もう一度だけ、俺を信じてくれないかな?」

 

「……約束……ですよ……? ちゃんと後で話すって……」

 

「うん、約束。だから、今は──俺を信じて」

 

 もはや叶わないが、彼女に自分達の生きる世界の裏側なんて知って欲しくはなかった。

 

 聡い彼女の事だ。一度、自らの命が脅かされていると知れば、次のことを考えずにはいられない。

 

 その恐怖は普通の世界で生きていた人間には耐え難いものだろう。

 

 そうならない為に、彼女に降り掛かるであろう火の粉は払っていたつもりだった。

 

 なのに、当の俺自身は彼女達が俺の行動をどう見ていて、彼女達はどんな行動をするだろうと……そんなこと歯牙にもかけなかった。

 

 今、思えばそれこそが俺の失態……いや、驕りだったのだろう。

 

 そんな驕りが致命的な失態を生むなんて分かっていた筈なのに──そして、あろうことか今日になって俺は危うく取り零しそうになった。

 

 今回はミーナさんのおかげで、最悪の結末は避けれたものの……次も同じとは限らない。

 

 だから──

 

 機関銃のトリガーを引くと同時に、自身に掛けられている能力使用の制限を外す。

 

 手元で鳴り響く轟音と裏腹に思考がクリアになっていく。

 

 ──1から39まで二次誘導開始。

 

 脳が指令を出した瞬間、直線で突き進む弾丸の群れが大きく分かれた。

 

 乱射を続ける一団へ弾丸の群れが襲い掛かるその光景は、さながら獲物に群がるピラニアを彷彿とさせる。

 

 操作された徹甲弾の群れが金属のフレームを引き裂き、その内部の部品を食い破るその光景を見て、神室さんがその場にへたり込む。

 

「えっ……な、何……? さっきから何が起こっているの……?」

 

「超能力ですよ。彼は自分が認識した投射物の軌道を操る能力を持っているんです」

 

 俺に与えられた超能力──それは俺が認識した投射物の運動が停止するまで、その軌道を操作する事が出来る。

 

 例えば、銃弾であれば弾丸が運動エネルギーを失い、その運動を止めるまで何度でも軌道を変化させることが可能だ。

 

 その為、俺が投射物はとして認識してさえいれば自分が撃った弾丸は勿論、敵が撃った弾丸も操る事だって出来る。

 

 そして、もう1つ──俺が能力で操作した投射物にはある特性を持つ。

 

「敵集団を爆破します。3人とも耳を塞いで」

 

 ──1から39の誘導終了。全弾点火。

 

 その瞬間、胴体や外壁、地面へとめり込んだら弾丸が膨張し、直後に火を吹いて爆ぜる。

 

 連鎖して起こる爆発により、つんざくような轟音がその場に木霊した

 

「初めて見るわけではありませんが……相変わらず派手ですね」

 

 俺の能力の副産物──操作した投射物は例外なく任意で爆発させる事が出来る。

 

 尤も、爆発の威力は操作した投射物の質量によって変わるのだが、それを踏まえても俺が持ち得る手段の中で最強の一手だ。

 

 残響が鳴り止むと、そこには機械兵士達の残骸が転がっていた。

 

 未だバチバチと火花を散らすもの、燃え尽きて黒く染まっているものと様相は多様だが、全てが例外なく破壊され、機能を止めている。

 

「これで一段落……という訳にもいかないかな。すぐにこの場を離れよう。坂柳さんは俺が背負うから、神室さん達も急いで」

 

「そうですね。そろそろ後処理の方々が来るでしょうから」

 

「後処理って……これだけの事が起きてるのよ? 学校側だって──」

 

「──残念だけど、今回の出来事は決して表で報じられることはないよ。どんな形かは分からないけど、内容は悲惨な事故として処理される。そして、それは学校側も呑まざるを得ない」

 

 その時、遠くの場所から爆発音が鳴る。それも1つではなく複数の。

 

「……そうこうしてる間に相手も来たみたいだ。とりあえず急ごう。坂柳さんも掴まって」

 

「は、はい……」

 

 坂柳さんを背負い、出口へと向けて駆けていく。

 

 背中から伝わる鼓動が早まるのを感じる。

 

「……改めてごめん。本来なら坂柳さんを巻き込むつもりはなかったんだ」

 

「いえ……慎君がいなかったら私達は……」

 

 少し言い淀むと同時に、彼女が大きく息を吐いて、そのまま身を預けてくる。

 

「この位置だと、慎君の鼓動がよく聞こえます」

 

「……結構揺れてると思うけど、聞こえるものなのか?」

 

「ふふっ……トクントクンって鳴ってますよ。それに……とても暖かくて安心します」

 

「……よく分からないけど、坂柳さんが良いなら良かったよ」

 

「……もしかしたら、私も変になってしまったのかもしれません。あれだけ、恐ろしい思いをしたのに……今、ものすごく幸せを感じてるんです」

 

 彼女が再び大きく息を吸い、自分の顔を埋めてくる。

 

「帽子落ちるよ?」

 

「ふふっ……それは大変ですね……落ちたら……拾って……もら……ない……と……」

 

「坂柳さん? ……そうだよな。いきなり、こんな目に遭えば、当然疲れるよな」

 

 俺に彼女を蝕んだ恐怖と、この惨禍の記憶を消してやることは出来ない。

 

 だが、束の間とはいえ、生き延びた安寧を噛み締めて欲しい。

 

 どうかせめて、安らかな寝息を立てる彼女が悪夢に苛まれないよう……俺は走りながら無言でそう祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェック」

 

 坂柳さんが盤上の駒を動かし、そう宣言する。

 

「おっと、こいつはマズい……あばよっと」

 

「おや、躱しましたか……では、これならどうでしょう?」

 

 坂柳さんがナイトの駒を動かし、俺のキングの駒を袋小路へと追いやる。

 

「初心者に対して容赦ないな……じゃ、こうしようかね」

 

「ふふっ……謙遜なさらないでください。初めてのチェスでこれだけ打てるのなら、十分に上級者を名乗れますよ……チェック」

 

「そうかな? なら、師匠の教えが良いからかね……はぁ、詰みです。降参」

 

「……アンタら、さっきから何してんの?」

 

「何って……チェスだけど」

 

「おや、真澄さんも興味がおありでしょうか? なら、一局いかがです?」

 

「やらないわよ……篠坂はともかく、坂柳はアンタはその……大丈夫なの?」

 

「おや、私を心配してくださるのですか? 」

 

「別に……そういう訳じゃないわよ……」

 

 一見、いつも教室でやっているようなやり取り。

 

 当の坂柳さんも着丈に振る舞っているが、その笑みは何処かぎこちない。

 

 その小さな手が強く握り締められている──まるで何かを堪えるかのように。

 

「おやおや、青春してますね~。私も添い遂げてくれそうな方に出会いたかったてす」

 

 まあ、少なくともミーナさんが今のような生活を続ける限り、その出会いが訪れる事は無いだろう。

 

 ……というか、そもそも年齢が──

 

「……篠坂さん? 今、物凄く失礼なこと考えませんでした?」

 

「……ソンナコトナイデスヨ?」

 

「……まあ、いいでしょう……それよりも漸く繋がりましたよ。セキュリティは確かに固かったですが、日々の取材が功を奏しましたね」

 

「繋がる……? 何の話でしょうか?」

 

「そうですね……坂柳さん、貴女の事を一番、心配している方とピデオ通話が繋がっています……今、マイクも付けますね」

 

 そう言って、ミーナさんはパソコンの画面を坂柳さんの方に向ける。

 

『もしもし、繋がっていますか?』

 

 パソコンのスピーカーから流れる、壮年の男性の声。

 

 その声を聞いた坂柳さんの目は大きく見開かれる。

 

「……お父様?」

 

『──っ! その声は有栖かい? 良かった……何処か怪我とかしてないかい?』

 

「は、はい……特にそのような事は……」

 

 画面に映っていたのは坂柳さんのお父上こと──坂柳成守 理事長だった。

 

「お久し振りです、理事長。今回は急な連絡にお応えして頂き、ありがとうございます」

 

『ええ、お久し振りです。そう気負いする必要はありません。何せこのような緊急事態ですから……この度は娘の事を守って頂いて、ありがとうございました』

 

 ビデオ越しで理事長が深々と頭を下げる。

 

 その様子を隣で見ていた彼女が思わず問い掛けた。

 

「……お父様と慎君はお知り合いなのですか?」

 

「知り合い……というより、雇い主と雇われの方が正しいかな……それに約束したでしょ? 正直に話すってね」

 

 今回の一件、そして坂柳さん自身が巻き込まれてしまったこの状況。

 

 俺は彼女が真実を知る権利があると判断した──そのために唯一その事情を知る者を呼んだ。

 

『……成る程、状況は察しました──有栖、まず君には謝らなくてはならない。私が不甲斐ないばかりに君や君の友達まで巻き込んでしまった。……本当に申し訳ない、父親失格だ』

 

「お父様……」

 

「これから私達が話す事は何処か現実離れしてると思うかもしれないけど、どれも現実の出来事だ……どうか、気を強く持って欲しい」

 

「では、皆さん。まずはこれをご覧ください」

 

 ミーナさんがPCを操作すると、複数の画像が映る。

 

「皆さんが学校から外出禁止を言い渡された日の写真です」

 

「これは……今日の……」

 

 坂柳さんの表情が強ばり、彼女の細い手が服の袖を掴んできた。

 

 少し画像は粗いが、金属で造られた人体模型のような特徴的なフォルム──T(ターミネイト)シリーズで間違いない。

 

「これはジャジメント製のロボット兵──Tシリーズと呼ばれている物です。そして、今回の事件ですが、搬入されたTシリーズの一部に時限起動プログラムが組み込まれていた事で起こったようです」

 

「……ま、待って……ジャジメントのロボット兵? そんなものが何で学校に……というか、時限起動プログラムって……端から向こうは今日の事が起こる事を承知の上だったってこと?」

 

「はい。搬入を大掛かりにして、関係者に外出禁止の指示を出したのも、そんな事情があったからでしょう」

 

「はいって……実際に人が死んでるのよ? 大事にならない訳が……」

 

「……理事長さん、今回の件についてジャジメント側に何と説明されましたか?」

 

『……搬入した工事用の重機の暴走事故……だそうです』

 

「成る程。此処が国営施設というのもあるのか、揉み消しが早いですね。すぐ私達にも同じ内容の連絡が来ることでしょう」

 

「揉み消しって…… これだけの事をそんな簡単に……」

 

「……神室さん、貴女はNOZAKIグローバルシステムという企業をご存じですか?」

 

「……当然でしょ。あそこもジャジメント程では無いけど、かなり大きな会社じゃない」

 

 NOZAKIグローバルシステム──ここ数十年でIT企業として急激に成長した会社で、その規模もジャジメントに及ばずとも、世界中に支社を持つ程だ。

 

 その力では表の世界ではジャジメントに比肩すると言われている。

 

「数年前の出来事です。其処の支社の1つが突如として襲撃されました。その被害は50人ものの犠牲者を出す大惨事となり、多くの人々にその事件の存在を知られることになりました」

 

「……それって、前にイスラム過激派が起こしたテロ行為のこと?」

 

「世間にはそう報道されてますね。ですが、真相はジャジメントの超能力者による襲撃でした。そして、その真相にたどり着いた活動家、記者といった方々はその真相を公表する前に行方不明となってます。その痕跡すら残さずにね」

 

 これは結果論でしかないが、ある意味で今回はジャジメントは本腰を入れた訳ではないのだろう。

 

 もし、彼女の抹殺に高位の超能力者が派遣されるような事があれば……事態は最悪な事になるのは想像に難くない。

 

「超能力者……それは今回のとは違うのですか?」

 

「……まだ、ジャジメントが一つになる前、オオガミと分かれていた時の話です。ジャジメントはある分野でオオガミに遅れを取っていました」

 

 それについては世間の一般常識として誰もが知っている。

 

 世界的な大企業であったジャジメントとオオガミ。

 

 それらの合併で生まれたのがツナミ。そして、新会長の意向でジャジメントという名前に戻ったのだと。

 

「オオガミは優れたサイボーグ技術、アンドロイド……つまりは人造人間に関連する技術を持っていました。けれど、当のジャジメントは良くてもオオガミの模倣をするまでが限界だったのです」

 

 サイボーグ、アンドロイド──まるでフィクションの世界で出てくる言葉。

 

 しかし、彼女達は知ってしまった──そのフィクションが現実になっていることを。

 

「しかし、ジャジメントもオオガミに持ち得ない技術を持っていました。それが超能力です、ジャジメントは多くの超能力者を生み出し、彼らを兵器として使っていました」

 

「……では、慎君も……そうなのですか?」

 

「いや、俺の場合は少し違うかな……」

 

「……この話には続きがあります。超能力者は一度、能力に目覚めれば強力ですが、誰もが安定して目覚めるという訳ではありません。能力も様々かつ、能力そのものが周りはおろか、自身にも危害を加えてしまうというのも少なくはなかったのです。現に超能力の暴走による事故が幾つも起こってしまっています」

 

 強力とはいえ、安定しない超能力より、安定供給可能なサイボーグやアンドロイドの方がパフォーマンスとして優れている。

 

 当時のジャジメントもそれが分かっていた──だからこそ、俺達は造られた。

 

「そこでジャジメントの人達は考えたのです。自社製のアンドロイドに超能力を持たせて、オオガミ製の物と性能差を埋めようとね。当時は(キーラ)計画と呼称されていたそうです」

 

 1996年の7月5日、人によって造られた初めてのクローンである羊のドリーが生まれた。

 

 その発表はあらゆる学会をざわつかせ、人類がついに遺伝子さえも操れる万能な存在になったこと、生物の根幹さえも変えてしまう恐ろしい驚異になったことあらゆる可能性を示唆した。

 

 結果として、彼らの懸念は正しかった訳なのだが……

 

「しかし、この計画もやはり技術不足、そして、当時のジャジメントのドクトリンがロボット兵の増産へ移行したのもあって、計画自体が中止になりました。そして、オオガミとジャジメントの合併により、計画で生み出されたアンドロイドも廃棄処分、そして記録の抹消という形で処理されたのです」

 

「そ、それじゃ……慎君は……?」

 

『……有栖。それは……』

 

「もう察しはついてるかもしれないけど……正確には、この『篠坂 慎』っていうのも数ある偽名の1つでしかないんだ。俺に与えられた唯一の固有のコードはキーラ24号──俺はジャジメントで造られたアンドロイドなんだ」

 

 

──もう二度と同じ轍は踏まない、それこそが俺の戒めだ。

 

 

 

 






いつもの雑談コーナー

ええ……この度は遅くなり申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!

「いくらなんでも遅すぎではありませんか?」

いや、ミーナさん、あの……仕事の疲れで執筆する余裕無くて、執筆してもコレジャナイ感が凄くて消して……を繰り返してたらこうなってしまいました。

「プロット作る意味あります? ソレ……」

いや、結末は同じだからいいんですけど……私の悪癖で、後から色々と気になり出しちゃうんですよね。

……まあ、気を取り直して質問コーナーへ!

『篠坂さんの超能力』

簡単に言っちゃえば、投げられた物や発射された物を、某ファンネルミサイルにするといった能力です。

「だから、球技やらせたらゲーム崩壊するんですね……相手が取れないところに誘導して終わりですし」

ただ、誘導物の一つ一つにどのように誘導するかという軌道を設定してやらないといけないというデメリットがあります。

篠坂さんの場合、アンドロイドとして処理能力+強化手術による補助で扱えている状態なので、使いやすいかと言われると、そういうわけではないそうですね。

「とはいえ、使われる側からすれば、避けた筈の銃弾が追尾してくる上に、それが爆発するものだから……厄介な事この上ないでしょう。しかも、必然的に飛び道具が封じられますしね」

とはいえ、負荷も相応らしく、あまり長時間使うのは流石にキツイみたいです。

……そして、負荷と関連したデメリットがまだあるんですけど、これはいずれということで。

「では、皆さんまたお会いしましょー!」
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