人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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また、遅くなってしまい申し訳ありません……


19:夢思

 

 

「隣、よろしいですか?」

 

 現在の時刻は午前2:30。外から聞こえてくるのは雨音だけだからか、彼女の声がよく通った。

 

「別にいいけど……眠れなかった?」

 

「少し目が冴えてしまって……今日の事が頭に浮かんでくるんです」

 

 ──当然だろう。今日は彼女にとって色々な事がありすぎた。

 

 ジャジメントから理不尽に命を狙われ、今日の瞬間まで傍らにいたのは自分の命を狙った連中が造ったアンドロイドときた。

 

 そんな信じがたい世界の中にいきなり放り込まれて、熟睡なんて出来る筈がない

 

 少し俯きながらそう言う坂柳さんを横目に、機関銃の銃身を取り外す。

 

 手元を照らす光の下には機関銃の二脚や機関部といった各部品が置かれている。

 

 その部品を手に取り、乾いた布で表面の汚れを拭き取る。

 

 1つの部品を拭いた後は別の部品を手に取り、同じように拭いていく。

 

 そんな作業を繰り返し、体感にして10分程経った頃だろうか。

 

 隣で作業を見ていた坂柳さんが口を開いた。

 

「今の私に言えた事ではないのですが……慎君は寝なくて大丈夫なのですか? もうかなり遅い時間ですよ」

 

「うん? ああ……大丈夫。俺は少しの睡眠時間さえ確保できれば大丈夫だから」

 

 俺は人間と比較しても、必要な睡眠時間は極端に短くなるようにされている。

 

 脳の負荷や体の状況によって前後はあるものの、ざっと2時間から2.5時間程の休養で身体機能は十分に回復する。

 

「……それは慎君がアンドロイドだからですか?」

 

「そうだね。俺みたいに戦闘用で造られたタイプは人の機能……っていうと少し変だけど、そういうのが色々と削られてるんだ。実際、俺の場合は寝ても夢を見ないし、感情の起伏で涙を流すことも無いよ」

 

 俺にとって睡眠というのは、擬似的な仮死状態であることに他ならない。

 

 しかし、人間である彼女にとってこれは異質な事に見えるのだろう。

 

「……やっぱり怖いかな?」

 

「えっ……?」

 

「言い方はアレだけど、俺は人の形をしたバケモノみたいなものだからね。それに今日、坂柳さん達襲ってきたT(ターミネイト)シリーズもある意味では俺の遠い親戚でもあるから」

 

 互いに兵器として生まれた以上、用途は変わらない。

 

 その違いは有機生命体であるか、そうでないかぐらいか。

 

「……慎君は少し誤解をしています」

 

「それは何かな?」

 

 俺の問いに答える代わりに彼女の小さな手が伸び、俺の胸に当てられる。

 

 普段の彼女では絶対にあり得ない行動だったからか、内心少し驚愕してしまった。

 

 ふと、薄い光に照らされた彼女が穏やかに微笑んでいるのが目に映る。

 

「ふふっ……慎君は変わらないんですね。貴方から伝わる心拍はあの時と全く同じです」

 

「……そうかな? 同じかそうでないかなんて分かるものなのかい?」

 

「分かりますよ。私、記憶力には自信がありますので。それに……手から伝わる体温も全く同じですね。だからこそでしょうね……とても安心するんです」

 

「そう……まあ、坂柳さんが良いならいいんだけど……」

 

 そして再び、互いに無言のままに時間だけが過ぎていく。

 

 外から聞こえてくる雨音が木霊し、手元を照らす薄い光が僅かに揺らぐ。

 

「慎君」

 

 彼女が俺の名前を呼んだ──その声音に不思議と恐怖や不安は感じられない。

 

 同時に胸に当てられた手が離れ、その代わりに彼女の小さな頭が肩へ寄りかかってくる、

 

「私は今日、味わったこの恐怖を忘れることは出来ないでしょう。きっと……此処を卒業した後も心中の奥にしまって生きていくんだと思います。ですが──」

 

 彼女が俺の手を握る。その小さな手で離れぬようしっかりと。

 

「──貴方がこの手で、あの恐怖から私を救い出してくれた事も絶対に忘れたりはしません」

 

「……そっか」

 

「それに……慎君は怖いというより、何処か危なっかしいですから」

 

「いや、それを坂柳さんが言う……?」

 

「勿論。この際ですし、正直に言ってしまうと、なかなかの世間知らずですし、それでいて少しばかりデリカシーにも欠けますね」

 

 ……この会話の流れでなんで俺は罵倒されてるんだ? 

 

 いや、確かに日常生活の中で彼女の言う通りの部分はあるのかもしれないが……というか、世間知らずというのは彼女だって──

 

 その瞬間、坂柳さんが俺の顔を見て笑った。

 

「──ふふっ……やっといつもの顔になりました」

 

「あのな……」

 

 まるで悪戯を成功させたかのように微笑む坂柳さんを横目に、俺はある事実に気付く。

 

 ──そうか、これが()()なのか。

 

 彼女が無茶振りをして、俺は困って、当の彼女は愉しげに微笑んでいる──此処でのいつもの出来事。

 

 彼女にとっての日常──今だからこそ、ソレを求めている。

 

 なら、俺のすべき事は1つのみだ。

 

「慎君は私の大事なお友達です。貴方がアンドロイドであっても、貴方が人間でなくても、それは変わらない事実です。そして、私には貴方が必要です。学校生活でも、私の為にも──」

 

 だから、と彼女を言葉を区切る。

 

「──だから、私に何も言わないで、勝手にいなくならないでくださいね?」

 

「──善処するよ」

 

「善処だけでは駄目です。絶対遵守です」

 

「……坂柳さんは我儘だね」

 

「ええ。私、とっても我儘なんですよ?」

 

 人間とアンドロイドの決定的な違い──後者はどのような事があっても人間にはなれない。

 

 たとえ身体能力を失っても、能力を失っても、アンドロイドは人の形をしたものになるだけだ。

 

「それと慎君。先程、貴方は夢を見れないと仰いましたね?」

 

「うん? まあ、言ったけど……?」

 

「確かに夢は見るものでもありますが、望むことだって出来るんですよ。だから、慎君も手を伸ばしてみてください」

 

「はは……ソレは俺への助言として捉えていいのかな?」

 

「ええ。慎君が優秀な方というのは、私が一番よく知っていますから」

 

 夢を望む……か。ずっと前に似たような事を言われたな。

 

 曰く、()()()()()()()()()と分かっている望みも夢であるそうだ。

 

 だから──

 

「……ごめん」

 

「……? どうかしましたか?」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 心の中で彼女に対し、深く謝罪する。

 

 俺はまた彼女を騙すことになる……おそらく今度は取り返しが付かない最悪の形で。

 

 でも、それは俺が生まれた時から決まっていた、謂わば俺の終着点。

 

 よく人は運命は変えられると言うが、それでもどうにもならない運命というのは存在する。

 

 それを頭で知っている者は居ても、真に理解した者はそうそういない。

 

 そして、誰もがある日、唐突に思い知らされることになる──永遠など無い、そんな当たり前のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、学校側から全生徒に対して、緊急の通達があった。

 

 内容としては、倉庫エリアにて工事用重機の暴走事故があったというもの。

 

 事故の究明のため、該当エリア付近に生徒は勿論、関係者以外の立ち入りを禁止するとのことだ。

 

「いや、怖いよなぁ……試験が終わったと思ったら、今度は死亡事故だってよ」

 

「人生、何があるか分からないからね……はい、革命」

 

「うおっ……な、なぁ、待ったって通るか?」

 

「通らないから早くしなさいよ」

 

「……パスで」

 

「じゃ、アタシも無理だからパス」

 

「じゃあ、一抜けだ。後は頑張ってくれ」

 

 手元に残ったKのカードを捨て、俺の一位あがりが確定する。

 

「篠坂も容赦ねえよな……ほらよっと」

 

「あら、ありがと」

 

 橋本さんが出したQのカードに8のカードが重ねられる。

 

「おい、このタイミングで8切りって人の心は無いのかよ!」

 

「生憎、自分が可愛いのよ。アタシもあがり」

 

「それじゃ、飲み物頼んだよ。俺はコーラで」

 

「アタシは柑橘系がいいわね」

 

「はいはい……少々、お待ちくだされよ」

 

 不服そうな表情を浮かべて立ち上がる橋本さんの背中を見送る。

 

「……大富豪は今のようなものが主流なのですか?」

 

 傍らで俺達の一戦を見ていた坂柳さんが問う。

 

「主流……というか、革命とか、8切りがローカルルールって事を知らない人の方が多いんじゃないかな?」

 

「まあ、元からローカルルールが多い部類のゲームだし……そんな事言ったらUNOだってそうじゃない」

 

 実際、UNOも遊ぶ場面では殆どローカルルールありきの場合が多いからか、元のルールを知らない人も一定数いるらしい。

 

 とはいえ、それは同時に多くの人々に親しまれている証拠でもある。

 

 事実、こういった暇潰しや、小さな賭け事をするにはもってこいのカードゲームだと俺も思う。

 

「……しっかし、みんな浮かれてるわね。さっきから会話が夏休みのことばっかりよ」

 

「まあ、世間一般の家庭からしたら南の島への旅行なんて夢のまた夢だからね」

 

「といってもまだ先じゃない……まだ期末テストだって控えてるのよ? それに……」

 

「……分かってると思うけど、此処ではその話題は避けた方が良い」

 

「……分かってるわよ。そんなこと」

 

 クラスメイト達が盛り上がるのは学校で起こった事故より、夏に予定された旅行の話。

 

 そんな彼らはその事故がジャジメントによって引き起こされた事なんて知りすらしないだろう。

 

 結局はそうだ、悲劇も事故も、恐怖さえも自分が関わらなければ遠い世界の話。

 

 たとえ、その情報を共有されても自分の事として捉えられないのだ。

 

「……しかし、ただ生徒をバカンスに連れていくだけとは思えません。その旅行では確実に何かがあるでしょう」

 

「まあ、そう考えるのが自然だよな……で、その何かでも葛城さんに何か仕掛けるのかい?」

 

「いえ、今回は私からは特にそうするつもりはありません。どのようにとまでは言い切れませんが、葛城君と諍いにはそこでチェックを差せるでしょうね」

 

「おや、意外とそれなりの猶予は与えるんだね」

 

「クラスポイントも現在は私達が首位を独走している状態。今回の試験で追加されるポイントを加味したとして、この差は易々と埋まりません。ならば、余裕がある内に彼との諍いを完全に終わらせるに越したことはないでしょう」

 

「……アンタもアンタで、あんな事があった翌日によくそんなこと考えてられるわね」

 

「気にしていても事態は変わりませんから……それに私達には頼れるお友達が居ますし──」

 

 そう言って、微笑みながら隣の坂柳さんが目を合わせてくる。

 

 互いに見つめ合う構図だが、当の俺は何処か吸い込まれそうな感覚に襲われ、言葉を返せずにいた。

 

「よう、帰ったぞ……って、なんだ? この状況……」

 

 ……しまった。今の状況を一番見られたくない人に見られたぞ。

 

「いや、篠坂と姫さんが仲が良いってのは前から分かってたんだが……な、なぁ、どこまでいったんだ? もう神っちまった感じなのか!?」

 

「……神ってる?」

 

 ──何処かデジャブを覚えるこの光景。

 

 世界の真実を知ろうと、昨日は過ぎ去り、明日はいつも通りやってくる。

 

 同時に今日もまたこの喧騒に身を投じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャジメント会長──ジオット・セヴェルスからの呼び出しはある意味で死刑宣告のようなものだ。

 

「で、今回の高育の件だけど、Tシリーズは命令を完遂できなかったね?」

 

「は、はい……その後の処理は潜入していた部隊が……」

 

「おっと、それについては別にどうでもいいかな。僕が知りたいのは彼女を守ったヤツについて」

 

「そ、その件ですが……どうも彼処には秘密裏に入り込んでいる者がいるらしく……」

 

「だから、それも知ってるって……ねえ、確か君は言ったよね? ウチが保有していた第3世代より前の旧型は既に処分したって」

 

「は、はい……そのように報告は受けております……」

 

「おかしいね。じゃあ何故、たかが足の不自由な小娘を殺すだけの任務にTシリーズが失敗するのかな?」

 

 ビルの外の景色を見ながら、その男は続ける。

 

「そ、それは……」

 

「そういえば、確かジャジメントが超能力を持ったアンドロイドを造ろうとしたプロジェクトがあったよね。その時の実験体ってちゃんと始末したの?」

 

「……それもそのように報告を受けて──」

 

「報告? おかしいね。その時の処分に出向いたの君ってなってるけど?」

 

「──っ!? そ、それは……」

 

「もしだよ? 君が適当な仕事をしたせいで、生き延びた個体がいて、それが高育に入り込んでいるってなったら……どうかな?」

 

「あ、ああ……も、も、申し訳ありません! ど、どうか……」

 

 サングラスを付けた大男が恐怖でその場で腰を抜かす。

 

 そんなザマを男はただ冷徹な眼差しで見つめる。

 

「僕はね、職務怠慢をする人間が一番嫌いなんだ。況してや、事の重大性も気付かない人間なんか特にね」

 

「ひっ……う、うわあああああ!!」

 

 大男が背後のドアに向けて走り出す。

 

 しかし、彼はそれを止めるどころか、追う素振りも見せない。

 

「──ああ、やっちゃって。彼は()()だ」

 

 彼がそう言った瞬間、ドアの手前で大男が弾けた。

 

 まるで風船が破裂するかのような軽い音と共に、血と肉片が床へと散らばる。

 

「あ~あ、せっかくの部屋が汚れちゃった。やり過ぎだよ、エアレイド君」

 

『も、申し訳ありません!』

 

「まあ、いいけど……しかし、未登録の旧型アンドロイドか。あの辺、日本支部が勝手に色々やってたせいで僕もよく知らないんだよね」

 

『では、高育に再度……』

 

「いや、その必要はないよ。サプライズはまたの機会にしよう。不本意だけど、今回は彼らが勝ったんだからね」

 

『はい、かしこまりました……』

 

「そういえば、例の装置の件だけど……その後はどうかな?」

 

『それについては問題なく、依然として計画通りに進んでおります』

 

「うん、それは結構」

 

 そう言って、男は再び窓の外へと視線を戻す。

 

 その顔には軽薄な笑みが浮かんでいた。

 





いつもの雑談コーナー

……申し訳ありません。最早、弁明の言葉すらありませぬ。

「キミねぇ……もう少し努力した方が良いんじゃないかい?」

『ジオット様の言う通りです。私の出番だって──』

あっ、ジオットさんとエアレイドさんの出番って今後もこんな感じですよ?

『はあっ!? 私に飽き足らず、ジオット様まで!? 死んで平伏しなさい!!』

「まあ、僕らは14ではレギュラーだからねぇ……」

流石、ジオットさん。話が早くて助かります。

「ヴィランがいて、ヒーローは輝くものだしね……まあ、負けるつもりはないけど」

『流石、ジオット様……というか、だいたい何故また遅くなったの? 執筆はしてたのでしょ?』

……してたんですけど、完凸スカークを早く育成したくて。

『ジオット様。僭越ながら、コイツには再教育が必要だと思いますわ。それか爆殺しても良い気がしますわ』

「おやおや、自分に正直で良いことじゃないか。焦って台無しにしても仕方がないだろう?」

流石、個人的な復讐に15年かけた方の言う言葉は違いますね……

では、質問いきましょう。

『何故、坂柳さん達が篠坂さんの部屋にいるのか?』

単純に安全確保のためです。ミーナさんが現場にもどってジャジメントの部隊の偵察をしていますが、此方を別部隊が強襲してくる事に備えてます。

「おやおや、彼らも情けない……しかし、思い切った行動だね。一応、世間体を気にしなくてはならない身だろう?」

その辺は篠坂さんがアンドロイドというのもあるから……おかげで所謂、間違いが起きませんから。

『あったらR-15で済まないわよ……』

「間違いが無いように言っておくけど、パワポケは全年齢対象だよ」

では、また次回!
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