15連勤で最早、執筆する気力すらありませんでした……
その日の
彼らが騒ぐ理由はHR中に発表された先の中間テストにおけるクラスの順位。
本来ならば、その首位を自分達が取れる──ごく少数を除く面々はそう思っていた筈だ。
現に、HR中も真嶋先生からはかなりの高得点だったと言及があった。
しかし、貼られたプリント紙に記された4つの順位、その2位の席にAクラスはいた。
では、今回のテストにおいて、彼らを下したクラスは何処か?
Bクラス、Cクラスでもない──結果はまさかのDクラスだった。
当然、不正を疑う声は挙がったが、採点に間違いが無いのは確認済みで、彼らがテスト当日に不正をした痕跡もないとのことだ。
故に、彼らにはDクラスに負けたという事実だけが残った──自らが不良品と侮った面々に。
「いや……まさかDクラスがねぇ……」
「そうだね。とんだ番狂わせだ」
いつもは軽薄な橋本さんも何処か目付きが厳しい。
最近になって、改めて分かった事だが、橋本さんはどうも
現に彼が坂柳さんの派閥に属し、彼女の指示に従っているのもそれが理由だ。
尤も、それが当人の本質からなのか、それとも過去の経験によるものなのかは定かではないし、俺がそれを知る必要も無いのだが。
「今頃、Dクラスはお祭り騒ぎだろうね。同時に俺達もDクラスの動向に気を配らざるを得ななくなった」
「そうだな……しかし流石、姫さんだよな。全科目オールトップだぜ?」
Aクラスでも、坂柳さんが全科目において1位という圧倒的なスコアを叩き出した。
なおかつ、彼女の派閥の面々も軒並みに高得点という結果もあり、今回の彼女と葛城さんの一戦は彼女達の圧勝という形で幕を下ろした。
「良かったね。臨時収入が貰えて」
「茶化すなよ。篠坂も参加すればよかったじゃないか。お前だってクラス内で3位だろ?」
「生憎、俺は平穏無事な学生生活を送りたいんだ。今でさえ、戸塚さんから目の敵にされてるんだよ?」
一体、俺が彼に何をしたというのだろうか。
「へへっ……アイツのDクラスがトップって言われた時の顔を見たか? 驚いたと同時に笑い堪えるのが大変だったぜ」
まあ、彼には悪いが、彼こそが勝利に足を掬われる者の典型とも言える。
尤も、仮にDクラスの一件がなくても、今度は坂柳さん達に大敗するという結果が待っているのだが。
「まあ、ひとまずは難所を1つ越えた訳だし、次は期末かな」
「期末ねえ……そういえば、篠坂は夏休みの予定とか決まってるのか?」
「いや、何も考えてないけど……というか、まだ早くないかい?」
「いやいや、むしろ今こそが考えるべきだろ。夏に旅行もあるんだぜ?」
夏の旅行ね……まあ、ただの旅行でない事は橋本さんも分かっているんだろうけど。
とはいえ、休みの予定か……そうはいっても特にやりたいこととか無いし、俺のやることなんて普段と変わらない。
なんて何の面白みもない事を考えていた最中、あることを思い出した。
「そういえば、坂柳さんが今度の休みに遊びに来るとか言ってたっけか……」
「は? おい、その話、詳しく聞かせろよ」
……しまった。聞かれたら面倒な人がいるのに思わず口走ってしまった。
「いや、その……前に坂柳さんがいきなり言い出しただけだから……あまりに真に受けなくても──」
「ひ、姫さんが言い出したのか? あの姫さんがだぞ?」
「そ、そうだけど……?」
「ここだけの話だぜ。姫さんってめちゃくちゃガードが固いんだ。他の男どもがいくら誘ってもやんわり断られて終わりなんだぜ? そのせいか、裏では撃墜王って呼ばれてる話だ」
「そうか? 結構前に一緒にカフェ行ったけど、そんな感じはしなかったよ?」
「……お前、今の話を少なくとも他の男子に話すなよ? 撃沈した連中に袋叩きにされかねないぜ?」
いや、たかが人付き合いで何故、そんな物騒なリスクを負わなきゃならんのだ……
「で、今度の休みに姫さんと何処に遊びに行くんだよ?」
「何処って……俺の部屋に来るとか言ってたけど?」
「はぁ!? 篠坂の部屋に来るって言ったのか!?」
「ちょっ……耳元でいきなり大きな声を出さないでくれ」
「あ、あぁ……悪い。いや、それどころじゃねえよ。あの姫さんが男の部屋に上がるってお前……」
そう言って橋本さんが身を震わせる。
だが、特に敵意のようなものは感じず、寧ろ何かの期待をしているように見える。
とはいえ、彼がこんな反応をするとは……彼は坂柳さんと遊びたかったのだろうか?
「えっと……橋本さんも遊びに来る? とはいっても俺の部屋、何もないけど」
「いや、俺の事はいい。それよりもだ……篠坂は姫さんをどうもてなすとか考えてるのか?」
「いや、まったく」
「おい! それは最優先で考えるべきだろ! ほら、姫さんが好きなものとか何かないのか?」
「好きなものって言われても……」
ふと、脳裏にあの日の夜の光景が浮かぶ。
坂柳さんが襲われた日の夜、彼女の不安を紛らわす目的もあって彼女とチェスをした。
尤も、俺自身がやるのは初めてだった為、彼女にルールを教わりながらだが、そのときの彼女は何処か楽しげな表情を浮かべていたのを覚えている。
「前に坂柳さんとチェスをしたんだけど……そのときはとても楽しそうだったかも」
「チェスねえ……確かに姫さんのイメージぴったりだな。とはいっても、俺もそんなに指せる訳じゃないからな」
……あれ? これってもしかして、俺が思っているのと違う方向に話が進んでない?
「えっと……そのときは坂柳さんに教えて貰いながらだからだし、その後、普通にボコボコにされたからね?」
「……お前、今の話も俺以外に言うなよ? 篠坂にその自覚は無くても、他の男からしたらそうとう羨ましい思いをしてるからな?」
「えぇ……」
初めてのチェスで完膚なきまでにボコボコにされる事の何処が羨ましく思うのだろうか。
此処での生活や、坂柳さん達との交流を通して人間への理解度が上がったつもりでいたが、どうもこの年代の人間への理解度はまだ不足しているようだ。
「さて……今からでも遅くねえ。件の休みについて何か考えとけ」
「えっ? いや、別にそこまでしなくても──」
「お前、このチャンスをものにしないでどうするんだ!?」
チャンスって……彼は坂柳さんと遊ぶことにどんなチャンスがあると言うのだろうか?
というか、別に坂柳さんだけじゃなくて、神室さんもいるんだけどな……
更に付け加えると、当の神室さんは坂柳さんの無茶振りに巻き込まれただけだけなのが、何とも気の毒である。
「おや、お二人のお話に私の名前が出ていましたが、私がどうかしましたか?」
噂をすれば影がさすとはまさにこの事だろうか。
俺達の背後にいつもの微笑みを浮かべた坂柳さんと仏頂面の神室さんの二人が立っていた。
「えっ? ああ、いや……テストの結果が出たじゃないすか。その事ですよ、なっ?」
「……そうだね。まぁ、そういうわけで1位おめでとう」
「ふふっ、ありがとうございます。そう言う慎君も3位なのですから、そう謙遜しなくてもいいと思いますよ?」
「出る杭は打たれるものだからね。今回はこの席に甘んじさせて貰うよ」
「おや、それは残念です。では、次の機会に期待しましょう」
誰に対しても、心にもない事をスラスラと言える彼女の胆力には毎度、脱帽してしまう。
まあ、その胆力があってこそ、撃墜王として名を馳せたのかな……尤も、本人にその気があるのかは知らないが。
「そうそう。今週の土曜日なのですが、以前お約束した通り、慎君の所へ遊びに行きますね?」
『行きますね』の時点で最早、拒否権すら認めない姿勢なのだが……
まあ、約束してしまったのは事実だし、今さらソレを反古にするのも失礼ではある。
「別に構わないけど、俺の部屋ってほんと何もないよ?」
「はい、存じ上げていますよ。ですので、私と真澄さんで色々と持っていこうと思っています。ふふっ、楽しみにしていてくださいね?」
「アッハイ」
「は? アタシ、初耳なんだけど?」
了承しておいてなんだが、彼女は少しは遠慮というものをしても良い気がする。
とはいえ彼女も彼女で、何故ここまでして行こうと思うのか、情けないことに皆目検討もつかない。
少なくとも休日は彼女達にとっても貴重だと思うのだが……
「……篠坂」
ふと、隣から左肩が掴まれる。
「……どうしたの?」
「……今の話の流れからして、姫さん、もう既にお前の部屋に上がったことがあるみたいなんだが?」
坂柳さんが神室さんを弄っているのを横目に、橋本さんが耳打ちしてくる。
「そうだね。一回だけ来たことがあるね」
「もう殆ど神ってるじゃねえか!?」
俺の耳元で本日2度目の橋本さんの叫びが爆発した。
卓上に広げられた盤の上で、行き交う駒がコツコツと音を立てる。
並べられた駒が動く度に相手の駒を取り、逆に自分の駒を取られと──無言のやり取りが続く。
しかし俺はともかく、彼女達──もとい坂柳さんは貴重な休日がこんな過ごし方で良いのだろうか?
「……今更だけど、坂柳さんは良いのかい?」
「何がでしょう?」
「せっかくの休日でわざわざ他人の部屋に上がってする事がチェスだけというのは少し味気無いかなって思ったからさ」
「おや、そんなことでしたか。ご心配なさらなくても、私は十分楽しいですよ。私とチェスでここまで指せる人というのは貴重ですから」
坂柳さんが
「しかし、慎君は上達が早いですね。少し前に教えたばかりだというのに、ここまで出来るようになるなんて」
「もしそうなら、それは教える人が良かったからかな」
「そうですね。教えた身として誇らしく思います……チェック」
「とはいっても、まだ坂柳さんには全然及ばないけどね……はい、詰みです」
今の盤面からして、次の坂柳さんのターンを凌いだとしても、再び坂柳さんのターンが来れば俺の
──つまり、既にこの時点で坂柳さんの勝利が確定している。
「ふふっ、私の勝ちですね。今度は何か賭けてみてもいいかもしれません。その方が刺激がありますし」
「勘弁してくれ。それって俺がカモにされるやつでしょ……」
「おやおや、それは残念です。でしたら──」
「──アタシはパスだから」
坂柳さんの言葉を遮るように神室さんが答える。
その視線はテレビへと向けられ、手に持ったコントローラーの△ボタンに指が添えられていた。
そして、次の瞬間、画面の中の主人公が狂ったように笑い出し、端に表示されたゲージがどんどん減っていく。
同時に彼女も△ボタンを連打するものの、ゲージの減少は止まらない。
「これ、すごく指が疲れるんだけど……」
そうやって溜め息を交えて言う彼女の顔には疲れの表情が浮かんでいる。
しかし、画面に映るGAME OVERの文字から、彼女の連打空しく彼は死亡してしまったようだ。
「橋本さんも言ってたよ。其処が一番キツイって」
「あっそ……というか意外ね。アンタ、こういうのに興味がないイメージがあったんだけど」
「何度も橋本さんに推されたからね。それを無碍にするのも悪いだろ?」
「へぇ、アイツがね……アンタもなんだかんだ気に入られてるのね」
「そうかな? 単にそのシリーズの布教のためだと思ってんだけど」
「ふふっ……彼も人の一挙手一動をよく見ていますから。それを踏まえて、慎君には素を出しても良いと考えたのだと思いますよ?」
確かに橋本さんは派閥こそ坂柳派の一人ではあるが、彼女に弱みを握られた訳でもなく、かといって別に心酔してるわけでも無い。
彼が坂柳さんの派閥に属している理由──それは其処にいることで自分が勝てるから。
至極、単純かつその関係性は意外にも強固だ。
坂柳さんもそれが分かっているからこそ、彼をさほど拘束したりはしないのだろう。
謂わば、勝ち馬に乗じる──などと言ってしまえばそれまでだが、未来の勝敗を見定めるにも相応の能力が必要となる。
無論、彼には相応の能力があるし、それを行動で証明して見せている。
そんな中、自分の好むものを共有するという行動を見せるというのは1つの信頼の現れと言っても過言でもない。
俺にとって有意義かどうかは別として、当人から悪い評価はされてないというのは肯定的に受け取るべきだろう。
「そっか……まあ、悪い気はしないかな」
そう言って、手元のチーズケーキを口へと運ぶ。
口内で感じる溶けるような食感とさっぱりとした甘さが拡がる。
「ふふっ……お口に合ったようでなによりです」
「そうだね。確か、これって前にカフェに行った時と同じヤツだよね……安定して美味いね」
「おや、覚えていたのですか。慎君のことなので、もう忘れてしまったかと思っていました」
「流石に初めての事を忘れるほどボケてないよ。実際、友人とカフェに行くなんて生まれて初めての経験だったんだから」
ついでに言ってしまえば、誰かと一緒にショッピングへ行ったのも、あのときが生まれて初めてだったりする。
「……ミーナさんとも行ったことが無いのですか?」
「……? そうだけど?」
「──そうですか。私が初めてなんですね。ふふっ……そうですか」
あくまでミーナさんとは仕事上で付き合いがあるだけなんだが……というか、なんか上機嫌だな。
よく分からないが、今回は彼女の期限を損ねる事は無かったようだ。
「あっ、そうそう……後、これを渡そうと思ってさ」
「これは……?」
「まあ、部屋に何もないと言った手前だけど、坂柳さんに何か持ってきて貰うだけじゃ良くないと思ってさ。俺も用意してみたんだ」
坂柳さんの視線が卓上に置かれた包装物に向けられる。
……なんというか、そこまで注目されると変に緊張するな。いや、別に大したものじゃないんだけども。
「お気遣いありがとうございます。包みを開けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
坂柳さんが包装を開けると、水色のリボンが特徴的な麦わら帽子。
特に何の変哲もないキャペリン──日本では女優帽とも呼ばれるものだ。
「もうすぐ夏だろ? それと坂柳さんのイメージを思い浮かべたらこうなった」
「私のイメージ……ですか」
おもむろにそう呟いて坂柳さんは沈黙してしまう。
てっきりいつもみたいに、からかわれるものと思っていたからか、予想外の彼女の反応に少し困惑してしまう。
いや、確かにセンスが良い贈り物だとは思ってはいないが……もしかして、何か致命的なミスをしてしまったのだろうか?
「えっと……それをあげた以上、どうするかは坂柳さんに任せるよ。別に処分してくれても構わないし、なんだったら誰かにあげてもいいしね」
「ふふっ、断じてそのような事はいたしませんよ……被ってみてもよろしいでしょうか?」
「勿論」
そう答えると、彼女は被っていたペレー帽を外し、手にしていた帽子を被る。
彼女が身に付けている白のワンピースも相まって、それこそ精巧に造られた人形のようにも見えた。
これが所謂、『映える』というやつなのだろう……まあ、元から容姿はかなり綺麗だし、当然と言えば当然か。
「どう……でしょうか?」
「素人目から見ても似合ってると思うよ」
「ふふっ……ありがとうございます。この帽子、大切にいたしますね?」
「……気に入ってくれたようでなによりだよ」
悪印象を抱かれなかったのは幸いだが、まさかここまで好印象を持ってくれるとは思わなかった。
まあ、何はともあれ……贈り物は無事に受け取って貰えた。今はそれを喜ぶべきだろう。
端から見たら特に何の変哲もない、ありふれた普通の休日。
それも、目の前で大事そうに帽子を抱き抱える彼女を見ていると、普通に見える一幕でも確かに意味はある──そう思えた。
「……一応、横にアタシもいるんだけど?」
そう呟いた彼女は仏頂面のまま△ボタンを連打するのだった。
いつもの雑談コーナー
もう働きたくないよ( ;´・ω・`)
「……いや、色々と災難でしたね。休みが次々と消し飛んでいくなんて」
いや、分かるよ? 人がいないのも分かるし、況してや深夜まで働ける人なんてごく一部だって。
でもね、私も休みを消し飛ばしてまで仕事なんてしたくはないんですよ……
「このままだと仕事の愚痴が続きそうなので、さっさと質問行きましょう」
『何故、帽子をプレゼントしたか』
帽子は彼女のトレードマークとも言えるし、メタい事を言ってしまうと、よう実のB2タベストリーのイラストをイメージしたというのが主な理由です。
「直前に橋本さんの口添えもあったのも大きいでしょうね。それが無かったら本当に何も用意しなかったまであります」
橋本さん曰く、もう付き合っちゃえよとの事です。それでは次の質問へ行きましょう。
『神室さんがプレイしていたゲーム』
まあ、同じ販売会社繋がりの某歯車です。流石に露骨過ぎましたかね。
ちなみに作者が一番やり込んだ作品はPWです。
「パワポケ9の裏サクセスで登場するサイバー忍者の元ネタとも言われてますね。10にもパロディネタがありますし」
作者がよう実見てた頃はTPPのオンラインのアプデが入っていた記憶があります。
「そういえば新ハードでリメイクがありますね」
いやぁ……作者は様子見するつもりです。それではまた次回!