人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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……ようやく休みが取れました。職場にカタストロフ起きてくんないかなぁ。


23:乾坤一擲

 

 

 雲一つ無い青空から燦々と照り付ける太陽に思わず目を細める。

 

「あちぃ……」

 

 隣にいる橋本さんが既に3度目となる愚痴を溢す。

 

 風が吹いてはいるとはいえ、数刻前まで冷房が効いた部屋に慣れた生徒らにはこの気候は辛いようだ。

 

「さっきからしつこいわね。いい加減、やめてくれない? こっちだって我慢してんのよ」

 

「まあ、昨日までは悠々自適な生活だったからね……」

 

 人間とはその知性を以て、技術を発明し、環境を自らに適した変えてきた生物だ。

 

 その文明の利器たるものを取り上げられれば、こうも非力となるのも無理もない。

 

「そう言う篠坂はわりと平気そうだな……」

 

「真夏に冷房はおろか、扇風機を使うのすら惜しい生活をすれば嫌でも耐性が付くよ」

 

「地獄じゃねえか……」

 

 仕方ないじゃないか。前なんて光熱費もカツカツなのに、冷房なんか使ってたら電気代が馬鹿にならないんだ。

 

 高育の環境もあって忘れそうになるが、電気代、光熱費──生活費が取られない生活というのは現代の人こそが望む理想郷そのものである。

 

 なに、諸君らもきっと分かるものだ……少なくとも自分で生活費を払うようになれば。

 

「ではこれより───本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 壇上に立った真嶋先生の言葉で、数秒前の喧騒が嘘のようにその場は静まり返る。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午を以て終了となる。諸君らは、これからの1週間を各クラスで集団生活を行い過ごすことが試験となる」

 

 一週間、集団生活という言葉に生徒達がざわつく。

 

 要はこの無人島で一週間、サバイバル生活をしろと言われているのだ。

 

「なお、試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある」

 

「おいおい……マジかよ」

 

 つまり、学校側は基本的に各々の活動に介入することはないということ。

 

 そして、同時にそれは生活における必要要素を各々で達成し、自足の環境を構築することに他ならない。

 

 尤も、学校側も代償付きとはいえ、生活を良くする手段は用意しているるのだろうが……

 

 とはいえ、そんないきなりとも言える宣言に納得できない生徒も一定数はいるようで、その生徒達からは『あり得ない』『ふざけてる』といった罵詈雑言が飛び交う。

 

 しかし、その雑言に他の教員達は反応することはなく、壇上でその光景を見ていた真嶋先生は呆れたように深く溜め息を吐いた。

 

「……諸君らは口々にあり得ないと言うが、実際に無人島での研修を行っている企業は存在する。それも誰もが知っている大手の企業がだ。そもそも、世の中の企業には特殊な研修だけでなく、オフィスに椅子がない職場であったり、そもそもオフィスというものを持たない職場もある。それぞれにそのようにする理由があり、その組織に属する人々はその環境に適応してみせている。それすら知らない君達に批判する根拠はあるのか?」

 

 わーお……最早、反論すら許さないガチガチな理論武装じゃないか。

 

 とはいえ、確かに当人が知らないだけで何処かにはののような事をする企業──もとい組織は存在するのだろう。

 

 客観的な視点でそれを踏まえず、ただ現状の苦情を捲し立てるその姿は滑稽と言わざるを得ない。

 

 しかし、此処にいる生徒はあくまで旅行という名目で此処に連れてこられている。

 

 現状の不満を吐き出すだけならともかく、学校側もその点については覆すことは出来ない事実だ。

 

「とはいえ、君達は旅行という名目でこの島へとやって来た。その為、諸君らにも日々を満喫する権利はある。故にこの一週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。時にはキャンプファイヤーをすることも出来る」

 

 そう言うと真嶋先生はパンフレットのような小さな冊子を懐から取り出す。

 

「試験の期間中、各クラスに試験専用のポイントを300支給する。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことも可能だ。ポイントで購入できるものについては配布するマニュアルに記載してある。利用の際には参考にすると良い」

 

「つまり……試験中は300ポイントで欲しい物が何でも貰えるってことですか?」

 

「そうだ。食料や飲料は勿論、バーベキュー用の機材などあらゆるものをポイントで揃えることが可能になっている。無論、計画的に使う必要はあるが、計画を立てれば無理なく1週間を過ごせるよう設定されている」

 

 成る程、今回の試験は件のポイントの使い方次第によってはサバイバルからバカンスにだってなる訳だ。

 

 下手な話、ポイントを切り詰めても良ければ、使い込んで悠々自適な生活を送っても良い。

 

 何をするも自己責任のある意味で完全な自由──この試験の肝はそこらしい。

 

 そういう意味ならあながち()()という名目も嘘ではないのかもしれない。

 

 尤も、無条件で無人島バカンスをさせてくれるほど、学校側も太っ腹ではないだろうが。

 

 内心でそんなことを思う俺に、そうだと言わんばかりに真嶋先生は「なお」と言葉を区切った。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する事になっている」

 

 真嶋先生のその言葉に生徒達が再びざわつく──特にDクラスの方が。

 

 つまり、生徒達は此処での生活にてクラスポイントと利便性を天秤にかけることになる。

 

 無論、手ぶらで放り込むという事は無いだろうが、あっても最低限度……それ以上はポイントを使用するか、各々で調達せざるを得ない。

 

 特にポイントの使用についてはすぐにでもクラスポイントが欲しい下位クラスには一番の論点になり得る。

 

 困難を極めるとはいえ、最高300ポイントという数字は嫌でも印象的に映る筈だ。

 

 さらには現状、トップである俺達にもBクラスとの差を広げる意味でも大きな意義があるだろう。

 

 とはいえ、同時に俺の個人的な問題も浮上する。

 

 当然ではあるが、この試験は否が応でもクラスメイトとの連携が必至。

 

 各々に与えられた役割を果たす事で、初めて共同生活という形が生まれる。

 

 そんな中、勝手な理由を付けて独断行動をとろうものなら、反感を買うのは必然……既に悪い印象を持たれてる者は別でも、あまり悪目立ちする行動は避けたい。

 

 ……まあ今回の試験、クラスの指揮については葛城さんに任せるそうだし、どうにかなりそうではあるが。

 

 そんなことを考えていた矢先、急に横から肩を叩かれる。

 

「ね、ねぇ……なんか聞こえない?」

 

「おっと、どうしたよ? 真澄ちゃん……って、なんだこの音?」

 

「風の音……ではなさそうですね」

 

 押し寄せる波の音に混じり、何処か重く低い音が木霊する。

 

 ……いや、これは音というより呻き声……に近いものを感じる。

 

 それも、かなり大きなものが悶え苦しんでいるような……そんな感じだろうか? 

 

 この異常事態には他の生徒達は勿論、先生達も気付いたのか、周囲を見回していた。

 

「確かに……なんだこりゃ……」

 

「ね、ねぇ……ミーナさんが言ってたじゃない。この島から変な音がするって……」

 

 確かに彼女はそんなことを言っていた。これが件のモノなのだろうか。

 

「……皆、静粛に。この後、本試験について各クラスの担任から補足説明がある。その後の質疑応答の後、本試験を開始する。それでは他クラスは各担任の下へ集まってくれ」

 

 真嶋先生の言葉にざわついていた生徒達は口を噤む。

 

 彼らにとっても気味が悪いとはいえ、眼前の試験の方が重要であることに変わりはない。

 

「慎君、私達も行きましょう。この場で考えを巡らせても確証は得られません」

 

「……そうだね。でも、坂柳さんも杖だとかえって危ないよ。ほら……」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 彼女の小さな手を取り、真嶋先生の下へと歩む。

 

 その小さな手から感じる体温に少しだけ安心感を覚えたのはきっと気のせいだろう。

 

 

 

 

 

「今から全員にこの腕時計を配布する。これは試験終了まで外すことなく身につけておくように。なお、許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられる事になっている。また、腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載してある。緊急時には迷わずそのボタンを押すように」

 

 真嶋先生が身に付けた腕時計の説明をする傍で、業者の人間が支給品を積み上げていく。

 

 これがAクラスに支給されるテントなどの物資だろう。

 

 しかし、特にテントなどはとてもじゃないが、クラスの人数に対して足りてはいない。

 

 あくまで学校側が支給するのは最低限度のものということだ。

 

 各々が遠い目で箱を見つめる中、箱から取り出した腕時計を付けるよう指示される。

 

 腕時計にしてはやけに機能が盛り沢山ではあるが、学校側も生徒の安全を確保する義務がある以上、生徒の容態を確認できる手段が必要になる。

 

 この腕時計はその一環、外部に健康状態などのデータは監視されてると言える、

 

 しかし、これは同時にこの無人島において人々の驚異となる野生動物などの要素は基本的に排除されてるものと見ていい事になる。

 

 現に先生が説明したように、学校側も生徒の健康状態や位置の把握を重きに置いているのだ。

 

 つまり、試験に限った話、憂慮すべきは各々の健康状態であろう。

 

「幸いにも時計は完全防水となっており、身に着けたまま海などに入っても問題無い。 仮に万が一故障した場合は、ただちに管理者が駆けつけて交換することになっている」

 

 成る程……俺達とは別に、その手のフォローをする面々は至るところにいるというわけだ。

 

 生徒の安全確保という意味では心強い事この上ないが、この試験から抜け出すとなれば、話は変わる。

 

 ブラックさんとは島内で落ち合う事になっているが、流石に監視付きで合流しても姿を隠されるだけだろう。

 

 この腕時計の対処については考えておかないと駄目か……

 

「それでは、まずこの試験における禁止事項から説明していく。マニュアルの最後のページにも載っているので、後程各自で目を通すといい」

 

 そうして、真嶋先生からペナルティについての説明が始まる。

 

『著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者は-30ポイント。同時にその者はリタイアとなる』

 

『環境を汚染する行為を発見した場合。-20ポイント』

 

『毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につき-5ポイント』

 

『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収』

 

 あくまで試験という都合上、社会的なモラルや良識、生徒の安否確認については厳しいルールが引かれている。

 

 しかし、禁止事項の文面を読んでみると、解釈によってはルールの穴とも呼べる箇所が幾つもある。

 

 例えば最後の、他クラスに対する暴力、略奪などの行為は禁止している一方で、自クラスへの言及はない。

 

 無論、そんなことはあり得ないと言ってしまえばそれまでだが、解釈によっては他クラスに対する諜報に利用できたりする。

 

 仮にクラスの内から除外者となる人物を選定し、何らかの理由で自クラスから追い出されたと演出したとすれば……

 

 そんな事を考えていた矢先か、真嶋先生が再び口を開いた。

 

「ではこれより追加ルールを説明する」

 

 ほら来たよ……まあ、ポイント使用の我慢合戦だけとなれば、おそらく殆どのクラスがポイントの大幅な減点を免れない。

 

 故に追加で得点──もといポイントを獲る手段があるのは当然とも言える。

 

「島の各所にはスポットとされる箇所が幾つか設けられている。それらには占有権と呼ばれるものが存在し、占有したクラスのみ使用できる権利が与えられる。どのように活用するかは占有権を得たクラスの自由だ。ただし、占有権は8時間しか効力を持たず、定刻後は自動的に権利が取り消されることになる。その時点で別のクラスに取得する権利が発生するということだ。そして、スポットを1度占有するごとに1ポイントのボーナスが加算される」

 

 そして真嶋先生はポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「これから諸君らにリーダーを一人決めてもらう。リーダーが決まったらすぐ私に報告してくれ。その際にこのキーカードを支給する。制限時間は今日の点呼まで。それまでに決まらない場合はこちらで選出することになる」

 

 ここまでの話を聞けば、俺達はこの島で節約生活をしながら、陣取りゲームをするだけで良いだけに思えてしまう。

 

 しかし、それは大きな間違いだ。

 

 理由? そんなのマニュアルを見れば一目瞭然である。

 

『スポットを占有するには専用のキーカードが必要となる』

 

『1度のスポットの占有につき、1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる』

 

『他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合-50ポイントのペナルティを受ける

 

『キーカードを使用できるのはリーダーとなった人物に限定される』

 

『正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない』

 

 マニュアルにはスポットはリーダーのキーボードを以て有効化されると記載されている。

 

 つまり、スポットを狙っていくには必然的にリーダーを連れ回さなくてはならない。

 

 そして、この『リーダー』という役割はこの試験において最大の駆け引き要素だ。

 

 これを他クラスに露見させる真似は絶対に避けなくてはならない。

 

 その理由はマニュアルの追加ルールに関する説明の最後に記載されている。

 

『最終日の点呼の際、他クラスのリーダーを当てる権利が発生する』

 

 ・リーダーを当てる毎に50ポイントを得る

 

 ・リーダーを当てられた場合、-50ポイント。同時にボーナスポイントも没収される

 

 ・リーダー以外の人物を指名した場合、-50ポイントのペナルティを受ける。

 

 安易にスポットを狙えば、リーダーを当てられ、最終日に当てずっぽうでリーダーを指名してもポイントを喪う。

 

 ハイリスクハイリターン──各々の行動が命取りに繋がりかねない。

 

 それにこの島にあったというジャジメントの研究施設、海岸で聞いたあの呻き声のような音。

 

 この島に俺の過去、或いは関連した何かがある……少なくともそれは気持ちの良いものではないだろう。

 

 だが、手をこまねいた所で、何も始まらない。

 

 サンタクロースが良い子にしてもプレゼントをくれないように、欲するのならば自分で獲得しなくては。

 

 賽は投げられた──故に誰も止まることはもう出来ないのだ。

 

 

 

 

 






いつもの雑談コーナー


職場が爆発しないかなぁ……と最近、本気で考える作者です。

……投稿、遅れてごめんなさい。

深夜勤務した後、休みを貰えても結局は始発まで帰れないから、帰っても寝て終わるんですよね。

……人がいない。

まあ、少なくとも人間関係の不満で2人辞めてますからね。無理もありません……それでは質問へ。

『アンドロイドって熱中症とかになるの?』

一応、人造人間である以上は熱中症とかになる可能性はあります。

とはいっても、耐えれる度合いは一般人より遥かに上だし、篠坂さんの場合は後天的な経験で耐性がついてるのもありますね。

「……クーラーの有り難み……夏は特に」

まあ、ブラックさんは廃墟暮らしですからね……地に足どころか落下し続けてるような状況ですもんね。

「……みんなで不幸になろう」

私はともかく、ピンクさんも巻き込まんで差し上げて下さい。

短いですが、また次回!
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