人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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……重大な家族間トラブルがあり、ようやく終息が見えたのもあって再開しました。


26:回帰

 

 

 

 

 前に読んだ小説の中に『星が瞬く』という表現があった。

 

 無論、それは人間の目にそう見えるのであって、実際に星は瞬いている訳ではない。

 

 現実は星からの光が大気中を通過する際に空気の密度や温度の違いによって屈折率が変化し、光の進む方向が僅かに揺らぐことで、星の見かけの明るさや色が変化するだけの視覚現象。

 

 実際には何も変化していないのに、人間が勝手にそう認識して生まれた()()に過ぎない。

 

 だから、その小説を読んでいた時も特段に興味を持つことはなかった。

 

 想像の世界を膨らませるための、ある一要素でしかないと思っていたから──

 

「……」

 

 ──でも、今は少し違う。

 

 眼前に広がる煌めきに思わず言葉を失ってしまう。

 

 街灯や照明等の人工の光が殆ど存在しない無人島という特異な環境と、航海中でも特徴的だった綺麗な青い海。

 

 さらには、天候や気候といった様々な要因が合わさって起こる貴重な瞬間。

 

 それが、今、俺の眼下で起きている。

 

「ふふっ、今日の天気が雲一つ無い快晴だったのと、風もとても緩やかでしたのが功を奏しましたね」

 

 隣の彼女の言う通り、日中は雲一つ無い快晴で、風も常に緩やかだった。

 

 とはいえ、それを考慮しても、この現象が起こるとも限らない。

 

 むしろ、潮の流れなどの運の要素などを多分に含んでいる筈だ。

 

 でも、この光景を目にしていると、そんな事などがどうでもよく思えてくる。

 

 空で煌めく星空が海面に映り、それが波によって仄かに青く揺らぐ。

 

 そう……まさに今、この瞬間に俺は星が瞬いているのを目にしていた。

 

「……スゴいな。これは」

 

「ふふっ、ご満足頂けているようで何よりです」

 

 知識として理解している情報と、実際に目にしている情報。

 

 その内容は一緒の筈なのに、体感はこれほどまでに乖離があるものなのか。

 

 少なくとも、目の前の光景に対して、俺には感嘆を漏らすことしか出来なかった。

 

 生まれてはじめての光景に目を奪われていると、パシャッと水飛沫が飛来する。

 

 それは側頭部に当たり、水特有の冷たさと仄かな潮の匂いを感じさせた。

 

 そして、その傍らには不適な笑みを浮かべる坂柳さん。

 

「何するのさ、いきなり……」

 

「おや、知らないのですか? 海に来たらこうするのが、常識なんですよ?」

 

 はて、彼女は何処の国の常識を話しているのだろうか? 

 

 少なくとも、俺が生きている日本という国において、海で誰かに海水をかける常識を俺は知らない。

 

 とはいえ、いくら知らぬ常識といえど、やられたままというのは性に合わないものだ。

 

「……キャッ!」

 

 再び彼女が水を飛ばした瞬間、能力を使ってその軌道を彼女へと向ける。

 

 彼女からすれば俺に飛ばした水が自分に跳ね返ってきているといったところだろうか。

 

「……慎君、そういうのはズルいと思いますよ?」

 

「おや、失敬。次は気を付けるよ──へぶっ!」

 

 言い切る前に顔面に水の塊が叩きつけられる。

 

 先程とは比べ物にならない潮の匂いと、口内からする塩の味。

 

 ……よろしい、ならば戦争だ。

 

「ふふっ、油断しましたね。キャッ……!」

 

 今度は此方も水飛沫を坂柳へと飛ばす。

 

 そして、水を掛けては掛け返して、そんな応酬が続く。

 

 こんな夜更けに、更には生まれて初めての光景を前に、なんと幼稚な事をしているのだろう。

 

 頭の片隅ではそれを理解しているのだが、それよりも純粋に楽しいという感情が勝っていた。

 

 無論、そんな事を考えているのは俺だけで、向かいの彼女は何か目的があったのかもしれない。

 

 でも、この時の俺にはそんな些事などはどうでもよかった。

 

 ただ、この愉快であり、無駄な娯楽は彼女がいなくては成立し得なかった──その事実だけで十分だった。

 

「ハハッ……坂柳さん、ちょっと容赦なさ過ぎない? 顔と髪とかびしょびしょなんだけど」

 

「ふふっ……その言葉、そっくりそのまま慎君にお返しいたしますよ。慎君も少しムキになりすぎでは?」

 

 まったく、どの口が言うのだろうか。

 

 髪から垂れる水滴を肩で感じながら、思わず笑ってしまった。

 

 以前の俺なら、彼女の言葉にきっと怪訝な表情で愚痴を溢していただろう。

 

 そして、彼女も適当な言葉で返してくる──でも、今は少し変わった。

 

 こんな意味もない事……悪く言えば何の生産性もない事さえも楽しいと感じる。

 

 きっと前の俺はそんな事を思いもしなかっただろう。

 

 敵とそれ以外かでしかなった人の区別に、いつの間にか様々な要素が組み込まれていた。

 

 これは変化だろうか、それとも劣化? 或いは──

 

「ふふっ、やっといつもの表情になりましたね」

 

「いつもの表情?」

 

「はい。慎君も適度に気を抜くべきですよ。無論、能天気になれというわけではありませんが、気を張り詰めすぎても事態は好転しません」

 

「そう? 俺ってそんなに気を詰めてるように見えた?」

 

「ええ。試験が始まってから、元から悪い目付きが更に悪くなってますよ」

 

「おいこら、元からってどういうことだ」

 

 別に目付きが良いという自負があるわけでもないが……悪いってほどでも……いや、そうだよね? 

 

 全く以て不本意ではあるが、こう言われない為にも諸君は貼り付けでも良いから日々の笑顔を大事にしよう。

 

 しかし、彼女の言う通り、少し過敏になっていた自覚は確かにある。

 

「それに慎君が言ったのですよ? やりたいならやればいいと」

 

「そういえば、そんな事も言ったっけか」

 

 プールの授業の時、二人で見学してた際にそのようなことを言った。

 

 気が付けば、もう3ヶ月以上の月日が流れていたのか。

 

「ですので、私の水着姿はまたの機会ということで」

 

 おっふ……確かにそんな事も言ったな……いや、何か途端に恥ずかしくなってきたんだけど。

 

「……えっと、楽しみにしておくよ?」

 

「何故、そこは疑問詞なのでしょう?」

 

「……意気地無し」

 

「おいこら、意気地無しってどういうことだ」

 

 だいたい、本人を目の前にして、水着見たいですなんて言うのも変だろうに……ん? 

 

 待て、誰だ? 今の意気地無し発言をしたのは……

 

「えっと──」

 

「──ばあっ」

 

 困惑してる坂柳さんの右隣から黒髪の女性が突如、姿を現した。

 

「キャッ!? ……ブ、ブラックさん?」

 

「……イエスアイアム」

 

 そんなどこぞの死んだ筈の占い師が電撃復帰した時のようなポーズをするブラックさん。

 

「……ちなみに何時から居ました?」

 

「……アナタ達が水を掛け合ってた時から」

 

 ほぼ最初っからやんけ……ということは今までの事は全部ブラックさんに見られてた訳だ。

 

「……私のリア充センサーが大きな反応を示していた。うん、良い青春してるね」

 

「それ、褒めてます?」

 

「……羨ましさ7割、妬み3割くらい」

 

 妬みが3割もあるのかよ……というか、リア充センサーって何だよ。

 

 そんな俺達を他所に、ブラックさんは持っていた串焼きを頬張る。

 

 ……そういえば、この試験のマニュアルにBBQセットがあったっけ。

 

「ところでブラックさん、つかぬことを聞いても良いですかね?」

 

「……オッケー」

 

「その串焼きって何処で手に入れたんですかね?」

 

「……借りた」

 

「借りたって……誰から?」

 

「……髪の長い男子生徒がリーダーをしてるクラス」

 

「それって龍園君ですね……間違いなく」

 

「……大丈夫。串は返してるから」

 

「……彼も意外と大変なのかもしれませんね。同情はいたしませんが」

 

 何というか、お労しやCクラスと言ったところだろうか。

 

 残念なことに、こちらからしてやれる事は一切無いのである。

 

「……ところで、貴方達のクラスメイトで()()に追われた人はいなかった?」

 

「村人……ですか?」

 

「……此処には()がある」

 

 村──ミーナさんの話では、カタストロフを乗り越えるために構築された集落の総称。

 

 外界から隔離された場所にあるという話だが、此処にもあるのか……

 

「そういえば、初日に常に笑っている人に追いかけられたという騒ぎがありましたね」

 

「……うん、きっとそれ。でも、此処の村はミーナから聞いていた村とは少し違うみたい」

 

「違うとは……?」

 

「……ミーナが集めた情報だと、村はあくまで食糧生産を主とした自給自足の生活活動が主。でも、此処はある施設の管理が主目的みたい」

 

「よくそこまで調べがつきましたね……」

 

「……調べたというより、教えてくれた」

 

「は? 教えてくれたって……誰が?」

 

「……そこに住む村人達が」

 

 ブラックさんの言葉に何も言い返せなかった。

 

 困惑する俺達に構わずブラックさんは話を続ける。

 

「……彼らは施設の場所も、施設への入り方も教えてくれた」

 

「それは流石におかしくないでしょうか?」

 

「……うん、もちろん最初は罠を警戒した。けど、私は特に危害を受けることなく此処にいる」

 

 ……ますます、意味が分からなくなってきた。

 

 本来、外部からの侵入を防ぐべきところを、あろうことか場所も教えて、入り方さえも教えるなんて。

 

「……ここからが本題、施設の案内もされたけど、ある区画以降は立ち入れなかった。村人達も立ち入る権限が無いと言っていた」

 

「彼らが管理をしているのに、その彼らも立ち入る権限が無いのですか?」

 

「……彼らはこう言っていた。(キーラ)計画の被検体の生体認証が必要だと」

 

「それって……」

 

「……この施設は確かに貴方の過去に関係している。そして、同時にそれは決して気持ちの良いものではないのは明らか」

 

 いつの間にか雲が現れ、海面に瞬いていた星は消えていた。

 

「……それを踏まえた上で聞く。貴方はこの先へ進む?」

 

「……愚問ですね。もうここまで来た以上、後に引くという選択肢は無いですよ」

 

「……そう。なら隣の貴女は? 本来ならば貴女は関わらなくても良い事。引き返すなら今が絶好の機会」

 

「……関わらなくて良い事ですか。お言葉ですが、この裏側の世界に十分すぎる程に関わってしまいました」

 

「……これ以上、踏み込めば命の保証は無いよ?」

 

「ならばなおのことです。何故、迫る危機を怯えて待つ必要があるのでしょうか? 降りかかる火の粉は払うものです。それに……たとえそうでなかったとしても、私にも譲れない約束があります」

 

 ブラックさんの忠告に対して、彼女は頑なだった。

 

 無論、ブラックさんも彼女の安全も考慮しての言葉だったのだろう。

 

 だが、こうなった彼女は譲らない、俺には分かる。

 

 そして案の定、譲らない彼女の威勢にブラックさんも折れたのか、溜め息を漏らしながら口を開いた。

 

「……分かった。でも、くれぐれも勝手な行動は控えて、そしたら彼も私も、貴女を守れなくなる」

 

「勿論です」

 

 唐突にも、俺達の目的地は定まった。

 

 そこで待ち構えているのが、鬼なのか蛇なのか──

 

 ─────ハヤクコイ

 

 ──それは誰にも分からない。






いつもの雑談コーナー

皆さん、大変お久しぶりです。この度は私の家族間トラブルで投稿が非常に遅くなり申し訳ありませんでした。

「オゥ……前回の投稿が10月の頭ですから……丸々2ヶ月ぶりですね」

いやはや、その間は仕事もしながら警察の方へ連絡、関係者とのやり取りもあっててんてこ舞いでした……

とりあえず、身内はともかく、周りに迷惑が掛からないように働きかけて、最近になってようやく落ち着いたという感じです。

「しかし、まだ解決した訳じゃないんでしょう?」

そうですね……肝心の所はこれからですから……とはいっても、既に終わりは見えていますので、差程辛くはありませんよ。

それでは質問へ。

『村人の条件付け』

原作だと村人は食糧を奪われるのを命をかけてでも、抵抗するという条件付けがされてましたね。

「そもそもがカタストロフを生き抜いた人々の餌場のような立ち位置でしたからね』

無人島にいる村人も基本的に同じで、初日に井上君が缶詰を取ったところを襲ったという感じです。

「……それ、結構なホラーでは?」

彼は幸いなことにブラックさんが介入して助かりましたが、いなかったら……何をされたんでしょうかね?

それではまた次回!
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