10万あったら何する?→ソシャゲの課金で吹き飛ぶ!!!
教室に着くと出迎えたのは、生徒達の奇異な視線だった。
無理もない、つい先程、騒ぎを起こした張本人が其処にいるのだ。
良くも悪くも、彼らの関心を集めるのは自明の理だろう。
「フフッ。凄いですね、篠坂君。あっという間にクラスの人気者ですよ?」
「……不思議だな、全くと言っていいくらい嬉しくない」
隣の席の女子──坂柳有栖は穏やかに微笑みながら耳打ちしてくる。
「そんな悲観なさらないでください。あのような芸当が出来るのはこの学校でも篠坂君だけでしょう」
「別に悲観なんてしてないさ。さっきのも日課で身体を鍛えていたら、いつの間にか出来るようになった。それだけだよ」
……きっと胃が痛い状況というのは、こういう時のことを言うのだろうな。
幸か不幸か、彼女とは同じ
任務の関係上、護衛対象が目の届く範囲にいるのは確かに利点なのだが……
「それでも、私にとっては初めての経験でしたよ? 宙を舞うというのはあのような感覚なのですね」
「殆どの場合、知覚する前に地面に落ちると思うけど」
「あら、それでしたら、また受け止めてくれますか?」
先程からずっとこれだ。穏やかに微笑みながらも、目線は決してこちらを外していない。
俺について探りを入れているのか、或いはただ、反応を見て面白がっているのか……はたまた、その両方なのか。
彼女の真意は定かではないが、彼女と話してみて、ただ一つだけ分かったことがある。
彼女は所謂、
そして、彼女はその才覚を自覚し、適切に行使することが出来る。
ある意味、これは俺達のように後ろ暗い事情を持つ存在にとって脅威だ。
会話の中の僅かの齟齬で、その全貌を探られかねない。
故に対処法はただ一つ……可能な限り、会話を早めに終わらせることだ。
「私、篠坂君にはとても感謝しているんです。あそこで貴方が助けてくれたから、私は無事にこの場所にいるんです」
「別に感謝する程のことでも無いよ。俺が助けられる範囲に坂柳さんがいた……それだけだ」
「そうですか、篠坂君は優しい人なのですね。それとも……
まるで電流を流されたかのような驚愕が俺を襲う。
ブラフか? 俺の反応を試しているのは確かだろうが……
「……どうしてそう思ったのかな?」
「篠坂君が私に向ける視線が他の方々と異なっているから──なんてどうでしょう?」
彼女は穏やかな微笑みを崩さない、たがその瞳は獲物を捉えた狩人の如く、俺を捉え続けていた。
「視線ね……坂柳さんには俺はどんな視線を向けているように思えたのかな?」
「端的に言ってしまうのなら、保護対象を見る視線……さながらボディーガードのようなものに思えました」
「……俺としては特に意識したつもりはなかったんだけど、不快に感じたのなら謝るよ」
「いえ、決して不快なものではありませんでしたので、どうかお気になさらないで下さい。私の方こそ、篠坂君が少し羨ましく思えて、意地が悪い話をしてしまいました。ごめんなさい」
謝りながらも、彼女は未だ穏やかな微笑みを崩さない。
けれど、何処か……諦観だろうか? 何か冷めたようのものを感じた。
「……これは坂柳さんと話してみて、素直に思ったことだけど、坂柳さんはきっと自分で思っているよりも、遥かに強い人だと俺は思うよ」
「えっ?」
「確かに坂柳さんの身体で俺と同じような事をするというのは不可能かもしれない。けど、別にそれが出来なくても、坂柳さんは戦えているじゃないか。現に坂柳さんはこのAクラスにいる権利を勝ち取っているんだから」
戦いというのは、何も相手を負かすだけじゃない。
自分の価値を、見ず知らずの相手に認めさせるのだって、れっきとした戦いだ。
ましてや、自分がハンデを背負う立場にいるのなら、なおのことだろう。
「だから……その……なんだ。わざわざ同じ土俵に立って戦わなくても、自分の得意な戦い方をしていけばいいんじゃないかなって……すまない、答えになってないな。ただの戯言と思って忘れてくれ」
……俺は一体、何を言っているんだろうか?
こんなことら言われなくても、彼女にとって百も承知のことだ。
不味いな……流石に今度こそ不快にさせてしまったかな?
「……坂柳さん?」
彼女の顔を見ると先程の笑みはなく、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。
しかし、それも一瞬で、先程の笑みが顔に浮かんだ。
「……本当に面白い方ですね。篠坂君は」
「えっと……何か面白い要素があったのか?」
「ふふっ……秘密です。篠坂君、申し訳ないのですか、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「俺が出来る範囲内なら構わない」
「ありがとうございます。では、私と
「……お友達?」
「はい。篠坂君とは仲良くなれると確信しましたので」
仲良くか……十中八九、自分の手駒としてという意味合いだろうな。
とはいえ、任務の都合上、彼女との接点があるに越したことはない。
なら、俺の答えはとうに決まっている。
「俺なんかで良ければ、喜んで」
「ありがとうございます。では、これからよろしくお願いいたしますね。篠坂君──いえ、
「こちらこそよろしく」
先程と一切、変わらない穏やか微笑み。
けれど、今ばかりは本当に楽しそうに微笑んでいる──そんな確信があった。
始業のチャイムが鳴り、スーツを着た男性が教室に入ってくる。
その体格と硬い表情からして、如何にも厳格そうな雰囲気を醸し出す──所謂、ベテラン教師というヤツだろうか。
「初めまして、新入生諸君。私がこのAクラスの担任を務める真嶋智也だ。担当教科は英語を担当している」
先程の和気藹々とした空気から一変、静まり返り、誰もが教壇の彼へと視線を向ける。
「この学校は学年ごとのクラス替えが存在しない。よって基本的には3年間、私が君達の担当を務めることになるだろう」
基本的に……か。成る程、あの時、理事長が濁していたのはこういうことか。
本当にクラス替え、在籍にも変化がないのなら『基本的』という言葉は使わなくてよい筈だ。
つまり、何かの影響で変わることは幾らでもあり得るということになる
在籍の有無の変化は勿論、クラスの移動も発生し得るかもしれない。
無論、何か条件はあるのだろうが……ともあれ、入学前に理事長が言葉を濁していた意味がはっきりした。
この学校ではクラス内……若しくは学年内で退学者が発生し得る出来事があるということ。
突発的……または定期的かは定かではないが、用心しておくに越したことはない。
「1時間後に入学式が始まるが、その前に学校のことについて説明する」
そう言うと、前の生徒からプリントが回されてくる。
手に取ったプリントに書かれている内容としては──
──在学中の3年間、外部との接触を禁止すること。
──高育独自のSシステムについての説明。
特に後者について、生徒達も驚きを隠せないでいる。
「プリントにも書かれている通り、プライベートポイントと呼ばれるポイントが君達の金銭の代わりとなる。1ポイントにつき1円の価値があり、毎月1日に支給される。そして、新入生の諸君らには10万円分のポイントが一律で振り込まれている」
唐突な10万円という言葉にクラスが沸く。
無理もない、入学早々に無条件で10万円をくれると言うのだ。
話としても出来すぎているし、多くの者にとって現実味がない。
「10万という言葉に驚きを隠せないのは分かる。だが、この学校は本人の実力を以て、その本人を測る。これは君達にそれだけの可能性があるという、学校側の期待と捉えてもらって構わない」
何とも分かりやすい飴と鞭だろうか……いや、それでも何か引っ掛かる。
「この敷地内に存在するあらゆるものはポイントで購入することが出来る。無論、ポイントの使い道は各々の自由にしてくれて構わない」
そして、手に一枚のカードを取り、俺達へと見せる。
「今から学生証カードを配るが、前述したポイントは此方に蓄積される。決して無くさないように。付け加えてだが、ポイントのカツアゲ、同様にいじめ行為は如何なる理由があろうと禁じている。諸君らも留意しておくように」
流石、国立学校と言うべきか、昨今の社会問題についての言及も忘れない。
それはさておき、先生はポイントで敷地内のあらゆるものを手に入れられると言っていたが……
言葉通りに受けとるならば、生活用品は勿論のこと、娯楽、嗜好品の類いもポイント利用の適用内になる。
では、こんなのはどうだろうか?
「先生。一つ質問をしても良いでしょうか?」
「篠坂か。構わないぞ、何が聞きたい?」
「先生は敷地内に存在するのならば、あらゆるものがポイントで手に入ると仰られました。物的なものはそちらで購入出来ると理解しましたが、概念的なもの……例えば、何かの権利などもその対象内と捉えてもよろしいでしょうか?」
「……具体的には?」
「例えば、無条件で授業を休んでも良い権利──或いは試験等で起こり得る自分やクラスへのマイナス評価を取り消す特権などでしょうか」
俺としては前者の質問に答えてくれるのならそれで良かったのだが……この際だ、懸念点は解決させておこう。
だが、俺の予想に反して、先生の顔には驚愕の表情が浮かんでいた。
「……篠坂。君は入学する前にこの学校の関係者と会ったことがあるのか?」
「いえ、ありません」
これについては全くの嘘だ。なんならこの学校の長と直接会っている。
とはいえ、その長も学校の内情については言葉を濁していたが、実際に話を聞いて疑問点の幾つかは既に片付いた。
故にこれはただの答え合わせでしかない。
「先程、先生は仰いましたね? このポイントは学校側の期待だと。しかし、ポイントは一律で生徒に振り込まれている。となれば、今後の学校生活は如何に学校側の期待に応えられるのかを評価すると考えるのは自然かと」
「……仮に君の考えが合っていたとして、最初の質問とどう関係する?」
「簡単な話です。マイナス評価を受けずに授業を休むことが可能なら、誰もがその手法を知りたいと思う筈です」
この
一見、ただの記号に見えるだろうが──もし、これが現在の評価を表したものだとしたら?
この学校は卒業出来れば希望する進学先、或いは就職先にほぼ100%応えると言われているが、それが叶うのはあくまでも
それに先生は最初に答えを言っている──学校は生徒の実力を以て本人を測ると。
授業や課題、試験、学校生活──手段などなんでも良い、あらゆる場面で生徒の力を測り、その勝者を見定める。
勝者には見合った扱いを、敗者にも同様に見合った扱いを。
「……君は合法的にサボりたいと言いたいのか?」
「いえ、極端な話ですがあくまでも例でしかありません。例は分かりやすい方が良いでしょう?」
「成る程……凄まじい思考力だな。だが、今の質問に答えるには時間が足りない。また後に来てくれ」
「はい。分かりました」
返答から逃げたか……いや、本来なら生徒には隠しておくつもりだったのだろうな。
「フフッ。どうやら逃げられちゃいましたね?」
「別に全て正直に話して貰えるなんて思ってないよ。それに知りたいことは知れたし、十分だよ」
「そうですか。でも、あまり休まないでくださいね? お友達が休むのは寂しいですから」
「……善処するよ」
心にもないことを言うもんだ。君が欲しいのは自分の手足──もとい手駒だろうに……
とはいえ、必要な答え合わせは済んだ──後はこの任務に必要な穴を拡げていく、それだけだ。
いつもの雑談コーナー
いや、3話ですよ。でも、誰もまだ死なないよ、やったね。
「君、リアルタイムで見ていなかっただろうに」
だまらっしゃい! あの頃の俺は……あらゆるものに希望を持っていたんだ。
「現実とはかくも残酷だな」
はい。俺の心が折れるんでこの話終わり!
「おっと心は硝子だぞ?」
うるさい! 質問いきます!1つ目!!
『篠坂さんにとって10万は大金ですか?」
大金ですよ? 星5キャラの完凸を目指せます。
「まあ、荒事の仕事に比べると、安い気はするかな。でも、常に命が脅かされるぐらいなら、見合った条件での10万で良いな」
常に命を脅かされてるんですか?
「結局は殺し殺されの世界だからね。無理もないかな」
お、重い……えっと、気を取り直して続いての質問!
『坂柳有栖さんへの第一印象』
「軽い。以上』
短い。説明不要!最後に3つ目。
『ジャジメントに知り合いっているの? 有名人?』
おっ、篠坂さんの人脈についての質問ですよ。
『この仕事の関係上、何人かはいるな。例えば……ある男はこの手の界隈では有名だな』
えっと……誰ですか?
「今は想像に任せるよ」
ぐぬぬ……不完全燃焼ですが、お時間です。
では、また次回お会いしましょう!!