人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

5 / 28



パワポケは野球バラエティです……いいな?


5:お茶会②

 

 

 例に漏れず、浮かれた新入生で賑わうカフェ。

 

 ほぼ満席の中、窓際の席を取れたのは幸運と言っても良い。

 

 けれど、この騒がしさの中でも、何故か心が落ち着くのは店内に流れるダンディーなBGMの為か、或いは出された紅茶によるものか。

 

 とはいえ、ようやく一息つける……今日だけで予想外なことがありすぎた。

 

「慎君、今日はありがとうございます。貴方のおかげでとても充実した1日になりました」

 

「満足して頂けたようで何よりだよ」

 

 とりあえず、彼女と行動を共にして、思い知らされたことがある。

 

 彼女は想像以上に陰湿かつ、超を付けても良いくらいの我儘ということだ。

 

 さっき、服屋に付いていった時なんて特にそうだ……何故、俺が彼女の服飾に正確な感想を述べることになるんだ。

 

 自分で言うのもアレだが、ファッションの『フ』の一文字すら分からない俺なんて、人選ミスも良いところだぞ。

 

 大体、嘘偽り無く言ってしまうなら、全部同じに──

 

「慎君?」

 

「……どうしたのかな?」

 

「いえ、慎君がデリカシーのないことを考えたように見えたので」

 

「……そんなこと考えてないよ」

 

 これ……本人が気付いてないだけで、読心能力に目覚めているんじゃないか? 

 

 理事長には是非とも彼女に超能力の検査を受けさせることを推奨しよう。

 

「そうですか……でも、明日から楽しみですね。お友達と一緒に登校するというのは()()()の経験ですので。ふふっ……慎君には初めてをあげてばかりですね」

 

「なんで、そんな初めてを強調する……」

 

 そして、もうひとつ……機嫌を損ねると、とても面倒ということ。

 

 家電量販店から出た後、彼女を宥めるのにはとても苦労した。

 

 笑みを浮かべながらも、息を吐くかのように毒を吐いてくるのだ。

 

 しかも、毒を吐くことに併せて、様々な約束──もとい契約を結ばせようとしてくるのだ。

 

 その契約についても彼女有利の不平等契約なのが、より一層質が悪い。

 

 そして、結論から述べてしまうと、明日どころか、これから毎朝一緒に登校することを約束させられてしまった。

 

 ……もはや、彼女の手駒というより、完全な召使だな。我ながら何とも情けない。

 

 まあ、任務の都合上、彼女を見張る機会は多い程良いので、良い方向に転んではいるのだが。

 

「しかし、ホームルームでは面白い話を聞けました。慎君はクラスへの評価という観点にどのような見解を持っていらっしゃいますか?」

 

「……わざわざショッピングに俺を誘ったのはそれが理由かい?」

 

 成る程。理解した……どうやら最初から俺は彼女の標的だったらしい。

 

「ふふっ……悪く捉えないでください。慎君に感謝しているのは誓って本当のことです。ですので、貴方と組めば勝てる……そう確信しました」

 

「随分と買われてるな。俺が力不足、若しくは裏切るとか考えないのかい?」

 

「私、人を見る目には自信があるんです。慎君は頭脳はおろか、身体能力においても他の方々では比較にならない程に優れている。加えて──」

 

 彼女の目が据わる、その矢先に俺を捉えたまま、その口角は上がっていく。

 

 いつもの穏やかな笑みではない、()()を求めるどこまでも貪欲な、邪な笑みだ。

 

「──慎君は、()()()()()()()()()()。そうでしょう?」

 

「一体、何の根拠があって、そう言い切れるのかな?」

 

「それは慎君が私にした行動で証明されています。今だってそうでしょう? 本来ならここまで付き合う必要はない。しかし、貴方は付き合ってくれている──私を庇護している」

 

 ……俺は素直に驚いていた。人間でありながら、ここまで個人の一挙手一動について分析していることに。

 

 無論、彼女が天才と呼ばれる分類の人間だと理解していたが……

 

 どうやら、俺は無意識のうちに彼女を唯の人間だと侮っていたらしい。

 

「勿論、慎君が何を目的にしているのかは定かではありません。此処にいるのは、何か別の理由があるのかもしれません。ですが、此処で戦っていく分には貴方以上に信頼できる方はいません。裏切らない事が分かっているのですから」

 

「それはどうも……じゃ、話を戻すけど、俺自身はあくまで授業や課題への取り組み、試験の結果などがクラスの評価……若しくはポイントのようなものに直結してると考えてる。そして、そのポイントはクラスの順位、個人のポイントにも影響があると睨むのが自然かな」

 

 現段階では全クラス共に同じ立ち位置に属している。

 

 しかし、此処から授業、課題、試験といった様々な評価項目を通して、クラスの優劣が定められる。

 

 加えて、あくまでクラス全体における評価なので、個人だけではなく、クラス全体がその評価に到達出来るよう導かなくてはならない。

 

 そして、入学前に理事長と話した退学の云々も、クラスのポイント……或いはもっと別の何かを使うことで、撤回し得ることも予想の範疇だ。

 

「流石です。やはり慎君は優秀ですね。なら、単刀直入で聞きましょう。慎君は、このAクラスにリーダーが必要だと思いませんか?」

 

「リーダーね……では、坂柳さんは自身がその役割を担えると?」

 

「はい。これも私が慎君と協力関係を築く理由の1つです。慎君は卒業することに興味は無い──違いますか?」

 

「違わないね。退学にならなければ、正直どこでも良いかな」

 

「だからこそです。貴方程の優秀な人物を遊ばせたままというのは愚策の極み。よってAクラスには貴方という切り札を正しく活用できるリーダーが必要になります」

 

「……成る程。とはいえ簡単にはいかないだろう? 君と同じでリーダーになろうとする面々もいる筈だ」

 

「ええ。ですが、些細な問題です。彼らには──実力を以て証明するだけですので」

 

「へぇ……良いね。俄然、面白くなってきた」

 

 面白い──この言葉に嘘はない。

 

 自身の実力を以て優劣を決する、シンプルで一番分かりやすい。

 

 なら、是非とも見たい──俺に人の力というのを証明して見せてくれ。

 

「いいよ。俺で良ければ坂柳さんに協力しよう。ただし、召使扱いはゴメンだけどね」

 

「ふふっ……ご安心ください。慎君は召使程度で収まる人ではありませんので」

 

 褒められて……いるんだろうな。素直に喜べないけど。

 

 とはいえ、ただいたずらに日々を過ごすだけだったこの生活に、明確な楽しみが出来た。

 

 それもその筈──ゲームというのは、横で見ているよりも実際にプレイするのが一番楽しいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が過ぎるのは早いもので、ケヤキモールを出た頃には夜の帳が下りていた。

 

 春になったばかりとはいえ、まだ夜は相応に寒く、人間が活動するには適さない。

 

「慎君、ありがとうございます。とても楽しい時間でした」

 

「構わないよ。俺にとっても有意義な1日になったからね」

 

 俺としても、とても良いコンディションで任務のスタートを切れたと思っている。

 

 それに……()()があるのは良いことだ。退屈な日々に彩りを与えてくれる。

 

「そういえば、慎君が買ったのはそのヘッドホンだけですか?」

 

「ああ、服とかは別に後で買えば良いし、その他にしても最悪コンビニもあるしね」

 

「ヘッドホンもそこまで優先度が高いように思えませんが」

 

「音楽は日々の生活に余裕を与えてくれるものだよ。むしろ、音楽こそ人間の生み出した文化の極みと言っても良いね」

 

 訝しげな眼差しでこちらを見る彼女に適当な言い訳をしておく。

 

 どうせヘッドホンの形をしたESPセンサーですと、正直に言ったところで、理解して貰えるとは思えないしな。

 

「しかし、向こうの品揃えには驚かされたな。今度はもっとしっかり──」

 

「慎君? どうかしましたか……?」

 

「──いや、何でもない。ただの気のせいだった」

 

 まったく、せっかく良い気分で1日を終えられると思ったのに、()()()()()()()()にはそれを理解して貰えないらしい。

 

「……ところで、荷物を持っていくのは部屋の入口前までで良いかな? 流石に部屋の中まで持っていくのは俺の社会的な地位が死にかねないんだけど」

 

「あら、私は慎君なら別に構いませんが?」

 

 いや、そういう問題じゃないんだが? お互い入学早々に、不純な疑惑を持たれるのは良くないだろうに。

 

「ふふっ。冗談ですよ、でも、慎君がどうしてもと言うのなら……」

 

「はい、この話終わり! これ以上、俺の社会的な地位を脅かさないで!」

 

 女子の部屋に侵入して退学なんて、笑い話にもなりゃしない。

 

「……というか今更だけど、寮だけでこの大きさか……もはや高級マンションだな」

 

「全校生徒を収容出来るよう造られていますからね。予算もふんだんに使われているのでしょう」

 

 流石、国営高校……しかも、光熱費、水道代も向こう持ちという神対応。

 

 あらゆる日本国民が夢見る生活が目前にある。

 

「まったく贅沢だな……外にいた時は一月の水道代、光熱費、各種生活費を捻出するだけで大変だったのに」

 

「慎君は入学前はどんな生活をしてたのですか……」

 

 隣の彼女から憐れみを込めた眼差しが向けられる。

 

 ああ……忘れてた。隣の彼女、良いところのお嬢様だった。

 

 おそらく、()()という言葉と縁が無い生活を送ってきたのだろう。

 

 まあ、身分はおろか戸籍も偽装している以上、俺の生活が貧しくなるのは仕方がないことなのだが。

 

「お金が無くなれば嫌でも分かるさ……」

 

 寮に入ると、スーツを着込んだ男性が深々と礼をする。

 

「在籍クラスとお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「1ーAの坂柳有栖です」

 

「同じく、1ーAの篠坂慎です」

 

「ありがとうございます。では、こちらがお部屋の鍵と寮生活におけるマニュアルとなります。上階へ向かう際は是非ともあちらのエレベーターをお使いください」

 

 説明を終えると男性は再度、頭を下げる。

 

 俺の部屋は4階か……まあ、何階だろうと変わらないけど。

 

「慎君のお部屋は4階ですか。私は10階ですので、少しばかり離れてしまいますね。悲しいです」

 

「……凄いな。これっぽっちも悲しさを感じられない」

 

 というか、女子と男子のエリアで区切るの普通だろうに。

 

 なんて……そんなことを言ったら、またデリカシーが無いと言われそうだな。

 

 それが原因で、また機嫌を損ねられても面倒だしな……

 

 そんなくだらないことを考えていると、エレベーターが閉まり、鋼鉄の箱は上へと上がっていく。

 

 階層がどんどん上がっていく中、隣の彼女が口を開いた。

 

「慎君。今のうちに連絡先を交換しましょう。これから必要になるでしょうから」

 

「了解」

 

 互いの携帯端末を取り出し、暫しの沈黙。

 

 そしてすぐに互いの端末にお互いのアイコンが表示される。

 

 同時に10階に到着したことを告げるチャイム音が鳴り、開いたドアから外の冷たい空気が流れ込む。

 

「坂柳さんの部屋は?」

 

「あちらの角を曲がってすぐの所ですね」

 

 なら、さっさと彼女と荷物を送り届けてしまおう。女子しかいない筈の階層に男がいるのは流石にマズイ。

 

 それに──俺も()()()を片付けないといけないしな。

 

「此処ですね。今、鍵を開けますね」

 

 ガチャリと錠が外れる音と共に暗い廊下が覗く。

 

 そして、壁に付けられたボタンを押すと、照明が廊下を照らした。

 

「荷物は壁に立て掛けてしまって大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です。慎君もお疲れ様でした」

 

「いや、礼を言われる程のことじゃないさ。それじゃ……」

 

「はい、また明日。それと……忘れちゃ駄目ですからね?」

 

「はいはい……勿論、ちゃんと覚えてるよ。また明日な」

 

 ゆっくりと部屋の扉を閉める。そして、思わず溜め息が漏らした。

 

 我ながら、柄にもないことをしてる……そう思う。

 

「反応は……まだ動いていないか」

 

 完全になめられているのか、或いはこっちに気付いてすらいないのか……まあ、何でも良い。

 

 柵を乗り越え、そのまま下へとダイブする。

 

 重力に従って加速する身体に夜の冷たい空気が吹き付ける。

 

 さて、ここからはまた仕事だ──要らぬ残業のツケは()()()にしっかり払って貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、退屈な仕事──高校生の監視及びに、誘拐なんて本当に俺達がすべき仕事なのだろうか? 

 

 とはいえ、報酬は旨いし、最新のアップグレードを受けられるのは魅力的だ。

 

 携帯端末を耳に当て、状況報告。

 

「目標が建物内に入った。これより回収に──っ⁉」

 

 通信の相手から返答はなかった。

 

 その代わりに、耳元が何かが爆ぜ、破片が皮膚を切り裂き、鼓膜さえも破った。

 

「な、なんだ……?」

 

「いけないな。他様の敷地内に入って、更には女子高生の誘拐もしようなんて」

 

 暗闇から一人の男子生徒が歩いてくる──いや、先程まで目標と行動を共にしていた生徒か。

 

 だが、何処から現れた?……ロビーからは誰も出てきていなかった筈。

 

「……成る程。君も大変なんだな、まあ、この程度の超能力者じゃ、ジャジメントの()()()()ですら生き残れないだろうしね」

 

「何を要って……お前、まさか──っ⁉」

 

 瞬間、鈍く重い衝撃と共に右腕が弾け、肉片と血が地面へと散らばる。

 

 馬鹿な……何時、撃たれた? ヤツに攻撃する素振りなんて……

 

 まさか、超能力……という事はヤツは──

 

「別に理解してもしなくても構わないよ。結局は変わらないしね」

 

「うぐっ……ま、待って……」

 

「さようなら。惨めったらしく死ね」

 

 闇夜から飛来した弾丸が頭部と頸部、胸部の3ヵ所を穿つ。

 

 同時にESPセンサーの反応も消失した。

 

「……オオガミ派。いや、ただの雇われか」

 

 まあ、これの正体が何であれ、どうでもいいけど……

 

 とはいえ、低ランクの超能力者としても、この程度で討てるとはね。

 

 どうやら、彼らの平和ボケは相当酷いらしい……製作者もお気の毒に。

 

 端末を取り出し、ある連絡先に電話をかける。

 

 本来、この学校の生徒の誰もが、持ち得ない筈の連絡先。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。()()()、早速、1人処分いたしましたのでご報告をと思いまして」

 

『はい、ありがとうございます……その、処理ついては貴方が教えてくれた方々に任せています』

 

「ええ、構いません。彼らほどの適任者を俺は知りませんので」

 

『本当にありがとうございます……どうかこれからもよろしくお願いいたします』

 

 電話が切れると同時に、黒づくめの人影が現れる。

 

「……早いね。じゃあ、そこの()()の処理は任せたよ」

 

「……了解」

 

 世の中には知らずにいた方が幸せな事がある。

 

 もし、それを知りたい、または知ってしまったのなら、用心をすることだ。

 

 彼らは猫でさえも殺すのだから。

 

 

 




いつもの雑談コーナー


こわひ……篠坂君のアンドロイドとしての側面が出てましたね。

「彼らの境遇を知らない私達は、何と声を掛ければ良いのだろうな……」

気に病む事はないですよ。むしろアレが本来の姿みたいなものなので。

今回は篠坂君の担任の真嶋先生に来てもらってます!

「真嶋智也だ。しかし、良いのか? 私がここに来て……」

あっ、大丈夫です。此処での記憶は消えるんで。

「えっ……」

では、質問行きましょう!!

『篠坂君の武器のモデルは?』

機関銃はドイツのMG3、拳銃はガバメントことアメリカのM1911ですね。

何故、機関銃かというと、篠坂君の超能力で猛威を振るえる武器とだけ答えておきます。

「当然だが、本校では武器の取引は一切認可していない」

では、2つ目の質問!!

「篠坂君ってけっこう勝負事が好きだったり?」

彼の場合、生まれてからが勝負の連続でしたからね……それに負けたら廃棄処分だし、必然的に拘るようになったという感じです。

「人命軽視……いや、そもそも、人として見られていないのか」

アンドロイドあるあるですね……最後の質問行きましょう。

『篠坂君に感情や自我があるのは何故?』

おっと……踏み込んで来ましたね。此処では答えられないのですが……

誰かがプログラムしなくては、感情はおろか自我すら芽生えなかった、とだけ言っておきましょう。

「その誰かは乞うご期待……と言うべきかな」

では、また次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。