人工の羊は夢を見るか?   作:爆死san

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作者を起こさないでやってくれ。死ぬ程疲れている(死)


7:記憶と憧憬

 

 

 

 

 

 

 

 放課後のクラスでの話し合いを終えて、俺と坂柳さんは帰路に立っていた。

 

 特に変わったこともない、まるで昨日と同じように軽い雑談をしながらの帰り道。

 

 眼前のグラウンドでは運動部──おそらく野球部だろう。

 

 投げられたボールが甲高い金属音と共に、天高く打ち上げられる。

 

 それを追う外野手、掛け声を発しながら打球をキャッチし、内野へと送球する。

 

 余談だが、高育の野球部は結構な強豪校らしい。

 

 まあ、彼らもクラスの評価はおろか、自身の退学のリスクも負いながらも、部活動と勉学を両立させているのだ。

 

 むしろ、その両立が出来ない者は淘汰されるのだから、能力がある者が残るのは当然のことだろう

 

 しかし、野球か──かつてインターネット上に存在した()()()()()()そのゲーム内容も野球だったそうだ。

 

 ただ、詳細についてはジャジメントの介入で隠蔽されてしまったそうで、俺も断片的な情報を知るのみだ。

 

 また、ジャジメントがオオガミが互いに争っていた時、両者共にプロ野球チームを所有していたことを知識として学んでいる。

 

 ジャジメントのチームの方の名前は確か、ナマズ……ナーマズ、いや違うな。

 

 なんかマスコットがニョロニョロ動いている姿が、脳にインプットされているのだが……

 

「おや、慎君は野球部に興味がおありですか?」

 

「いや、俺の人生って何かと野球とは縁があるなと思っただけさ」

 

「……今の慎君の年齢で人生を語っても道半ばも良いところでは?」

 

「おっと、なかなか手厳しいね。まあ、あくまで野球や、それに関するものに縁があると思っただけさ。そもそも、自分がプレイヤーになりたいとは思わないからね」

 

 実際、身の回りに野球に関するものが多かっただけで、俺自身は野球をする側になったことはない。

 

 そもそも、戦闘用のアンドロイドの俺が野球をしたところで、ゲームそのものを壊しかねないだろう。

 

「おや、慎君の身体能力なら、大活躍を見込めると思いますが?」

 

「野球をしたことすらない初心者なんて向こうもお呼びじゃないさ。まあ、でも……もしかしたら俺の近縁者にその道に通じた人はいたかもしれないね」

 

 俺達のような人間ベースのアンドロイドの人格は複数の人間の脳パターンを組み合わせて造られている。

 

 その際にオリジナルの記憶というのは継承されないそうなのだが、稀にオリジナルの嗜好や潜在的な記憶といったものが発現する事象もあるらしい。

 

 もしかしたら、俺のオリジナルは野球のプレイヤー、若しくはそれに関わる人物だったのかもしれない。

 

 まあ、それを確かめる手段なんて無く、そもそも興味自体も無いのだが。

 

「ご家族の方がそうだったりはしないのですか?」

 

「家族……ね。生憎、俺の家族はもういないんだ」

 

 仮に俺にも家族がいたとすれば、何処かの戦場で使い捨てられたか、新兵器の実験台として処分されたか、或いはただの不良在庫として廃棄されたか。

 

 各々の結末は定かではないが、少なくとも、今まで俺は自分と同じ遺伝子ベースの個体、若しくは同型のアンドロイドとは出会った事がない。

 

 尤も、データ自体が既に抹消されている以上、俺のような個体が今後、生産されることはないだろう。

 

「……ごめんなさい。もっと言葉を考えるべきでした」

 

「気に病まないでくれ。俺にとってはこれが普通なんだ」

 

 俺自身は何も気にしていないのだが、彼女はどうも違うらしい。

 

 先程までの笑みは鳴りを潜め、とても気まずいような表情をしている。

 

 しまったな……別にそこまで深刻な話じゃなかったつもりなんだが。

 

 互いに何も話せず、沈黙が場を支配する。

 

 ただ道を歩く俺達の左手側──グラウンドの方から野球部の掛け声と共に、一際高い金属音が鳴り響く。

 

「っ──坂柳さん!」

 

「えっ……きゃっ──」

 

 直後、俺の右手には衝撃と、乾いた音が木霊する。

 

 その手の内には、土汚れが目立つ白い野球ボールが収まっていた。

 

 おいおい、危ないな……仮に坂柳さんに当たったら怪我だけじゃ済まないぞ。

 

「大丈夫か?」

 

「……あっ」

 

 顔を向けると、彼女の精巧な人形のような顔がすぐ其処にあり、その瞳が此方を覗き込む。

 

 流石に急なことだったからか、奇しくも彼女を抱き寄せる形になってしまったが……良かった、特に外傷はなさそうだ。

 

 しかし、動かないでいると本当に人形みたいだな……って、流石に顔が近すぎるか。

 

「ごめん、流石に近すぎたな。そのまま立てる?」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 右手で掴んだボールをグラウンドに向けて投げ捨て、彼女から顔を離す。

 

 彼女も急な出来事だったからか、未だに俺の顔をまじまじと見ている。

 

 まるで何かと俺を比べて……いや、確かめていると言うべきだろうか? 

 

「ごめんなさい。昔、似たような事がありまして、その時も慎君に似た方が助けてくださったのです」

 

「成る程ね。所謂、デジャブというやつね」

 

「ふふっ……そうですね。その時は歩道橋で足を滑らせてしまったのですが……今から9年ほど前の事です。……今でも、その方の顔は勿論、声も鮮明に覚えています」

 

「へぇ……その人は坂柳さんにとっては恩人な訳だ」

 

「はい。その時は名前を伺うことが出来ませんでしたので、もし、お会いできる機会があれば、改めて感謝をお伝えしたいと思っているんです」

 

 それにしても、9年前のことをよく覚えているもんだ。

 

 ……いや、少し違うか……覚えているんじゃなくて、忘れないようにしてるんだろう。

 

 きっと坂柳さんにとっては大切な記憶なんだろう。少なくとも時間の経過だけでは色褪せない程に。

 

「そうか。なら、何時か会えると良いね」

 

「……はい。そうですね」

 

 もしかしたら、記憶を消される前の俺にも()()()()()()()()というものがあったのかもしれない。

 

 尤も、今の俺にそれを思い出すことはおろか、それを知ることすらも叶わないのだが。

 

「それにしても、慎君に助けられるのは今回で2回目ですね。ふふっ……貴方には感謝してもしきれません。今度、このお礼は必ずいたしますね」

 

「えっ? いや、そこまで気にしなくても良いけど?」

 

「必ずしますので」

 

「いや、坂柳さんに悪いし……」

 

()()しますので」

 

「アッハイ」

 

 なんか、『必ず』の部分、めちゃくちゃ強調してきたな……

 

 腑に落ちない所はあるが、本人がここまで言うのだ。ここは素直に受け取っておいた方が良いだろう。

 

 これは余談だが、この日から高育の野球部にて、プロ選手並みの豪速球を投げる1年生が現れたと話題になり、各クラスでの捜索が始まったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が経つものは早いもので、今日でこの学校へ来てちょうど1週間となる。

 

 授業の方も本格的に始まり、授業ごとの課題は勿論、クラスの派閥争いも進展が見受けられるようになった。

 

 また、他クラスにおける優秀な生徒や、容姿に優れた男子といった話題も上がってくるようになり、クラス内に限らず、クラス外の情報も重要度を増してきている。

 

 とはいえ、当面はAクラスの派閥争いに重きを置いて、行動するのは変わらない。

 

 現在、坂柳さんの派閥においても、選別した人材を適所に配置していく段階に入っている。

 

 事実、その一貫として橋本さんが既に葛城さんの派閥に入り込み、彼らの情報収集を務めている。

 

 この内戦が片付けば、彼の仕事はクラス外への諜報活動へとシフトしていくことになるだろう。

 

 万事、問題無し……今のところはだが。

 

 俺の本来の仕事においても、最近の戦果は偵察用のドローン3台という味気無いものだが、侵入行為が変に散発的なのが気になるところだ。

 

 それに破壊したドローンはどれも例外無くジャジメントの傘下の企業のものだった。

 

 ……十中八九、わざとなんだろうな。理由は断定出来ないけど、こっちの反応を確かめているのは確かだ。

 

 以上の理由で、外との連絡口の構築は勿論、優先したいのだが、あまり派手にやってジャジメント側に目をつけられるのも避けたい。

 

 それに日中は授業やクラスでの活動にも参加しなくてはならない──今、この瞬間のように。

 

「つかぬことをお聞きしますが、慎君はどうして見学なさっているのですか?」

 

「身体的な事情……とだけ言っておこうかな」

 

 現在、俺がいるのは屋内プール。本日、1-Aの体育の授業は水泳である為だ。

 

 この時期に水泳というと寒くないのかと疑問になるだろうが、本校は屋内プールの為が天候や外気温の影響はない。

 

 また、温水プールであるため、どの時期に泳いでも快適と言える環境だろう。

 

「ふむ……身体的な事情ですか。なら私とお揃いですね?」

 

「……それ、反応に困るから辞めてくれ」

 

「ふふっ。ごめんなさい」

 

 彼女の身体はその疾患の関係上、運動が厳禁なのは明白だろう。

 

 無論、彼女自身も分かっており、それを受け入れて、尚且つ利用するという強かさを持ち合わせている。

 

 だが、それでも楽しそうに泳ぐクラスの面々を見る目にはほんの僅かではあるが、情景の眼差しを感じられた。

 

 彼女にとっては、自分がどれだけ手を伸ばしても手に入らない物が目の前にある。

 

 けれど、彼女はそれに触れることすら出来ない。

 

 まったく……一体、どんな気分なんだろうな。

 

 嫌と言う程理解している現実を改めて突き付けられているというのは。

 

「何でこの時期に水泳なんだろうね?」

 

「えっ……?」

 

「いや、水泳ってどうしても夏のイメージがあるだろ? なのにどうしてかなって」

 

「これはこれまでの授業も踏まえての考察ですが、どうやら個々の力を計るというよりは、団体の力というのに重きを置いているよう思えます。なので水泳においても、全体においては必要にはなりますが、個々にとっては必須にはなり得ないものになるかと」

 

「ということは、試験の時に水泳という項目じゃ査定はされない訳だ。最悪、クラスの数人が出来れば良い訳だし」

 

「勿論、今の授業も評価の対象であるのは明白ですが、今後の試験における、必要要素となるものを今のうちに履修……若しくは提示しているといった所でしょうか」

 

「水泳が必要になる活動ね……何処かの島に強襲揚陸でもするつもりか?」

 

「おや、もしかしたら何処かの島というのは良い着眼点かもしれないですよ? 泳ぎから連想していけば水、川、海と繋がりますし、何処かの島で野外生活をするにしても、全員が泳げる必要があるかと言えば違います」

 

 あくまで聞いた話でしかないのだが、ジャジメント傘下のある企業で、社員でキャンプをする所があるらしい。

 

 無論、潤沢な資金や社員の安全の確保といった様々な条件付きだが、此処あろうことかは国立の学校だ。

 

 資金に関してはもはや国から下りてくると言っても過言ではない。

 

 故に実現の可能性だけなら十分にある。

 

「……まあ、いずれは分かるか」

 

「そうですね……ところで、長期休暇などで慎君は海に行かれたりするんですか?」

 

「いや、全く。……いきなりどうしたのさ?」

 

「いえ、特に深い意図はありません。単純に疑問に思っただけです」

 

「そっか」

 

 彼女の年頃なら、夏になれば友人同士でプールや海に赴いて一緒に遊んだりする──それが多くの人にとっての普通の姿だ。

 

 だが、彼女はその普通を享受することは叶わない。

 

「……これはあくまで俺の個人的な意見だけど、別に体裁なんて気にしなくていいんじゃないか?」

 

「えっ……?」

 

「別に泳がなくたって水着を着る人だっているんだし、そもそも夏に海とか行かずに図書館とかで冷房に当たりながらゆっくりする人だっているんだから……自分がやりたいと思ったら、出来る範囲でやっちゃえばいいんじゃないか? それを止める権利なんて誰にも無いんだし」

 

 客観的に見て、彼女に肩入れし過ぎている──その自覚はある。

 

 だが、彼女にだって何かを望み得る権利はあり、望み得るに足る能力を彼女は持っている。

 

 なら、望んだって良い筈だ。全てに手が届かずとも、手が届く範囲のものを欲して悪い筈がない。

 

「……それは、慎君は私の水着姿を見たいということでしょうか?」

 

「何でそうなる……俺がいつ──いや、そうだな……坂柳さんが良いというなら、見たいかな?」

 

 ……これ、セクハラ発言にならないよね? これでセクハラなんて言われたら人間不信になるぞ。

 

「ふふっ。最初の言葉がなければ完璧でしたね。でも、慎君がそこまで望むならやぶさかでもありません。それに……この前のお礼もしたいですから」

 

「はいはい……じゃ、薄い期待をして待ってるよ」

 

 見学席のやり取りを知り得ないクラスメイト達は呑気に水泳を楽しんでいる。

 

 ある者は泳げなくて友人に手を引かれており、別の者はコースの端から端をクロールで泳いでいる。

 

 特段、言うことも無い、先程と一切変わらない授業風景。

 

 そんな様子を眺める彼女の目が先程までとは違い、何処か楽しげなものになっている──少なくとも、俺はそう思えた。

 

 

 

 

 




いつもの雑談コーナー


投稿遅れました! 申し訳ありません!!

「声が小さい!!」

投稿遅れました!! 申し訳ありません!!!!

「何で遅れた!?」

仕事の疲れで寝落ちしてました!!……はい。マジです。

夜、書いてたら、気付いた時に朝になっている……あっ、来てくれたのは高育の野球部の方です。

「背番号は──」

はい。質問行きますよー。

『篠坂君が食べていたコンビニ弁当の賞味期限』

この度はご感想ありがとうございます。

篠坂君が外にいた時は不定期ですが収入はありますので、だいたいの物は賞味期限切れて無いそうですよ。

「切れてても食べれると思ったら普通に食べるらしいぞ!」

……まあ、コンビニやスーパーで値引きシールの待機をするくらいなので、1日、2日は気にしないのが実のところでしょうね。

では次、行きましょう。

『篠坂君のオリジナル』

オリジナルが野球に関連してる──これだけはマジです。

「無造作に投げておいて、あの精度と速度だ。無論、アンドロイドの身体能力というのもあるんだろうが……彼も練習すれば良い選手になれるだろう!」

もしかしたら、オリジナルの方は何処かのプロ野球チームに所属しているかもしれませんね。

ちなみに豪速球を投げたと話題になっているそうですが、篠坂君的には力加減を間違えたとのことです。

『ということはもっと速い球を投げれるということか?」

流石に人間の身体能力じゃ追いきれないんじゃないですかね……?

今回は短いですが、質問はここまでにして……もし感想等で質問があればこのコーナーでお答えしていこうと思いますので、どうぞご遠慮無くお聞きください。

「つまりネタ切れか!』

やかましい! それではまた次回に!!
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