なんか原作に存在しない組織の実験体として転生した件 作:マジカルバーバリアン
訓練は、狂気じみており洗脳と何ら変わりなかった。
「我が内に流れる神気を意識せよ」
「神の御力を肌に宿す。それが“纏”」
「周囲に満ちる神気に心を澄ませよ。これぞ“円”の初歩」
訓練場には、オーラではなく“加護”という言葉が飛び交っていた。
“練”は「信仰心の集束」、“絶”は「不信の祓い」。
すべてが宗教用語にすり替えられ、技術ではなく信仰として刷り込まれていた。
だが、その理論は曖昧で、非効率だった。
職員──いや、信者たちは教本通りに唱えるだけ。
オーラの流れや系統の理解にはまるで届いていない。
効率などという概念は存在しない。
だが、“ゾルディック家を超える”という教祖の言葉が、それを正当化していた。
武器を持たされ、殴り合い、潰し合う。
手加減をすれば“信仰が足りない”と罵られ、意識を失えば“加護を失った”と切り捨てられる。
傷つき横たわっていても、誰も止めない。
「殺す力を持たぬ者に、救う資格はない」──それが、この教団の教えだった。
生き残るためには、殺すしかなかった。
殺すことは、“正しい行い”として教え込まれていた。
それでも、子供たちは熱心に祈る。
自分が選ばれた存在だと信じこんで、あるいはそう思いたくて。
俺は、違った。
転生者として、俺には前の世界の記憶があった。
“念”とは何か。
それがどれほど危うく、深く、美しいものか。だからこそ、怖かった。
この狂気の“信仰”の中で、念が歪められていくことが。
でも、同時に思った。
──この場所で力を得れば、生き延びられる。
そしていつか、ここから抜け出せるかもしれない。
────────────
ある日、訓練の後、俺の前に少女が現れた。
「ねぇ、アークって、名前……ほんとの?」
「さあな。A-9をもじっただけだろう。でも、“祝福された子”らしいだろ?」
薄汚れた金髪の彼女は微笑んだ。
「私はね、ノア。箱舟って意味なんだって。
この世界が沈んでも、誰かを運べるって。
……そんな風に、なれたらいいなって思って両親がつけてくれたんだ。」
ノア──どこかの家から攫われてきたBシリーズの一人。
けれど、珍しく先天的に念能力の行使ができる
Aシリーズと遜色ない才能の持ち主だ。
攫われてきたためか洗脳が浅く彼女にはまだ“自我”が残っていた。
俺と彼女は、数少ない“考える者”同士として、言葉を交わすようになった。
訓練は、相変わらず狂気じみていた。
「神気を集め、“纏”を固めよ。信仰を薄めるな」
「精神のゆらぎは“不信”の兆し。祓いを受けろ」
「神の御力を知覚せよ。それが“円”の第一歩」
意味のない祈りの言葉が、訓練場にこだまする。
オーラという言葉は使われず、“加護”と呼ばれていた。
子供たちは、信じるように強いられている。
信じれば力が宿る。
そう教えられた小さな背中たちが、真剣に祈り、汗を流していた。
だが――
“それじゃ届かない”
俺は知っていた。
正しい纏とは何か。
練とはどう構築されるのか。
念の四大行とはどういう順序で学ばれるべきか。
この聖域で唯一、誰より正確に“念”を理解しているのが、
たぶん今この瞬間──俺だ。
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夜。
訓練の終わった後、物資倉庫の裏で俺は一人、呼吸を整える。
静かに目を閉じ、オーラの流れを意識する。
体の中心。腹の奥で渦巻く“命の熱”が、波紋のように広がっていく。
全身を巡り、皮膚の下に纏わりつくような、独特の圧力。
「……これが、“纏”。本当の」
教えられたままのやり方では決して辿り着けない、“本物”の念。
何日もかけて感覚を掴んだそれは、俺の中に確かに根付き始めていた。
「……アーク? 今、何してたの?」
気配に気づいて顔を上げると、ノアがいた。
夜風に揺れる薄い金髪が、月光を帯びて白く見えた。
「“纏”……だったよね? 今、私、何か感じた」
「……たぶん、偶然だよ。夢で見た気がして、やってみただけ」
「夢……?」
ノアはじっと俺を見つめる。
何かを見透かすような目。
けれど、問い詰めたりはしなかった。
「ねえ、もう一度やってみて。
さっきの、私もやってみたい」
その声は、どこか嬉しそうだった。
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翌日から、ノアは訓練の合間によく俺に声をかけてくるようになった。
表向きは祈りの復唱。でも、小声で「昨日のやつ、合ってる?」と囁いてくる。
まるで、二人だけの秘密の呪文だ。
教祖に見つかれば、罰どころでは済まない。
……はずなのだが。
実のところ、教祖本人がこの施設に姿を現すことはめったにない。
表向きは「祈りの巡礼」などと信者には説明されているが、
実際は外の宗教拠点で、“神の気まぐれ”と称して遊び惚けているらしい。
信者の噂話でそう聞いた。
念にはそれなりに精通しているようだが、
この訓練場に現れるのは、月に一度あるかないか。
結局、この“聖域”も、神の気まぐれで転がされているにすぎない。
だから、夜の片隅で“本当の念”を練習したところで、誰にも咎められない。
信者たちは教本の丸暗記に夢中で、俺たちのオーラの流れなんて気にも留めていない。
明らかに違反行為だったが、ノアは怯えなかった。
むしろ、楽しんでいるようだった。
「なんだか、ここが“全部”じゃないって思えるの。
……それって、変かな?」
「いや。……そう思ってるの、俺もだよ」
互いに言葉は少なかったが、その分だけ、気持ちはよく伝わった。
この場所で、誰にも見せられない“何か”を共有している。
そんな関係が、少しずつ出来上がりつつあった。
夜。独りで“纏”の練習をしていたはずなのに、
いつの間にか隣にノアがいるのが、当たり前になっていた。
彼女の念は、柔らかく、澄んでいる。
歪な信仰に染まっていない。
まるで、“最初から念を知っていたかのような”感覚。
それが――少し羨ましいと思った。
そして、だからこそ守りたいと思った。
この子が、ちゃんと“外の空”を見られるように。
俺は、この力を自分のためだけに使うつもりはなかった。
「アーク、また夢で何か見たら、教えてね」
ノアのその言葉が、
嘘を肯定してくれたような気がした。
俺は黙って、小さく頷いた。
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