なんか原作に存在しない組織の実験体として転生した件 作:マジカルバーバリアン
「祓いの訓練、開始──」
白衣を纏った信者が鐘を鳴らす。
乾いた音が訓練場に響き渡ると、十数人の子供たちが、一斉に構えを取った。
AとBの混成グループ。
オーラを纏った拳、ナイフ、木製の短杖。
手段は問われない。ただ、倒せ。潰せ。叩き伏せろ。
対面に立つのは、B-22──“狂犬”と呼ばれる少年。
白目を剥き、歯をむき出して笑っている。
俺は深く息を吸い、“練”の構えをとった。
全身にオーラを巡らせ、必要最低限の出力で抑え込む。
「A-9、進行せよ!」
掛け声と同時に、B-22が地を蹴った。
オーラをまとった拳が、空気を裂いて迫ってくる。
速い。だが、読める。
俺は腰を落とし、踏み込みと同時に“凝”を目に集中。
──見える。
肩の動き、肘の角度、重心の軌道。
オーラの濃度が偏っている。腹を狙った直線的な突きだ。
間一髪で軌道を外し、右拳で脇腹を狙う。
ガッ──!
鈍い衝撃とともに、俺の拳が少年の肋骨を叩く。
吐息と涎が飛び、B-22の身体が半歩よろけた。
だが、それでも止まらない。
「アァァッ!!」
彼の手から、小さな刃が出る。
指の間に差し込まれた細い金属片。規格外の凶器。
俺はとっさに“堅”を全身に巡らせ、防御を固める。
ザッ!
刃はかすった。
上腕に浅い切り傷が走る。
熱い痛みとともに、血の臭いが立ち上った。
だが、すでにカウンターの構えはできていた。
「はっ!」
俺は膝を踏み込ませ、勢いを殺さず脇腹へ肘を叩き込む。
骨が鈍くきしむ音とともに、少年の意識が抜け落ちた。
その場に崩れ落ちる“狂犬”。
訓練場に、静かなざわめきが広がる。
「A-9、制圧完了」
────────────
「お前たちは、神の刃だ」
「今後、我らの“信仰”を拡げるためには──異端を祓う“役目”が必要となる」
訓練後、神殿と呼ばれる講堂での集会。
信者たちの前に立った導師が、そう告げた。
異端。祓い。伝導。
その言葉の裏にあるものは、あまりにも明白だった。
──殺し。
この教団に逆らう者を、処理する“実戦”の始まりだ。
「最初の“祓いの巡礼”に出るのは、神より選ばれし祝福の子──A-9である」
信者たちが、一斉に俺を見た。
祈りと狂気の混じった瞳。
祝福ではない。これは“呪い”だ。
────────────
その夜、ノアと二人、いつもの物資倉庫の裏で座り込んでいた。
月は満ちかけ。光が強く、影が濃い。
ノアは壁にもたれ、じっと地面を見ていた。
いつもより口数が少ない。
俺も黙っていたが、空気の重さは増していた。
やがて、ノアが小さく口を開く。
「……アーク、やっぱり行くんだね」
「行くしかないだろ。命令だからな」
「そうだけど……」
ノアは言葉を切った。
握った拳が、かすかに震えていた。
「……怖くないの?」
「怖いよ。そりゃ、当然だろ。
でも……怖いからって止まっても、何も変わらない」
「殺さなきゃいけないんだよ?」
「たぶん、そうだろうな。
でも、殺さなきゃ生きられないなら──俺は、生きる方を選ぶ」
ノアはぎゅっと膝を抱えた。
「……そんなの、普通じゃないよ」
「ここが普通じゃないんだ。
“神の加護”とか“祓いの巡礼”とか、聞こえは立派だけど──
要は、都合よく使われるだけだ」
「じゃあ、なんで笑ってるの。強がってるの?」
俺は肩をすくめて、わざと皮肉めいた笑みを返した。
「強がらないと、崩れるからな」
しばらく沈黙が落ちた。
夜風が吹き抜け、埃が舞った。
やがて、ノアがぽつりとつぶやく。
「……帰ってきてね」
「絶対に」
「ほんとに?」
「戻る。俺が決めた。
戻って……それで終わりにしない。
自由になるんだ。ノアと、一緒に」
ノアが顔を上げた。
その目は赤くなっていたが、まっすぐ俺を見ていた。
「……じゃあ、私もここで待ってる。
……じゃなくて、迎えにきて」
「当然だ。むしろ、迎えに行かなきゃ、意味がない」
「うん……じゃあ、信じる。信じるから」
ノアは、俺の袖をそっと握った。
「絶対に、生きて。絶対にだよ」
「……ああ。
生き延びて、必ずあの空の下へ連れて行く」
月明かりが、彼女の金髪を白く照らしていた。
その光を、俺は決して忘れない。
────────────
このままじゃ、逃げきれない。
この教団には、すでに実験時含め念能力者がが数十人規模で存在している。
操作・変化・放出・具現化──
中には、独自の“発”を持つ連中もいる。
逃げるには、対等な力が必要だ。
いや、人数の差を覆す“決定的な何か”が必要だ。
俺は拳を見つめた。
血が乾き、皮膚に張りついている。
────────────
「……“発”を作る」
静かに、そう呟いた。
ノアが隣で、じっと俺を見ていた。
その表情は、何も言わなかったけれど──
その目は、確かに期待していた。
俺は目を閉じ、前の世界の記憶を呼び起こす。
病室の中で、飽きるほど読んだ漫画。
異能力、魔術、超常現象。
非現実に、どこまでも憧れていたあの頃。
“数を制するには、相手以上の“数”か、“質”が必要
強大な力を持つ敵に、主人公が打ち勝つとき。
それは必ず、戦術的優位があった。
一体を倒して終わりではない。
倒した相手を「資源」として転用するような能力。
戦うたびに“自分自身が強くなる”システム。
──それだ。
この世界に、どう落とし込める?
念には“制約”と“誓約”がある。
自身に制限を課すことで、能力の爆発力を高められる。
だからこそ、他人の技や力を無制限に模倣することはできない。
けれど──
“殺す”という明確な制約を起点にすれば?
「自らがトドメを刺すこと」を条件とすれば?
奪うのではなく、“殺害した者の生命エネルギー”を媒体にすることで、
この世界の理に背かず“使役”できるのではないか。
死の間際に放出された生命エネルギーを、
念として編み上げ──
“念獣”として使役する。
使役者の能力の系統や個性が強いほど、
念獣としての“質”も高まる。
実現すれば、
敵を倒すたびに“戦力”が増していく。
しかも、念能力者である信者を相手取るなら、
一体ごとに新たな“能力”を得る可能性すらある。
──それなら。
この教団から、ノアと共に逃げ切る道が、見える。
「殺すこと」を代償に、
「生き延びること」と「仲間を守る力」を得る。
決して軽くない。
だが、この世界で生き延びるためには、背負わなきゃいけない重さだと――もう、覚悟は決めていた。
──────
俺は、前世の知識と、この世界の理を照らし合わせながら、
“力”の形を組み立てていく。
戦って、殺して、その生命エネルギーを“念”として取り込み、
形にする。
そうすれば──生き延びるたびに、俺は強くなれる。
俺が生み出そうとしている能力は、
“念獣操術”。
殺した相手の生命エネルギーを念として抽出し、
念獣として具現化し、支配下に置く。
その念獣は、殺した相手が強ければ強いほど、より強力になり、
念能力者を倒し具現化した念獣は発を持つ。
さらに──
念獣を念の塊に還元し、放出系の“念弾”として放つこともできる。
だがその場合、念獣は“弾”となって消滅する。
一撃必殺の選択肢。代償は、存在の喪失。
呪霊を操り、自らの兵として使役する──
『呪術廻戦』に登場した、夏油傑。あのキャラに似た力を念で再現する。
ただし、これは呪術じゃない。
この世界は“念”だ。呪いではなく、生命と意思のエネルギーが力になる世界。
だからこそ、“模倣”ではない、“落とし込み”が必要だった。
そして──
相応の力を得るには、それに見合う覚悟と、制約が必要になる。
──まず第一に、
俺自身がトドメを刺した生命でなければ、念獣は生まれない。
他人の戦果や偶然の死では意味がない。
命を奪う“責任”を自分で背負ったときだけ、その力を得る。
──第二に、
生まれた念獣は鍛えることも、成長することもできない。
固定された強さのまま、倒したときのまま、永遠に変わらない。
──そして最後に、
破壊された念獣は、二度と戻ってこない。
消えた命はもう帰らない。その“重み”から逃げることは許されない。
この能力は、
かつて憧れた“あのキャラ”のような力を、自分の手で形にした原点であり、
この歪んだ世界で生き延びるための現実的な武器であり、
そして――
奪った命に意味を与える、俺なりの祈りでもある。
力を振るうたび、思い出すだろう。
その命に、刃を向けた自分自身のことを。
だからこそ──これは、俺にしか扱えない念能力だ。
読んでいただきありがとうございます。
次の話は27日の20時30分予定です。