なんか原作に存在しない組織の実験体として転生した件 作:マジカルバーバリアン
俺の最初の巡礼の成功を皮切りに、巡礼が次々と始まった。
祝福の子たちは次々に呼び出され、任務に出されていく。
最初は、順調だった。
どの巡礼も、訓練施設で教えられた通りにこなせる程度の難易度。
失踪者はゼロ。死亡者も、いなかった。
──だが、それは序盤だけだった。
巡礼の難易度が、少しずつ上がるにつれ、
施設に戻らない者が、ぽつぽつと現れ始めた。
死者だ。
帰還者たちは、何も語らない。
施設内には、徐々に言葉にしがたい重苦しい空気が漂いはじめる。
それでも、俺は生き延びた。
任務をこなし、異端者たちを“祓い”、命を奪い──
その命から、新たな念獣を作り上げた。
俺の周囲には、徐々に“力”が集まり始めていた。
黒い鎧をまとった獣。
獣の骨格を持つ影の兵。
歪んだ人型をした人形。
一体、また一体と、増えていく。
背負った罪もまた、増えていった。
そんな日々を送る中、ふと思い出す。
まだ巡礼が、今ほど絶望に満ちていなかった頃のことを。
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あの頃も、巡礼はもはや日常になっていた。
ノアも例外ではなかった。
最初のころ、ノアが巡礼に出る前夜には、必ず俺たちは短い会話を交わした。
物資倉庫の裏。
夜風に吹かれながら、肩を並べて座る。
「無理するなよ。」
「わかってる。……でも、生きて帰ってこなきゃ、アークに怒られるから。」
そんな冗談めかした言葉を、震える声で紡ぎながら、ノアは笑った。
そして彼女は、緊張を押し隠すように背筋を伸ばし、巡礼へと出発していった。
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数日後。
施設の門が開く。
血と泥にまみれた服。
疲弊した顔。
それでも、ノアは確かに、生きて帰ってきた。
再会のとき、俺たちは言葉を交わさなかった。
ただ、視線だけで確かめた。
──生き延びた。
それだけで、十分だった。
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──あれから、幾度もの巡礼を経た今。
ノアの最初のころの恐怖心は、次第に薄れていった。
いまや、ノアは巡礼のたびに、さっと身支度を整え、迷いなく出発していく。
帰還しても、以前ほどの緊張は見せない。
血の匂いにも、傷の痛みにも、慣れたのだろう。
荷物を背負い、淡々とゲートへ向かうその背中。
ほとんど振り返ることもなく、まるでそれが日常であるかのように。
そして、俺たちもまた、それを受け入れるしかなかった。
この世界では、それが生き延びるための当たり前だった。
けれど。
──それでも、変わらないものがあった。
ノアは、必ず俺のもとに帰ってきた。
言葉はなくても、互いに寄り添うように──生き抜いた証を確かめ合うように。
(……今は、まだ奇跡がある。)
俺は、そんなふうに思っていた。
ノアが、生きて帰ってくる。
それが、まだ当たり前のように続いている。
だから、信じたかった。
この薄暗い世界に、まだ小さな光が残っていることを。
──いつか、あの夢見た場所へ。
まだ見ぬ空の下へ。
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巡礼の内容はどんどん変わっていった。
当初は、異端者とされた一般人や背信者の粛清が主な任務だった。
だが、次第に
新興マフィア。独裁国家。
それらに傭兵として雇われ、裏社会の抗争に加担するような任務が増えていった。
殺す対象も、単なる異端者ではない。
銃火器を手にした兵士たち。
訓練された傭兵たち。
──そして、プロハンター。
最初は稀だったプロハンターとの交戦情報も、徐々に増えていった。
プロハンターは、俺たちのような寄せ集めとは違う。
本物の修羅場をくぐり抜けた、熟練の戦士たちだ。
力の差を、痛感する場面もあった。
それでも、俺は生き延びた。
念獣たちを使役し、信者戦士を利用し、必死に生き延びた。
そんな中、ふと思った。
──本来、念は、秘匿されるべき技術だ。
原作の知識が、警鐘を鳴らしていた。
念は、限られた者たちだけが扱えるべきもの。
無闇に広めれば、必ず危険を呼び込む。
それを、この教団は……
信者たち、さらってきた子供たちにまで、無秩序に教え、使わせている。
しかも、戦場で。
これでは、いつか──
いや、もしかしたら、もうすでに……
ハンター協会に、目をつけられているかもしれない。
背筋に冷たいものが走った。
殺される?
──いや、違う。
もしかしたら、これは“チャンス”かもしれない。
もしハンター協会が本当に俺たちに気づいているなら。
もし、彼らがこの狂った教団を危険視し、動き出しているなら──
助けてもらえる可能性だって、ゼロじゃない。
だが、今はまだ耐えるしかない。
カラ元気じゃないほんのわずかな希望。
その時まで力を磨き続ける。
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巡礼の内容が変わり、規模が拡大するに伴い──
教団も動きを変えた。
施設内に、微かなざわめきが広がる。
祝福の子たちが、囁き合い、互いを探るような視線を交わしていた。
期待、不安、興奮、恐怖──様々な感情がない交ぜになり、訓練場の空気はじりじりと張りつめていた。
やがて、マリナが現れた。
いつも以上に高揚した様子で、狂信的な笑みを浮かべながら高らかに告げる。
「皆さん、新たな段階へ進む時が来ました! 教祖様の御意志により、これより巡礼は“チーム制”で行われます!」
場がどよめく。
「これからは、Aの証を持つ祝福の子一名をリーダーとし、補佐にBの証を持祝福の子を三名をつける体制になります。
これでより多くの人へ祈りを伝えることができるでしょう!」
マリナは続けた。
その声には、いつも以上の異様な熱がこもっていた。
「教祖様は、常に我らを見守ってくださっています!
教祖様の偉大なるご加護こそ、我らの力の源です!
その御意志に応えるため、皆さんもより一層、心をひとつにして祈りと戦いに励みましょう!」
叫びながら、両手を高々と掲げるマリナ。
彼女の背後に、まるで見えない神が降臨したかのような異様な空気が立ちこめた。
周囲の信者や子供たちが、次々と熱に浮かされたように手を合わせ、祈りの言葉を口にし始める。
その声には、いつもの異様な熱がこもっていた。
巡礼の苛酷さが増した今、単独では生き残れない場面も増えてきた。
当然の流れだった。
俺は無表情を保ちながら、ただ頭を垂れた。
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俺は、編成されたチームを告げられた。
リーダーは──俺、アーク。
そして、メンバーには──
ノア。
カイル。
ミナ。
Aシリーズである俺が、チームの中核を担う形だった。
カイルは、陽気な顔を装いながらも、目の奥で何かを測るように俺を見た。
赤褐色の髪は綺麗に切りそろえられ、前髪がわずかに目にかかっている。焦げ茶の瞳は鋭いツリ目で、こちらを見据えるその視線は、笑みを浮かべながらもどこか挑発的だった。
「頼もしいリーダー様だな。特質系のお出ましってわけか。」
口調とは裏腹に、尊敬と嫉妬が入り混じった、複雑な感情がにじんでいた。
一方、ミナは直立不動の姿勢で、まっすぐ俺に頭を下げた。
「アーク先輩、よろしくお願いします!」
明るい栗色の髪を揺らしながら、淡い金茶色の瞳をまっすぐ向けてくる。
教団の戦闘服は皺ひとつなく着こなされ、手首には布製のお守りが巻かれていた――信仰の証らしい。
その瞳は、純粋な敬意と期待に満ちていた。
二人の反応を受けながら、俺は静かに覚悟を固めた。
──もう、俺ひとりで戦うわけじゃない。
──俺の命令のもと、仲間を導かなければならない。
重圧は、確かにあった。
仲間の命を預かるという、冷たい重みが胸にのしかかる。
だがその中でも、ノアの存在が、ほんのわずかに俺を落ち着かせた。
近くに、ノアがいる。
それだけで、無意識に気を張ることができた。
──守らなきゃ。
ノアは、ただの祝福の子じゃない。
苦しい訓練を共に耐え抜いた、俺にとって、何よりも失いたくない存在だ。
俺の力があれば、守れる。
この手で、絶対に。
別々の任務に出されるより、こうして同じチームにいるほうがいい。
俺の念獣も、ノアを守るために使える。
隣にいる限り、最悪の事態は防げる。
──だから、俺は戦う。
「行こう。」
そう口にして、俺はもう一度、チームメンバーを見渡した。
ノアは言うまでもない。
この施設で唯一の、同志であり、強化系の念能力者。
苦しい訓練を共に乗り越えてきた、かけがえのない仲間だ。
カイルは放出系。
陽気な皮肉屋だが、状況を冷静に見極める目を持っている。
──ただ、ほんの少しだけ、俺への嫉妬も混じっていた。
祝福の子たちの中で、唯一の特質系──それが俺だったから。
ミナも放出系。
元気で素直な少女だが、観察力が鋭い。
命令には忠実で、俺に対しては純粋な敬意を向けている。
このチームで、これから生き抜かなければならない。
────
初めてのチーム訓練。
訓練場に集合した俺たちは、簡単な実戦演習を命じられた。
「ルールは簡単だ。」
「敵役の信者戦士を制圧できれば合格。」
信者戦士は、念の扱いこそ素人だが、基礎的な練と纏はできる。
相手にとって不足はない。
「行くよ、アーク!」
ノアが勢いよく駆け出す。
力任せではない。きちんとオーラを練り上げ、拳に集中させている。
カイルとミナも続いた。
カイルは距離を取りながら、タイミングを見計らう。
ミナはノアのすぐ後ろ、サポートに回る動き。
──悪くない。
俺は後方から全体を見渡し、念獣を一体召喚。
隙を突く形で敵役にプレッシャーをかける。
「へぇ、リーダーって感じだな……」
カイルがぼそりと皮肉めいた声を漏らしたが、すぐに真顔に戻った。
信者戦士がノアを狙い、大振りの拳を繰り出す。
「っ──!」
だが、ノアは怯まない。
強化系らしく、全身にオーラを纏い、真正面から拳を受け止めた。
一瞬の衝撃。
その隙に、ミナが横合いから回り込み、信者戦士の膝裏を蹴り飛ばす。
バランスを崩した相手に──
カイルの放ったオーラ弾が命中した。
信者戦士が崩れ落ちる。
「……制圧、完了。」
俺が静かに告げると、マリナが満足げに頷いた。
「素晴らしい……! 神の加護が宿っていますね……!」
連携はまだぎこちない。
カイルは少し距離を取りすぎ、ミナは突っ込みすぎる。
ノアは俺に合わせようと無理にタイミングを変えてしまう。
それでも、確かに感じた。
──こいつらとなら、やれるかもしれない。
「まだまだこれからだな。」
カイルが鼻を鳴らし、
ミナが「頑張ります!」と拳を握る。
ノアは、俺にだけ、小さく微笑んだ。
俺も、ほんの少しだけ、笑みを返した。
──これが、俺たちの始まりだ。