キヴォトス英雄譚   作:よるくろ

1 / 3
英雄の始発点

 

 

「異世界に?」

 

 ルベライトの瞳を持つ白い青年が呟く。

 

 共に隣で座る自身の主神が腕を置く机を挟んだ位置に座る、一人の神がそれに応えた。

 

「そう、異世界。僕の数少ない神友(しんゆう)が困ってるんだ。頼む、ベル・クラネル。僕の友を救ってはくれないだろうか」

 

「…」

 

 自身の主神、神ヘスティアは何も応えない。

 

 目を瞑り、思考している様子のヘスティアを見て、ベルは悩む。

 

 異世界。完全なる未知。そんな世界に行き、果たして無事に帰られるのか。

 

 親愛なる家族(仲間)がいるからこその葛藤が、ベルを思い止まらせていた。

 

 そんなベルを、ヘスティアは横目で見て…大きく溜息を吐いた。

 

「行きなさい、ベル君」

 

「神様…」

 

「助けを待ってる人がいるから、君は行きたいんだろう?なら、それを応援するのが()の務めだ。応援してるぜ、ベル君」

 

「はいっ!」

 

「行ってくれるのかい?自分で言うのもなんだが、僕は結構君に酷い事してきたぜ?」

 

 その問いに、ベルは答える。

 

「確かに、僕はヘルメス様に悪い事をされたかもしれません。でも、僕は貴方が悪神ではない事は知っています。オラリオ、下界の為に動いてくれた事も。そして、今回は神友の事を想って、僕に助けを求めている。なら、僕に断る理由はありません」

 

「…やはり、君は優しいね、ベル・クラネル。英雄と言われるだけある」

 

「あはは、それリド達にも最近言われますけど、気恥ずかしいんですよね」

 

「そうか…じゃあ、早速異世界に行く準備をしよう。まずはこれを」

 

「これは…紙?」

 

()()と呼ばれる物だ」

 

 青を基調とした、手紙のマークが描かれたそれをベルは受け取った。

 

「それを持って、寝れば異世界に行ける…と神友は言っていたよ」

 

「寝るんですか?でも…今はまだ昼ですよ?」

 

「まぁぶっちゃけいつでも良いとは言っていたし、恐らくあっち側が時間に関して何かしてくれるんだと…思う。こういうのもなんだけど、彼女物凄く適当な性格だったからね。それで、寝る事に関してなら…これがある」

 

 ヘルメスは懐から瓶を取り出す。中身は錠剤だ。

 

「睡眠薬だ。効き目は…そうだな、Lv.7(猛者)が膝をつく程と言ったらいいか。兎に角確実に眠れる薬だよ」

 

「あのそれ本当に大丈夫なものですよね???」

 

 あの猛者が膝を着く程の効力の薬。

 

 実際に戦い、勝利した経験のあるベルからすればやばい劇薬にしか見えない。

 

 しかし、飲まなければ寝れないのも事実。ベルは意を決して飲む事に。

 

 ヘスティアとヘルメスに早速行く事を伝え、激励を貰いながら寝室に行きベッドへ転がる。

 

 貰った錠剤の一つを飲み込む___途端に襲い掛かる酷い睡魔。

 

「(ここまで強…!?あッ!抗えな…)」

 

「zzz」

 

 数秒もせぬ内に意識が遠のき、眠るベル。

 

 不思議な音が聞こえてきた。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 がたんごとん、がたんごとん。

 

 定期的に鳴る音と共に、自分の身体が振動で揺れる感覚を感じながら、ベルは目を覚ました。

 

 開目一番に見える自分の装いは変わらぬまま。手を握る感覚は確かに現実味がある。

 

 異世界に来れたのだろうか。そう思いながら顔を上げると、ベルは目を見開いた。

 

 そこには血塗れの女性が座っていたのだ。

 

「(大丈夫ですか! …!? 喋れない!?)」

 

「あぁ、来たのですね。本当に来るとは…私の友人は、約束を守ってくれたのですね」

 

 咳き込みながら女性は言葉を続ける。

 

()()に少し時間を使いすぎましたか…では、手短に言いましょう」

 

 女性はベルを見据えて、言葉を続ける。

 

「異世界の冒険者…神々が認める数多の『偉業』を幾度となく乗り越えた英雄…貴方にお願いがあります」

 

「私の失敗、私のミス、最悪な結末を迎えてから痛感した自らの『脆弱』。その尻拭いを、私の『責任と義務』の代わりを、あろうことか他の人に任せてしまった」

 

「捻れ、歪み、その先の果てにある終着点。私の脆弱さが招いた終わり」

 

「そんな結末を迎えさせない為に…貴方だから、英雄である貴方だからこそに、『先生』を守ってもらいたいのです」

 

「図々しい願いである事は分かっています。しかし、これはあくまでも『お願い』」

 

「貴方がこれから訪れる地で、どう生活するか、どう生きるか、その『選択肢』は貴方に委ねられています」

 

「…お願いします。どうか、先生を…キヴォトスを…」

 

「___助けてください」

 

 正直、ベルは次々と綴られる言葉を理解する事で必死だった。

 

 しかし、最後に万感の思いで呟かれたその言葉…ベルの返答は、一人しかない。

 

「任せてください」

 

 女性は驚いた表情をした後に、涙を流して微笑む。

 

 その光景を最後に、また、ベルの意識は暗闇へと落ちてゆく。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。