突然訪れた環境の変化。良い。
突然任される教職。良い。自分は先生で、生徒を導く存在であるのだから。
突然始まる戦闘。まだ良い。自分で言うのもなんだが、戦闘指揮は己の一番得意とするものだ。よっぽどのことがない限り、自分の指揮下にある生徒がやられることはない。
なんやかんやで上手くいき、なんやかんやで荒れる戦場に蔓延る敵を倒しながら、着実に目的地へと進めていた。
しかし。
「っ! 参ったわね、全然攻撃が通用しない」
「おまけにこちらは連戦続きで弾も僅か…まずいですね」
前線から下がったユウカと、スナイパーとして戦いっていたハスミがそう呟く。
目の前に立ちはだかるは十字軍の名を冠する巡航戦車。
相手側からの視線を絶った場所に位置しているから良いものの、普通の人間の身である先生が見つかれば即座に狙い撃たれてお陀仏だろう。
加えて今味方してくれている生徒達は連戦続きの為弾不足の上に疲弊…明らかに先生側が不利だ。
「っ先生!!!」
「“え?”」
状況を俯瞰して見ている間に掛けられる大声。
ハッとして目の前を見れば、捕捉されたのか先生に向けられた戦車の主砲。
銃口の向こうの暗闇から、濃密な『死』の気配を感じた。
「(“マズイ___!”)」
離脱。しかし身体が動かない。
暗闇の中で火花の散る攻撃がスローモーションに見え…。
先生のいた場所は、爆音と共に爆風と土煙で覆われた。
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「ッッッ!!! 先生ェェエ!!!」
ユウカが叫ぶ。
ハスミもチナツもスズミも、目の前で起こった惨劇に口を手で覆って呆然としている。
生きている筈がない___先生は人なのだ。
土煙が晴れる。
そこには血塗れどころか、全身がバラバラに吹き飛んだ先生の亡骸が___。
「…え?」
スズミが思わず声を漏らした。
先生の指揮下にあった四人の生徒の目に映ったのは、まず純白。
風に靡く白い髪の向こうの赤い瞳は真っ直ぐとクルセイダーに向いており、手には刀身の黒いナイフのみ。
まさかあのナイフで防いだのか___その疑問が先に湧いた。
「大丈夫ですか?」
「“あ…え?”」
少年から掛けられた言葉に、先生はすぐに言葉を返せなかった。
しかし視界の端で捉えた自身の生徒の姿を見て、すぐに意識を取り戻した。
「“っ、大丈夫。今のは…君が守ってくれたのかい?”」
「助けが遅くなってすいません。戦場中を走り回って、漸く見つけた矢先にこれですから」
「“いや、問題ない。…君は私達の味方をしてくれるんだね?”」
「はい」
そうか、と先生は呟く。
目の前に現れた謎の少年。
手に持つナイフもさながら、身につけている装いは明らかに銃社会のキヴォトスとは掛け離れたイメージの装備だ。
そう、まるでゲームの冒険者のような…。
「“今私達が目指している目的地はあの戦車の向こうにある。迂回は出来なくはないけど、時間があまりない。だからあの戦車を破壊する必要があるんだけど…”」
「大体把握しました。あの戦車は、僕が破壊します」
でもどうやって?
そう返そうとした先生の視界から、ベルが消えた。
「”えっ!?“」
そう驚くのも束の間。視線を巡らせ、次にベルを見つけたときには、彼は既にクルセイダーのすぐ真上に位置していた。
「(”早い! いつの間にあんな所に!?“)」
Lv.5の身にして、Lv.7にも届き得るベルの速度は直人の反応速度を優に越える。
誰にも視認できない速度でクルセイダーの上をとったベルは脚を振り上げ、思い切り振り下ろした。
Lv.6相当の力のアビリティの乗った踵落としを受けたクルセイダーは簡単にその身をひしゃげさせ、そして陥没に留まらず、主砲を中心とした位置から前後を分けて真っ二つに叩き割った。
当然中の人間は無事ではない。しかし操縦士の気配を読んで放った一撃は命を刈り取るほどのものでもなく、丁度気絶する形で事態を収めた。*1
そんな光景を目の当たりにした先生並びに生徒達、そして敵。
驚愕の視線を一身に受けるベルは、そんな視線を無視してすぐさま別の行動に移る。
「(“また消えた!”)」
今度は何が起きる___。
「ガッ!」
「えっ!?」
ユウカの後方にいた敵が突然倒れる。
「うぐ!?」
「あばっ!?」
「っ!?」
チナツの前後にいた敵が突然倒れる。
「“…まさか!”」
そのまさかだ。
時間にして約11秒。
ベルが先生の横で姿を現せる頃には、周囲にいた敵対生徒は全て気を失って倒れていた。
「“君は一体…”」
「僕はベル・クラネル。オラリオの冒険者です」
ここに、異世界の英雄と、一人の教師が邂逅した。
これからこの二人がどのような物語を進み、どのような選択をするのか。
それは神ですらも分からない。