「楽園の島の魔女」(完結)   作:雄魔雌

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20 楽園の島の魔女

 私は調査兵団の分隊長だった。英雄を殺した裏切り者らしい。

 

 当時の団長が、迫り来る巨人の前で私を分隊長に指名した日を覚えている。雲ひとつない青空は、踏み潰される大地のことなど関係なく広がっているようだった。仲間たちの震える声が聞こえてくる。私はハンジ団長の目をまっすぐに見つめていた。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 窓から差し込む朝日と、背後からの重みで目が覚めた。

太い腕が私の腰に絡みついている。起き上がりたくてその腕を引き剥がそうとすると、より強い力で抱き締められ、暑苦しいくらいに密着された。

 

「おはよ……」

 

 身を捩って振り返り、彼の頬に軽くキスを落とす。

 その瞬間、腕の力がさらに強まった。まるで、私がどこかへ行ってしまわないようにするかのように。

 

 天と地の戦いから三年。

 世界は未だ不安定なままだが、島と大陸の関係は、対立しながらも完全に断絶されることはなかった。

 大陸は復興のために、島は発展のため。どちらも、互いの技術が必要だった。そして、技術だけでなく、文化も行き交った。

 

 私はシャツを羽織り、水を一口飲みながら、雑誌を開く。

 パラディ島で発行されたものが、ここにも流れてきている。

 

「……」

 

 目に飛び込んできた見出しに、思わず顔をしかめる。

 

『パラディ島が生んだ「最も罪深き魔女」裏切りの歴史を振り返る』

 

 ――魔女。

 私のことだ。

 

 戦後、世界で最も名前が知られてしまったのは、まさかの私だった。

 政治的な意味で一番知られているのは、もちろんアルミンだ。彼はエレンを殺した張本人ということになっているから、連合国では英雄だが、パラディ島では逆賊だ。

 対して私は……島の中でも外でも、最も下衆な意味で、かなりの有名人だった。

 

 発端はフロックだ。

 全く知らなかったのだが、どうやら彼は私を伴侶にするつもりだったらしい。

 ……いや、正気か? 全然そんな関係じゃなかっただろ。寝耳に水すぎる。

 私の了承もなく、彼はそんな将来像を周りの兵士に伝えていた。一人で勝手に動くあたりが実にフロックらしかったが、そんな与太話を信じている兵士が、島にはたくさん残っていた。

 そこから私の過去が洗い出され、面白おかしくスキャンダラスに仕立て上げられ、島の中で醜聞として爆発的に広まった。

 

 英雄エレン(島では現在そういうことになっているらしい)と同郷出身でありながら、彼を裏切った女。

 エレンの親友(そういうことになっているらしい)であるフロックの純情を弄び、手酷く捨てた女。

 ヒストリア女王の側近(そういうことらしい)を務めながら、その信頼を切り捨てた女。

 親の仇であるライナー(これだけは事実だ)に入れ込み、両親や故郷を捨てて逃げた女。

 大体、こんな感じだ。

 

 ……めちゃくちゃなことばかり書かれているが、全部が嘘というわけでもないから、タチが悪い。

 魔女という言葉の妖しい響きは、人をゴシップ記事に誘う。しかもその魔女がパラディ島出身だということが、更に大衆の感情を煽った。アニやピークではなく、私に矛先が向いたのも、結局は私がパラディ島の女だからだ。

 ミカサの名前は、戦いの記録に残っていない。それだけは本当に良かったと思う。こんな目に遭うのは、私一人で十分だ。

 

「そんなもの、読まなくていい」

「あ」

 

 ライナーが、私の読んでいる雑誌を後ろから取り上げた。

 

「紅茶、淹れる?」

「ああ、ありがとう。リディアが淹れたものは、美味いからな」

「リヴァイ兵長の直伝だからね」

 

 新聞記事から生まれた「魔女リディア」は、もはや現実の私とはかけ離れ、今ではフィクションの中で生き続けている。

 残酷な悪女として描かれたり、かと思えば純愛を貫くヒロインになったり……最近は、私を題材にした芝居が上演中止になったらしい。

 パラディ島での私は、もはやフリー素材なのだ。いろんな意味でエレンと同格である。同じ名前の人には、本当に申し訳ない。

 

 当然、ヒストリアがこんな状況を放っておくはずもなく、実録本を自称する書籍はすぐに発禁処分を受けた。しかし禁止されればされるほど、私を題材にした創作は増えていった。

 軍備を増強する島は娯楽に飢えていた。そこにぴったりとはまったのが「魔女リディア」だった。それだけだ。

 

「……本当に何もなかったんだよな?」

 

 そのうえ鬱陶しいのが、ライナーがそれをかなり気にしていることだ。

 

 ライナーは、自分が納得できる形で物事を整理しないと前に進めない人だ。でも、フロックに関しては直接対話する機会がないまま、結局どういう存在だったのかを知ることもなく、私と彼の関係を正しく理解できないまま終わっている。それが数年間、彼の中でずっとくすぶり続けている。

 

(別に、何もないんだけどなぁ……)

 

 でも、私の言動や表情、ほんの些細な仕草の端々に違和感を持つらしい。

 

「あいつに対して、何か引っかかるものを抱えているんじゃないか?」

「また始まった……」

 

 ここで少しでも沈黙したり、言葉に詰まるようだと、ライナーはものすごく気に病む。

 正直、割と、かなり、結構……めんどくさい。

 

 今、私がライナーの隣にいる。その事実だけが、唯一の答えになる。それじゃ駄目なのか。

 

「結局、フロックのことをどう思っていたのか、いつも教えてくれないんだな……」

「だって、何もないし」

 

 ライナーの顔は、真剣そのものだった。

 

(もう、本当にめんどくさいな……)

 

 でも、そういう面倒なところも含めて好きなんだから、私も始末に負えない。

 

 私にとってフロックは「救うことができなかった迷子」。そしてライナーは「未来を共にする相手」。

 だから、答え合わせのしようがない。

 何を答えたところで、私の心に一生の傷としてフロックが残り続けているという時点で、きっとライナーは満足しない。だから、ライナーの中にはずっと、答えを知ることのできない違和感だけが残り続ける。

 

「知らないほうがいいこともあるよ」

「俺は全部知りたい……」

 

 いつからこんな厄介な男になったんだ。あ、前からか。

 訓練兵の頃、私のことを「妹みたいな存在」とか言ってたくせに。こんな兄、絶対に欲しくない。

 

 

 

***

 

 

 

 海面は穏やかで、水平線はどこまでも青かった。けれど、この船が向かう先に広がる未来が穏やかである保証はない。

 

「大丈夫、撃たれないよ。私もいるし」

 

 和平交渉のための大使としてパラディ島に向かう船の中で、私はこの状況を深刻に捉えず、のんびりしていた。

 

「まぁ、すごい自信。自分が島で何て呼ばれているか、知らないあなたでもないでしょうに」

 

 ピークが意味ありげに微笑む。その口調にはどこか皮肉めいた響きがあった。

 

「おいピーク、やめろよ」

 

 ジャンが苦い顔で割って入るが、ピークは肩をすくめただけだった。

 私は、特に気にすることもなく返事をする。

 

「女王の信頼を裏切り、婚約者を捨て、英雄を殺し、親の仇に付いていっちゃうような……パラディ島が産んだ史上最悪の色狂いだと言われているそうね」

「うわっ……とんでもねぇな、お前」

 

 コニーが思わず引き気味に呟いた。ジャンも頭を抱えている。

 

「別に気にしてないけど……婚約者ってところは引っかかる。誰がいつフロックと婚約したんだか」

 

 皮肉も揶揄も、もう聞き飽きた。

 

 アルミンが少し言いづらそうに切り出す。

 

「リディア……例のゴシップ、知ってるんだね」

「さすがにあれだけ出版されてたらね。海を渡ってくるとは思わなかったけど」

「お前、悔しくないのかよ。俺はそんな本読んでないし、読みたくもないけどさ。あんまりな言われようじゃねーか」

 

 コニーが怒ったように言う。まるで自分のことのように憤ってくれるのが、彼らしい。

 

「ライナー。お前だって、リディアがそんな風に言われてさ……嫌だろ。そういうの、何つーか……」

 

 コニーがちらりとライナーの方を見る。ライナーは無言で、表情を固くした。

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

「僕たちのこの渡航は、ヒストリア女王による保護、そしてリディアが下衆な興味を一身に引き受けているからこそ、安全が確保されている」

 

 アルミンが淡々と分析する。

 

「……確かにリディアの存在で大衆の興味は集められるかもしれないけどさ、それで本当に無事でいられると思う?」

 

 アニが懐疑的な目でアルミンを見た。しかしアルミンは続ける。

 

「あの『魔女』がついに島にやって来るんだよ。みすみす死なせれば、島にとっても大きな損失だ。リディアの記事を読んでいるのは、きっと民間人だけじゃない。軍の人間だって回し読みしてるに違いないし、絶対にリディアを一目でも見てみたいはず」

 

「きっかけが下衆な興味だったとしても、これで、政治や世界情勢に興味がない人たちにまで僕らの声を届けられるようになるんだ」

 

「より多くの人たちに、僕らの言葉を直接届けることができる。それは、島にとっても悪いことじゃない」

 

 まぁ、そうかな……と皆が黙り始めた頃、ライナーが口を開いた。

 

「ただ……まぁ、夫としては、な」

 

 ライナーは自分のことを「夫」と主張するのが好きらしく、やたらその単語を使いたがる。

 

「妻がそんな下世話な興味を持たれているこの状況は、喜ばしいものではないな」

 

 そう言うライナーの手には、ヒストリアからの手紙がしっかりと握られている。

 

「……その手に持ってる手紙置いてから言いなよ」

 

 アニが呆れたように言う。汚いものを見るような目でライナーを見ている。

 

「魔女のお相手がこれなら、本の売上も落ちるんじゃない?」

 

 ピークは茶化すように笑う。

 

「いや、その、これは……」

「離婚しよ」

 

 リディアがさらりと口にした瞬間、ライナーの動きが硬直する。

 

「ち、違う! リディア、その、これは、そういうことではなくて……俺が愛しているのはあくまでリディアだけなんだが、ヒストリアの手紙についてはまた別の話というか……冗談でもやめてくれ、そんな離婚とか……」

 

 本気で慌てている。ちょっと面白い。私が思わず少し笑うと、安心したような表情を浮かべている。

 

「チッ……イチャつくんなら外でやれよ」

 

 ジャンが苛立たしげに舌打ちする。

 

「ジャン。結婚はいいぞ」

「うるせぇよ! とっとと手紙を手放せ!」

 

 そんなライナーを見て、私は軽く息を吐いた。

 私の方が、断然ヒストリアのことを分かっている。彼女は……こんな香水、絶対に使わない。

 懐かしい香りの記憶が蘇る。それは私だけが知っている事実。私にしか、断言できないこと。

 

「おい」

 

 コニーが不満げに言う。

 

「本当にあんなんが夫でいいのか……?」

「え? そりゃ苛立つし、気持ち悪いけど……」

「気持ち悪いのかよ」

 

 コニーが思わず突っ込む。

 

「ちゃんと決めたから。何があっても、一緒にいるんだって」

 

 私は淡々と言う。

 結ばれた直後のような燃えるような恋心がなくなっても、それでも愛するという行為をやめないこと。そうやって生きていくと、もう決めている。

 

「結婚とか夫婦とかって、そんなもんだからね」

「……俺にはわかんねー」

「コニーにも、きっとすぐに見つかるよ。なんせ、いい男だからね」

「お、そう思うか?」

「もちろん」

 

 その言葉に、コニーは少し顔を赤くして鼻をこすった。

 

 

 

 それからみんなで、部屋から外に出た。潮風が髪を揺らす中、じっと水平線を見つめると、遠くに島が見える。

 

「アニに、聞いてもらいたいことがあるんだけど」

 

 懐かしい言い方だった。あの頃を思い出す。

 

「何?」

「……島に帰るのが、ちょっと怖い」

 

 アニがわずかに目を見開く。驚き半分、呆れ半分といった様子だった。

 

「は、今さら?」

「今さら。だって……ほら、この見出し」

 

 私は、部屋から持ってきた新聞を広げた。

 

『魔女、裏切りの帰還――島に再び災いをもたらすか』

 

 アニはちらりと紙面を見て鼻を鳴らす。

 

「めちゃくちゃじゃない? 私、そんな大層な人間じゃないのに」

「何を今さら。あんた、島にいた時から、常に噂に振り回され続けてきたんでしょ」

「まぁね」

 

 新聞をくしゃっと畳む。

 

「でも、アニには言っときたかったんだよね。私、やっぱり怖いよ」

「……」

 

 アニは腕を組み直し、じっとこちらを見つめる。しばらく沈黙が続いたが、やがて短く言った。

 

「だったら、怖いまま行けばいい」

「え?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 

「怖くても進む。それが、あんたでしょ?」

 

 アニの口調は淡々としていたが、その言葉には確かな重みがあった。

 

「……アニらしいね」

 

 そう言いながら、そっとアニの肩を軽く叩く。

 

 その時、別の声が割り込んだ。

 

「二人で深刻な顔して、何の話? ライナーに浮気でもされちゃった?」

「……あんた、なんて事を……」

 

 アニが思わず顔をしかめると、ピークは楽しそうに首をかしげた。

 

「大丈夫。そんなことされたら、しばき倒す」

 

 私は呆れながら否定する。

 

「なんだ。てっきり、そういう話かと思ったのに」

 

 

「さっき、ライナーが手紙を持ってどこかに行くのを見たけど。いいの?」

「うわ……」

 

 アニが少し引いたように呟いた。

 

「あの野郎……しまいにゃ本当に離婚するぞ」

 

 私はため息をつきながら、足を踏み出した。

 

「ずっと一緒にいるとか言ってたくせにね」

 

 呆れたようなピークの笑い声が聞こえた。

 

 

 

 ライナーを探しながら、私はもう一度新聞を開いた。

 

『聖女と魔女――女王ヒストリアの横で微笑む悪女』

 

 目を滑らせるうちに、胃の奥がじわりと重くなる。

 連合国大使に寛容な女王は魔女にそそのかされている、黒魔術を行使して人心を操っている……どこまでも悪意に満ちた言葉が並んでいた。

 本当に、私は大使の中でも圧倒的な知名度と悪評を得てしまっているらしい。

 目を落とした別の記事には、こう書かれていた。

 

『その微笑みは罪の証。死者が裁きを望んでいる』

 

 ……新聞って、こんなことまで書いていいものなのか? いくらなんでも偏りすぎでは?

 記事の端に記された発行元を確かめる。ベルク新聞社ではなかったので、少し安心する。いや、根本的な問題は何も解決していないのだけれど。

 ため息をつきながら、私は小さく呟いた。

 

「……これ、本当に航海の安全、保証されてるのかなぁ」

 

 潮風が新聞の端を揺らし、私の胸に残るざわつきを、どこか遠くへと運んでいった。

 

 

 

 見つけた。

 扉を軽く押し開け、中を覗いた。

 部屋の中では、ライナーが真剣な顔で何かを読んでいる。彼の手には、丁寧に折り畳まれた手紙。

 やっぱり、ヒストリアの手紙を読んでいる。それを見た瞬間、私は無意識のうちにため息をついていた。

 

「……何してんの」

 

 ライナーは、まるで不意を突かれたかのように肩を跳ねさせ、視線をすぐにこちらへ移した。

 

「いや本当にそういうことじゃなくて、ゆっくり読もうと思って……」

 

 彼の言葉は言い訳じみていて、ほんの少し震えていた。

 

「あー、分かった分かった」

 

 深く追及する気も起きなかった。ライナーのこういう面倒くさいところは、今に始まったことじゃない。

 

「……幻滅したか?」

 

 ライナーが、不安そうに私の顔色を窺う。

 

「何を今さら……はいはい。そういう気持ち悪いところも好きだよ」

 

 ライナーは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにほっとしたように微笑んだ。

 

「気持ち悪いと言われて喜ぶな」

 

 軽く頭を小突くと、ライナーはわざとらしく頭を押さえながら、苦笑いを浮かべる。

 

「身体は大丈夫か?」

「うん、平気。外の空気も吸ったし」

「そうか……」

 

 ライナーは一度目を伏せ、何か考え込むような顔をした。

 私は彼の手からそっと手紙を取り上げた。指先が一瞬だけ触れる。

 そのまま開こうとして、ふと迷う。そして、そっとそれをライナーの手元へ戻した。

 

「もう一度、読めばいいよ。ヒストリアの言葉なんだから」

 

 ライナーはしばらく黙ったままだった。目を細め、手紙を見つめる。

 

「……」

 

 しかし、彼はそれを開こうとはせず、静かに息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「外に出よう」

 

 

 

 デッキに出ると、海の向こうに、薄く陸地が見えた。

 

「島に帰ったら、何がしたい?」

 

 ライナーがぽつりと問いかける。

 

「うーん……」

 

 少し考え、ゆっくりと海を眺めた。

 

「ミカサに会うでしょ、ジャンとコニーの親御さんにも挨拶したいし、ブラウス厩舎のみんなにも……ヒストリアと、そのご家族には会わせてもらえるのかなぁ……でもその前に」

 

 ライナーは、微笑みながら私の言葉を聞いている。

 

「まずは、甘いものを食べる」

「……え?」

「昔みたいに焼き菓子を買って、街を歩いて……それから、何しようかな」

「そんなことでいいのか?」

「そんなことでいいの」

 

 潮風に髪をなびかせながら、ライナーを見上げた。彼は呆れたように苦笑しながら、それでもどこか安心したように、こちらを見つめている。

 

「俺は……」

「うん?」

 

「俺は、リディアと一緒にいる」

 

 言われなくても分かっていた。だけど、ライナーの口からその言葉を聞くと、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

「そっか」

 

 そっと、ライナーの手を取った。指先が触れ合う。そのまま指を絡めるわけでもなく、ただ、確かにお互いの体温を感じるように。

 

「なら、一緒に帰ろうか。……私の故郷に」

 

 ライナーは静かに頷いた。

 

 

 

 雲ひとつない青空が、どこまでも広がっている。どこまでも続く海の向こうに、パラディ島がある。

 自由に空を舞う鳥が、私たちの船を追い越した。まっすぐと、島に向かって飛んでいく。どこから来て、どこへ向かうのだろう。

 

 私はもう一度ここに来ることを選んだ。それはもう、覚悟の問題ではない。これは、私が最後まで自分の意志を貫くための道なのだ。

 

「……ただいま」

 

 私は静かに呟いた。

 

 

 

 壁の外で彷徨う人がいるなら、その人を助けたい。

 かつてそう願った少女は、迷子を見つけ、復讐を終わらせ、人を愛することを知った。

 そうして全てを手に入れた後に……世界を恐怖に陥れる、最悪の魔女になってしまった。

 

 私について語ることで憎悪を発散させる人がいれば、荒んだ心を癒すために消費する人もいる。世界中で人々の心を慰める魔女の伝説は、もはや私の死では終わらない「物語」となっている。

 

 でも、私はそれでも構わない。

 

 

 これは、私が始めた物語なのだから。

 

 

 

おわり




次のおまけで、この物語は完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
ぜひ、感想や評価をいただけたら嬉しいです。ください(懇願)
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