「楽園の島の魔女」(完結)   作:雄魔雌

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18.5話 産めよ増やせよ王家の血筋

 瓦礫の山が地平線まで続く街並みを見渡しながら、リディアは汗ばんだ額を袖で拭った。

 天と地の戦いが終わってからというもの、毎日がこの復興作業の繰り返しだった。崩れ落ちた建物の破片を一つずつ運び、寸断された道を丁寧に整備し、少しずつ人々の暮らしを取り戻していく。単調な作業だが、誰もが黙々と手を動かしていた。

 

 ジャンが重い石材を持ち上げながら、額の汗を袖で拭う。コニーは瓦礫の隙間から使えそうな材木を引っ張り出していた。ライナーとアニ、そしてピークも、それぞれが自分の担当箇所で黙々と作業を続けている。

 かつては敵味方に分かれて戦った仲間たちが、今は同じ目標に向かって汗を流している。この光景には、言葉にできない和解の象徴があった。

 

 その時、アルミンのもとに一人の男性が駆け寄ってきた。息を切らせた使者の手には、一通の手紙が大切そうに握りしめられている。封蝋の跡から、これが正式な文書であることが見て取れた。

 

 アルミンは作業の手を止め、泥と埃で汚れた手を服で拭いてから手紙を受け取った。封筒を開き、中の便箋に目を通すと、その表情がみるみる明るくなっていく。

 

「みんな!」

 

 アルミンの声に、作業していた全員の視線が集まった。

 

「ヒストリアの赤ちゃんが生まれたって! 母子共に健康だそうだ!」

 

 一瞬の静寂の後、コニーが文字通り飛び上がった。

 

「本当か!? よかった!」

「地鳴らしの最中に生まれたって話、本当だったのか」

 

 ジャンが手紙を覗き込もうとし、リディアも隣でほっと胸を撫で下ろした。長い間抱えていた心配が、ようやく晴れたような気がしていた。

 

「男の子、女の子? 名前は?」

「まだ正式なことは分からないんだ。これも色んな伝手を辿って、ようやく届いた連絡だし」

 

 高揚した様子のアルミンを見て、リディアが小さく呟いた。

 

「ヒストリアの子の名前……なんとなくだけどさ」

「ん?」

「女の子ならユミル、男の子なら……エレンかも」

 

 その瞬間、場の空気が凍りついた。

 ジャンが慌てたように手を振る。

 

「……どっちも政治的にヤバすぎるだろ!」

「でも、ヒストリアだし」

「いやいくらなんでも……ないよな? 誰か、ないって言ってくれ!」

 

 コニーとジャンがリディアの発言に慌てている。

 リディアの言葉には、親友の性格を知り尽くした者だけが持つ確信があった。あの子なら本当にやりねない。そんな直感的な理解が彼女にはあった。

 

 ひとしきり騒いだ後、アルミンが深く息を吐いた。

 

「王家の血筋として家族同士で食い続けるような……そんな地獄の連鎖から、彼女は解放されたんだ」

 

 アルミンの声には、長い戦いを経て得た安堵と、未来への希望が込められていた。

 

「この世界から巨人の力が失われて、本当によかった」

「そうだな。……本当に、よかった」

 

 ライナーが重々しく頷く。

 

「それにしても」

 

 ジャンが付け加えた。

 

「ジークに子供を作らせるなんて策を進めなくてよかった」

 

 ジャンの言葉にコニーが苦笑いを浮かべる。

 

「今思えば、安楽死計画なんてものの発案者が子供を作るわけがないけどな」

 

 アルミンが安堵の表情を見せる。

 

「巨人の力が失われた今、王家の血筋にこだわる必要も低くなったとはいうけど。もしもジークに子供がいたりしたら、色々と問題が起きていた。だから……」

 

「リディアがジークの子を産んだりしてなくてよかったよ」

「うん、本当に」

 

 瞬間、アニ、ピーク、ライナーの三人が石像のように固まった。

 

「は?」

「え?」

「な……」

 

 特にアニの顔は青ざめ、ピークは口を半開きにしたまま動かない。ライナーに至っては完全に硬直している。

 まるで雷に打たれたかのような衝撃が、三人を襲っていた。

 

 三人の視線が一斉にリディアに注がれる。その重苦しい空気に、ようやくリディアも何かがおかしいことに気づいた。

 

「今、何て……」

 

 ライナーの一言に、周囲の言葉が途切れた。復興作業の音だけが、妙に大きく響いていた。

 

 

 

***

 

 

 

 時は遡る。

 

 アズマビトを通して明らかにされたジークの「秘策」。地鳴らしの実験的な活用、王家の血筋による獣の巨人の継承。

 この島を守りつつ、ヒストリアを絶対に犠牲にしない方法――今のパラディ島に、そんな都合のいい策はない。

 他に活路が見出せない限り、この島はジークの策を受け入れ、ヒストリアとその子供たちを何代も犠牲にし続けるしかない。

 

 リディアは拳を強く握る。

 爪が掌に食い込むほどの力で握りしめても、心の中の怒りは収まらなかった。

 そんな話、絶対に受け入れたくない。

 

 あの時、エレンも立ち上がってヒストリアを庇った。彼の怒りに満ちた表情が脳裏に浮かぶ。

 まだ時間はある。時間が許す限り、他の方法を模索し続けなければならない。

 

 リディアは、いつかヒストリアが自分に伝えた「絶対に助ける」という言葉と、彼女の掌の温かさを思い出した。

 あの時の彼女の優しい笑顔、困難な状況でも決して諦めない強い意志。それらが胸の奥で燃え続けている。

 

 今度は自分の番だ。絶対にヒストリアを助けたい。

 そして今はせめて……彼女を一人にしたくない。未来への不安に押しつぶされそうな彼女を、絶対に孤独にしたくない。

 

 それならば今、自分ができることは。

 リディアは深呼吸をして、意を決した。

 

「王家の血筋が必要なら、ジークも子供を作るべきだと思う」

「え」

 

 嵐の前の静寂のように重く張りつめた室内の空気を、リディアの突飛な発言が切り裂いた。

 アルミンが眉をひそめ、口を半開きにしている。他の面々も同様に、突然の発言に戸惑いを隠せずにいた。

 

「王家の血を引く者は可能な限り子を残す。それは他でもないジーク自身の義務でもあるはず。何もヒストリア一人に課せられたことじゃない」

 

 リディアの声は静かだったが、その中には確固たる決意が込められていた。彼女は仲間たちの視線を受けながらも、自分の考えを述べ続けた。

 

「それは」

 

 エレンが何か言おうとした瞬間、アルミンが口を挟んだ。

 

「確かにそうかもしれない。ジークが本気で島に味方する気があるなら、寿命のうちに子供を作り、その子を島に……人質として差し出させる」

 

 アルミンの過激な発言に、一同が静まった。部屋の空気がさらに張りつめる。

 しばらくしてからミカサが、慎重に言葉を選びながらリディアに問いかけた。

 

「でも、その……相手は?」

「考えたんだけど」

 

 リディアが口を開く。彼女の表情に迷いはなかった。

 

「私がジークの子を産めばいいのでは?」

 

 部屋の空気が一瞬にして凍りついた。

 

 バン、と音を立ててエレンが手を滑らせ、ティーカップが倒れた。琥珀色の液体がテーブルに広がっていく。

 エレン、ミカサ、アルミン、ジャン、サシャ、コニー……全員の目が見開かれ、まるで化け物でも見たかのように言葉を失っていた。

 時間が止まったような静寂の中、誰もが次の言葉を見つけられずにいた。

 

「お前、頭沸いてんのか!?」

 

 最初に我に返って反応したのはジャンだった。椅子を蹴り倒すようにして立ち上がり、机を叩きながら叫んだ。

 

「いやいやいや、リディア、ちょっと待て! ジークだぞ!? あの! 獣の巨人だぞ!?」

 

 コニーが慌てふためく。

 

「リディア……そこまでヒストリアを思って……」

 

 サシャが感動したような、それでいて困惑したような表情を浮かべる。

 

「サシャ、真面目に取り合うな! リディア、お前……どうしてそんな発想に至った!?」

 

 ジャンが絶叫した。

 

「だってジークが王家の血を増やせって言ってるんでしょ。発案者が子作りすべき! 義務だよ、義務!」

「問題は、兵政権が女王系以外の『王家の血筋』を増やすことをどう考えるか……」

「おいアルミン、乗るな乗るな!」

 

 アルミンが顎に手を当てて考え込み始める。ジャンがこの異常な話の流れを必死に止めようとする中、エレンは両手で頭を抱え込み、机に突っ伏した。肩が小刻みに震えている。

 

 そして突然、彼は立ち上がって叫んだ。久々に感情的になったエレンの声が室内に響き渡る。

 

「リディア、お前マジで何言ってんだ! ジークと子作りとか、冗談でもやめろ! 気持ち悪い想像しかできねえ!」

 

 そして拳を握りしめながら、エレンは最後通告のように言い放った。

 

「提案は却下。もうこの話は終わりだ」

 

 こうして、リディアの突飛な提案によって始まった議論は、強制終了となった。

 

 

 

 

 数日後、その会議に参加していなかったフロックが、呆れたような薄い笑みを浮かべながらリディアを見下ろしていた。

 

「この島が本気でジークに相手をあてがおうってんなら、地下街から立候補者がゴロゴロ出てくるぞ」

 

 フロックは腕を組みながら、まるで子供に算数を教えるような口調で続けた。

 

「生活が保証される可能性があるからな。王家の血を引く子を産めば、それだけで一生安泰だ。そのくらいちゃんと考えろよ」

 

 フロックの言葉は現実的で、容赦なくリディアの甘い考えを打ち砕いた。

 

「悔しいけどぐうの音も出ない」

「ハッ。ドベのリディアらしい。訓練兵の頃を思い出すよ」

 

 リディアが素直に認めると、フロックはそれを鼻で笑った。その声には明らかな軽蔑が込められていたが――どこか楽しそうでもあり、まるで久しぶりに感情というものを思い出したかのようでもあった。

 

 

 

***

 

 

 

 瓦礫を運ぶ音、木材を組み立てる音。復興作業の音だけが空間を満たしている。

 それぞれが各々の作業に戻っていた。

 

 ライナーは黙々と作業を続けるリディアの隣に立ち、その横顔を盗み見ながら、重い口を開いた。

 

「……あんな話、知らないままでいたかった」

 

 その声音には、知ってしまった事実への困惑と、どこか諦めにも似た苦々しさが滲んでいた。

 

 リディアは作業の手を止めることなく、しかし僅かに表情を和らげた。

 

「深刻な顔しないでよ。今では間違ってたと思う。いくらヒストリアが心配でも……産まれてくる子供を犠牲に捧げようだなんて、どうかしてた」

 

 彼女の言葉には、過去の自分への反省と、それでもなお残る複雑な感情が交錯していた。

 

「私が家庭や子供を持つかなんて、今はもう分からないけどね」

 

 その呟きを聞いて、ライナーの肩から僅かに力が抜けた。安堵とも取れる表情が、一瞬だけ彼の顔に浮かんだ。

 

 

 

 時間だけが過ぎていく。

 瓦礫を運ぶリディアの手が、わずかに震えているのをライナーは見逃さなかった。彼女の内側で何かが蠢いているのを感じ取りながらも、彼は待った。

 

「でも」

 

 やがてリディアが、まるで意を決したように口を開く。

 

「たまにふと、思うことはある」

 

 

 

「あの時……」

「あの時?」

 

 ライナーの問いかけに、リディアは一瞬躊躇した。しかし引き返すには遅すぎた。

 

「ヒストリアが、マーレに連れて行かれていたら」

 

 その瞬間、ライナーの表情が凍りついた。血の気が引いていくのが見て取れる。

 

「ヒストリアをマーレに連れて行って、彼女をどうするつもりだったの?」

 

 リディア自身も、自分の口から溢れた言葉に驚いていた。

 それは決して言うべきではないこと。想像してはいけないこと。

 

「マーレに行けば、きっと……」

 

 それでも脳裏に浮かんだ暗い可能性を、彼女は言葉の形にしてしまった。

 

 リディアの頭の中で、当時の事情が整理されていく。

 ヒストリアが壁外に連れて行かれていたら。

 王家の血筋を増やすため、彼女は子を産む道具とされ、多くの子供を作ることを強要されていたに違いない。この島の中でも同じことが起きようとしていた。どこにいっても、彼女の扱いは変わらない。

 結果的に、彼女はこの島で自らの意志で結婚し、少なくとも「まるで望まない相手と子を成すこと」だけは避けられた。

 

 でも、マーレだったなら――

 

「ヒストリアを軍に捧げて、あなたは……」

「……」

 

 ユミルならきっと、自分の命を賭してでもヒストリアを救おうとしたに違いない。そしてライナーにも懇願しただろう。彼女を命懸けで救うようにと。

 

 でも、本当にそうなっただろうか?

 ライナーは軍人だった。上官の命令に従うことが最優先されるのは間違いない。

 

 もしも。

 ヒストリアという「王家の血筋」を連れてきたライナーが。

 もしも、もしも。

 ――「褒美」や「権利」として、ヒストリアを与えられていたら?

 

 リディアは慌てて首を振った。

 

「……ごめん」

 

 こんな考えは、ヒストリアにとってもライナーにとっても侮辱でしかない。でも、一度頭に浮かんだ暗い想像は、消し去ることができなかった。

 

 

 

 ライナーにどこまで考えが見透かされたのかは分からない。

 リディアの胸の内で渦巻く感情が、彼の鋭い眼差しにどれほど読み取られているのか、それを知ることが怖かった。

 

「リディア」

「うん、何……」

 

 しかし彼は深く思案するように黙り込み、やがて重い口調で言った。

 

「俺を殴れ」

「は?」

 

 リディアは目を丸くした。彼の言葉が理解できず、まばたきを繰り返す。

 

「え、なんで。怖いよ。そんなことしたくないし、理由もないし」

「いいんだ」

 

 ライナーの声には、自分を責める響きが滲んでいた。

 

「お前の考えているであろうことを、完全に否定できない自分が情けなくなった。俺はきっと……」

 

 ライナーの声が震えていた。

 

「それだけじゃない。お前とジークの話を聞いて……おかしなことを考えたのは俺も同じだ」

 

 沈黙が二人の間に横たわった。リディアは自分の心臓の音を聞いているような気がした。

 

「だったら、私のことも殴ってよ」

「え?」

「最低なのは私のほう。だから、先にやって」

 

 ライナーがあからさまに動揺しているのがリディアにも分かったが、それでも彼女は静かに瞼を閉じた。

 そして彼は、手を上げかけたが――

 

 ぽん。

 

 結局、彼の手はリディアの頭にそっと置かれた。

 

「え」

「……できるわけないだろう」

 

 そのまま、頭をぐしゃぐしゃに撫で回された。

 大きな手が、まるで大切なものを慈しむように彼女の髪を撫でていく。

 

 こうして頭を撫でられるのは訓練兵の頃以来だった。まだ何もかもが単純で、未来への希望に満ちていた、あの頃。

 

「……」

 

 リディアはうつむいて顔を赤らめた。

 ふと思い出す、あの頃の純粋な気持ち。どれだけ頭を撫でるのはやめろと言っても、ライナーは全然覚えてくれなくて……

 

「ふんッ!!」

 

 リディアは顔を赤くしたまま、ライナーの手を振り払うように片腕を振り回した。感情の混乱が、思わず体を動かす。

 

「うおっ……」

 

 ライナーは咄嗟に避けた。リディアの腕が空を切る。

 

「不意打ちか。やるな」

「ごめん。つい」

 

 再び沈黙が訪れる。しかし今度の静寂は、先ほどとは違う温かみを帯びていた。

 ライナーは鼻を押さえながら、どこか懐かしそうに呟いた。

 

「本当に親しかったんだな」

「私にとって、彼女は特別だから」

 

 リディアの答えは簡潔だったが、その中には深い愛情が込められていた。ヒストリアとの絆は、どんな時代の変化も揺るがすことのできない、彼女の心の支えでもあった。

 

 

 

 

 そんな会話を交わした後、しばらくの間を置いて、リディアが再び口を開いた。今度は、未来への不安を含んだ、より重い話題だった。

 

「これから、ヒストリアは岐路に立たされる」

 

 その声には、親友への心配が滲んでいた。

 

「このままイェーガー派に実権を握らせ続けるとは思えない。彼女はあの島を……どうするつもりなのかな」

「島の政治は変わるかもしれないな」

 

 ライナーの返答は慎重だった。彼もまた、パラディ島の行く末を案じているのだろう。

 

 全人類の八割を虐殺してまで生き残ったあの島が、これまで通り王家と貴族、及びイェーガー派率いる軍事政権に支配されることを、彼女は本当に望むのだろうか。巨人の力が失われた今、王家の血にも、貴族にも特別な価値はない。血統による支配の時代は、確実に終わりを告げようとしていた。

 

 ヒストリアはこれから、エレンの共犯となった責任を――彼女なりに考えなければならない。

 圧倒的な力により国を守ったことへの責任。それは武力の放棄に繋がるのか、それとも増強を目指すのか。

 

 傀儡の女王でいる時代は終わった。彼女の戦いは、これからが本番だ。

 

「私たちにできることは、ヒストリアがどんな道を選んだとしても、対話を続けること」

「……そうだな」

 

 もしかしたら、いつか道を違えることがあるかもしれない。それでも自分は、彼女を信じている――リディアは心の中で呟いた。

 

 

 重い話題が一段落すると、二人の間に再び静寂が訪れた。

 ライナーの横顔を見ていると、さっきの想像が本当に申し訳なくなる。

 でも、どうしてもこの胸の内を明かしてしまいたくなる衝動があるのも事実だった。我慢しよう。こんな仮定を話したところでライナーを傷つけるだけで――

 

 そんなリディアの葛藤をよそに、重い空気を和らげようとするかのように、ライナーが少し笑いながら話し出した。

 

「訓練兵の頃の二人を思い出すな」

「私とヒストリア?」

「ああ。お前とヒストリアが並んでる時は、いつも眩しかった」

「は?」

 

 リディアの困惑をよそに、ライナーは懐かしそうに続けた。

 

「二人で話したり歩いたりしてる姿が、すごくこう……尊いというか」

 

 リディアは作業の手を止めた。

 何言ってんだこいつ?

 

「少しだけ間に挟まりたいとか、当時ちょっと思ってた」

 

(マジで何を言ってんの? え、この空気で?)

 

 ライナーはにやりと笑って、どこか「良いことを言った」とでも言いたげな表情を浮かべている。

 

 リディアの心中で警告信号が鳴り響く。

 いかん。ちょっと殴りたくなってきた。

 いや、さっきやりかけたし、理不尽な暴力は何も生まない。だから我慢、我慢……

 

 しかし、ライナーの発言は止まらなかった。

 

「ほらその、癒されるだろ? きっといい匂いとかするんだろうなって」

 

 まだ続けるか。

 リディアの忍耐は限界に達していた。

 ふと、昔サシャが言っていた言葉を思い出す。相手の不意をつくなら――

 

「ちょっといい?」

「ん、どうした」

 

 ――肘でいけ、と。

 

「……ちょっ……二回目って……!」

 

 今度は見事に当たってしまった。ライナーが顔を抑える。

 

「……な、何か……悪いこと、言ったか……?」

「いや、その……こっちこそごめん。なんか気持ち悪かったから……」

「き、気持ち悪い……?」

 

 ライナーの声には、明らかに傷ついた響きがあった。リディアの声は冷静だったが、その頬は微かに紅潮していた。

 

 

 

 

 そんな二人の様子を、遠くから仲間達が眺めていた。

 

「喧嘩してるみたいだけど」

 

 ピークが問い、ジャンが答える。

 

「ほっとけ。そのうち丸くおさまるだろうからな。いろんな意味で……どっちも、意外と単純だからな」




ライナーがクリスタをマーレに連れ帰っていたら、何やかんや言い訳しつつ絶対に手を出してたよな?ユミルが何言ったところで絶対やるよな?なんせ「結婚したい」もんな?
…と思ってるんですが、ライナーを愛する女主人公の二次創作でこんな話を書いて良かったのだろうか。
自分なりに色々と解釈して書いた話ではありますが、クリスタへの感情を一切なかったことにして主人公だけが特別!みたいなライナーは解釈違いだということもあり、やってしまいました。正直もっと深掘りしたかった。
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