サラザール・スリザリン:純血主義の起源と思想   作:かかもばな

8 / 10
2-4.ホグワーツ創設まで

 マーリンが「魔法技術革命」の基礎を築いたとするならば、それを教育という形で広め、「魔法技術革命」を加速させる起爆剤となったのは、「ホグワーツ魔法魔術学校(以下、ホグワーツ)」とその創設者たちであったと断言することができるだろう。マーリンの教育は確かに革新的であったが、それは依然として限られた一部の者にしか伝えられていなかった。

 魔法の技術的な革新が進む中で、次世代にその知識をどのように伝え、社会全体に広めるかという課題が残されていた。それが解決されたのは、マーリンの魔法技術を受け継ぐべく設立されたホグワーツによってであった。

 

 ホグワーツの創設は、魔法技術の普及と発展における決定的な転機を意味していた。それまで魔法技術は一部の特権的な家系や師弟間で伝承されるのみであったのは前節でも述べたとおりである。ホグワーツはそれを体系的に学ぶ場として開かれ、魔法の知識を広く社会に提供することとなった。学校の創設者たちは、魔法を学ぶことが単なる技術の習得にとどまらず、魔法の使い手としての倫理や理論、さらにはその社会的な役割についても深く考えるべきだという考えを持ち、これを教育課程に組み込んだ。

 

 しかしながら、設立までの道のりはそう簡単なものではなかったと考えられる。前節で触れた「ヘルガ孤児院」での創設者たちのエピソードを考慮すれば、ヘルガ・ハッフルパフが20代後半頃にその活動を始めたことがわかっており、ホグワーツの創設が彼女が60代に差し掛かった頃の出来事であることを踏まえると、サラザールの提案から少なくとも30年以上の年月が経過していることがうかがえる。このように、ホグワーツの設立までには長い時間がかかり、創設者たちの間での協議と妥協が繰り返されたことは疑いようがない。ホグワーツに現存する創設者たちの開校当時とされる肖像画においてもサラザールは髪の生え際が後退した年老いた姿になっている。

 

 ホグワーツの創設に年月を要した理由は、単なる建設作業にとどまらず、魔法教育の普及という新しい課題に直面していたからである。まず、魔法研究を体系化することが必要であった。既存の魔法の知識を整理し、教育に適した形でまとめる作業は時間を要し、創設者たちはそれぞれの得意分野を活かしながら教科書や指導方法の開発に取り組んでいたと考えられる。

 

 次に、体系的で分かりやすい教科書の作成が不可欠であり、これも時間がかかった重要な要素だった。魔法教育を受けるための基本的な資料が整備されなければ、教育は成立しなかったであろう。

 

 また、校舎の建設も時間を要した。ホグワーツの校舎は、単なる物理的な建物だけでなく、魔法的な技術が必要な作業であったため、魔法界特有の課題もあった。さらに、校舎の完成には段階的な拡張が伴い、創設者たちが慎重に進めていったことも一因であった。

 

 さらに、最も大きな障害となったのは魔法族全体の抵抗感であった。魔法教育を広く普及させるという新しい概念には、反発する者たちも多かった。特に抵抗感を示したのは、学校というマグルの真似事のような事してまで、魔法の継承の伝統を変化させる必要があるのかという極めて保守的な考えであった。この交渉の過程は極めて複雑であり、創設者たちはただ単に理論や理念を説くだけではなく、実際に成果を示し、魔法教育の有効性を証明しなければならなかった。従来、魔法は師弟関係や血族内で密かに受け継がれるものであり、それを「学校」という形式に集約し、誰もが平等に学べる環境を整えるという試みは、伝統を重んじる魔法族の価値観を根底から揺るがすものだった。特に「マグルの模倣」という批判は根深く、魔法族の中には、魔法文化の純粋性が損なわれることを強く懸念する声もあったとされる。

 

 この交渉の最前線に立ったのは、サラザールであった。彼は、持ち前の理知と冷静な分析力を武器に、反対派の懸念や疑念に一つひとつ応え、時に強硬に、時に柔軟に対応したという記録が残っている。それ以上に「魔法界の未来」を見据えており、変革の必要性を誰よりも深く理解していた。そのため、最も強い批判にさらされながらも、彼は理念を貫き通し、結果としてホグワーツの設立を実現へと導いたのである。

 

 なぜサラザールがその役割を担ったのか。その理由の一つは、彼が「霧の子ら」の一族という古い伝統を持つ家系に連なっていたことにある。保守的な魔法族社会においては、血統と家柄が説得力の源泉であり、彼の出自はそれ自体が交渉の武器となった。また、サラザールはゴドリック・グリフィンドール以外とは決して激高することなく、常に冷静沈着であったとされ、その性格もまた交渉の場において高く評価されていた。保守的な魔法族たちは、孤児出身のヘルガ・ハッフルパフには耳を傾けることが少なかったとされるし、ゴドリック・グリフィンドールはその血気盛んな性格が災いし、またロウェナ・レイブンクローも学者肌で理論優先の姿勢が敵を作りやすかった。そうした中で、伝統と理性を兼ね備えたサラザールが、自然と交渉の中核を担うこととなったのである。

 

こうして彼が中心となって推し進めた交渉と努力は、単なる学校の設立にとどまらず、魔法界そのものを変革する礎を築くものだった。ホグワーツの創設を「魔法技術革命」を加速させる起爆剤と表現した通り、ホグワーツの卒業生たちは、まさに魔法界における「ルネサンス」とも呼ぶべき時代を切り開く原動力として活躍していったのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。