ロクでなし魔術講師と第9番目の芸術   作:aioi

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はじめてですがよろしく
誤字脱字修正(2025.05.04)


アルザーノ学院編
1.想像以上のロクでなし


 面倒だ。

 

 それが第一印象だった。

 アルザーノ帝国魔術学院東校舎二階の最奥、魔術学士2年次生2組の教室の窓際で最後列の席。

 白髪ショートカット、黒目で、街中にどこにでもいそうな平凡少女――ノアルテ・ミネラーノ、通称ノアは、座席が高いせいか地面にわずかにしか届かない足をぶらぶらと動かしながら頬杖をし、教卓付近で騒いでいる二人――システィーナと赴任初日に遅刻してきた非常勤講師を見ていた。

 前担任講師だったヒューイの代わりに来た、非常勤の講師。セリカ・アルフォネアが優秀だと言っていたはずだが。

 その非常勤講師の方は、なぜかずぶ濡れで擦り傷、痣などでところどころ汚れている。正直、もういい予感がしない。

 

「ていうか、貴方、なんでこんなに派手に遅刻してるの!?あの状況からどうやったら遅刻できるっていうの!?」

「そんなの……遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、時間にはまだ余裕があることがわかってホッとして、ちょっと公園で休んでいたら本格的な居眠りになったからに決まってるだろう?」

「なんか想像以上にダメな理由だった!?」

 

 それはシスティーナに心底同意する。そもそも朝から公園でいねむりをするとは?家か公園かで寝る場所を変えただけなのでは?

 周囲の反応も同様、目の前の異彩を放つダメ講師にざわめき立つ。だが、ダメ講師はそれを華麗にスルーすると教卓に立ち、黒板にチョークで名前を書いた。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約1か月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせていただくつもりです。短い間ですが、これから一生懸命頑張っていきま……」

「挨拶はいいから、早く授業を始めてくれませんか?」

 

 苛立ち交じりのシスティーナの声は冷たくとがっている。ノアとしてはギスギスした雰囲気は苦手なので正直これ以上システィーナを怒らせてほしくないのだが、ダメ講師――もといグレンはきっと気にしないのだろう。

 案の定、かしこまるどころか先ほどまでの取り繕った口調を投げ出し、めんどくさそうにチョークを持つと黒板に手を伸ばした。あくびを噛み殺しつつ。

 途端に緊張が走るクラスと一挙一足に注視するシスティーナを尻目に、この後の展開に何となく……。

 

(うーん、これは……)

 

なぜか黒板のど真ん中に、カッカッと軽快な音を立てながら迷いなくかたどられていく文字。

 

 

自習

 

 

先ほどとは別の意味で沈黙したクラス中。

 

「え?じしゅ……え?じしゅ……う?え?……え?」

 

小さくシスティーナの声が聞こえてくる。

 そのよく意味が解らないといったような声音を耳にしながら、ノアの目線は黒板から虚空に移され諦念に染まる。

 

(あー……そうきたかぁ)

 

 さすがにもう少し何かあるかなって思わなくもなくもなかったんだけどなぁ。一縷の望みにかけて、みたいな。

 もう一度ノアがグレンに目を向けると、今度は黒板に向けていた体をこちらに向け彼は堂々と宣言した。

 

「えー、本日の授業は自習にしまーす。……眠いから」

 

 さりげなく最悪な理由をぼそりと添えると、教卓に突っ伏し、10秒と立たずにいびきをかき始める。あっけにとられたようにポカーンとしている生徒たちと、プルプルと小刻みに震えているシスティーナをおいて。

そして数秒後。

 

「ちょおッと待てぇええええ――ッ!?」

 

 我慢の限界に達したのだろうシスティーナが分厚い教科書を振りかぶって、猛烈にグレンに突進していくのを見てため息をつきつつまた思う。

 

(面倒だなぁ)

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

ノアは人見知りである。

だが人といるのは嫌いではない。

 

 よってなるべく人と話す機会を減らそうという魂胆で来る者拒まず、去る者拒まずというスタンスをとっていた。しかし、そのせいで周りには人見知りというよりマイペースと思われており、気づけば基本単独行動をしているのだった。

 なので今日も今日とて一人で次の錬金術実験での服に着替えるために更衣室に向かっているのだが、思い出すのは先ほどの授業のことばかりだ。

 

 あの後システィーナによって無理やり再開されたグレンの初授業は言わずもがな散々だった。

 死んだような目でゾンビのように緩慢に動き、ミミズの走ったような黒板の文字に……等々、システィーナはもちろん他の生徒の反感を買ったのも無理はないだろう。殺伐とした教室の雰囲気に、これがあと1か月も続くのかと思うと頭が痛くなる。

 

「もう少し先生もちゃんとしてくれたらなぁ……ってあ」

 

 廊下を曲がった先、女子更衣室と男子更衣室の前に借り物用の実験用ローブを肩に担いだグレンが目に入る。相変わらずやる気ないオーラが出ているグレンは何やらぶつぶつと言いながら扉を、そう()()()()()の扉を開けようとしていた。

 更衣室からかすかに聞こえる女子たちの声に、グレンに対して人見知りを発動しているとはいえさすがにノアも焦り、急いでグレンに声を、

 

「待って、せんせ「あー、面倒臭ぇ!別に着替える必要なんかねーだろ、セリカの奴め……ん?」……あー」

 

声をかけようとしたんだけどな、と、中途半端に伸ばしていた手をゆっくり下ろす。

 バーン!と勢いよく全開になった扉に静まり返った女子たちが目に入ったのか硬直するグレンをみて目が遠くなると同時に心の中で祈る。今後のグレンの最低限の身の安全と、更衣室にいた女子たちの心の平穏のために。

 

「……あー」

 

固まっていたグレンが動きだした。部屋の中を見回し、面倒くさそうに頭をかきながら更衣室の外のプレートを見て、横で立ち尽くすノアをちらりと見て、また正面を向く。

 

「昔と違って、男子更衣室と女子更衣室の場所が入れ替わってたんだな……まったく余計なコトしやがる」

「そうなんだ……」

 

 意外とうっかりミスの範囲内(?)であるため、何やら更衣室内からすさまじい殺気が放たれているのに同情を禁じ得ない。

 グレンもその殺気を感じたのかうんざりとしたようにため息をついた。

 

「やーれやれ。これが最近帝都で流行りの青少年向け小説でよくあるラッキースケベ的な展開ってやつか?はは、まさか身をもって体験することになるとは思わなかったが」

 

 それよりも早く謝罪して扉を閉めた方がいいのではと思うのだが。

 女子からの殺気はどんどん増していくのに、なぜか堂々とラッキースケベに関しての持論をつらつらと述べているグレンにまたまたしても嫌な予感がして目が遠くなる。

 この人の心臓って、何でできてるんだろう。

 

「――だろ?どう考えても。だから、俺は――この光景を目に焼き付けるッ!」

 

 くわ、と目を見開き、腕を組み、必死の形相で目の前の光景を凝視するグレンに、当然女子たちは我慢の限界なわけで。

 

「「「「この――――ヘンタイ――――っ!」」」」

 

 細い腕がグレンの胸倉をつかみ中に引きずり込んだとともに、バタンと大きく殴りつけるように扉が閉められる。

 ノアは数秒立ち止まった後、そぉーっと更衣室の扉に手を伸ばした。

 そして、その隙間から見える景色と情けない叫び声に今度もまた大きくため息をつくのだった。

 

 

 




ノアルテ・ミネラーノ
・アルザーノ魔術学院2年2組、女生徒、人見知り
・容姿は白色の髪、黒色の目、ショートカット
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