ロクでなし魔術講師と第9番目の芸術   作:aioi

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5.魔術競技祭:午後の部

 

 午前の部が終わり、昼休憩時。

 ノアは一人、競技場外にある小さな林の中で、自分が出場する午後の部の競技『宝物争奪戦』に向けて準備をしていた。

 

 『宝物争奪戦』は競技用に生成される石板状のフィールドの上で、個々に配布される宝物(こぶしサイズの特殊な魔術が施された水晶)を守りながら、他クラスの宝物を奪う形式の乱闘が主な内容である。よって、魔術もそうだが個々の身体能力や判断力も勝負を左右することになる。

 

「ちゃんと動けるようにしないと……」

 

 ルミアが折角上げてくれた順位を落とすわけにはいかない。また、味方の士気も下げたくない。

 

 ノアは今まで練習として宝物に見立てていたガラス玉を鞄から取り出しながらルールをおさらいする。

 宝物を守る手段は問われていない。持ち歩いていても、どこかに隠しても、守り切ればいい。奪うときも同様で、致命傷にならない限り、どんな魔術を使っても構わない。

 宝物はクラスごとに色が違うので、宝物を奪った後に自分の魔力を注ぎ込んで自クラスの色に変われば奪取ができたことになる。

 

 また、

 ・他クラスの水晶を一つ以上奪わないと失格。

 ・気絶したり、降参したりなど戦闘不能状態になれば失格。

 ・フィールド外に出れば失格。

 ・自分の宝物(奪った宝物含む)が一つでも壊れてしまったら失格。ただし奪っていない相手の宝物は破壊可能。

 

 

 そして、この競技には最難関ともいえる”落とし穴”が存在する。

 ノアは、そのことを思い出し、気を引き締めて――

 

「精が出るね」

 

 突然背後から聞こえてきたその声に、ノアは勢いよく振り向いた。

 そこにいたのはノアと同じ年ぐらいの細身の少年だった。身長は160後半あるかないかぐらい。深く被ったオーバーサイズの黒く短いローブを身に着けていて、その深く被っているフードの端から覗く口元には一見、優しそうな笑みを浮かべているが――

 

(なんでここに人がいるの……?)

 

 少年の笑みにノアの背筋に冷たいものが走る。 

 先程も言ったようにノアは次の競技の準備をしていた。他クラスの選手より魔術の知識も能力も劣るだろうノアにとって、自分の戦術や魔術の情報を人目にさらすことは悪手だ。なので、一人、競技場外にあるこんな小さな林の中で、準備していたのだ。それでも用心に用心を重ね、ノアはここに来るなり、来客を知らせる蝶を四方にあらかじめ飛ばしていた。もし、誰かがこちらに近づいてくるならば、すぐに察知できるはずだった。それなのに――蝶が反応しなかった?

 

「あなたは誰、ここに何をしに来たの?」

 

 腰を少し落としてすぐに動けるよう警戒するノアに、少年は悲しいといった様子で肩をすくめる。

 

「ひどいなぁ、そんなに警戒しなくてもいいのに。俺は怪しいものでもないよ?」

「……」

「ああ、待ってよっ!もう、わかったって。ちゃんと話すから」

 

 だからその左手下ろしてよ。

 両手を上げて降参といった様子の少年をノアはしっかりと観察する。しばらくしてこれ以上動く様子がない少年に、すぐには害がないだろうと判断すると掲げていた左手をゆっくり下す。しかし、依然として鋭い視線を向けて警戒するノアに、少年は「仕方ないなぁ」と首を振ると深く被っていたフードを外しその素顔をあらわにした。

 

 木々の隙間からこぼれる光をすべて吸収したような闇色の肩まである髪は右下で一つにくくっている。また銀色の瞳は、驚くほど昏く、その口元と同じように享楽の色をのぞかせていた。

 

「うん、ありがとう。俺のことは、そうだな……ニヒルとでも呼んでくれ」

 

 ニコリと笑い手を差し出す少年――ニヒルに構わず、ノアは顔をしかめる。

 

「ニヒル……虚無(nihil)。何物もなくむなしいこと、またはこの世に存在するすべてのものに価値や意味を認めないこと」

「おお!ノアルテは物知りだね」

 

 彼はまた手を叩き、愉し気に唇の端を吊り上げた。

 

「……あなたは、一体何がしたいの?僕は今、忙しい。あなたに構ってる暇はない」

 

 明らかな偽名を名乗り、名乗っていないノアの名前を知っている。何をどこまで知っているのわからないが、ノアの警戒を解く気は全くないことだけはわかる。ノアは差し出されている手は取らず、じっとニヒルの目を見つめる。

 そんなノアに気分を害するどころか、より楽しそうな顔をしてすっと手を下ろした。

 

「ごめんごめん、用事はあるよ。ただ、今は……確かに間が悪いね」

「どういうこと?」

「それはね――」

 

 ニヒルは身をかがめ、唇をノアの耳元に寄せると、まるで戯れを楽しむような、甘く湿った声でそっと囁いた。

 

「ルミア=ティンジェルと、彼女に加担したグレン=レーダスの両名がね。今、女王陛下殺害容疑で、指名手配中なんだよ」

「……え?」

 

 ドクン、とノアの心臓が嫌な音を立てた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 今年初めて開催される競技『宝物争奪戦』が始まる。

 観客が新競技に期待と興味を寄せる中、システィーナは内心、心配していることがあった。

 

 落ち込んでいたルミアをグレンに追わせた後、競技祭午後の部が始まってからしばらくして戻ってきたのが、元グレンの同僚だというアルベルトという青年とリィエルという少女だったこと。

 システィーナの手を握って「信じて」というリィエルに、()()()()()が浮かび、グレンに変わって午後の指揮を執るというアルベルトに承諾を伝え、弱気になっていたクラスメイト達を焚きつけたのはよかった。

 そして、その後のリンが出場する『変身』も『使い魔操作』、『探査&解析』の結果が良かったことでクラスメイト達はすっかり午前のような士気をとりもどしていた。

 

 ただ、1人を除いて。

 

 システィーナは競技の準備のために競技場に作られた石板状のフィールド横に立っている白髪の少女に目を向けた。他の生徒達は準備運動をしている中、彼女だけただ俯いて立っているだけだった。

 瞑想しているとは言い難く、何処か堪えるように手を握りしめていて、何故か先程から目が離せなく胸の奥がざわつく。今のノアはまるで、大切なものをなくして途方に暮れる迷子みたいで――。

 

「おい、あいつ何かあったのか?」

「アルベルトさん……」

 

 ノアを見送りに下の選手入場口へ行っていたアルベルトが観客席に戻ってきた。だが、その顔は難しい顔をしている。

 

「それが、わからなくて……。昼休憩に入った時は準備してくるって、普通だったのに。戻ってきた時もいつもと同じようにみんなと話してたし……」

「ふむ……」

「敢えて言うなら、午後の部が始まる時間ぎりぎりに戻ってきたことだけど……。あの子、時間には正確だから。いつもならもっと余裕をもって戻ってくるのに」

「昼休憩の時に何かあったか……」

 

 もう一度システィーナはノアを見る。だがやはり午前の時とは違って余裕がなさそうだった。クラスメイト達はそれを緊張しているからだと思っているのか、何も気にしていないようで、変わらず激励を飛ばしている。

 

(ノア……)

『えーそれではッ!今年度の新競技『宝物争奪戦』を始めたいと思いますッ!!』

 

 心配するシスティーナをよそに実況が午後の部の開幕を宣言すると、観客席からは割れんばかりの拍手と声援が鳴り響く。その音に、選手たちも競技用フィールドの上に上がる。

 

『では、まずはこの競技について少し説明しましょう!

『宝物争奪戦』は宝物である各クラスごとに色が違う水晶玉を奪い合う乱闘形式の競技になります!さらに、宝物には持ち点があり、自クラスの宝物は1点、他クラスの宝物は5点!

宝物を奪った後に自分の魔力を注ぎ込んで自クラスの色に変え、水晶の中の点数が変わることで宝物奪取成功!気絶したり、降参したりなど戦闘不能状態になれば失格!

フィールド外に出れば失格!所持している宝物がすべてなくなったら失格!自分の宝物や、奪った宝物が壊れてしまったら失格、ただし奪っていない相手の宝物は破壊可能です!

また、自分の宝物の姿を変えることはNG!そしてこの競技の勝利条件は持ち点が6点以上であることがです!』

 

 実況の声と共に選手に水晶が配られていく。水晶の中には持ち点の数字が浮かんでおり、一組は黄色、二組は黒色、三組は赤色、四組は青色、五組は緑色、七組は白色、八組は紫色、九組は橙色、十組は灰色と配色されている。奪ったら中の数字も変わるのだろう。

 競技が始まればどうすることもできないのでノアの変化は一度、頭の片隅に置き、代わりに実況が説明したルールに考え込むようにシスティーナは呟く。

 

「これって……」

「ああ」

 

 システィーナの言葉にアルベルトは頷いた。

 

「この競技ルールでは、相手の宝物をできるだけ奪って自クラスの宝物にして持ち点を稼ぐよりも、相手のクラスの宝物を一つだけ確保して、後は相手の宝物を破壊したり、他選手を脱落させたりした方が簡単だ」

「これならただの乱闘と変わらないんじゃ……」

「そうだな。だがこれはまだ序の口だ」

「?」

 

 疑問を遮るように試合開始のベルが鳴り、システィーナはアルベルトに向けていた目線を競技フィールドの方に戻す。しかし想定していた乱闘はすぐに始まらず、各選手が所持している宝物を握って何か集中しているのが見えた。

 どうなってるのかとどよめく観客たちの中で、パリンとガラスが割れる音が競技場に響き渡った。

 

『おおーっとッ!?開始早々、九組選手の宝物が割れたぁ――ッ!?九組、ここで脱落――ッ!!』

「どういうこと……?」

「あの宝物はただの水晶玉ではない。条件付きの魔術道具であり、これが本当の難関だ」

「条件……?」

 

 戸惑うシスティーナの質問に答えたのは実況だった。

 

『実はこの水晶、ただの水晶ではありません!この水晶は一定時間に一度魔力を注がないと壊れる仕組みになっているのです!また、魔力を注ぐ際も繊細な魔力操作が必要であり、少しでも乱れると水晶が壊れてしまい失格になります!』

「なるほど。だからこの競技はノアだったのね」

「ああ、この条件のせいで満足に魔術を使うことはできないだろう他クラスのパフォーマンスも落ちる。そしてそれはノアも同じだが、自身で魔晶石をいくつも作っていたこともあってこの条件に対する難易度が下がり、乱闘になってもいくらか余裕をもって戦える」

「「《雷精の紫電よ》」」

「始まったな」

 

 フィールド上では水晶への魔力供給を終えたのだろう、一組選手クライスとノアが同時に【ショック・ボルト】を詠唱する。その紫電はそれぞれ、いまだ水晶へ魔力供給を行っている生徒達へと向かった。

 

『三組選手、十組選手ともに行動不能――ッ!そこへ、魔力供給が終わった四組選手、七組選手が宝物奪取に向かう――ッ!?漁夫の利狙いかぁああああ――ッ!?」

「「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》!!」」

「させない。《白き冬の嵐よ》」

『おぉっとッ!?二組ノアルテ選手、【ホワイト・アウト】の衝撃で体重を軽くして機動をあげていた四組選手、七組選手をフィールドから吹き飛ばしたぁあああ――ッ!!四組、七組選手脱落――ッ!!ノアルテ選手、三組選手、十組選手の宝物を手にした――ッ!!』

「「「「《雷精の紫電よ》!」」」」

「ッ!!」

 

 回収した三組、十組の宝物を手にして魔力を注ごうとしたノアに向かって四本の【ショック・ボルト】が放たれ、ノアは急いでその場を離れた。そして、息をつく暇もなく次々に呪文の詠唱が聞こえてくる。

 

『一組クライス選手と共に、いつの間に動き出したのか五組、六組、八組選手が示し合わせたかのようにノアルテ選手へ攻撃を開始したぁああああ――ッ!?辛うじて避けているノアルテ選手ッ!!いつまでもつのかぁああああ――ッ!?』

「ちょっと!!」

 

 フィールド上でノアに集中攻撃を浴びせている他選手にシスティーナは思わず抗議の声を上げた。二組のクラスメイト達もリィエルも不安そうな顔でノアを見守っている。

 

「卑怯よっ!!一人に対して複数で来るなんて!!」

「……乱闘、だからな。こんな展開も考えられなくもない。それだけ、このクラスを警戒しているという証拠でもある」

「でもっ!!」

「安心しろ。この展開を予想しなかったわけではない。対策は考えてある」

 

 苦々しく、それでも冷静に分析するアルベルトに、それでも胸が痛むのを抑えきれずシスティーナは声を荒げる。しかし、アルベルトは組んでいた腕を解くとノアの方、正確にはノアの手元を指差して言った。その指の先には、きらきらと光る板のようなものがあった。

 

「あれは……水?」

『ノアルテ選手に降り注ぐ呪文の嵐ッ!!しかし、軽やかに避けるノアルテ選手!!あたるどころか、掠りもしない――ッ!?後ろに目でもついているのかぁああああ――ッ!?』

「くそッ!なんで当たらないんだッ!!」

「お前、手を抜いてるんじゃないか!?」

 

 肩で息を切らしながら、険悪なムードになり始めたクライス達にシスティーナ達は首を傾げた。

 

「どういうこと……?」

「『水鏡』だ。それを第三の目とすることで他選手の位置を把握して呪文の軌道を読んでいる」

 

 ひらりと最小限の動きで呪文を避けてフィールドを駆けるノアから目をそらさず、アルベルトは端的にからくりを説明した。その答えに眉をひそめたギイブルが質問する。

 

「『水鏡』は水面が鏡の様に周囲を映し出す現象で、基本的には水平に広がった水面、例えば地面や容器にたまった水に起きるものです。なのに、どうやって空中に『水鏡』を作ったんですか?」

「正確には、”重力によって水平に広がった水面”だ」

「っ!!ということは……」

「ノアが四組、七組選手をフィールドから出すのに使った呪文を覚えているか?」

「ええ、【ホワイト・アウト】ですよね?」

「ああ。その呪文のおかげで、数瞬だけだが出現させた氷が空気の温度によって液体に、つまり水となった。その瞬間を逃さず水滴を触り【グラビティ・コントロール】で集めることによって”重力によって水平に広がった水面”を作り出した」

「そんなことが……」

 

こうして、自分の前、左右は目視で視認し、後ろは鏡によって見ることができるので、ノアには呪文が当たらず、ずっと逃げられているのだ。

 

「でも、水なら魔術で出せばいいんじゃ……」

 

 そんな大変なことしなくても、というカッシュの言葉にアルベルトはすぐに首を横に振った。

 

「そんなことをしたら他選手を飛ばすのに一回、水を出すのに一回、重力操作で一回と唱える呪文が三つになる。それでは時間も魔力も無駄に消費してしまう。その点、この方法なら呪文が二つだけでいい」

 

 クラスメイト達は計算された尽くしたノアの行動に唖然とするしかない。

 システィーナも目を見開きながら、疑問を口にする。

 

「でも、どうやってずっと『水鏡』を?【グラビティ・コントロール】をこんなに長く使っていると魔力が……」

「あの水晶は定期的に魔力供給が必要だといった。イメージで言えば砂時計を思い浮かべてみればいい。あれの様に時間経過で魔力が外に漏れているのだろう。その漏れている分が外に流れてしまう直前に自分の体内に補充し、また補充した分だけ水晶に供給する。そうすれば魔力は呪文を新たに使う以外に減ることはなく、水晶と体内を循環することになって、結果、水晶の魔力供給時間もなくせる」

 

 理論上は可能だろうが、本当に逃げ回りながらそんな芸当ができるのか。

 もはや何も言えないシスティーナの耳に実況の興奮した声が届く。

 

『ノアルテ選手の華麗な回避に、他選手たちは大苦戦だぁああああ――ッ!ん?五組、六組、八組選手はここで水晶の魔力供給にッ!?』

「!《大いなる風よ》」

『ノアルテ選手、これを待っていたかのように反撃を開始――ッ!!五組、六組、八組選手大きく吹き飛ばされ場外失格――ッ!!凄い、凄いぞッ、ノアルテ選手!!とうとう一組クライス選手と一騎打ちだぁああああ――ッ!!』

「くそッ!!」

 

 五組、六組、八組選手が魔力供給をする前に、魔力供給を終わらせていたクライスは悔しそうに悪態をついてノアを睨みつける。対するノアは流石に息が切れているがまだ余裕がありそうだった。

 

「さっさと脱落すればよかったものを……ッ!!」

「それはこっちのセリフなんだけど。あなたも、降参したら?この後、決闘戦も控えてるんでしょ?少しでも、温存したほうがいいんじゃない?」

 

 格下の私に負ける前に、と言外に含まれた挑発に頭に血が上っていたクライスは簡単に乗る。自分の宝物を右手に抱えながら、左手をノアの方にかざした。そして呪文を唱えようとして口を開けたが――、

 

「は……?」

 

 その口からは呪文ではなく、意表を突いたような声が漏れ出た。クライスの目に映ったのは、クライスの左手から放たれる魔術を避けるためか駆けだしたノアと、そんなノアによって空中に放り投げられた水晶だった。

 その水晶はどう見てもノアのクラスの黒色をしている。初めに三組や十組から奪っていたものだろう。陽動のつもりなのか。どちらにせよ幸運だった。クライスは瞬間ノアにかざしていた左手の照準を、その黒い水晶に合わせる。

 

「ははっ、馬鹿だな!!《雷精の紫電よ》!」

 

 ”奪った宝物が壊れてしまったら失格”のルールを忘れたのか、と笑いがこぼれる。

 寸分違わず射抜かれた水晶は、パリンと呆気なく割れ、破片が空中で輝いた。クライスは勝ち誇った笑みでその破片を見て、そして――

 

「なっ!?」

 

 驚愕で自分の右手から響いた、パリンと呆気なく割れる音も耳に入らなかった。クライスの目に映った宙の破片は、()()だった。バッ、と勢いよくノアの方を見ると、ノアは涼しそうな顔で二つの黒い水晶を抱えていた。

 

「気づいた?」

 

 それを見てクライスは、自分が大きな勘違いをしてしまったことに気付く。

 

『な、なんとっ!?クライス選手が撃った水晶は灰色、二組の黒色ではないぞぉおおお――ッ!?』

「あれは罠だな」

 

 ノアが宙に投げた驚きで思わず前のめりになっていたシスティーナが、宙で水晶が自クラスの黒色から十組の灰色に変わるのを見て唖然としている横で、アルベルトが小さく口角を上げた。

 

 ノアは先ほど水晶を宙に放り投げたが、それは【イリュージョン・イメージ】によってノアのクラスの黒色に見た目を変えた、灰色の十組の水晶だった。

 つまり、クライスはノアのクラスの水晶に擬態した他クラスの水晶を撃ち、それと同時にノアがクライスの水晶を撃ったのだ。そして、”奪う前の宝物の色を変えてはいけない”というルールは存在しない。

 

「くそっ!!」

 

 ノアの策にまんまと嵌まってしまったことに悔しそうに膝をつくクライスの頭上で、実況が盛大に優勝者を宣言する。

 

『決まったぁああああ――ッ!!二組、ノアルテ選手――ッ!!巧みな戦略で見事、新競技『宝物争奪戦』を制したぁああああ――ッ!!』

 

 途端に上がる歓声の中、ノアはほっと胸を撫でおろす。

 そして、二組の観客席の方へ振り返ると、聞こえてくる祝福の声と、嬉しそうなみんなの姿に笑顔を見せて小さく手を振り返したのだった。

 

 

 

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