ロクでなし魔術講師と第9番目の芸術   作:aioi

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3.魔術師の戦場とは

 グレンがレオスに喧嘩を売った、次の日。

 グレンとレオスが、とある女子生徒の伴侶の座を賭けて決闘するという噂は、当然瞬く間に広がっていた。

 

「逆玉の輿……?」

 

 授業の合間の休み時間。

 ノアは学院中から聞こえてくる、なんとも気の抜ける単語にノアは首を傾げて、横にいたルミアにひそひそと問いかける。

 

 そんな様子にルミアは苦笑いを浮かべた。

 

「あはは……。先生が昨日、レオス先生に決闘を申し込んだんだけど、その時にシスティに話した理由がそれで……」

「なるほど……」

 

 そこで会話を聞いていたリィエルがいつもの無表情で、

 

「グレンがシスティーナと恋愛のABC?をしたって」

「え!?」

「ま、待ってリィエル……!」

 

 驚愕で固まるノアと慌てるルミア。

 

 ルミアはさっとリィエルの口に手を当てると周りを見渡す。

 しばらくして、誰も聞いていた人がいないと気付くと安堵の息を吐いた。

 

「リィエル、それはあまり言わない方がいいかも……。ノアも誤解だから…あ、あはは」

「……?わかった」

「う、うん」

 

 誤解にしては何か含みのある笑いだったように見えるけど、あまり詮索しない方がいいのだろう。

 ノアは大人しくルミアのいう事を聞くことにした。

 

「それにしても、決闘方法はどうなるんだろう……」

「う~ん……。やっぱり、心配だよね……」

 

 ノアとルミア、リィエルは教室のドアの方に目を向ける。

 

 そこには、噂の渦中にいるグレンとシスティーナ、そしてグレンを尋ねに来たレオスがいた。

 おそらく、レオスが決闘方法について話に来たのだろうと、ノア達は彼らの動向をじっと見守る。

 

「……魔導戦術演習?」

 

 レオスが提示した決闘方式に、グレンが眉をひそめる。

 

「ええ。今、私が臨時で受け持っているクラスと、貴方の担当のクラスで今度、魔導戦術演習の合同授業があるでしょう?それで決着をつけましょう」

「つまり、魔術講師……指導者としての手腕で勝負する……ってことか?」

「……まぁ、平たく言えばそうなりますね。私と貴方、どちらがシスティーナに相応しいか決めるには最適な方法でしょう?」

 

 魔導戦術演習とは、読んで字の如く魔導戦術論の演習授業だ。

 

 生徒同士で一対一の模擬魔術戦を行わせたり、ゴーレムを相手に魔術で戦わせたりと、戦闘能力的な意味においての、魔術師の実技向上を図る授業である。

 

 だが、そこでグレン達のやり取りを聞いていたシスティーナが慌てて間に入った。

 

「ま、待ってよ、レオス!それは不公平よ!だって今度の演習は――魔導兵団戦、貴方の専門分野じゃない!」

 

 その指摘に、レオスが薄く微笑む。

 

 軍用魔術の研究は、何も高い殺傷能力を持つ戦争用の呪文を開発・改良するだけではない。呪文の運用法や魔導兵の戦術・戦略に関する研究も含まれている。

 

 つまり、常日頃からそれを専門に研究しているレオスに、圧倒的に有利な勝負条件と言えた。

 だが――。

 

「いいぜ、受けてやるさ」

「せ、先生……」

 

 余裕の表情のレオスを前にして即答するグレンに、システィーナは戸惑いを隠せない。

 

「ふふ、なかなか剛毅なお方ですね。てっきり、ごねるかと思いましたが」

「はっ、お前の土壌でお前をボコってやらねーと、どーせ俺が勝っても、お前は諦めねーだろ?」

「……精々、後悔しないでくださいね?」

 

 強気なグレンに、少し不愉快な表情をにじませたレオスは、踵を返していく。

 それとともに、はらはらと成り行きを見守っていた生徒達も安堵の息を吐く。

 

 そんな中でノアは、リィエルの背後に隠れながらじっとレオスの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 ――で。

 そんなこんなで、グレンが担当する二組にて。

 

「俺が見事、白猫とくっついて逆玉の輿、夢の無職引きこもり生活をゲットするために――今からお前らに魔導兵団戦の特別授業を行う!」

「「「「ふっざけんなぁああああああああああああああ――ッ!?」」」」

 

 教壇に立つや否や、堂々と授業内容の変更を宣言したグレンに、当然クラス中が怒声を上げる。

 

「俺達を巻き込まないでくださいよ!?」

「そうだそうだ!ちゃんと授業しろ――ッ!」

 

 教科書でもグレンに投げる勢いで、文句を言う生徒達。

 だが、それも当然のことだ。

 

 本来ならば、これから始まるのは黒魔術の授業なのだから。

 

「ええい、うっさい!各必修授業の侵攻は担当講師の裁量に任されてるんだぞ!?」

「う……」

 

 だが、それを簡単に一蹴してしまうのがグレンである。

 こんな時だけ、講師としての正論にグレンに生徒達はぐうの根も出ない。

 

「いやぁ、俺も本当はお前らを巻き込むようなことはしたくねーんだけど……そういえば、ちょうど黒魔術の授業はちょおっと進んでて、魔導戦術論の授業はちょおっと遅れているなぁ……ここは仕方なく、予定を変更するしかないなぁ……あくまで、仕 方 な く」

「さすが先生……普通の講師は絶対しないことを平然とやってのける……」

「そこに痺れないし、憧れない……」

「なんかもう、必死過ぎる……そんなに逆玉の輿がいいんすか……?」

 

 最早、生徒達は呆れ果て、諦めたような顔をしている。

 システィーナに至っては、顔を怒りで真っ赤に染めてぶるぶると震えていた。

 

 ただ、グレンのいう事にも一理あるので強く言えないみたいだが。

 

「てなわけで、授業するが……おい、そこの公共物破壊姉妹、起きろ!」

 

 グレンが指差したのは、システィーナとルミアを挟むように座っているノアとリィエル。

 いつの間にか二人は、教室の喧騒もなんのそので、穏やかに寝息を立てていた。

 

 グレンは教卓からばっと飛び降りると、ルミアの横にいるリィエルとシスティーナの横にいるノアを叩き起こしにかかる。

 

「う……」

「なに……」

「よし、起きたな」

 

 肩をグラグラゆすって、やっと起きた二人にグレンは満足げに頷き、また教卓へ戻った。

 その時。

 

「先生の決闘に興味などありませんが……どうせ無理ですよ」

 

 ざわめく教室内に冷ややかな言葉が響く。

 ギイブルだ。

 

「ほう……無理、とは?」

 

 グレンの問いにギイブルは冷笑を返しながら答える。

 

「だって、このクラスには戦力として使える魔術師が数えるほどしかいませんよね?この模擬戦で使用可能な呪文は決まっていますから、インチキ錬金術一辺倒のリィエルと、それに感化されたノアも戦力になりませんし」

 

 ギイブルの遠慮ない物言いに、クラス一同、むっとするがそれは事実だ。

 

 グレンの担当する二組はごく一部を除き、ほぼどんぐりの背比べ程度でしかない。

 

 対してレオスの担当クラスは成績優秀者が集まっており、ハーレイのクラスに次ぐとされているほど。

 さらに、この魔導兵団戦では魔術競技祭のように個々の得意分野で競えるものでなく、全員、同条件の下行われるのだ。

 

 ゆえに、そんなクラスと魔導兵団戦をやったところで勝負にならない……というのが、ギイブル含むクラス全員の共通見解だった。

 

 だが。

 

「なーに言ってんだ。現時点で、このクラスに使い物になる奴なんて一人もいねーよ。ぶっちゃけ、お前みてーな奴が一番使えん」

「な――」

 

 バッサリと断言するグレンに、ギイブルは口をパクパクさせた。

 

 システィーナに次ぐこのクラスの成績優秀者に対して、この評価。

 クラス中は騒然とし、謎の物言いをしたグレンに注目する。

 

「さて、さっそく魔導兵団戦……戦場における魔術師の戦い方、心得って奴を教えようと思うんだが……まず、初めに。お前らは多分、盛大に勘違いをしている」

 

 生徒達の視線の中、グレンが肩をすくめる。

 

「魔術師の戦場に――英雄はいない」

 

 そんな宣言から、グレンの特別授業は始まって。

 

 

 

 時間は飛ぶように流れ、とうとう決戦の日がやって来た。

 

 

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