ロクでなし魔術講師と第9番目の芸術   作:aioi

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5.グレンの奇策

 

 演習場、南西の拠点――環状列石遺跡の真ん中で。

 

 グレンは、魔導兵団戦の開始の狼煙が上がるや、生徒達をそれぞれの場所に進軍させると、待機組と共にレオスの動向を伺っていた。

 

 どうやらレオスは、グレンとは違い待機組を作らず、文字通り総戦力でこちらを迎え撃つみたいだった。

 正直、こちらとしてはその状況は有り難い。

 

(中央平原、東の丘はもう敵が到着したか……)

 

 この調子だと、森ルートの方にもすぐ敵影が見えてくるだろう。

 グレンは遠見の呪文で見えた光景に、一人嘆息する。

 

(東の丘はまあ何とかなる)

 

 東の丘に送った二人――リィエルはもちろん、最近のノアもこの学院の生徒では手に負えないだろう(いろいろな意味で)。

 正直オーバーパワーだし。もはや、敵が可哀そうになるレベルだし。

 

(ということで、だ)

 

 取り敢えず、目下の問題は中央だが……。

 グレンは、そこに男子のリーダー的な存在であるカッシュを先頭とした十二人を派遣した。

 

 対するレオスは十八人。

 人数で言えば、こちらの陣営が圧倒的に不利である。さらに、レオス陣営のクラスもハーレイクラスには劣るが、グレンのクラスよりも成績優秀者が多い。

 

 また、魔導戦が専門のレオスが指揮官だという状況がさらに生徒達の自信に拍車をかけている。その揺るぎない足取りが何よりの証拠だろう、必ず勝てると信じているのだ。

 

 しかし、

 

(あいつらが授業で教えた通りの動きができれば……)

 

 グレンは、戦況の様子を見つつ、一週間前に行った『魔導兵団戦の特別授業』に思いをはせた。

 

 

……

………………

 

 

「いいか?魔術を導入した戦術・戦法ってのは、魔術が導入される以前の兵法の常識が全く通じない」

 

 魔術の戦場において英雄はいない――そう宣言した後、グレンはそう続けていた。

 

「適当に火や雷の呪文を使うだけで馬は恐れおののき、騎兵は全く機能しなくなる。隊伍を組んでの弓兵、銃兵の一斉掃射もごく簡単な対抗呪文(カウンター・スペル)一つで防がれる。重装歩兵で密集陣形でも組めば、広範囲の破壊呪文であっけなく全滅だ」

 

 故に、魔術を使えない兵士は敵魔導兵掃討後の拠点鎮圧、兵站活動や後方支援くらいしか役割がない。

 万が一、敵の魔導兵に一般兵が立ち向かうという状況があるとしたら、それは所謂、捨て駒か敗北が確定した状況である。

 

 かつかつと、グレンは戦場図を黒板に描きながら、解説を続ける。

 

「てなわけで、俺が教えるのは近代戦争においてもっとも重要戦力兵種である『魔導兵』の戦い方だ」

 

 グレンはトントンと、黒板を軽く叩いた。

 

「魔術戦は基本的に『近距離戦』、『遠距離戦』の二つのレンジがあるが――今回の魔導兵団戦では『遠距離戦』については考えなくていい。お前らの中でそんな大それた呪文使えるやついねーからな」

 

 黒板に描かれた左に三つ、右に三つの凸印。

 左は凸印の間隔が大きく離れているが、右は密集している。

 

 そして、この凸印一つは魔導兵一人を差す。

 

「それに、あくまで『基本的に』だからな?レンジの話もそうだが、俺が今から話すことは状況や戦術に応じて例外はいくらでもあるってことを忘れんなよ?」

 

 そう前置きで釘を刺してから、今度は右に密集している三つの凸印を線でつなぎ、△を描く。

 

「さて、『近距離戦』の一戦術単位(ワンユニット)三人一組(スリーマンセル)が基本であり、攻撃前衛、防御前衛、支援後衛と三つのポジションがある。それぞれ役割が決まっており、攻撃前衛は攻性呪文(アサルト・スペル)による攻撃を担当し、防御前衛は対抗呪文(カウンター・スペル)による防御を担当し、支援後衛は状況に応じて、前衛二人の補佐をする。この三人一組(スリーマンセル)をより集め、部隊を構成する……これが現代の魔導兵戦術と部隊編成法のド基礎だ」

 

 一通り、ポジションと役割を黒板に記載したグレンが生徒を振り返る。

 

「この三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)の何が優れているかと言えば、簡単な話、単純に強い。敵撃破率も味方兵損耗室も、統計的にあらゆるスコアが優れている」

 

 例えば――三人一組(スリーマンセル)の魔導兵が三人の散兵と対峙した場合。

 敵味方同時に呪文を撃った瞬間があったとする。

 

 散兵側は同時に三つの攻性呪文(アサルト・スペル)を飛ばす。

 しかし、三人一組(スリーマンセル)側は攻性呪文攻性呪文(アサルト・スペル)と、対抗呪文(カウンター・スペル)を一つずつ飛ばし、被害はゼロ。

 

 一方、三人の散兵側は一人死亡。

 それもそうだ、散兵側は三人一組(スリーマンセル)側と違い、誰も対抗呪文(カウンター・スペル)を撃っていない。そして、対抗呪文(カウンター・スペル)なしに命を拾えるほど、現在の軍用魔術は甘くはない。

 

グレンは左に並ぶ凸印から右に引っ張って来た三本の→線に、×を書く。

また、逆に右に並ぶ凸印から←線引っ張って、左の凸印の一つに×をつける。

 

「そして、こいつ。三人一組(スリーマンセル)の支援後衛」

 

 グレンは右に固まっている三つの凸印の一つに〇を描く。

 

「こいつだけ、この時間で何も呪文を唱えていない。要は余ってるんだ。だから、コイツは状況次第で何でもできる。攻撃、防御、法医呪文(ヒーラー・スペル)補助呪文(サポート・スペル)……状況に応じて柔軟に、だ」

「……つまり、一人で攻撃・防御・支援の三つの役割をこなす魔導兵を三人用意するよりも、その三つの役割にそれぞれ専念する魔導兵で三人一組(スリーマンセル)を組ませた方が、同じ数の敵でも圧倒的に強く立ち回れる……そういうことですか?」

 

 グレンの説明に、ギイブルは苦々しい顔をして今までの説明をまとめる。

 その様子に、グレンは二ヤリと笑った。

 

「その通り。これは机上の空論じゃなく、統計的に証明された事実だ。……これを『魔導戦力の比較優位性』っていう」

 

 クラス中が納得したように頷く。

 グレンの言っていた魔術師の戦場に英雄はいない、という事がわかったから。

 

 この三人一組(スリーマンセル)は、いわば運命共同体。

 そして、単騎で一騎当千の活躍はあり得ないのだ。

 

「わかりましたよ……。我を捨てて三人一組(スリーマンセル)を組め、周りと足並みを揃えろって言うんですね?」

 

 若干ふて腐れたようにギイブルは言う。

 

 だが……

 

「……は?何言ってんの、お前」

 

 グレンはキョトンとした顔でギイブルを見る。

 

「お前らに三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)編成なんか無理に決まってんだろ。あれはプロが長期的に訓練してやっとできるようになるんだぞ」

 

 自分がたった一週間教えたくらいでできるはずがないと宣言するグレンに、クラス中はがくんと肩透かしを食らう。

 

「じゃ、じゃあどうしろって言うんですか!?」

 

 流石に苛立ったギイブルがグレンを睨みつける。

 すると、グレンは不敵な笑みを浮かべて、こう答えた。

 

「簡単な話さ。三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)が無理なら――」

 

 

……

………………

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

「《大いなる風よ》――ッ!」

「《白き冬の嵐よ》ッ!」

 

 中央の戦場にて。

 生徒達の呪文の叫びが木霊する。

 

 レオスのクラスの生徒達は、レオスの指導通り、三人一組(スリーマンセル)を組み、合計六戦術単位(ユニット)を構成。対峙するグレンの生徒達に攻勢をかけていた。

 

 まともに三人一組(スリーマンセル)で戦っては、合計四戦術単位(ユニット)しか構成できないグレン陣営が不利だ。

 

 しかし、

 

「《大気の壁よ》――ッ!」

「《大気の壁よ》――ッ!」

 

 レオス陣営の攻撃に対して、グレン陣営は尤も簡単な対抗呪文(カウンター・スペル)を唱え、防ぎ……

 

「今だ!」

「おうっ!《虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮》――ッ!」

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

「《大いなる風よ》――ッ!」 

 

 対抗呪文(カウンター・スペル)を唱えた生徒達の隣に控えていた生徒達が、カッシュを筆頭に次々と攻性呪文(アサルト・スペル)を唱えていき。

 それら紫電や突風は、何故かレオス陣営と同じくらいの頻度で飛んでいく。

 

「な――ッ!?く、くそ、《大気の壁よ》――ッ!」

 

 それはレオス陣営に衝撃を与えるのには十分だった。

 戦力差があったにもかかわらず、その場では戦況が拮抗していることに、レオス陣営は動揺を隠せていない。

 

「くそ!攻撃の手を休めるな!」 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 レオス陣営が再び攻性呪文(アサルト・スペル)を断続的に唱え――

 グレン陣営が再び対抗呪文(カウンター・スペル)で防ぎ――

 

「《大気の壁よ》――ッ!」

「《大気の壁よ》――ッ!」

 

 グレン陣営が再び攻性呪文(アサルト・スペル)を負けじと唱え――

 レオス陣営が再び対抗呪文(カウンター・スペル)で防ぐ――

 

 冷気、突風、紫電が激しい音を立てながら、空気障壁に衝突し消滅。そのコンマ時間にまた新たな呪文が唱えられ――。

 瞬く間に、その場は激しい魔術戦場と化す。

 

「《雷精の紫電よ》ッ!怯むな!対抗呪文(カウンター・スペル)は防御役に全部任せろ!」

 

 突風にローブをはためかせ、カッシュは攻性呪文(アサルト・スペル)を撃ち返しながら、味方を鼓舞していく。

 その声に、空気障壁に衝突する攻性呪文(アサルト・スペル)を青ざめた顔で見ながら、ロッドとカイがぼやく。

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!無茶な要求だなぁ!」

「た、《大気の壁よ》――ッ!でも、なんとか、戦えてないか!?」

「《雷精の紫電よ》――ッ!そ、そうだな!あっちの方が、人数多いのにな!」

「なんでだ!?」

「よく、わかんね!!」

「なんでもいい!とにかく、先生の指示があるまで、持ちこたえるぞ!」

 

 カッシュの叫びに、頷き、気を引き締め合うグレン陣営の生徒達。

 

 戦争はまだ始まったばかりである……。

 

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