ロクでなし魔術講師と第9番目の芸術   作:aioi

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誤字脱字修正(2025.05.04)


魔術競技祭編
1.楽しい競技決め


 ある日の放課後。アルザーノ帝国魔術、東館2階にある二年二組の教室では現在、来週開催される『魔術競技祭』の種目決めをしている、のだが……

 

「『飛行競争』の種目に出たい人、いませんかー?」

「……」

「……じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」

 

 壇上で呼びかけるシスティーナに、クラスは沈黙を貫いていた。そしてノアも内心システィーナには申し訳なさを感じつつも机の上で組んだ手を遊ばせながら静かに俯いていた。

 そんなクラスにシスティーナが困った顔でルミアに目配せすると、今度はルミアがクラスに呼びかける。

 

「皆、せっかくグレン先生が『お前達の好きにしろ』って言ってくれたんだし、思い切ってみんなで頑張ってみない?ほら、去年出れなかった人も絶好の機会だよ?」

「……無駄だよ、二人とも」

 

 ルミアの呼びかけにも何も言わない中で、1人メガネの少年――ギイブルがうんざりとした声で席を立った。彼は、このクラスではシスティーナに次ぐ優等生だった。

 

「ほかのクラスは例年通り、クラスの成績上位陣が出場してくるに決まってるんだ。最初から負けるとわかってる戦いなんて誰もしたくないだろ」

「でも……」

「それに今回は、あの女王陛下が御尊来になられるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないのさ」

 

 あまりのギイブルの言い方にシスティーナはすかさず反論するが、ギイブルは至極当然のことだといわんばかりに冷静に持論を展開する。

 ギイブルの言う通り『魔術競技祭』とはクラスの全員が参加するという決まりはなく、毎年クラスの成績上位陣が出場していた。つまり成績が優秀でないものはそもそも参加資格はないものだと講師も生徒もそう思っている、固定観念というものがあった。

 

 祭りという文字が付く行事は往々にして大抵は盛り上がるものではあるがしかし、『魔術競技祭』においてはそうとも言えないのだ。

 それに加えて今回は女王陛下の御前で魔術を披露するということもあって気が引ける、というより自分の魔術を女王陛下にお見せする自信がないというのもある。

 

(まぁ、目立ちたくないというのもあるけど)

 

 ノアとしては人前に立つことは慣れていないし、正直ずっと裏方にいた方が自分の性格にもあってるからとシスティーナとギイブルの言い争いを聞きながら思う。せっかくならクラス全員で出たい派のシスティーナと、勝つことだけが目的なので成績優秀者で固めたい派のギイブルの話合いは平行線でとても和解できそうにない。

 

 とうとうギイブルがシスティーナの地雷を踏んだのか、システィーナの顔が怒りに染まってその口が大きく開いたとき。

 何やら廊下の方からドタタタタ――と騒がしい音が迫ってきたと思えば、次の瞬間ぱぁんっ!と派手に教室前方のドアが開いた。

 

「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな――ッ!」

 

 (わーやばそう)

 

 ノアは一瞬で思考を放棄した。もう何が起きても驚かない。

 

「……ややこしいのが来た」

 

 頭を抱えてため息をつくシスティーナに全面同意する。先ほどまでシスティーナと争っていたギイブルも他のみんなも呆然とグレンの方を見るが、グレンはそれを無視して教壇に立つ。そしてなぜか、きらきらと効果音がなりそうなさわやかな笑みを浮かべてこうのたまった。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まない……何よりも――」

 

 ここで謎の一拍。

 

「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

 鳥肌が立った。クラスのみんなも同様の思いなのか冷めた目でグレンを見ている。

 

「まぁ、なんだ。なかなか種目決めに難航しているようだな。全く、やる気あんのか?他のクラスはもうとっくに種目なんか決めて、来週の競技祭に向けて特訓してるんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ」

「やる気なかったのは先生でしょ!?それに先日私が競技祭について聞いたとき、『お前らの好きにしろ』なんて丸投げだったじゃないですか!なんで今頃になってそんなこと言うんですか!?」

 

 あまりにも理不尽といったようにシスティーナがグレンに突っ込むがグレンは心外だとばかりに、きょとんとしてる。

 

「……俺、そんなこと言ったっけ?いや、マジで記憶にないんですけど」

「ああ……やっぱり、私の話全然聞いてなかったんですね……」

 

 グレンの相変わらずの態度に激しく脱力したのかシスティーナが突っ伏した。

 

「まぁ、そんなことどうでもいい。が、お前らに任せて決まらない以上、ここはこのクラスを率いる総監督たるこの俺が、超カリスマ魔術講師的英断力を駆使し、お前らが出場する競技種目を決めてやろう。言っておくが――全力でやる。遊びはナシだ。心しろ」

 

 野心と情熱に煌々と燃えた瞳で、グレンは偉そうに宣言した。いつものグレンからは想像つかない熱血ぶりにクラス中もざわめきながら顔を見合わせている。

 

(……ん?お前らがって)

 

 まさかノア含め全員という意味ではないだろうな、とシスティーナから渡された競技種目のリストを食い入るように見ているグレンをみる。がやがて、グレンの口から出た言葉に最後の希望がついえ始めたことが分かった。

 

「よし。まず一番配点が高い『決闘戦』――これは白猫、ギイブル、そして……カッシュ。お前ら三人が出ろ」

 

 えっ?と、クラスの誰もが首をかしげる。『決闘戦』という競技は三対三の団体戦で、各クラス最強の三人を選出するのが常だ。だが、成績順で選ぶならば、システィーナ、ギイブルの次に来るのはウェンディのはずなのだ。なぜここでカッシュが出てくるのか本人自身も戸惑いを隠せない様だった。

 そんな中、

 

(『まず』って言った!『まず』って言った!)

 

先ほどから嫌な予感しかしないノアの心は大荒れだ。しかし、それを知らないグレンはさらに続けていく。

 

「えーと、次……『暗号早解き』はウェンディ一択。『飛行競争』はロッドとカイが適任だろう。『精神防御』は……ルミア以外にあり得んわ。それから、『探知&解除競争』は――『グランツィア』は――」

 

 次々と発表されていくメンバーには、複数の競技に出る生徒が一人もいない。配点の高い競技にも平気で成績下位の生徒達を割り当てている。こうなってしまえばもう、ノアにはどうすることもできない。なるべく目立たない競技で……

 

「『変身』はリンに頼むか。よし、これで……」

 

 (呼ばれていない!?)

 

 そんな奇跡があるのか。ノアはぱぁと顔を明るくする。

 

「あ、最後な。新種目『宝物争奪戦』はノア、よろしく。よし、これで埋まったな!」

 

 呼ばれた、しかも新種目、つまり目立つ。一仕事終えたとグレンの顔は明るくなる一方ノアの顔は一気に暗くなった。

 机に突っ伏しそうになるのをぐっとこらえているとノアの耳になぜ自分がその競技に選ばれたのかとみんなが質問する声が聞こえてきた。そして、それにすらすらと答えていくグレンの声も。

 グレンの見解はどれも日常的に自分たちを見ていないとわからない、それも自分たちが自覚していないものまで入っていて、それを聞くだけで反発していた生徒もすぐに納得して手を下ろしていく。

 それを見ていると何故か、

 

(まぁ、いいかな……)

 

 もう決まってしまったことだし、みんな楽しそうだし。

 そう思ってると教卓の方にいるルミアと目が合った。ルミアもみんなと出れてうれしいというように笑っていて、より気持ちが前向きになっていくことがわかる。

 

 そうしてクラスが競技祭へ向けて期待し始めたとき、最後に反発したのはやはりというべきかギイブルだった。

 

「先生、よくその編成で全力で勝つなんて言えますね」

「ん?これよりいい編成があるのか?よし、言ってみてくれ」

「そんなの決まってるじゃないですか!成績上位者だけで全種目を固めるんですよ!それが毎年の恒例で、他の全クラスがやってることじゃないですか!」

 

 苛立ちを隠そうともせず吐き捨てるように言い放つギイブルに、グレンは動きを止めて、

 

「……え?」

 

 と小さく口が動くのが見えた。

 ノアの心の中は一瞬で冷める。

 

(ふーん?先生、この『恒例』知らなかったんだ)

 

 何が理由でやる気を出しているのかは、きっとロクなことではないことはわかるが詳細は知らないがこのクラスが勝ったら何かしら先生に利があるのだろう。だから全力で勝ちに行くといった。でも『恒例』に従わなかった、単に『恒例』を知らなかったからなんて理由で。

 正直、ノアの中では競技祭に出ることへの抵抗はもうほぼない。しかし、あの名前と種目を発表される間の無駄な緊張感を思うと、先生に「毎回、小指を角にぶつける呪い」でもかけたくなるくらいには恨みがある。

 

(でもそれはやめておいてやろう)

 

 少しずつ悪い顔になっていくグレンに心の中でほくそ笑みながら上から語りかける。なんて言ったってこっちにはあのシスティーナがいるのだ、先生の思惑通りなんて展開はない。

 

「うむ……そうだな、そういうことなら……」

「何を言ってるのギイブル!せっかく先生が考えてくれた編成にケチつける気!?」

 

 ノアの予想通り、システィーナが反論するとグレンの目に焦燥が浮かぶ。

 

「皆見て!先生の考えてくれた編成を!みんなの得手不得手をきちんと考えて、みんなが活躍できるようにしてくれているのよ!?」

 

 システィーナの必死の訴えでクラス中から聞こえてきた納得の声にグレンの口角がひくりと動く。

 

「先生がここまで考えてくれたのに、みんな、まだ尻込みするの!?女王陛下の前で無様な姿を見せたくないとか、そんな情けない理由で参加しないの!?それこそ無様じゃない!陛下に顔向けできないじゃない!」

 

 今なら微動だにしないグレンが考えてることがわかる。絶対に、「余計なこと言うな」だ。

 

「大体、成績優秀者だけに競わせての勝利なんて、何の意味があるの?先生は全力で勝ちに行く、俺がこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ!それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!ですよね、先生!?」

 

 珍しく険の取れた朗らかな笑みでグレンに微笑みかけるシスティーナにグレンはもう瀕死で「おう」とだけ答えた。そして、クラスの雰囲気もシスティーナに追従ムードで、グレンの頼みの綱、ギイブルも

 

「……まぁ、いい。それがクラスの総意だというなら、好きにすればいいさ」

 

とあっさり席についてしまう。

 珍しく上機嫌なシスティーナにひきつった笑みを浮かべるグレン、そして二人の考えがかみ合ってないことに気づいたのか苦笑いで見ているルミア。

 

「ふふっ」

 

 本当に見ていて飽きないな。

 思わずこぼれた笑いに、ノアは頬杖をついて機嫌よく足を揺らすのだった。

 

 




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