ほぼ一から作るとやっぱりエネルギーを多く使ってしまいますね。
カムンに気づくことなく、一心に木剣を振るうリオの姿はどこか追い詰められているようにも見えた。
必死に何かを超えるべく藻掻いていると言った方が正しいだろうか。
既に十分、限界値を叩いているのにも関わらずより高みを目指しているかのようにカムンは感じている。
ぶっちゃけ、無駄である。
「焼きが入っているな」
彼の肉体は無駄がない、戦闘に重点が置かれた肉付きをしていると服の下からでもよく分かった。
剣の振り方はどちらかと言うと日本刀の方が合うような型なのが不思議だ。
彼の有している物を見ても西洋剣・・・ブロードソードであり、精霊の里でも短剣等が中心。
切断を主とする刀剣を見かけたことはカムンの記憶ではない。
確かに刀剣は最終的に【振るう】という動作に集約されるがそれでも目的が違うので結構な差異も現れる。
つまり、リオは必要ない日本刀の剣術を元にした動作を行っているのだ。
非常にちぐはぐというか、得られる機会がない技術をどこで会得したのか気になってしょうがない。
考察しつつもかなり熱心に、どこか仄暗い感じを漂わせながら木剣を振るっているのを邪魔しないように見ていたがカムンの気配にリオは気づいた。
「こんばんは」
「すまないね。邪魔しちゃ悪いと思っていたがバレてしまったか」
「いえ・・・どこか出かけて?」
「まあ夜風に当たりに行っていたのでな。そっちも中々堂が入った身のこなしをしているじゃないか」
何気ない会話の中でカムンは感じた違和感を伝えるか迷ったが、彼の雰囲気からしてそうするべきだと判断した。
「―――そんなに焦ってどうした?」
その質問にリオは眉を一瞬、寄せた後表情を消した。
それは逆に何かあると教えているようなものだとカムンは内心、苦笑する。
「いや、少し気になっただけでな。ちょっと引っかかる入れ込みに見えたから聞いてみたんだが・・・その様子だと話したくない内容かな?」
顎に手を当てながらカムンは静かにリオを見据える。
リオは視線を戻しながら呟く。
「やらなきゃならないことがあるのです」
「それは如何なものぞ?」
その問いかけにたっぷりとリオは溜めた後、決意するかのように答えた。
「復讐」
ふむ、とカムンは特に然したる驚きもせず受け止めた。
リオとしてはあまり予想していなかった反応だ。
「君の余裕のなさはそこにあったのか。なるほど納得した」
「・・・・驚かないのですね」
「そらぁそんな如何にもって顔をしていれば大抵は察せる」
カムンの言葉にリオは目を点にする。
そこまで分かりやすい物だったのだろうか、と。
だが隠していたわけでもないのでそれも仕方のないことかもしれない、と開き直る事とした。
あまり他人に公言する話でもないし、相手方が勝手に自粛していただけの話だ。
逆に言うと、リオはその周りの気遣いと優しさに甘えていた面があるのも事実。
「理由としては・・・身内の誰かを
リオの目じりが鋭くなる。
どうやらカムンの指摘は的を射ていたようだ。
「そこまで【力】を追い求めるのはそれだけ相手が強大なのだろう?」
理由は敢えて聞かないこととする。
それを打ち明けるにはまだ彼との積み重ねが絶対的に足らない。
カムンはそう【直感】し、ある提案をリオに与えた。
「ならば、
その提案にリオは本当に目を点にした。
「いえ・・・でも・・・」
「君の【敵討ち】は正当なものだ。法ではなく感情として、
遠慮をするリオに対してカムンはリオの黒い憤怒を肯定する言葉を放つ。
「えっ・・・?」
それはリオにとっては強く、甘美に響いた。
リオのもう一つの記憶がずっと否定し続けたそれに真っ向から正しいと言われたのは初めてであった。
でもこれは本当に正しい思いなのだろうか、とも同時に思う。
これは極めて私的な刑であり【殺し】だ。
間違いなくこの世界の法治においても推奨されていない事。
「だから、我が認めようと言った。国の法治?一介の殺人鬼も追い掛け回せない法になんの意味がある?」
法が裁けないのならば己でやるしかない。
カムンはそう、リオに告げた。
リオもこの理不尽で未熟な世界のずさんな法は嫌でも理解している。
そも、法は貴族とほぼイコールの状態だ。
即ち【暴力】のみが正義を担保している。
そんな野蛮染みた世界に21世紀の日本にある法倫理を照らし合わせようとすること自体が現実と乖離している。
「故に【
この上なく甘美だ。
だがリオにはカムンの思惑が理解できなかった。
「鍛えてくれるのはありがたいのですが・・・なぜ?」
「ん~。君はきっと不快に感じるかもしれないが」
そう前置きしてカムンはニッと笑いながら単純な動機を語った。
「その方が面白いことになると私の勘が告げているからだ」
◆◆◆
ふと、何かを感じてクレーリアは目を醒ました。
それが一体どういうものなのか彼女は分からなかったが、高い魔力保有量とマナへの親和性が高い銀狐一族の中でも際立ってその才が高かったクレーリアは隠蔽されたその僅かな揺らぎを感じ取ってしまったのであろう。
少し喉も乾いていたため、水を飲みに行く。
台所でコップ一杯の水を放り込んだ時、彼女が先ほど感じ取った何かを庭先から再び感じた。
それはほんの小さな違和感である。
小さな羽虫が視界の片隅で通り過ぎたかのような感覚。
精霊術の痕跡に近いそれへクレーリアは普段、見せない興味を感じた。
そもそも聖人たるリオとお客人たるカムンが住まう家の直ぐ傍で精霊術を使い何かをしようと言うのは非常にキナ臭い話だ。
まさかと思うが念のために確認しに行く。
家を出てすぐ、違和感の正体を突き止めた。
強力な防音と隠蔽の結界魔術
しかも極めて高度な・・・下手をすればドリュアス様の大樹を隠す魔術よりもずっと強力なものだとクレーリアは直感した。
「中で何が・・・?」
小さく呟きながらクレーリアは迂闊ながらその結界に足を踏み入れた。
数十センチにわたる厚い層を抜けた途端、激しい打撃音と閃光が弾けてクレーリアの耳と目を劈いた。
咄嗟に防音の精霊術を展開して耳を守る。
それでも聴力が高いためかなり煩いのと轟音による地響きで胸あたりに言い表せない違和感を覚える。
何とか周囲を探る準備ができたクレーリアの視界に信じがたい光景が映り込んだ。
「どうした!この程度か!?それで良く復讐なんてなめた口をきけるではないか!ええ!!?」
リオの下顎を強かに打って跳ね上げたカムンが鋭い口調で煽っていた。
宙に打ちあがった無防備な身体に圧縮した冷気弾を放つ。
それも1つや2つではなく無数で。
「なっ」
数えるのも億劫な冷気弾が態々見やすいように光で
リオは既に余裕がない表情でそれを躱していくが。
「ほれ」
ガンッとそこに混ざった無色の冷気弾がリオの腹部を捉えた。
態勢を崩しながらリオは落下するも、頭から落ちる事態を何とか避けながら着地する。
が、その足元に突然、蒼黒い光が迸るかと思った直後に氷柱が一気にそそり立つ。
リオは素早く反応して氷柱が伸びる前に身体を左へズラしたものの。
「おかわりは如何かなぁ!?」
射出していなかった冷気弾が次々と襲い掛かる。
「・・・凄い」
その吹き荒ぶ暴風の如き波状攻撃とそれを捌いていくリオの動きにクレーリアは護身術を嗜んだ身としてただ感嘆する他なかった。
こんな制圧攻撃を仕掛けられれば自分は避けるどころか耐え忍ぶことすらできないのは言うまでもない。
そのまま偏差が強まる冷気弾の嵐にリオは風の精霊術も応用した加速で振り切り、堂々と仁王立ちするカムンの背後へ回った。
「あれ・・・」
そこでクレーリアは違和感を覚えた。
カムンは恐らく、あの猛スピードで走り抜けたリオの姿をしっかり捉えていたのに。
「後ろに・・・振り向かない・・・?」
そのまま正面を向いたままなのである。
リオはその見え透いたチャンスを掴むべく、一気に加速してカムンの背後を取るべく肉薄しようとした瞬間。
「くっ!」
彼の背後を覆うかのように巨大な氷でできた逆茂木がカムンに近づくにつれ高さを上げながら形成された。
えげつない、と思わずクレーリアは毒を零した。
あれでは普通に飛び越える程度では話にならない。
リオは速度を上げて突貫しているのだから放つまでもなく自分から串刺しになろうとしてしまう。
それは勿論、彼とて承知していた。
速度を落とさず、段に合わせてリオは風の精霊術で駆け上がる。
「凄いっ!」
その卓越した精霊術と度胸を見せるリオにクレーリアは声を上げる。
頭上を取った、とカムンを見た直後に。
「カ゜ッ!」
妙な掛け声と共にカムンの顔面から鋭く蒼黒い光条が放たれた。
リオはギョッとしながら身体を捻ってそれを避けたが。
「隙やりだ」
至近で冷気弾が生成されて爆ぜた。
ダメージは低いが態勢を崩すぐらいにはなる。
リオが制御を取り戻す前に四方八方に冷気弾を作って一気にタコ殴りした。
咄嗟に丸まって急所を隠して猛攻を受けたが地上に着地したときにはもう疲労と打撲で息が上がっていた。
その直後、リオの眼前に鋭い氷柱が突きつけられた。
迷いもなくそれは額を捉え、避け得ることのできない死をもたらしたであろうことは理解させられた。
「これで26回目の死だ。まだ続けるかい?」
リオがその瞬間に最低限の治療を施しているのを分かった上でカムンはそう告げる。
「っ・・・・ま、だぁ!」
氷刺を粉砕しながらリオは再びフルスロットルでカムンに正面から切り込む。
木剣を地面に擦り跳ね上げながら振り上げる。
だがその一撃もカムンは難なく掌底に作ったエネルギー場で弾き飛ばし、がら空きになった胴体に正拳突きを叩き込んだ。
速度重視の低威力だがそれでもリオを吹き飛ばすには十分な勢いを持っていた。
クレーリアの眼には一瞬、リオの首筋に冷気の帯が2回ほど撫でられた様子を覗えた。
もし、致死性のレベルだったらそのまま首を持っていかれたであろう。
何とか足で踏ん張りながら着地したがリオはそのまま膝をついて動かなくなった。
「これで30回目の死をお前は迎えた」
あのカウンターだけで4回もの死をカムンはリオに与えた。
単純な膂力、格闘術、魔法戦・・・全てにおいて圧倒して見せたのである。
「とはいえ、貴様は初回にも関わらずこの程度で済ませられたのだ。永い時間の中で
身体に疲労が蓄積してはいるものの、魔力が底を突いたようには感じ取れなかった。
最後まで抵抗を続けたのは彼が桁違いの・・・それこそ
コイツは、非常に予想外の話である。
まさかなんの縁もないはずの世界で少なくとも同じ領域に到達しうる存在を見つけられたのは望外と言えよう。
少なくとも退屈はしなさそうだ。
「今日はここまでとしようか。夜も更けってきておるし、予定外の【覗き】も居るからな」
「えっ・・・あっ」
カムンにそう言われてリオが辺りを見回すと端にクレーリアが居るのを見つけた。
強力な結界を展開していたと思われるが、何か漏れでもあったのだろうか。
「・・・ご、ごめんなさい」
自分に注目が集まっていることに気づいたクレーリアはぺこりと頭を下げて謝るとそそくさ逃げる様に家へと戻っていった。
なんとも恥ずかしがり屋さんである、とカムンはクレーリアの背中を見ながら微笑ましく見ていた。
彼女の姿が家に消えた後、まだ再起できていないリオにカムンは今後を伝える。
「明日からは私との手合わせも夜に行うとする。次は一回ぐらい死ぬ回数を減らしてみせよ」
カムンはそういうと作り出した氷をすべて塵にして家へと戻っていった。
何とも辻斬りにあった気分だ、とリオは治癒の精霊術を施しながら思う。
だが、とても為になった。
次こそは、彼の足を動かして見せよう。
それはカムンがリオに与えたハンデ。
『まずは、そうだな。我を一歩でも動かして見せよ』
まさか本当に一歩も動かず、自分を蹴散らしてくるとはさしものリオも考えてはいなかった。
彼から学べるものは大きい。
少なくとも苛烈な集団戦の捌き方はかなり参考にできそうである。
精霊術の弱みや引き出し、応用もまだまだ改良の余地が山積みだ。
深く息を吐いた後、リオは立ち上がって夜空を見上げた。
カムンはお前のその憎悪は正しいものだと、母の仇を討つことに間違いはないのだと肯定してくれた。
だが・・・。
「それで、本当に良いのだろうか?」
自身の事なのにどこか他人事のような様子でリオは一人、見知ったものとは全く異なる星空を眺めながらそう独り言ちる。
その時その場に答えを出す者は残念ながら居なかった。
Pixivは場面転換をページを変えることでできるけどこっちだとそれができないのでちょっと苦労しますね。