精霊幻想歪伝   作:四重茶

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うおー!年内なんとか更新できました。
こう、更新速度の速い剛腕ニキを見るとちんたら書いてるのが悲しくなってきますが取り敢えずめげずに一つのオチを目指して書いて行こうと思います。
しかし、思ったより精霊の里編が伸びてしまった。
おまけにダンス描写なんてまともにやったことが無かったのでこれで良かったのか。


第9話:精霊大祭に舞い奉る銀狐

リオとカムンの相掛り稽古はここ数か月の間、続いている。

それにも関わらず未だにリオはカムンを一歩も動かすことはできずにいた。

決してリオが弱かったり、何も呑みこめていないという訳ではない。

激しい攻防を幾度と繰り返した結果、リオの戦闘勘(コンバットセンス)は急速に磨かれているのは確かだ。

カムンが若干、分かりやすくした無数の戦闘状況をひたすら打開していった結果、元々頭の回転が良かったリオはすぐさま順応していった。

基礎体力も苛烈な攻撃を掻い潜ることでグングンと伸び、精霊術を座学、実技と共に鍛えた結果、時折カムンの予想を上回る物を使用することもある。

だがそれはあくまで今までの延長線上にすぎない為、カムンの堅い守りを崩すまでには至らなかった。

これでもまだまだカムンは【心臓】の出力を抑えているし、連射速度を知覚できるレベルまで落とし込んでいる。

さらにそこから分かりやすくしている為、相当な手加減をしている。

そも、全般の攻撃によって生まれる破壊力も本来の戦い方を知る者から見れば随分と手緩い物だと直ぐに分かるだろう。

直撃すれば如何に精霊術で肉体を鋼のように堅くしようとも原子運動が停止する温度にまで急速に冷却できるカムンではまるで意味をなさない。

物体は冷やせば冷やすほどその軟性を失っていく。

液体窒素に浸からせた薔薇が手で粉々に砕けるのと同じだ。

そんなものを食らえば人間の循環器は一瞬にして凍結して即死に到る。

冷気弾を受けてはじけ飛んでいるだけ有情というのが分かるだろうか。

それでもリオはカムンの足を一歩でも退かせることすらできないでいた。

リオは知らないが相手は億年単位で生き抜いてきた無類の戦士でもある。

生半可な策は飽くほど見てきたパターンとして簡単に捌かれる。

その数億年に亘る蓄積をどう乗り越えるかがリオが次に至るための重要な一歩だ。

だがカムンは確信している。

必ず、こいつは乗り越えてくる。

その素質を備えていると。

どこまで神も天も蹂躙しつくした怪物たちに迫れるか、(カムン)は楽しみで仕方がなかった。

それはそれとして昼間は里の困りごと解決や魔道具の開発に勤しみ続けてもいた。

最近では造って欲しい魔道具の依頼が舞い込んでくることも珍しくなくなった。

どうやら里の人々に敵ではない事を認めてもらったとみて間違いないだろう。

今は除湿魔道具などの空調管理機器の開発をカムンは行っている。

森の中なのでちょっと湿気が気になるな、と思って試作機を作ったら強力すぎて火でも起こるかって言うぐらいに吸湿して逆に喉を傷めかねないレベルになってしまった。

ただこれも穀物庫などの保管に向いているということで採用、とのことだがだったらいっそ冷房とかを統合した空調魔道具の開発でもしてやろうと思い立った訳である。

最も、統合したらしたで燃費が悪くなってしまったので今はエルフ勢やドワーフ勢と共に省エネ化を図っている。

これが開発されたら快適性が抜群に向上する事間違いなしである。

もっとも昔の魔道具にそれっぽいのがあるらしく別のアプローチによる再現と言った形に落ち着きそうである。

ちょっと悔しいとカムンは勝負根性を燃やしたがまあ量産が効きすぎても堕落を招くので普及はよく考えなければならないのも事実だ。

以前に語った封印指定品はカムン自身の判断や彼の配慮を聞いた長老たちの意見を参考にした結果、世に出さないことを選んだ品々だ。

仕方ないとはいえ折角作った品を没にするのは忍びない気持ちとなる。

いつかは、と思いつつ倉庫で埃を被ってもらおう。

そんなこんなで色々と製品づくりに励んでいたら一年の感謝を伝える精霊の里一大イベントである精霊大祭の時期が近付いてきた。

さしもの怪しい商人であるカムンであっても里になじみ、年の功で回る知恵で色々な手助けをした結果、信頼されるまでに至っておりそれは世話役としてあれこれと働いてくれているクレーリアからもそうだし、カムンの方もまたクレーリアへの信頼が厚くなっている。

リオとの特訓を見て以来、彼女も見学と言う形で参加するようになった。

どうも彼女は高い素質を具えながらもそれを持て余し気味なのを自覚しているらしくどうにかものにできないか、という事で夜中の修行に顔を出しているみたいだ。

そのためリオとの訓練の中にしれーっと、ではあるがヒントになりそうな事を散りばめている。

とはいえ、まずは状況を追いかけるだけで手いっぱいであったためリオが肉体的に休憩を挟んでいる間に精霊術の特訓に付き合う方向に修正した。

結局のところ精霊術とは術者がフルマニュアルで行う魔法なのでイメージを確固たる思いで練り上げないと世界の反発力に負けて術が現実を歪めないのである。

20世紀に登場した自動小銃のカートリッジ弾薬より昔のざっくばらんに装薬をねじ込む前装式の方が破壊力はあるという話に近いだろうか。

クレーリアの精霊術は既に並より高いレベルで行使できるのだが、それでも精霊契約を交わしたオーフィアたちには劣る。

そこが精神的な瑕疵(かし)となって振るわない感触になるというわけだ。

そもそも彼女は戦闘訓練を受けていないのと喫緊に対応するべき状況でもないのも相まって精霊術を高める方向性が本人の意向とズレているのも悪くなっている要因の一つであろう。

総じて方針が曖昧になった結果、腰が甘くなっているというのがカムンの偽らざる評価となった。

だからリオに施している相掛り稽古が良い手本になってくれるのを祈るばかりである。

そんな彼女からひとつの相談を受けたのは精霊大祭のひと月ほど前。

本当に珍しく声をクレーリアから個人的な事で掛けてきて何事かと思ったら面白い相談を受けたのである。

 

「精霊大祭での奉納の舞を単独でやることになった、と?」

 

神妙な顔でクレーリアは無言で頷いた。

正確には今年の大祭は締めに何かやろうという話になってそこでクレーリアが属する銀狐族からドリュアスに捧げる舞を奉納したいという意向が告げられたそうだ。

銀狐族は定住することも多くなった獣人族の中でも珍しく狩猟生活による遊動を選んでいる保守的な面々だ。

そのため毎年大祭に参加している訳ではないが今年は一族から栄えある聖人と友人の世話を任されたクレーリアの成長も見るためにという意図もあってか参加しているとのこと。

つまり、踊り子としてクレーリアは有無を言わさず選ばれてしまったのである。

とはいえズブの素人でもなく一応は踊れるらしいのだが彼女自身が自信を持てる領域ではないらしい。

話を貰ってさっそく、カムンはクレーリアの練習風景を見たがぶっちゃけそういう事に知識を振り向けたことが無かったのでいまいち悪いところが見受けられなかったのである。

いや、違う。

なんというか、取り敢えず譜面通り踊っている感じであまり生気を感じさせない違和感があるようにも見受けられた。

そのことを伝えるとクレーリアは凄く渋そうな顔をした。

 

「お婆様と同じことをおっしゃられました・・・」

 

一生懸命やっているのはカムンから見ても分かる。

だが誇りとかを少し意識しすぎていて過去のトレースでしかないのもまた事実だ。

 

「ド素人の話半分で聞いてほしいが、現状の君はまだ過去の巫女たちの後追いでしかない。それはもうドリュアスにはさんざん奉られただろうから新鮮味がないのだろうな」

 

「新鮮味、ですか・・・?」

 

「難しいことは一旦、脇に置いて他人の意識とか視線を一切合切無視して今踊れる最高のパフォーマンスで己の世界にのめり込む勢いで行くと良いのかもしれないな」

 

踊りの指導というより一種の哲学講習みたいなものだが普通に上手い者とその先に至った者の差とは案外、そういった心構えの違いなのだ。

 

「新鮮味・・・新鮮味・・・自分の世界に・・・」

 

「そういう難しいことを考えながらではなく、感覚でやってみてねって事、なのではないかなぁ」

 

なおも思考を巡らすクレーリアにカムンはなんとなく彼女が躓いている理由が読めてきたが敢えてそれは語らないことにした。

無粋だし、自分で見つけた方がより良いだろうと考えたからだ。

 

 

その日からカムンはクレーリアの練習になるべく付き合うこととした。

と言ったところでやることはぶっちゃけた話、殆どなかったがそれでも彼女が何かを見つけられるよう素人なりに考えてはみた。

まさか数億年以上は生きた自身がまだ知らないことがあったとは本当に世界は広い。

結局、明確な答えが見つけられずカムンには分からなかったがクレーリアの顔つきが少しずつだが自信に満ちたものになっていったのを見るにきっと自力で見つけることができたのであろう。

そして、あっという間に精霊大祭の日がやってきた。

クレーリアの踊りやリオとの相掛かり稽古の合間ではまともなものを用意できなかったが精霊の里で作られていたサトウキビみたいに砂糖が採れる作物から作った中双糖(ちゅうざらとう)を使った綿あめ製造魔道具を作って縁日の子供たちに提供する人に配ったら妙に盛況となった。

しれっと里の長老たちが混じっていたかもしれないが見なかったことにしよう。

祭りも程ほどに空気が暖まったところでいよいよ巫女たちによる舞踊が奉られることとなった。

オーフィア、アルマ、サラの三名を中心とする巫女たちの舞は精霊を信仰する彼らに独特の言いようがない高揚感を抱かせる。

巫女たちの舞踊が終わった後はいよいよクレーリアによる単独の奉納の舞が行われる。

会場設営も終わってリハーサルも行われる前にカムンは彼女に会っていたがやはり本番を控えて緊張を隠せないでいた。

カムンとしては気負うな、という身も蓋もないアドバイスを送る以外に手はなかったが頭をなでてほしいという彼女のセンシティブなお願いに応えたらだいぶ落ち着いたようなので大丈夫だろうとは考えている。

やがて、美しいその一族の名にも冠されている銀髪を際立たせる衣装を身にまとったクレーリアが姿を現した。

本番衣装は敢えて見ないことにしていたが、思わず感嘆の息を出してしまうぐらいには素晴らしいものであった。

緩やかに揺蕩う蝶のような所作も艶めかしく、麗しく、華やかで、儚い。

やがて彼女の舞が始まると共に独特な音楽が奏でられる。

リズムに合わせて、軽やかなステップが流れる様に刻まれ健やかな日々を過ごせた事への感謝を捧げる。

音楽は徐々に激しいメロディに移る。

クレーリアはより激しく荒々しく、獲物を狩るかのような舞を披露し森の幸がもたらされる幸運に感謝を捧げる。

灼々とした動きはやがて収まり、静かなメロディが始まる。

世界の片隅に居て恵みを分け与える精霊たちに感謝を捧げる。

最後に、すべての特徴が詰まったクライマックスを飾るメロディが奏でられた。

それに合わせてクレーリアの動きは、何者にも縛られていない自由な舞であった。

だがそれは不協和音にならず活気や優艶(ゆうえん)を兼ね合わせている。

これはきっと、すべての者への感謝を捧げているのだろうとカムンは感じた。

ただ感謝を、過去から現在(いま)へそして未来に捧げる。

それこそ彼女が見出した奉納だ。

何てこともない、と身も蓋もなくいう事もできるだろうが考え抜いた末にたどり着いた平凡な答えでも自信が据わっているならば問題あるまい。

()()()()()()()()()を見つけるのが、()()()の醍醐味なのだから。

やがてすべての者へ感謝を告げる深い御辞儀を以って舞は終わった。

その瞬間である。

彼女の頭上から白く輝く何かがたん、たんとステップを刻む様に降りてきた。

 

「!精霊様だ・・・」

 

誰かがそう呟いたのをカムンは耳にする。

それは美しい白い狐のような精霊であった。

感謝を奉り終えたクレーリアが面を上げると目の前に狐の精霊が舞い降りていて一瞬、声でも上がりそうなぐらい驚いたがすぐにそれは引っ込んだ。

きっと、自分の舞がよかったのだと告げにきたのだろうかと思い、ひと時の遊興となれたのならば精霊の民としてこれ以上にない名誉なことである。

軽く御辞儀をして感謝を表すと狐の精霊はその鼻先をクレーリアの額に軽く突いた。

 

「え・・・?」

 

狐から魔力の繋がりを得たことをクレーリアは感じ取った。

これは、精霊契約だ。

その瞬間、感極まって彼女は大粒の涙を流し始めてしまう。

狐の精霊はちょっと困ったような様子を見せながらすっと、姿を消して霊体化していった。

はっと我を取り戻したクレーリアはすっと堂に入った御辞儀を再度する。

思わずカムンは立ち上がって盛大な拍手(スタンディングオベーション)を送り届けた。

釣られるように周りの人々も拍手を始める。

予想外ことが起きてしまった為かクレーリアはおっかなびっくりとしながら舞台から降りて行った。

間違いなくこれは大成功と言えるだろう。

カムンも多少の手伝いしかできなかったものの導いた少女が大事を成し遂げたことに鼻が高くなる次第だ。

祭りは大いに盛り上がり、終わりを迎えることとなった。

大取の晩餐を迎える前、リオとカムンの改まった紹介と新たな精霊との契約を結べたクレーリアを称える祝辞が述べられて祭りは無事、終えることができた。

万事つつがなく終わることに勝ることなし。

だが、彼らの知らぬところで新たな火種が舞い込もうともしていた。

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