ちょっとヤグモ編に入ってから受けが途端悪くなっていたのを考えて速足でこちらは終わらせようとなって何なら一気に書き上げちゃおうとか欲張ったらいつの間にかえらく時間が飛んでしまっていた。
忙しい以上に、心の力がカツカツである。
精霊の里を発って空の旅に切り替わったことで1週間の速さでヤグモ地方の西端に到着することができた。
もう少し早く着くこともできたがカムンのどうせなら大雑把でもいいから測量して地図作れるようにしたいという思惑もあって多少時間を食ってしまったのである。
邪魔にはならない程度にするため【
さて、ヤグモに着いてからさっそく問題に当たってしまう。
改めてリオに両親の仔細を訊いてみたがぶっちゃけた話、知っている要素が少なすぎて彼らの故郷を探すのは至難を極めるものだと理解することができた。
とはいえ何も当てがない訳でもない。
まず上空からも分かったのが測量で地表に降りてより実感したのはあの未開地をまともな知識と道具、精霊術が無ければ突破は不可能だという事。
魔物も危険生物もいる中、たった一組の男女が突破できるのは余程の卓越したものを持っていなければならないだろう。
つまり、リオの父か母は最低でも武人の上位に位置する力を持っていたことを推察できる。
そうなれば自ずと調べられる範囲を狭めることができた。
取り敢えず点在する村々に話を伺いつつ、カムンたちはヤグモ地方の大まかな歴史を紐解いていく。
特にリオが生まれるよりも更に10年前ぐらいを中心に洗い出しを行った。
分かってきたことはリオが生まれる前に、カラスキ王国という国と西側に位置していたロクレン王国が派手にやりやっていたこと。
その戦争の勝者はカラスキであり、ロクレンは領土を多く失いカラスキの属国状態となっている。
それ以外の国は小競り合いこそ起こっているも比較的長い間、膠着状態が続いているそうでリオの生年とかみ合わない。
つまりリオの両親がロクレン、あるいはカラスキの生まれにあることが理解できた。
これで諸国漫遊って言うほどの途方もない時間を使う羽目になるのを阻止することが可能である。
そしてカムンはそのような戦士と女性がいる国を放出できる余裕のある国がそう簡単に敗けるとは思えないのでカラスキ王国から調べることを提案した。
しかしカラスキ王国も相応に広い。
結局、2週間ほど時間を費やしたが直接、両親に繋がる情報にはたどり着けなかった。
釣果がないと然しものリオも焦りと疲れを見せたが地道な作業とはそういうものである。
「なんだお前。この程度で根を上げるのか?」
ある日の晩に憂鬱そうなため息を吐いたのを聞いたカムンが試す様にリオへ問いかけた。
「いえ・・・やっぱり、無茶だったのかなって・・・」
「ふむ。世の中には数年どころか半世紀掛けて解決するために資料を探す者だっているのだ。それと比べればまだまだであろう?」
だから諦めるな、とカムンは発破を掛ける。
リオは力なく苦笑いしながらまた考え込む様に焚火と向き合い始めた。
これはひどくなる前に一息つく必要があるな、とカムンは確信する。
という事で翌日、リオに一日まるまる使った休憩を取るように言いつけ、カムンが単騎で捜査をすることとした。
かくいうカムンもどちらかというと己の目的を優先して地域の物価状況やロジスティクスのレベルを調査しており、リオの両親について聞き込みはソコソコに留めて戻る。
適当なお土産を見繕って戻るとリオもその辺にいた小動物を狩っていたらしく新鮮な鳥肉を使った料理を振舞ってくれた。
顔色の方はかなりマシになった感じだ。
やはり息抜きは大切である。
釣果が無かったことを告げた後は早めの就寝を取って翌日に備えた。
作業効率は明らかに良い方向に変わり、元に戻ったというべきであろう。
根詰めすぎるのは悪い癖であるとカムンは注意事項を脳内に刻みながらリオの行脚に付き合っていく。
また1週間ほど過ぎ去ったが、とある村の村長―――名をユバという女性は顔が広く何か知っているかもしれないという情報を手にし、一縷の望みを賭けて向かうことにした。
村付近にまで飛行をしたのち、人目がない街道で着陸して村に入る。
周辺は陸稲が主だった畑が中心であり、村民たちが田植に勤しんでいた。
奇異の眼に晒されるのは手慣れたものでカムンは何食わぬ顔で村に向かうがリオは未だに緊張感を滲ませて表情が硬くなっている。
村内の家屋が見える場所まで進んだところ、二人の少女から声を掛けられた。
声をかけてきた二人のうち背の高い活発そうな少女―――ルリはなんと村長の縁者だという事で村長宅まで案内してもらうことになった。
ちなみにもう一人の引っ込み思案そうな少女はサヨと呼ばれているのをカムンは小耳に挟んだ。
リオに視線を奪われていたので一目ぼれでもしたのだろうか?
だとしたら少し酷な事になるかもだがそれもまた人生経験であると受け止めてもらうしかない。
程なくして村長宅に到着して断りを貰った後、宅内に上がらせてもらう。
居間で待っていたのは老練を示す白髪の女性である。
理知的な顔立ちをしており、目力も歳の深みを交えた強いものとなっていて余計なことはしない方が良いとカムンは直感した。
「さて、この村に旅の者が興味を引く物はないと思うが用向きはなんだい?」
「亡くなった私の両親について知っている人を捜しています。この村に伺いましたのもユバ殿がここら一帯で一番、顔が広いと聞いたものでして」
特に隠すこともないのでリオは誠実に、いつも通り用向きを伝えた。
「なるほどね・・・」
「父母は少なくとも15年以上前にヤグモ地方のいずれかに暮らしていたとは思うのですが‥‥詳しいことは分からないので」
「取り敢えずこのリオが生まれた生年前後にあった大事を調べたところ、このカラスキ王国とロクレン王国辺りが一番、可能性があると判断して聞き込みをしていた訳です」
リオの説明をカムンが補足するとユバの視線は一瞬だが鋭くなった。
何かを警戒しているようにも見える。
「そこまで良く絞り込めたもんだ」
「まあそこからはお察しの通り、半ば手詰まりでして」
「そうであろう。一応、名前ぐらいは分かっているかい?」
出身国を突き止めたことにユバは感心したがカムンとしてはまだまだ、として肩を竦めるほかなかった。
「はい。ゼンとアヤメという名について何かお心当たりがございませんか?」
その名前をリオが口にした途端、ユバの視線がより鋭くなった。
一瞬、彼女の身体が反応したのを見るに【当たり】を引いたようだ。
「ゼンにアヤメ、と」
「何かご存知で!?」
リオも当たりが引けたと思って言葉に熱が籠った。
ようやっと引けた手がかりを逃す訳にはいかない。
「いや、まずは二人の特徴を頼めないかい?」
慎重な事だ、とカムンは思うが間違ってはいない。
リオが話し始める前にユバは聞き耳を立てていたルリとサヨを追い出し、改めて話を聞く姿勢になった。
「・・・一応、私も部外者といえばそうなので席を外した方がいいかね?」
そんな様子を見ていてふと気にはなったのでカムンは伺ってみる。
「俺は大丈夫です」
「いいのか?」
「はい」
カムンはそうか、と肯首するとユバの方にも目線を配らせてそちらの事も把握しても良いですか?と投げかける。
ユバは少しため息を吐いた後、無言で頷いた。
「分かったよ。では、お前さんの言うゼンとアヤメについて、教えてもらってもいいかい?」
ユバの促しにリオも頷くと自身の知りうる限りの両親について語りだした。
父に関しては物心つく前に他界しており基本は母の話が中心となった。
彼らの特徴を一つ一つ聞くユバの表情は嬉しそうにも寂しそうにも見えたのはカムンの見間違いではないだろう。
「・・・確かにお前さんの両親は私が知っている二人だよ」
確信を得たユバは静かにそう呟いた。
彼女はなんとリオの父方の母、祖母に該当する人物だったのである。
見事なまでの的中だ。
もっと時間が掛ると踏んでいたが己の人徳が功を奏しただろうとカムンは思ったがどちらかというとリオの方が功徳という観念では強いであろう。
話題は緩く打ち明けられていたリオがヤグモ地方に訪れた大きな目的に移る。
両親の墓を作る事だったことと幼いころ母と交わした何気ない約束もここでようやくカムンは知った。
その墓標は既に据え置かれているとのことだった。
理由について、ユバは意味深な形で明答を拒否してきた。
カムンはそれがお上のいざこざに巻き込まれた結果だというのを素早く理解する。
辛気臭そうな話は置いておき、ユバに案内されてリオ達はその墓がある場所へ案内された。
たどり着いたところにあるそれを墓と呼ぶには些か寂しい物であった。
墓誌も刻まれていない石碑が二柱、寄り添うように建立されている。
遺骨も納棺されていないそれを見てカムンはあまりの理不尽さにユバへ批判めいた目線を流した。
あの言葉を大いに濁した言い方からしてこれが不本意なものであるのは重々承知であるがそれにしたって酷い物だ。
戦時中の余裕がない掘っ建て墓標と何が違うのか分からない。
こんなもの数十年で朽ち捨てられてしまうだろう。
「私としても、もうちょっとマシなものを具えたかったけどね・・・」
批判の雰囲気をカムンから受けたユバも無念を伝えてくる。
リオ本人よりカムンの方が憤っているのは何とも可笑しい話である。
「・・・・この墓石をちゃんとした墓標にせねばならないな」
何とか憤りを呑みこみ、唸るような息を吐いた後にカムンはそう呟いた。
「そう言ってもらえるだけ有難いよ」
赤の他人へそこまで義憤をもってくれることにユバは謝意を伝えつつそよ風が草を揺らす夕暮れに照らされる墓石を感慨深く見つめた。
リオも半ば呆然という形でそれを見ていたのでさっさとお参りしろとカムンが背中を突っつくと我に返ったのか墓石に黙祷を捧げる。
ついでカムンも大事な息子を預かる身として黙祷を捧げた。
時が来れば話せるときが来るかもしれない。
ユバはそう告げると共にリオとカムンに村の滞在を提案してきた。
リオは兎も角、カムンは部外者も同然だ。
そのことを伝えるとユバはこう切り返してくる。
「アンタも身寄りの場所がないんだろ?二人のこれを見て憤ってくれるのならばなおの事さ」
このまま一旦、リオを置いて一人旅も考えていたがそう言われるのであるならばご厚意に甘えさせて頂くことにする。
ヤグモ地方のコネクション確保は伸びそうだがこういうのは急いてしまうと事を仕損じる故、確実に前進する為の足掛かり作りから始めるのがよいであろう。
両親の墓前に残るリオを尻目にカムンは村長宅へ戻っていった。
副社長アークライト氏が救助に向かうそうですが時期はどっちが良いですか?
-
早めに越したことはない(原作5巻あたり)
-
遅めでもまあ大丈夫でしょ(原作20巻)